修羅の旅路   作:鎌鼬

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仲直り

 

 

ランの望みを叶えるべく、平日であるが学校を休んでALOにログインする。学校には家の事情だと伝えて一週間ほど休む旨を伝えてあるので自由が出来る。出席日数に関しては一学期、二学期ともに皆勤だったので一週間ほど休んだところで何も問題は無い。

 

 

問題があるとすれば2つだろう。

 

 

1つはシノンまで俺と同じ様に学校を休んでALOにログインしている事。今日の予定はランをユウキに合わせる事なので俺1人が頑張れば良いのだが、彼女も俺と同じ様に学校を一週間休むつもりらしい。

 

 

「別に俺だけで良かったのに」

 

「……」

 

「ランが私たちって言ってたから私も居ないとダメでしょ?それに、ウェーブと同じで私も皆勤だったから一週間くらい休んでも問題無いわよ」

 

「……」

 

「それなら良いんだけどさぁ……」

 

 

もう1つの問題は、ランの様子がおかしいことか。俺を見つけるためにギルドを抜け出したランとしては、妹とはいえユウキには会いづらいのだろう。その気持ちは分かるのだが……どうも違うらしい。俺をチラチラと見て、俺がランを見れば慌てて顔を背けている。横顔と耳を真っ赤にさせながらだ。こんなランの姿は見た事は無いのだが、似た様なすがたをシノンで見たことはある。

 

 

付き合い出した頃に、リアルで詩乃が人気が無いことを確認してからランと同じ様にチラチラとこっちを見ることがあったのだ。その時は視線が俺の手に向けられていたから手を繋ぎたいと思っているのでは無いかと考えて、指を絡める様に手を繋いだ。どうもそれで正解だったらしく、詩乃は恥ずかしそうに顔を俯かせながら握る手の力を強くしてくれた。

 

 

それと似ていると言うことは同じ様な対処で間違いないのだろうが、付き合っている少女(シノン)の前でそんな事をして良いはずがない。どうしたものかと悩んでいると、シノンに脇腹を小突かれて、視線でゴーサインを出してきた。

 

 

それで良いのかと視線で訊ねれば、無言で首を縦に振って肯定した。案外嫉妬深いシノンがそんな事を許すなんて何があったのか訝しみながらも、許可が出たので然りげ無くランの隣に移動して手を握る。

 

 

「あーーー」

 

「ほら、行くぞ」

 

 

やや強引に手を引いて向かう先は第24層の主街区の北側にある小島。昨日ランと別れてから倉橋さんに頼んでリアルでのユウキに合わせてもらい、この時間にランを連れてくると約束したのだ。今頃、あの木の根元で待っているに違いない。気不味さがあるのは分かるが、そんなものは会ってしまえば案外簡単に消えて無くなるものだ。

 

 

そう考えて手を引いたのだがーーー不意に重みと握っていた手が消えて無くなった。後ろを振り返れば、さっきまでランが居たはずの場所には強制ログアウトが行われた事を表すアイコンが残されていた。

 

 

どうやら手を握られた事で強制ログアウトされてしまったらしい。

 

 

「えぇ……」

 

「ラン……ッ!!」

 

 

一体何があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー手を握られただけで強制ログアウト起こす程に興奮した、ねぇ……後で倉橋さんに謝りに行かねえとな」

 

「ーーー誰も予想出来ないわよ、そんなこと……」

 

「ーーーや、やっぱり手を握ったりとか早いとランちゃんは思うんですよね!!もっとこう、時間を掛けて親密になってからそういう行為は行うものであってですね!!ウェーブさん聞いてますか!?」

 

 

再びログインしてきたランに説教され、それを話半分に聞きながら北側にある小島に徒歩で向かう。誰が手を繋いだだけで強制ログアウトが行われる程に興奮すると予想出来るのだろうか。言動が夢の俺に汚染されてキチガイなクセして、中身が純情過ぎる。闘病生活が長過ぎて対人経験が少な過ぎるのが原因だろう。ゲームでは兎も角、リアルでの知り合いは倉橋さんしか居ないだろう。あの人は男性というよりも兄貴分として捉えられているに違いない。

 

 

やる事を済ませたら倉橋さんに謝りに行こう。侘びの菓子を持って土下座をしたら許してくれるだろうか。

 

 

「……お、居たな」

 

 

遠く離れているが、大樹の根元の辺りに1人で立っているインプの少女ーーーユウキの姿が見える。彼女も彼女でアスナと何かあったらしく、彼女に会いたくないと言っていた。そちらの問題も解決出来るのならしたいのだが、今はヘタれて木の陰に隠れているランの方が優先だ。

 

 

「さっさと行きなさいよ……!!」

 

「ま、待ってください!!まだ心の準備が……!!」

 

「このなんちゃってキチガイは……」

 

 

ウチの爺さんや母さんなら気軽にスキップしながら相手の無意識の領域に潜り込んで背後に回り、ジャーマンスープレックスでも仕掛けるのだがランはそこまでイっていないらしい。俺だって発勁腹パンくらいはやるというのに。

 

 

シノンが引っ張っているがランは木にしがみ付いて出て来ようとしない。ランが行かないというのならユウキがこっちに来れば良いだけの話だ。気配を消して2人の意識から抜け出し、そのままユウキの元に向かう。

 

 

「よぉ」

 

「あ、お兄さん……」

 

「昨日は悪かったな。急に病室に行ったりして」

 

「ううん、ちょっと驚いたけど久しぶりに倉橋先生以外の人とリアルで話せたから。それで、ランは……お姉ちゃんは?」

 

「あそこの方でヘタれて出て来ようとしない。だからユウキの方から行ってやれ」

 

「でも……」

 

「姉妹揃ってヘタレかよ……」

 

 

何かと理由を付けてグダグタと会わずに時間を消費するのは目に見えていたので首根っこを掴んで引っ張って行くことにした。

 

 

「ちょ、何やってるの!?」

 

「うだうだしてグチグチ言い訳するのが目に見えてたから引っ張って行くことにした。拒否権は存在しない」

 

「こ、心の準備が!!」

 

「んなもん出来てなくてもやるんだよ」

 

「でも……お姉ちゃんがギルドを抜けたのってボクたちと会いたくなかったら何じゃないかって考えちゃって……」

 

「だったらお姉ちゃんのバカァって叫びながら顔をグーで殴ってやれ。聞いた話じゃちゃんと理由を言わずにギルドを抜けたランが悪いからな。なぁに、HPが全損するレベルで殴ったって許されるさ」

 

「そんなので良いの!?」

 

「言葉で伝えられないのなら行動で訴えるしかないだろうが。世の中には肉体言語なんていうトンデモ言語だって存在してるんだから許される許される」

 

 

肝心なところでヘタれる辺り、この2人は姉妹なんだなと再認識しながらユウキを2人の元まで連れて行く。

 

 

「良い加減にしなさいよこのヘタ恋愛処女……!!手を繋いだだけで強制ログアウトするってどんだけ純情なのよ!!」

 

「ウェーブさんを落とす為にウェーブさんをロリコンに仕立て上げようとするシノンさんに言われたくないです!!」

 

「それは私じゃないって言ってるでしょう!?……って、あ」

 

「あ、って何ですか?……って、あ」

 

 

何やら凄まじい言い合いをしていた2人なのだが俺の事に、正確に言えば俺が連れているユウキに気が付いて動きを止める。ユウキをランに向かって投げ、シノンが物音を立てずにゆっくりとこの場から離れれば、出来上がるのはランとユウキの2人だけの空間だ。

 

 

「お姉ちゃん……」

 

「ユ、ユウキ……その、えっと……」

 

「お姉ちゃんの……馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「グェッ!?」

 

 

何を言ったら良いのか分からずに言い淀んでいたランの顔面にユウキの拳が突き刺さる。腰の入った良いパンチだったが、考えてみればここはまだ圏内なのでダメージは発生せずに吹き飛ばされるだけだ。

 

 

だがユウキはそんなことは御構い無しと言った様子で吹き飛んでいったランを追いかけ、胸ぐらを掴んでマウントポジションを取る。そして逃げられなくなったランの顔面に再び拳を突き立てた。

 

 

「勝手に!!ギルドを!!抜けて!!しかも!!説明も!!何も無しで!!皆んな!!心配!!したんだからね!!」

 

「ちょ、ユウキ!!痛い!!痛いですから!!障壁が発生してダメージは無いはずなのに痛いですから!!」

 

「五月蝿い!!ボクだって!!心配!!したんだから!!」

 

「リズミカルに延々と殴らないで!?ウェーブさん!!シノンさん!!助けーーー」

 

「シノン、ちょっと飯食いに行こうぜ?奢るから」

 

「本当?だったらアスナからいいお店があるって聞いてるからそこに行きましょ」

 

「ーーーウェーブさぁぁぁぁぁぁん!!シノンさぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

流石に姉妹の再会に水を差す様な真似はしたくないのでシノンと食事に行く事でこの場から離れる事にする。その時にランの絶叫が聞こえてきたが、きっとあれは嬉しくて叫んでいるに違いない。

 

 

ユウキがリズミカルに殴る音とランの絶叫を聞きながらこの場を後にする事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーごめんなさい。それとお姉ちゃんに合わせてくれてありがと!!」

 

「ーーー恨みますよウェーブさん……」

 

 

食事を終えて戻ってくると話し合いは終わったのか、どこかスッキリした様子のユウキが謝罪と感謝を同時に口にして、虚ろな目をしているランが俺に向かって呪詛を吐いてきた。確かに放置したけどあれはランの自業自得なのだから恨まれるのはお門違いだと思う。

 

 

「仲直りした様で何より何より。やっぱり姉妹は仲良くないとな」

 

「あ、そうだ。お姉ちゃんから聞いたんだけど3人でギルドを作ってボクたちみたいにボスを倒そうとしてるんだって?」

 

「そうよ、まだギルドの名前も何も決めてないけどね」

 

「ふ〜ん……」

 

「あ、そうだユウキ。ちょっと貴女ウェーブさんと戦ってみたら?」

 

「えぇ!?」

 

「待て、何でそうなるんだよ」

 

「ウェーブさんとユウキ、どっちが強いのか気になったからですよ」

 

 

納得出来る理由ではあるのだが、ランの目には負けろという邪念が隠れる事なく有り有りと浮かんでいた。さっきの放置された事への復讐のつもりなのだろうか。初めは驚いていたユウキだがウォーミングアップのつもりなのかその場で跳躍している。

 

 

「空中と地上、どっちが良い?」

 

「はぁ……地上で」

 

 

断れる様な空気でも無いのでデュエルを受ける事にする。最後にユウキの戦いを見たのはアスナとのデュエルの時だったが、あの時から多少は成長しているのだろう。シャリンと心地の良い音を立てながらユウキは黒い片手直剣を構える。その構えは中々様になっていて、その上隙が少ない。

 

 

対する俺は刀ーーーではなくてレイド部隊と戦った時と同じ手甲。ストレージから取り出して装備してダラリと両手を下げて構えない。

 

 

「構えないの?」

 

「構える必要がないから構えないんだよ」

 

 

構えを取ると次の動作がしやすくなる。しかし逆に言えば構えから次の動作を予想される事になる。その上、ユウキは異常な反応速度と攻撃速度を持っている。構えから予想されればそれらを超えることは出来なくなってしまうのだ。

 

 

刻一刻と減るカウントダウン。緊張している様子など見せずに楽しげにしているユウキと、構えずに立っている俺。

 

 

そしてカウントダウンがゼロになった。

 

 

 






キチガイのクセして実は恋愛処女だったというランねーちん。修羅波に手を握られただけで強制ログアウトしてしまうほどに純情です。これ、下手にスキンシップするとそのまま死ぬんじゃないかな……?

ランねーちんとユウキチャンが仲直りしたよ!!やっぱり肉体言語は最高の言語だね!!なお、ユウキチャンだけが一方的に語っていた模様。

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