修羅の旅路   作:鎌鼬

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I LOVE……

 

 

『これが私が不知火さんの事を知っていた理由です。どうですか、驚きましたか?』

 

「驚きたいけど頭の方の処理が追いつかなくて驚かないんだよなぁ……」

 

「私もそんな感じよ……」

 

 

夢で見ていたから知っていたと言うふざけた理由なのだが、事実ランはそれで俺に対応してみせた。そして知るはずの無いシュピーゲルの名前まで出て来ている。その特徴を訊ねてみれば、今よりも若いが確かに恭二の特徴と一致していた。SAOでは茅場晶彦の手によりリアルの自分の顔でプレイさせられていたとキリトから聞いた事があるので疑いようが無い。

 

 

つまり、彼女は本当に大人の俺が詩乃と、そして彼女の妹であるユウキとSAOをプレイしている光景を夢見ていたのだ。

 

 

「はぁ……嘘みたいな話だけど本当みたいだな。で、ランはこれからどうするんだ?余命のカウントダウンが始まったからって大人しく死ぬ様な殊勝な性格はしてないだろ?てか、もしかして夢の俺に影響されてそんな性格になったの?」

 

『恥ずかしながらあんな性格だと悩みなんて無さそうだ羨ましいなぁって考えて……不知火さんに染められちゃいました』

 

「不知火、後でお話ね」

 

「え、ちょ、確かに俺が悪いかもしれないけど俺は関係無いんじゃ……あ、わかりました、だからその画像は止めてください。社会的に死ねるから」

 

 

過去に罰ゲームでやった俺の女装写真をSNSに投稿しようとしていた詩乃に土下座する。ちなみにその姿を見た恭二の感想は思い出したく無い。男としての尊厳が惨殺されるような感想だった。

 

 

『そうですね……まずは木綿季に謝って、それからどうしましょうか……出来る事ならずっと、貴方たちと一緒が良いんですけど……』

 

「それは夢で見たからなのかしら?」

 

『それもあります。でも、それだけじゃないです。不知火さんと詩乃さんは、友達だから……発症するまではクラスのマドンナとか言われてチヤホヤされてたんですけど、発症したら即座に拒絶されましたからね。今思うとあれは見事な手の平返しでしたね』

 

「息をするように自虐に走る辺り、本当にデジャブを感じるなぁ……俺は良いけど詩乃はどうしたい?」

 

「私も良いわよ。だって、ランは私の数少ない友達だから……あ、ダメねこれ。意外と心に来るわ。良くこんな事が息をするように出来るわね」

 

「慣れ、かなぁ?」

 

『慣れ、ですよね?』

 

「慣れたく無いわ、こんな事……」

 

 

俺の場合は自虐に走っても爆笑するような爺さんと母さんという漣家が誇る二大キチガイがいたから慣れただけだが、ランの場合は交友関係の狭さが原因で慣れてしまったのだろう。流石に詩乃にまでこんな芸風に走られると軽く死にたくなるので走らないで、そして慣れないでほしい。そんなことになったら俺は詩乃の爺さんと婆さんに腹を切って侘びをしなくちゃいけなくなる。

 

 

「取り敢えず、最初はランの妹と仲直りをしてからだな。その後は……アスナたちがやったみたいに〝剣士の碑〟に名前でも残してみるか?俺たちでギルドを作ってさ」

 

『私たちで、ですか?』

 

「あぁそうだ。誰にも知られずに、誰も悲しませずにひっそりと死ぬなんて悲し過ぎるからな。名前を残して誰にも知られて、死ぬ瞬間に大勢に看取られて悲しませながら満足感とちょっぴりの後悔を抱いて死ぬ。それが俺の考える最高のハッピーエンドだし、俺はそう死にたいと思ってる。悔いなく死ぬなんて聞こえは良いけど、言い方を変えたら悔いを残すような繋がりを持たずに死ぬって事だからな。そんな死に方、バッドエンド以外のなんでも無いだろ?」

 

 

もっと生きたかったなぁとか呟きながら家族に看取られて老衰で死にたいと俺は思っている。俺の様なロクで無しのキチガイがそんな死に方出来るかどうかは分からないけど、死に方を思い描く自由くらいは許して欲しい。

 

 

『あぁ……確かに、そんな死に方が出来たら良いですね……私が死んだら、不知火さんと詩乃さんは悲しんでくれますか?』

 

「少なくとも涙を流すくらいには悲しむな。短いとはいえ結構濃い付き合いしてたから」

 

「私も泣くわね。だから……泣かせたくなかったら、長生きしなさい」

 

『ーーー』

 

 

ランからの返事は無いものの、感極まっているのかスピーカーからは僅かな嗚咽が聞こえていた。どうしたものかと悩む。爺さんから女が泣いていたら慰めてやれと言われて育てられたのだが、あれやこれやと言葉をかけるのはどうかと思い、詩乃にやっていた様な抱き締める方法しか知らないのだ。本当だったらそうしたいのだが残念ながらランは無菌室の中で入る事は出来ないのでそれは出来ない。

 

 

どうしようと考えるが、詩乃に服の袖を引っ張られて視線をそっちに向ける。すると彼女は目で部屋から出て欲しいと訴えていた。同性として何か語りたいことでもあるのだろう。それを察して俺は出来るだけ音を立てずに部屋から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不知火を部屋から出し、扉が閉まり切った事を確認する。壁の薄い部屋だったら声が聞こえそうなのだが見た限りではこの部屋の壁は厚い。彼でも簡単には盗み聞きすることは出来ないだろう。もっとも、彼は常識を弁えているのでそこら辺のことは心配していないのだが。

 

 

「……ラン、ちょっと良いかしら?」

 

『……御免なさい、急に泣いちゃって……あれ、不知火さんは?』

 

「2人っきりで話がしたくて部屋から出てもらったわ」

 

 

泣くのに集中していたせいでランは不知火が部屋から出た事に気付かなかった様だ。仮に泣いていないとしても音も無く、泣いているランを気遣って気配を消しながら部屋から出た彼の事を知覚できるのかは怪しいところなのだが。

 

 

「ねぇ、貴女……()()()()()()()()()()?」

 

『ーーー』

 

 

確信を持って言った一言で心電図の反応が一瞬だけ跳ね上がり、何事かと倉橋さんが部屋に飛び込んでくる。不知火に聞こえない様に注意しながら女子会の定番の話をしていたと言ったら納得してくれたが、あまり彼女に負担を掛けないようにと注意されてしまった。

 

 

『ど、どうして分かったんですか!?』

 

「興奮し過ぎるとまた倉橋さんが来るわよ。それは気がつくわよ、私も彼の事が好きなんだから。自分が向けている好意を貴女が向けているくらい分かるわ」

 

『……凄いですね。夢の中の詩乃さんほどじゃないですけど』

 

「待って、夢の中の私は何をやらかしてるの?」

 

『木綿季と一緒に不知火さんに向かって好き好きアピールしまくってる上に思いっきり性的な意味でアプローチかけてますね。お陰でゲーム内での不知火さんはロリコン扱いされて社会的地位は完全消滅しかけてます』

 

「本当に何やってるのよ……!!」

 

 

好き好きアピールならまだ百歩譲って納得しよう、私も控えめだけどそういうことはやっている自覚はある。だけど性的な意味でアプローチってなんだ。私が知る不知火にするのなら微妙なところだけど、大人の不知火にやったら完全にアウトだ。しかもロリコン扱いされているということはそれだけ歳が離れているという事だ。自分じゃない自分だと分かっているけど恥ずかしくなってくる。

 

 

『それで、さっきの質問なんですけど……はい、私は不知火さんの事が好きです』

 

「やっぱり」

 

『大体なんなんですかあれは!!普段はキチガイでおちゃらけてるのに決めるとこでは決めてカッコイイって反則ですよ!!しかもすっごく包容力があって……あんな姿見せられた惚れるに決まってるじゃないですか!!』

 

「落ち着きなさい」

 

 

ランの言いたいことは分かる。こちらの不知火も〝死銃〟事件を終えるまではヘラヘラと仮面の様な笑みを浮かべておちゃらけていたがそれ以降は落ち着きのある笑みを浮かべるようになり、しかも要所要所でカッコイイ姿を見せるのだ。それに私がトラウマで発作を起こしていた頃には落ち着くまで側に居てくれたし……普段の言動はキチガイなのに、そういうところは本当にカッコイイと思う。

 

 

そんな姿を大人の不知火とはいえ夢で、しかも病気で心が弱っている時に見れば惚れてしまっても仕方がない。私だって気が付いたら彼の事が好きになっていたのだ。3年間も夢で不知火のことを見続けていた彼女も好きになってもおかしくはない。

 

 

22層でランが不知火にキスをした時にほんの少しだけ恋する乙女の顔になった事が気になっていたが、今日の話を聞いて確実に惚れていると確信出来た。

 

 

『でも……不知火さんの隣には詩乃さんがいます。略奪愛なんて好みじゃないですし……』

 

「そこで略奪愛上等とか言わないでくれて本当に良かったわ」

 

 

リズベットならば確実に叫んでいたに違いない。アスナと付き合っているキリトに惚れていて、しかも諦めないで既成事実を狙いながら略奪愛を企む彼女ならきっと叫んでいた。リーファとシリカの協力が無かったら今頃キリトはアスナと別れてリズベットに首輪を付けられていただろう。

 

 

「……はぁ、しょうがないから、ALOで少しだけなら不知火に引っ付いても良いわよ」

 

『え?……何を企んでるんですか?』

 

「企むって何よ……私だって女なのよ。好きな人と一緒に居たいって気持ちはよく分かるわ。同情の様なものだと思ってくれたら良いわ」

 

 

ただしリズベット、貴女だけはダメだ。

 

 

『詩乃さん……分かりました!!正妻は詩乃さんで私は愛人ですね!!』

 

「待ちなさい、どうしてそんな結論に落ち着いたのよ」

 

『え?でも夢の中の詩乃さんはそう言ってましたし……』

 

「本当に何やってるのよ夢の中の私……!!」

 

 

ランの話を聞いても夢の中の自分はどう考えても私じゃない様な気がしてならない。不知火の事が好きなのは分かるのだが、何をどう考えたらそんな結論に落ち着くのか。

 

 

しばらく夢の中の自分の奇行から立ち直った後、倉橋さんが面会の終わりを伝えに来るまで私たちは不知火の事について話し合った。

 

 

短命な彼女の恋。それが少しでも彼女の命を長引かせる鍵になれば良いと願いながら。

 

 

 






修羅波の女装姿を見た新川きゅんの感想は、『やべぇ、舐めてた。あれは普通に異性として見れる』だそうです。それを聞いて修羅波は泣き崩れたそうな。イメージは目付きの鋭いお姉様。

ランねーちん、まさかの愛人枠に。シノのんは否定している模様。シノノンならば迷いなく愛してくれるのなら正妻じゃなくても良いと受け入れる。


これが汚れ系ヒロインと非汚れ系ヒロインの違いよ。

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