「ーーーこれで終いだな」
最後まで残っていたプレイヤーの鳩尾に貫手を突き刺してクリティカルを発生させて〝
クランドとロートス?プレイヤーの数が100を切った辺りからダンジョンの外に飛び出して行った。恐らくHPが無くなるまでひたすらPKし続けると思う。
「お疲れさん」
「勝てたのか……?」
「生きてる?私、生きてます?」
「前衛は全部やってくれたとはいえキツかったわね……矢が無くなりそうだわ」
「そういやクラインどこに行った?」
「クラインだったら途中で来たけど神風特攻に巻き込まれて死んでたぞ」
「役に立たねえなぁあの野武士」
クラインが出番すらない出オチをしていた事に呆れながらも精神的疲労からその場に座り込む。HPを確認すれば数ドット残った状態で赤くなっていた。回復しようとストレージを開いてみれば、入れていたポーションは残り1つになっていた。持てるポーションギリギリを持って来ていたはずなのにここまで消費させられてしまったと考えるべきか、それとも数百対6で勝利できたことを喜べば良いのか判断し辛いがここは素直に勝てた事を喜ぶとしよう。
ポーションを飲んでHPを回復させていると、固く閉ざされていたはずのボス部屋の扉が開いた。その瞬間にランはストレージから〝隠者の羽衣〟を取り出して装備し、姿を消した。どうもまだ覚悟が出来ていないらしい。あまりにも素早い行動にシノンも呆れている。
扉が開き切り、ボス部屋の中が公開される。そこにいたのは誰1人として〝
「キリト君!!ウェーブさん!!シノンちゃん!!」
「お兄さんたち!!ボクたち、勝てたよ!!」
正直な話、数百人を相手に正面から戦うだなんて無茶だと思っていた。自分の強さを自覚しているとはいえ、所詮は個人で強いだけなのだ。戦いとは数、一騎当千の英雄だって万の雑兵で殺せる。例え俺よりも弱いプレイヤーだって数百人も集まれば負けるんじゃ無いかとどこかで考えていた。クランドとロートスという禁じ手を使って勝つ事は出来たが疲労困憊、良く良く考えてみれば俺の利益になるものはないも無い戦いだった。
だけど、心の底から嬉しそうに笑う彼女たちの顔を見て、ランからの頼み方を受けて良かったと思った。
「ーーー疲れたぁ……」
「ーーーログアウトしたらそのまま寝そうね、これ……」
〝ロンバール〟に戻った俺とシノンは疲れを癒すために近くにあったベンチに腰を下ろした。キリトはやる事があるらしくてそのままログアウトし、アスナたちは打ち上げをすると言っていた。俺たちも誘われたのだがボスを倒したのはアスナたちだ。打ち上げをするにしても、まずは彼女たちだけでするべきだと言って断らせてもらった。
ランはアスナたち……正確にはアスナが手伝っていたギルド〝スリーピング・ナイツ〟のプレイヤーたちが姿を消してから〝隠者の羽衣〟を脱いで姿を見せた。姿を見せない事をどうこう言うつもりはない。姿を見せた方がランと〝スリーピング・ナイツ〟の為になる事は分かっているがこれは当人たちの問題で部外者である俺がとやかく言う資格は無い。
あまりにもぐちぐちとヘタれている様なら尻を蹴るくらいはやるつもりだが。
「……ウェーブさん、シノンさん。私の頼みを聞いてくれてありがとうございました。これでユウキたち……〝スリーピング・ナイツ〟のみんなの名前が〝剣士の碑〟に刻まれます」
「何、やりたい事をやっただけだから気にするなよ」
「ウェーブのヘイトは大変な事になってるけどね……それにクランドとロートスもよ。きっと今頃スレがいくつか立ってるんじゃないかしら?」
「逆に聞こう。立たないと思うか?」
「……思えないわね」
クランドとロートスの名前は間違いなくALO中に広がるだろう。堂々と名乗っていたし、プレイヤースキルだけで攻略専門ギルドを蹂躙していたのだから前の俺の様に指名手配扱いになると思われる。
だけど、2人がALOをプレイするのは今日1日だけだ。そうしないとプレイヤースキルを重視しているALOでは2人の存在はあまりにも大き過ぎて問題を起こしそうだから。この事は前もって伝えてあるし、2人も了承してくれた。代わりにGGOの存在を教えておいたから、これからVRMMOを続けるとしてもGGOの方をプレイするだろう。GGOの方がALOよりもPKを推奨しているし、あちらの方が
「私から貴方たちに渡せるものは何もありません……だけど、ウェーブさんは私に聞きたい事があるはずですよね?」
「そりゃあ気にしない方がおかしいだろ?」
どうしてランは俺の成長先の動きを知っているのか。ランからの依頼の最中には気にしない様にしていたが、解決した今では猜疑心が起き上がってくる。GGOにいた
「隠すつもりはありません。だけど、ゲームの中じゃなくてリアルで話したいです」
「リアルでって……」
「……分かった、どこに行けばいい?」
リアルで会うとなれはオフ会のイメージがあるのだが、今のランの様子ではそんなに気軽なもので無い事は明らか。それでも彼女はリアルで会いたいのだろう。だったらそれを断る理由はどこにも無い。
「横浜港北総合病院、そこに来てください。2人の事は話しておくので……倉橋という人に
「それって本名じゃあ……」
「……漣不知火、アポイント取るにしてもこっちの名前を教えておかないと不便だろ?」
「あぁもう……!!朝田詩乃よ!!私も行くからね!!」
「……ありがとうございます」
そう言って頭を下げ、ランは悲壮感に溢れた笑顔を浮かべながらウインドウを操作してログアウトした。
「横浜港北総合病院でフルダイブ慣れしてる、か」
「何か心当たりでもあるの?」
「あるっちゃあるんだけどな……ごめん、俺先にログアウトするわ。ちょっと調べる事が出来た」
「分かったわ。私も疲れたし、明日から学校が始まるからね」
左手でウインドウを操作してログアウトし、現実世界に戻る。アミュスフィアを外すと同時に枕元に置いていたスマホを操作して電話帳から恭二の電話番号を引っ張り出す。
いつかは覚えていないが、前に恭二から〝メディキュボイド〟という医療用のフルダイブ機器の話を聞いた事がある。アミュスフィアにある体感覚キャンセル機能を利用した医療機器。実用化されれば麻酔に頼らずにある程度の全身麻酔と同じ効果が得られるらしい。その話を聞いた時に興味を持って、色々と詳しく聞いたことを覚えている。
そして……俺の記憶が確かならば、〝メディキュボイド〟が日本で唯一臨床試験をしている病院、それが横浜港北総合病院だったはずだ。
「あ、恭二?宿題終わった?手が空いてるのならちょっと聞きたい事があるんだけど……馬鹿、誰が振られた奴にベッド事情の相談なんてするんだよ。もぎ取るぞ?……ヨシヨシ、聞きたいのは〝メディキュボイド〟のことだけどさ……」
そしてその時に恭二は言っていた。〝メディキュボイド〟最も期待されている分野は〝ターミナルケア〟……日本語では、終末期医療と呼ばれる分野だと。
悲報、キチガイがALOに解き放たれました。とはいえ1日限定で、死んだらそれでお終い。戦闘後でHPも回復してないからワンチャンあるぞ!!(絶望
そしてランねーちんの秘密が解き明かされようとしている。
修羅波が〝メディキュボイド〟について知ってるのは新川きゅんから聞いたから。医者の息子で目指してるのなら話を聞いててもおかしく無いし。