「ーーーはぁ〜疲れた」
30分ほど時間が経過し、攻略専門ギルドの援軍がやって来たがロートスとクランドの無双は止まらなかった。キリトとランは流石に長時間の戦闘で消耗したのか時折私のところまで下がって休憩を挟んでいる。
「お疲れ様です」
「タメ口で良いぞ、畏まられても虫酸が走るだけだし。それにどうせゲームの中だからな」
「それは流石に図々しいような……」
「良いの良いの、ウチのクソ孫の未来の嫁さんなんだしな」
「ちょっと待って」
何だかとんでもない事を言われた気がする。
いや、確かにそうなれば嬉しいのだけど流石に気が早過ぎる。私も不知火もまだ未成年で結婚出来る年齢では無いし、仮に結婚出来たとしても経済的な不安もある。でも、彼の告白の時の言葉を考えたら……うん、これ以上思い出すと恥ずかしさで使い物にならなくなるので止めよう。
「真面目だなぁ。蓮葉……こっちじゃロートスだったな。あいつなんて15の時に男を逆レして妊娠、そいで16には産んでたぞ?」
「御免なさい、理解がちょっと追いつかないです」
改めて聞かされると不知火の家って本当に頭のネジが外れていると思い知らされる。15で逆レして妊娠とか蓮葉さんがアグレッシブ過ぎる。そういうのを私に求められても困る。
過去に一度、不知火にそういう事をしたいのか聞いたことがあるが、その時彼は私を正座させ、した時のデメリットを延々と説かれた。不知火にも性欲はあるが、考えも無しにしてしまえば後々で後悔すると。
その時は真面目だなと思ったが、蓮葉さんの話を聞いて本当に彼が漣家の常識人枠に収まっていたと思い知らされた。不知火が常識人枠に収まっているとか、漣家はキチガイの集まりなのか。
「ま、出来たらウチに来いや。貯えもあるから3人や4人くらいなら普通に養えるぞ?」
「出来てる事が前提なんですね……」
そうなれば間違いなくお祖父さんとお祖母さんはひっくり返るに違いない。お母さんは喜びそうな未来が見える。
でも、そうなったら……私が彼の子供を産んで、抱いている未来を考えると心が温かくなる。そんな未来が来てくれたらどれだけ幸せなんだろうか。もっと進んだ未来を想像したくなったのだが、今は手を止める事が出来ないので無理矢理その考えを中断する。
「ところでロートスだけで戦わせて大丈夫なんですか?」
「良くはねぇけどなぁ……奴さん、戦い方を変えて来やがったからな」
援軍がやって来たからレイド部隊は戦い方を変えた。今までは囲んで少しずつ削るような長期戦を見据えた戦い方だったのだが、攻撃が当たらないことに焦れたのか、それともロートスとクランドの危険性を認識したのか、自爆魔法を使っての神風特攻に切り替えて来たのだ。
我先にとロートスに群がっていくプレイヤーたちの姿は事案物の酷い光景なのだが、ロートスはそれを嘲笑いながら襲い掛かるプレイヤーたちの隙間を通り抜けて反撃し、自爆されるよりも前にプレイヤーを〝
確かにあんな特攻紛いの事をされるのなら1人で戦った方が良いだろう。そういう意味ではロートスとクランドの判断は的確だった。時折、自爆の余波でロートスのHPは削られているので近いうちにロートスも〝
そうなったとしても次はクランドが動き出すので戦況には然程影響しないと思われるが。
「問題は不知火……ウェーブの方だな」
そう、クランドが言った通りに問題があるとすればユージーンと戦っているウェーブの方だ。状況は戦い始めた頃から全くと言っていいほどに変わっていない。つまりはユージーンの方が優勢で、ウェーブの方が劣勢。30分も回復魔法を飛ばし続ければメイジのMPも尽きるのだが、複数人いるので回復魔法は途絶える事なく飛ばされ続け、尽きたら即座にポーションで回復している。メイジのポーションが尽きるまで戦い続けられれば勝機はあるのだが、現状だとウェーブが勝てるとは思えなかった。
「あいつ……
「遊んでる?」
「ユージーンだったか?確かにあいつは強いな。現実でもソコソコのところの強さだってのは見て分かるけど、
「……確かに」
言われてみればクランドのいう通りだ。ウェーブは勝つためならば不意打ちでも何でもする。奇襲強襲なんて当たり前、初見殺しは対応出来ない方が悪いとGGOをプレイしていた頃から彼は良く言っていた。それを思い出せば、今のウェーブは遊んでいると言われても仕方がないと言える。
そもそもユージーンと戦いながらランにレクチャーをしていたのでそうとしか言えないが。
「ーーーさてっと」
と、ここでウェーブが動いた。ユージーンの斬撃を紙一重で避け、カウンターで顔に殴りに行く。それは何度も繰り返された行為で、ユージーンも同じ様に自分からぶつかりに行く事で打点をズラそうとする。
そして、握られていた拳から人差し指と中指が飛び出し、
「ガーーーッ!?」
「よいしょっと」
視界の半分を潰された上に眼窩を抉られる痛みに一瞬だけユージーンは硬直し、その一瞬の隙をついて気の抜ける様な声を出しながらウェーブは
「ついでにもう片方も」
「ウェェェェェブゥゥゥゥゥッ!!」
自分よりも大きなユージーン地面に叩きつけ、流れる様に躊躇いなくウェーブは残っていたもう片方の目を踵で踏み抜いて潰した。部位欠損が発生したことによりユージーンの視界は一時的に使えなくなる。メイジが部位欠損を回復させようと上位の回復魔法の詠唱を始めようとするが、ユージーンという壁役が居なくなってしまった以上、彼らはただの案山子になってしまった。
十数メートルは離れていたはずの距離を数歩で詰め寄り、詠唱を妨害するために喉を潰す。反撃する手段を無くしたメイジを1人ずつ〝
「どこだ!?どこにいる!!ウェーブ!!」
「ーーー」
〝魔剣グラム〟を支えにして立ち上がったユージーンだが視界が使えないのでウェーブを見つけることは出来ない。漫画やアニメだったらここで決め台詞の1つでも言いそうなのだが、ウェーブはそれで居場所がバレるのを嫌ったのか無言無音でユージーンに接近し、背後を取ると一息でユージーンの首を360°以上回転させた。
目への二連続とそれがトドメになったのか、ユージーンはHPを全損させて〝
ウェーブに負けたことを悔しがり、ウェーブの強さを賞賛し、必ず勝ってやると奮起して再び挑んでくるだろう。少なくとも死に際の笑みを見る限りでは今日はもう挑んで来ないと思う。しかしウェーブの精神的負担が大きくなってそうなのでこの戦いが終わったら優しくしてあげよう。
「あんなの相手に手こずってんじゃねぇよクソ雑魚」
「神風特攻程度にビビって引いてるクソ雑魚に言われたところで負け惜しみにしか聞こえないんだよな」
「成る程成る程……表出ろやクソ孫ォッ!!」
「棺桶の用意は済ませたのかくそ爺ィッ!!」
ウェーブとクランドが互いの胸ぐらを掴んで額をぶつけ合いながら睨み合う。一触即発、このまま本当に戦い出しそうな雰囲気だったので足元に火矢を撃つことにする。爆発は当たり前の様に爆風と同速で飛び退かれた事でノーダメージだったのだが注意を逸らすことは出来た。
「ふざけるのは後にして今はこっちに集中なさい」
「おい、シノンちゃん怒ると恐えじゃねえか」
「怒ると恐いのは当たり前だ。だけど怒ってる顔も可愛いと思ってる俺は手遅れかもしれない」
「あ?好きになったら相手の全部が可愛く見えるなんて当たり前だろ?俺も婆さんがそうだったし」
「なんだ、正常じゃないか」
そういう話はせめて時と場合を考えてしてほしい。全部丸聞こえで顔が熱くなるのが分かる。それでも手を止めずにロートスたちでは無くてこちらに向かってくるプレイヤーに向かって火矢を放ち続ける。
「よっしゃ爺、どっちが多く倒せるか競争な!!カウントは今から!!」
「良いじゃねぇか!!負けたら飯おごれよ!!」
ユージーンという障害が無くなったウェーブとテンションが上がったクランドがレイド部隊に突貫して行くのを見て、勝ち以外の結末が見えなくなってしまった。
レイド部隊、神風アタックに手を出すもののキチ母に笑いながら対処される。自爆特攻くらい対処方法を考えておいて当たり前だと思ってるの。
魔改造ユージーン、目潰しされたから首をネジネジされるというエゲツない死に方。でも本人的には満足だったらしい。