ウェーブが呼び出したロートスとクランドにより強制的に戦いは始まってしまった。始めは2人は背中合わせの状態でレイド部隊に挑んでいたが、途中からは飽きて来たのか、このままでは勝てないと思ったのかレイド部隊に飛び込んで戦場を掻き乱している。普通ならVRMMO初心者のあの2人が攻略専門ギルドのベテランプレイヤーに挑むなんて自殺行為だと止めるのだろうが私はウェーブという前例を知っているので大丈夫だと思っていた。
なぜなら、あの2人はウェーブの身内だから。リアルでも不良を相手に無双出来るくらいに強く、VRMMOでもプレイヤースキルで蹂躙出来る程に強いウェーブの身内は弱いはずがないと思っている。
過去に不知火から聞いた話なのだが、漣の家系は極端な場合はあるもののほぼ全員が
その理論で言うとウェーブはロートスよりも強く、ロートスはクランドよりも強いという事になる。しかし離れて見ている限りでは、ステータスというプレイ時間がモノを言う数値を除いて2人のプレイヤースキルはウェーブよりも研鑽されているように見える。
動きと動きの繋ぎ目は認識出来ない程に滑らかで淀みがない。槍を突き、剣を振った筈なのに気が付けばまた槍が突き出されて剣が振るわれている。そこら辺はウェーブから言わせれば単純に積み重ねて来た時間が違うかららしいのだが、私がいくら時間を掛けてもあんな風になれるとは思えなかった。
ロートスとクランド、それに加えてキリトが二刀流で飛び込んで暴れ回っているのであちらは大丈夫だろう。問題があるとすればウェーブの方だ。
ウェーブに挑んで来たのはサラマンダーのユージーン。サラマンダー領主の弟にしてサラマンダー部隊の指揮官を任せられる、一部の例外を除いてALO最強と呼ばれているプレイヤー。それを裏付けるかのように、彼はメイジを数人連れながらもたった1人でウェーブに立ち向かっている。
無論、ただ避けるだけでは無い。攻撃の合間を縫ってウェーブはユージーンにパンチやキックを放っている。避けながらだからなのかダメージは少ないがこのまま続ければウェーブの勝ち。しかし当然の事ながらその対策はされていた。ユージーンの連れて来たメイジは加勢するような素振りを見せず、ただユージーンの回復だけに専念している。そうする事でウェーブが与えるダメージよりもユージーンの回復量の方が多くなり、ユージーンのHPは未だに満タンの状態のままだ。しかもユージーンはユージーンでただ殴られているように見えない。ウェーブの事だから人体に効くようなパンチやキックを放っているのを理解しているのか、わざと自分から喰らいに行く事で打点をズラし、攻撃の影響を軽減させている。
ウェーブが有利になる乱戦を防ぐ為に一対一、サポートのメイジたちを回復に専念させる事で擬似的であるが不死身の状態、加えてハンデだと言って本来の武器である刀ではなくて手甲を使っているウェーブという、どこからどう見てもウェーブが不利すぎる状況だった。
と、そこへ、レイド部隊の1人がウェーブに目掛けて突進して行くのが見えた。2人の近くでは邪魔が入らないようにしているのかランが戦っていたのだが逃してしまったらしい。ロートスたちに敵わないからせめてウェーブだけでもと不意打ちしようとしているのだろう。
「「ーーー邪魔だァッ!!」」
そしてそのプレイヤーはウェーブの殴打とユージーンの斬撃により一瞬でHPを全損させて〝
だけど、あの2人も長くは続かないだろう。ウェーブは回避しか出来ず、その上一度でもユージーンの攻撃を当たってしまえば回復する手段が無いのでダメージはそのまま。ミスが許されない状況下では余裕のあるユージーンよりもウェーブの方が精神的な消耗が激しくなる。
それをウェーブは分かっているだろう。だというのにーーー
「どうした、動きが鈍くなってるぞ?もう疲れたのか?超絶可愛い美少女剣士のランちゃん?」
「クッ!!なんでそんなに余裕があるんですか!?もっとそっちの赤い戦闘狂に集中してくださいよ!!」
ーーーユージーンの攻撃を避けて拳を打ち込みながら、視界に入れずにランの事を煽っていた。いや、煽っているというのは半分ハズレか……正確に言えば、ランのレクチャーをしていた。
「重心が浮いて来てるぞ、もう少し腰を下げろ」
「ハァッ!!」
「脇が甘い、それだと二度目で終わる。手を止めずに三度四度と続けて振れ」
「フッ!!」
「肉で身体を動かすな、骨で身体を動かせ」
ユージーンの連撃を避けて時折反撃しながら、ウェーブは視界に入っていないはずのランの動きを指摘して訂正させる。返事をする余裕が無いのか掛け声だけしかランからは返ってこないが、それでもウェーブのアドバイスを素直に聞いているらしく、ランの動きは指摘される前よりも良くなっているのが見て分かる。
「弟子でも取ったのか?」
「弟子じゃないさ。だけどどうであれ俺の動きを手本にしてるんだ。ぎこちない、未熟な事を見れられれば指摘の1つや2つはしたくなって当然だろ?」
「分からんでもないが今は俺に集中して欲しいものだなッ!!」
「男から熱烈に求められてもな……ラン、見とけよ。それを上達させれば
ユージーンの横薙ぎの一振りを飛び退いて躱し、ウェーブは自分から開けた距離を詰める為に死地に踏み込む。一斬一斬が必殺級の連撃、それをウェーブはランにアドバイスした事と観察眼だけで見切り、そして回避する。右へ左へ、まるで宙を舞う木の葉のようにユラユラと変幻自在に移動しながら一歩一歩確実に距離を詰める。
「……いやぁ、流石に超絶可愛い美少女剣士のランちゃんでもそれは出来ないと思われますけど」
「無理だ出来ないはただの言い訳だーーーやれば出来るさ!!何事もッ!!」
「まったく……こうですか?」
「動きが硬い。力を抜いてそのまま動け」
ウェーブの見せた動きをランなりに模倣し、それをウェーブは見もしないで的確なアドバイスを言い、
「なら、
一体どうやって真似たのか分からない、ウェーブの動きを下地にして模倣し、体得し、自分の物とした縮地でランは三方から迫り来る剣戟を回避してプレイヤーに接近。そのままの勢いで首を撥ねとばす。
「及第点だな。まだまだ練りが甘い」
「鞭だけじゃなくて飴も欲しいんですけど」
「鞭だけで喜ぶ奴がほざきよる」
「酷いですね!?確かにウェーブさんからの鞭なら悦びますけど流石に飴だって欲しくなるんですよ!?」
その言葉を聞いて反射的にランを射抜こうとした私は悪くない。初対面の時から思ったのだが、ランはどうしてあそこまでウェーブに対して好意を見せつけてくるのだろうか。彼には私という恋人がいる事を彼女も知っているはずなのにそれを気にせずにアピールを繰り返す。
流石にリズベット程酷くは無いけど。
そう考えながら、レイド部隊の弓兵部隊が動き出しているのが見えたので適当に5本ほど矢を放つ。目標よりも上に向けて渾身の力で放たれた矢は空気を切り裂きながらロートスたちが戦っている戦場を乗り越え、突然弧を描きながら下へーーー弓兵部隊に向かって行く。
結果なんて見るまでも無い。狙って射るのでは無くて、射ったから当たるのだから。
流石にウェーブやキリトのようなトッププレイヤーにはそれは通用しないのだが、集団で戦うことに慣れて個の力を軽視しているプレイヤーならば関係ない。扇状に広がり、弧を描きながら矢は当然のように弓兵部隊の頭部に命中。その一瞬後に爆発する。
そして爆発にレイド部隊のプレイヤーたちが気を取られた一瞬の隙を突き、ロートスとクランドの動きが加速する。
キリトもプレイヤースキルでは届かないもののSAO、ALO、GGOを通して得た経験を十二分に発揮して2人に追いつこうとする。
現状の要はあの3人だ。3人が奮闘してくれているからこそ今の状況が保てていると言っても過言では無い。最低でもウェーブがユージーンを倒すまでは彼らには生き残ってもらう必要がある。
新たな矢を取り出し、戦場を観察しながら私は3人を生かす為にはどうすればいいのかを模索する。
現状、割といい勝負。意外かもしれないけどALOにはGGOみたいな一撃死が無いはずだからこうなる。
魔改造ユージーン、頑張る。修羅波が縛りプレイみたいな事をしてるからだね。刀使ってたら回復するよりも先にクリティカル連発で殺せばいいし。