ランを立ち直らせてから数十秒もすれば攻略専門ギルドのレイド部隊は視界に入ってくる。平日の昼の時間帯であるというのに俺を警戒しているのか100人近い大人数でだ。中には俺たちが瞬殺した
「これはこれは、こんな大人数で何の用かな?ボス部屋は現在使用中だから順番待ちしてもらうしか無いんだけど」
そんな大人数と対峙した事は無いシノンとランは緊張からか身体を強張らせてしまっているので彼女たちに注意が行かぬ様、それでいて俺にヘイトが集まる様に言葉を選びながら二歩ほど前に出る。
「ウェーブさんよぉ……俺たちが何を言いたいのか分かってるだろ?」
「せっかく他のギルドを使ってボスの情報を集めようとして、その上占領してボス攻略のリターンを独占しようとしていたのに邪魔したな……と、こんなところかな?」
「分かってるじゃない。だったら聞かせてもらおうか、なんでこんな事をしやがった?アンタはボス攻略に興味を持ってないはずだろ?俺たちの邪魔をする意味なんて無いんじゃないのか?」
レイド部隊のリーダーポジションを務めているからなのか、問い掛けてきたサラマンダーの男性プレイヤーはやけに理性的だった。後ろで武器や杖を構えているプレイヤーたちは邪魔をした事に殺意混じりの視線を向けて今にも飛びかかりそうだというのに。
確かにこのプレイヤーが計画していた通りにアスナたちを使って情報を集め、このレイド部隊がボスに挑んでいたのなら攻略出来ていたかもしれない。指揮官ポジションの人間に求められるのはどこまでも理性的である事。どんな予想外な出来事が起きたとしても、身内切りをしなくてはならない事態になったとしても、どこまでも冷静で理性的に指示を出さ無くてはならない。そうしなければ率いている集団が混乱してしまうから。
もし俺がランと知り合っていなければ、ランに頼まれていなかったらこの場はこいつに譲っていたかもしれない。
だけど、それは
「頼まれたからだよ。あのギルドがボス攻略するのを手伝ってくれってさ。パーティーに溢れたからこうしてお前たちの邪魔をしている訳だけど。ついでに言うと、これは頼まれただけじゃなくて俺もそうなって欲しいって考えてるから」
始まりはランに頼まれてだったのだが、俺が見たくなったのだ。アスナとあの6人がたった1パーティーだけでボスに挑み、勝利して喜んでいる姿を。〝剣士の碑〟に名前を刻んで、本当にボスを倒したと歓喜している姿を。
「だから邪魔なんだよ、お前らは」
そう言いながら刀を抜いて一振り、床に深々とした一本の傷を着ける。
「この線を越えようとしてるのならブチ殺す。あぁ、邪魔をしているって自覚はあるからハンデとして俺は手甲だけでやってやるよ」
役目を終えた刀を鞘に戻し、二本ともストレージに戻す。そして代わりに炎の様な紅い文様の刻まれた黒い手甲を出して装備し、拳と拳をぶつかり合わせて心地良い金属音を響かせる。
「ーーー待てよウェーブ、俺も混ぜてくれ」
緊張感が高まり、一触即発だった空間に新たな乱入者が現れる。回廊の緩く湾曲している壁面で30メートル以上の〝
黒いレザーパンツに黒いロングコート、短い黒髪に黒い鞘とどこまでも黒一色に揃えられたスプリガンのプレイヤー……キリトだった。
「おせぇよゴッキー」
「誰がゴッキーだ。お前たちが早いんだよ……こっちはエギルからギルドが動いたって教えてもらって直ぐに来たっていうのに」
「それくらい予想しておけよ。俺らはアスナたちが最初にボスに挑んだ時からここに居たぞ」
軽口を叩き合っているがキリトの増援は正直に言ってありがたい。キリトはALOでも指折りの実力者、例え数の暴力による一方的な戦いに慣れていないとしても戦える事には間違いない。
「1人か?」
「クラインも連れて来てたんだけど……この人数じゃ焼け石に水っぽいな」
「姿が見えないぞあの非モテ野武士ぃ……安心しろ、本音を言うと使いたくなかったんだけど一応最終兵器は連れて来てるから」
「……待て、ウェーブが使いたくない最終兵器とか嫌な予感しかしないんだけど」
「いいや、呼ぶねッ!!」
現在集まっているのは100人近くだが、これからもっと集まってくる可能性がある。その事を考えるのなら余裕ぶって出し惜しみするよりも始めから使っておいた方がいい。
「ーーーおいでませ、血に飢えた妖精さんッ!!」
俺がそう叫ぶのと同時にレイド部隊の頭上から
そしてその影がレイド部隊の中に入りーーー爆音と共に水柱ならぬ
「えーーー」
「なーーー」
隣にいるキリト、そして前にいるサラマンダーのプレイヤーも突然の爆音に間抜けな声を出す。攻撃をしたとは分かっているのだろうが、それが魔法でもソードスキルでもない
「「ーーーハッハッハッハァッ!!」」
そんなキリトとサラマンダーのプレイヤーなど知らぬ存知ぬと言いたげに、下手人……ノームの男性プレイヤーとプーカの女性プレイヤーは楽しげに笑いながら何が起きたのか理解できていないレイド部隊を相手に純粋なプレイヤースキルだけで襲い掛かっていた。
「はっじめましてロートスですッ!!」
「おはこんにちばんわ!!クロードだッ!!」
「「名乗りは済ませたからさっさと死ねッ!!」」
ノームの男性プレイヤーのクロードとプーカの女性プレイヤーのロートスがそれぞれ手にしている槍と刀を唖然としているプレイヤーの急所に叩き込んでクリティカルをまるで息でもするかの様に自然に発生させている。ALOは一体いつから無双ゲーに変わってしまったのか。
「……ねぇウェーブ、クロードって人は分からないけど、もしかしてロートスって」
「うん、シノンが想像している通りの人物で間違いないぞ」
「蓮葉さん……ッ!!」
シノンが思わず顔を覆い隠してしまうのも無理は無い。ロートスと名乗ったプレイヤーの正体は俺の母である漣蓮葉、そしてクロードと名乗ったプレイヤーは俺の爺さんである
レベル制のVRMMOに2人を呼んだとしても始めたばかりなのでいくらリアルで強くてもレベルという絶対的な差で突き放されてお終いだ。だけどALOの様なレベルではなくてプレイヤースキルを重視するVRMMOならば話は変わる。例えゲーム初心者だとしても装備を整えてやればリアルで培った技術を使ってある程度は戦える様になる。
「俺が禁じ手だって言った理由、分かっただろ?」
「嫌という程に思い知らされたわ……」
リアルで強いからALO内でも強いという理不尽。
初心者でありながらベテランプレイヤーを蹂躙出来るバランスブレイカー。
禁じ手中の禁じ手とは、身内を召喚するだけの事。それだけで大体の事は解決してしまう。
「クソッ!!隊列を組直せ!!いくら強くても相手は少人数だ!!
前もって説明していた通りに数で押せ!!増援が来るまで持ち堪えろ!!」
予想外の事態に唖然としていたサラマンダーは直ぐに正気に戻って指示を飛ばす。腹の底から出た声は良く通り、ロートスとクランドと間近で対峙している者は無理だが距離を置いているプレイヤーたちはその指示に従い出した。
「余所見して良いのか?」
部隊の混乱を立て直そうとするのは間違ってはいないが、俺という敵が間近にいるのにそれはいただけない。指示を出すために後ろを見せたサラマンダーの背後に忍び寄り、股間を蹴り上げてから発勁を放ち、足払いをかけて頭を震脚で踏み砕く。
「……エゲツない」
「隙を見せた方が悪い」
敵の前で背中を見せるなんて殺して下さいと言っている様なものだ。〝
シノンとランが事態を飲み込む事に成功して再起動しているのを気配で確認しつつ、どうやってこのレイド部隊を壊滅させようかと思考を巡らせーーー
「ーーー会いたかったぞ、ウェェェェブゥゥゥゥゥッ!!」
「ゲェッ!!ユージーン!!」
斬り掛かってきたのはサラマンダーでもトップクラスのプレイヤーであるユージーン。過去に田植えをした時から目をつけられ、今ではユージーンの方から俺を探して挑んで来るというストーカーじみた事をされる様になってしまった。強い事は強い、だけどしつこいのだ。俺を倒したいのは分かるが、街中でも障壁に御構い無しで襲って来るのは本当にやめて欲しい。
俺がここにいると攻略専門ギルドから聞いて来たのだろうがタイミングが悪過ぎる。しかもユージーン1人ではなく、回復専門なのかメイジを数人だけ連れて来ている。乱戦になるのなら楽が出来て良いのだが、俺の戦い方を知っているユージーンはそれをさせないはずだ。それでいて自分だけ回復出来るようにしている辺り、本当に俺を倒そうとしているのが分かる。
こんな時で無ければ楽しめたと思うのに、本当に残念だ。
「こいつの相手は俺がするから、あとは任せた」
「分かったわ」
「任せて下さい!!」
「俺っているのかな……」
シノンとランの心強い返事を、キリトの意味の無い呟きを聞きながら俺は〝魔剣グラム〟を振りかざしながら迫るユージーンに集中する事にした。
禁じ手中の禁じ手、それはキチ母とキチ爺の同時召喚。ALOはプレイヤースキル重視だからリアルが強かったらALOでも強いという欠点を教えてくれるキチガイ共です。
このままだとレイド部隊が蹂躙される未来しか見えないので修羅波を倒す事に執念を燃やす魔改造ユージーンを投下。しかも時間経過で増援も約束されてる。これでバランスは取れているはずだ!!