修羅の旅路   作:鎌鼬

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〝絶剣〟VS〝閃光〟

 

 

「ーーーま、予想通りと言えば予想通りか」

 

 

アスナと〝絶剣〟のデュエルが開始してすでに十分近く経っている。

 

 

〝絶剣〟の異常な攻撃速度と反応速度に対し、初撃こそ〝絶剣〟の見た目に騙されてか油断している様子だったがその後はSAOで〝閃光〟と呼ばれる程の攻撃速度で対抗まで持ち越した。アスナの攻撃速度に〝絶剣〟は一瞬だけ驚いた様な顔をして、すぐに嬉しそうに笑って反撃を始める。状況だけ見るのなら互角だろう。アスナは〝絶剣〟の反応速度を追い越すためにGGOで見せた時以上の刺突を連発し、〝絶剣〟はそれを防ぎ切れないと判断したからなのか最小限のダメージで済む様に刺突を故意に受けたり流したりしている。

 

 

仕切り直すために2人は弾かれる様に大きく飛び退く。HPは〝絶剣〟が五割程でアスナは四割程。最初の油断していた分だけアスナの方がダメージを受けているが、その差はその気になればひっくり返せる程の差でしか無い。

 

 

アスナと〝絶剣〟のデュエルを見て、野次馬たちは黙っていた。つまらないからでは無く、2人の戦いを見るのに集中しているから。シノンも2人のデュエルを静かに見ていた。2人のデュエルの中で使えそうな物が無いかを探しているのだろう。

 

 

そんなデュエルを見ながら俺はーーー少しだけ()()()()()()()()

 

 

アスナは全力で挑んでいるのだと分かっている。だけど、GGOで俺と戦った時の様な()()()()()()

 

 

あの時は何がなんでも〝死銃〟の行いを止めてやると意気込んでいたからなのか、前に進もうとする意思が強かった。だからALOに居た時以上の実力を発揮してくれた。しかし今のアスナにはそれが無い。持てる力の全てを使おうとしているのは分かるのだが、逆に言えば()()()()()()使()()()()()()()()()

 

 

言葉にしてしまえばそれだけなのだが、それだけでも大きく違ってくるのは実体験から嫌という程によく分かっている。アスナが全力では無くて本気だったとしたらHPは五分五分だったに違いないが、全力だから一割近くも差が開いてしまっている。

 

 

そして〝絶剣〟が動いた。体勢を低くして前のめりになり、脚に込めた力を一気に解放してアスナに迫る。それをアスナは冷静に対処し、その突貫に合わせて刺突を放つ。何度も放たれている刺突だが何度見てもその姿勢は一切ブレていない。それを見るだけでどれだけアスナが刺突の動作を繰り返したのか分かる一級品の動きだった。

 

 

大気を裂き、二つ名と同じ閃光の様な軌跡を残しながらその刺突は〝絶剣〟の胸部に向かっていきーーー貫かれた〝絶剣〟の姿が()()()()()()

 

 

離れていたからその正体を見る事が出来た。〝絶剣〟は全力でアスナに向かって突貫し、異常な反応速度で刺突の初動に反応、全力のスピードから()()()()()()()()()()()()

 

 

それはこれまで〝絶剣〟が見せたことの無いフェイントだった。使う必要が無かったから使っていなかったのか、それともやり方を知らなかったから使っていなかったのかはわからないが〝絶剣〟の動きから対人戦の経験の少なさが見て取れるので恐らくは後者なのだろう。アスナとの戦いの中でアスナの動きを見て学んだと思われる。

 

 

そして〝絶剣〟はアスナの横に回り、片手剣にソードスキルのエフェクト光を纏わせながら五連撃の刺突がアスナを襲う。咄嗟に身体をよじらせることで内二発は躱したが三発はアスナの胴体に命中ーーーしかもまだソードスキルのエフェクト光は途絶えていない。

 

 

逃げられないと判断したのか、アスナはその場に止まって細剣に〝絶剣〟と同じ様にソードスキルのエフェクト光を纏わせる。

 

 

ぶつかり合うアスナと〝絶剣〟のソードスキル。甲高い金属音を響かせながら大気を震わせ、互いの剣を反らし、互いの身体を穿ちながら五合打ち合った。

 

 

今のがアスナの作り出したOSS〝スターリィ・ティアー〟。光速の五連続の刺突は流石に〝絶剣〟の反応速度を超えたらしい。〝絶剣〟の胸と腹には掠る程度では無いダメージエフェクトがしっかりと残されている。

 

 

だが、アスナが五連撃のOSSを打ち終わって硬直時間(ディレイ)を迎えても〝絶剣〟は止まらなかった。

 

 

初めの五連撃の刺突にアスナのOSSとの打ち合いが五合、そしてこの一撃……合わせて十一連撃。つまり、これが〝絶剣〟が編み出した十一連撃のOSSなのだろう。OSSの最後の一撃が硬直時間(ディレイ)で動けないアスナの胸に叩き込まれるーーーその直前で他ならぬ〝絶剣〟の手によって停止させられ、その余波が閃光と衝撃音となって観戦していたプレイヤーを襲う。

 

 

「……善戦はしたけど予想通りって感じだな」

 

 

〝絶剣〟のHPは一割程しか残されていないがアスナのHPは数ドットしか残されていない。最後の一撃が止められた意図は分からないがあれが決まっていればアスナのHPは全損していた、つまりこのデュエルの勝者は〝絶剣〟ということになる。

 

 

全力のアスナでこれならば、本気のアスナなら〝絶剣〟を倒せていたに違いない。だが、アスナは全力で挑んでしまった。その結果がこれだ。そのことでアスナを責めるつもりはない。それとは別に素直に〝絶剣〟の実力に感心した。

 

 

〝絶剣〟の武器と言えば異常な攻撃速度と反応速度、そして十一連撃のOSSだけ。その三つだけで全力のアスナを倒したのだ。今の状態でそれならば、成長した時にはどれだけ強くなるのか気になってしょうがない。

 

 

「ウェーブ、なんか凄い顔してるわよ」

 

「なんかこう、良からぬことを企んでる顔ですね」

 

「どっから湧いてきやがったこのキチガイ」

 

 

成長し切った〝絶剣〟の強さに想いを馳せていると後ろからフードを深く被って顔を隠しているランがやって来た。然りげ無く俺に密着して来てそれにより出てくるハラスメントコードの画面をチョップで叩き割っている。シノンがランを引き剥がしてくれたから良かったが、気が付いたら腰に吊るしていた刀の鞘に手をかけていた。どうやら無意識の内に斬ろうとしていたらしい。

 

 

「なんで顔隠してるんだ?」

 

「〝絶剣〟に見つからない様にする為です。彼女の事ですから、私を見つけたら連れ戻そうとするのは目に見えてますから」

 

「ランの事をバラして〝絶剣〟に引き渡すのもありね」

 

「止めて……止めてください……!!それだけは止めてください……!!なんでも、なんでもしますから……!!」

 

「ん、今なんでもって言ったな?」

 

「言質は取ったわ。精々こき使ってやりましょう」

 

 

ランの扱いが酷いような気がするがそんなことは無い。昨日シノンと話し合った結果、そうすると決めているから。昨日の別れ際のランのキスによりシノンは酷くご立腹だった。その怒りは始めは俺に向かっていたのだが、ALOでリアルじゃ口に出来ない程にシノンの事を猫可愛がった事でその怒りを原因であるランに向けることに成功した。

 

 

頬を膨らませながら怒っていますとアピールするシノンの怒りを鎮めるためにランには犠牲になってもらった。その事に後悔なんて微塵も感じていない。

 

 

「っと、〝絶剣〟がアスナ連れて動いたな」

 

「多分、あの子の眼鏡に叶ったのでしょう。あの子、一度決めたら割と考え無しで行動する事がありますから」

 

「進路は上に向かってる……多分、〝新生アインクラッド〟ね」

 

 

〝絶剣〟が十一連撃という破格のOSSを賞品に出してまでデュエルをしていたのは最前線のフロアボスと戦うプレイヤーを探し出すため。アスナを連れて〝新生アインクラッド〟に向かったということは〝絶剣〟はアスナの事を認めたのだろう。

 

 

ということは……これから〝絶剣〟がするのは仲間とアスナとの顔合わせ、場所は最前線だろう。流石に顔合わせをしてすぐに挑むとは考え難いが一応備えはしておいた方が良いか。

 

 

「シノン、ちょっとラン連れて〝絶剣〟たちの跡を着けといて。俺は助っ人呼ぶ為に一度ログアウトするから」

 

「助っ人なんているの?正直ウェーブ1人で大丈夫だと思うけど」

 

「万が一に備えてな。ランが心配していた通りなら、〝絶剣〟たちの事を大手のギルドが邪魔をするはずだ。場合によっては100人近くとやり合うことになるかもしれない」

 

 

レイドパーティーとしてボスに挑めるのは最大49人までだが、レイドパーティーの消耗を防ぐ為に護衛役のプレイヤーを用意しておくなんてこともあり得ない話では無い。もしそうなれば最悪、100人近くの攻略組と戦う事になるかもしれないのだ。

 

 

だから、これは万が一に備えての保険だ。

 

 

「そう、これは保険だから。禁じ手中の禁じ手だけど保険だから許される……!!」

 

「……絶対に良からぬ事を考えてるでしょ」

 

「すっごく良い笑顔ですよウェーブさん!!」

 

 

自分が今酷い顔をしているのは分かっているが、それでもそうせずにはいられない。元に戻す努力を放棄し、その顔のままウィンドウを操作してALOからログアウトした。

 

 

 






アスナVSユウキチャン、原作よりも善戦したけど結果は同じでユウキチャンの勝利。

全力は持てる力の全てを使う、本気は持てる力以上の力を使うって感じで作者は考えてる。要するに全力と本気は別物だって言いたい。

修羅波の言う禁じ手とは一体何なんだ……

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