「マジか……逃げれる?」
『滅茶苦茶に撃って来てるしAGI特化だから逃げようと思えば何とか!!』
「だったらここまで逃げとけ。まずは合流する事が重要だ」
『了解ィ!!』
叫ぶように返事をくれ、シュピーゲルからの連絡は途絶えた。リアルではモヤシなシュピーゲルだがGGO経験者だし、AGI極振り型のビルドならば全力で逃げに徹すればここまで来る事が出来るだろう。
「あの……PKって何?」
「プレイヤーキルの頭文字。その通りにプレイヤーを殺す事だな。ALOだとデスペナしか発生しなかったけどGGOだと持ってるアイテムをランダムで落とすデスペナがあるからそれを期待してか、俺があのゲームをクリアするのを見て狙って来たかだな」
どちらかといえば後者の確率が高いと考えている。あのガンマンのゲームをクリアした時の野次馬が俺の装備を見てGGO初心者だと思いクレジットか購入した装備を狙って来たのだろう。
シノンはPKが何を意味するのかを理解して目に見えて動揺しているが俺は動じずに新しいタバコを咥えるだけだ。GGOでは初めてだがALOじゃ良くPKをしたりされたりしていたからもう慣れているのだ。
あれは楽しかったな、俺1人対全種族とかいう端的に言って絶体絶命な状況だった。真っ先にヒーラーブチ殺して回復手段を奪ってから魔法部隊の中に飛び込んで惨殺してその他を殺し回った。
だけど終盤になってからバーサクヒーラーとブラッキーの最終戦力の逐次投入とかやめて欲しい。戦術的に愚かだと言われているが有効な局面で使えば有効なのだ。流石に限界を迎えて何とか相討ちに持っていくのが精々だった。
「取り敢えず隠れるぞ」
「わ、分かったわ」
惚けているシノンに声をかけて正気に戻し、手を引いて一番近くの廃墟へ飛び込む。本当なら廃車の影の方が近かったのだが一方だけしか壁にならない廃車では不十分だと考えて廃墟を選んだ。
「オッホォォォォォォォォーーーッ!!!」
制圧射撃のように面で撃たれる機関銃の弾丸を極振りした敏捷で無理矢理逃げながらシュピーゲルが俺とシノンが隠れていた廃墟に飛び込んでくる。ダメージを受けた様子は見られないが全力で走って来たのか疲弊しているように見えた。
「お帰り。数と武器は分かるか?」
「オフッ!!ウェッ……か、数は5、武器は機関銃とアサルトライフル……」
「ご苦労、水をくれてやろう」
外を警戒しながらストレージから水を取り出し、蓋を開けて死にかけているシュピーゲルの上で逆さまにする。重力に従って中身がすべて顔に向かって落ちて、シュピーゲルが息を吹き返す。
「し、死ぬかと思った……」
「シュピーゲル、5人で全部だと思うか?」
「あ〜……多分他にもいると思うよ」
「どういう事なの?」
「良くある手だよ。正面で騒いでる奴らは囮で、本命は後ろから気配を隠してズドンってね」
問題はその二つが繋がってるかどうかだがな。繋がっているのなら本命を撃退すれば囮は引くか逆上して攻めてくるかの二択、繋がってないのならあいつらはただ銃を撃ってるだけの馬鹿になる。
「そいじゃあ俺は来るであろう本命を片付けるからシュピーゲルは囮をやってくれ。そいでシノンだけど」
「……なによ」
「これはゲームだ、そう頭では理解しているかもしれないけど心はそう簡単に納得してくれないかもしれない。撃てるのなら撃て、撃てないのなら俺が来るまで生き残れ、そうしたら俺が助けるから」
この世界をゲームだとシノンは理解しているかもしれないがVRMMOである以上、ある意味リアルよりも現実的な世界である。銃に対してトラウマを持つシノンが銃を持って撃つことが出来ただけでも大金星と言っていいのに、トラウマの原因であろう人を撃つ行為が出来るかどうかが心配なのだ。追い詰められて撃ってトラウマがフラッシュバックして精神崩壊されたら……どう償って良いのか分からない。
「最悪適当に撃ってるだけでも良いからさ」
「ねぇねぇ、僕は僕は?」
「あぁ?お前は適当に生き残れ。いいや死んでもシノンを生かせ」
「シノンと対応が違い過ぎない?」
「ヒョロヒョロのモヤシとクールな美少女、お前だったらどっちを選ぶよ?」
「あぁ、それは仕方ないね」
このやり取りで顔を赤くしてくれれば儲け物だったがシノンは葛藤しているようで聞いていないらしい。少し残念に思いながらナイフと〝デザートイーグル〟を引き抜き、シュピーゲルはストレージから〝レミントンR5RGP〟を取り出していた。
「前は任せたぞ、シュピーゲル」
「後ろは任せたよ、ウェーブ」
兎も角、GGOに来てから初めてのPVPだ。適当に遊ぶだけの奴か、ガチ勢なのか知らないが楽しませて欲しい。
囮と思われるプレイヤーたちが騒ぎ回っている正面の反対側、廃墟の後ろから4人のプレイヤーが侵入して来る。目出し帽に暗視ゴーグルを装着して揃いの衣装で固めた彼らの先頭のプレイヤーが鏡を使って中を確認し、誰もいないことを確認してから1人目が侵入。左右を警戒し、残りのプレイヤーたちに入るようにハンドサインで指示を出す。
その動きだけで彼らが其れ相応の訓練を積んでいる人間だと分かる。ガチ勢ならば経験からそういう動きを取るべきだと学んでいるかもしれないが、彼らの動き方は余りにも自然だった。恐らくはリアルでそういう訓練を受けている職種なのだろう。つまり、自衛隊か特殊部隊……
そんな人間がGGOをしている事に軽く驚愕したが、考えてみれば当たり前なのかもしれない。彼らは厳しい訓練を積んで其れ相応の技術を習得した。ならば、自分がどれだけやれるのか試したくなるものだ。銃社会で銃による犯罪が起こっている国ならば習得した技術を使う機会も出て来るだろうが日本ではそんな技術を使う機会など滅多にないのだから。
気持ちは分からないでもない。納めた以上、使ってみたいとは俺もガキの頃には良く考えていたから。
最後尾のプレイヤーが通り過ぎた瞬間に張り付いていた天井から離れて音もなく着地し、無防備な延髄へ右手で逆手に持ったナイフを突き立てる。GGOでは人間の急所が再現されており、リアルでも即死するような攻撃はGGO内でも即死扱いにされるとWikiにはあった。それはつまり、リアルで人を殺すように攻撃すれば、GGOでも殺せるという事。
延髄を削り、頸動脈を断ち切られたことでプレイヤーはHPゲージを無くしてポリゴンになって砕け散った。しかしその時のライトエフェクトで先行していた3人にバレる事になる。
1-2-1のフォーメーションを取っていたので左右に2人、後方に1人という配置。右手に持つナイフを投げて右側のプレイヤーを牽制、左手に持った〝デザートイーグル〟を撃ち左側のプレイヤーの頭を吹き飛ばす。
投げたナイフは躱され、その間に後方にいたプレイヤーが銃を向けて来るがもう詰みだ。躱したことで態勢を崩したプレイヤーの胸元を掴んで盾にして前進し、味方ごと俺を撃つかどうか悩んだ後方のプレイヤーにぶつかり倒す。
その上に乗り頭に〝デザートイーグル〟を突き付けて引き金を引く。拳銃にしては規格外の反動を片手で完全に殺し、ポリゴンになって砕け散ったプレイヤーの下で倒れていたプレイヤーに銃口を押し当てる。
「外にいるのはお仲間か?」
「……何のことだ」
「あぁ、もういいわ」
何を言っているのか分からないという返答だったが知りたいことは知れたので引き金を引いてポリゴンに変える。
どうやらこいつらと前の連中は無関係だった様だ。恐らくこいつらはこの騒ぎを聞いて漁夫の利を狙ってやって来たのだろう。そうでないと外の連中も自衛隊か特殊部隊という事になってしまう。あんなバカスカ撃つ連中が彼らの同類だと信じたくない。
「っとなると、外の連中は止まらないよな」
彼らと外の連中が繋がっているのならこれで止まる可能性があったのだが、繋がっていないとなれば関係ないのだから止まらないだろう。リアルがどうであれシュピーゲルは俺よりも長くGGOをプレイしているので実力に関しては疑っていない。問題なのはシノンの方だ。
「放っておいてどうするのかを見るのもありだけど……ダメだよなぁ人として」
無理矢理戦わせる事で精神を鍛えることも出来るのだがそれを彼女にさせるのは酷というものだろう。
なにせ彼女は普通の女の子だから、歯を食いしばってトラウマに立ち向かおうしている素敵な少女なのだから。自分から選んだ事ならば兎も角、追い詰めて選ばせてもロクな事にはなりはしないと俺は経験で知っている。
〝デザートイーグル〟の弾を補給し、ランダムドロップで落ちたガッツリとカスタムされた〝ベレッタAR70/90〟を拾って2人の元に向かう事にした。
チョロリと修羅波のALO時代の話を出したり。ブラッキーとバーサークヒーラーと戦って相討ちに持ち込んだらしい。一体誰なんだ……
どれだけプレイヤースキルを持っていても自衛隊だろうが特殊部隊だろうがアンブッシュで死ぬのならクソ雑魚。卑怯?殺される方が悪いのだよ。