修羅の旅路   作:鎌鼬

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マザーズロザリオ編のアンケート実施中(2017/08/03現在)


真相

 

 

仮想現実からリアルへと意識が帰って来る。BoBは私と漣君を含めた4人の優勝という前代未聞の結果に終わったが、今はそんな事を気にしている余裕は無い。まだ私の部屋の中に〝死銃〟の仲間がいるかもしれないから。

 

 

キリトの話では公務員であるという依頼人を使って私たちの借りてるアパートまで来るらしいがそれでも10分以上はかかるとの事だ。それまでは自分で安全を確保しなくてはいけない。幸い、リアルでも強い漣君がいるのですぐに部屋を飛び出して彼の部屋まで行けば安全は確保出来るだろう。彼の部屋にも〝死銃〟の仲間がいるかもしれないが、彼が殺されるイメージは全く思い浮かばない。ステルベン並みの相手なら分からないが……あれはゲーム内だから許される強さだ。リアルであんな強さの持ち主が漣君以外にいるとは到底思えない。

 

 

アミュスフィアを外してベットから降りようとしてーーー身体が動かないことに気が付いた。全く動かないというわけではないのだが、全身が麻痺でも貰った時のように動かない。

 

 

「何よこれ……」

 

 

そして隣の部屋ーーー漣君の部屋から銃声が聞こえてきた。更に間を空けてもう一発聞こえる。

 

 

「漣君……ッ!?」

 

「ーーーおはようございます、朝田さん」

 

 

アミュスフィアを外されて視界に入ってきたのは……金本さんだった。どうしてここにいるのかと、何をしたのかと聞こうとしたが言葉に出来なかった。

 

 

恍惚とした表情を見せられ、酷く濁った目を見てしまったから。

 

 

「金本さん……」

 

「あはっ……怯えてる朝田さんの顔、可愛いなぁ」

 

 

動かない私の顔を金本さんがうっとりとしながら撫でられる。その接触に嫌悪感以外の何も感じない。今すぐにでも振り払って逃げ出したいのに身体は動かないままだった。

 

 

「ステルベンも使えませんよね。シノンを撃てば良いのに何度も失敗して、あれでSAO生還者(サバイバー)って言うんだから笑えますよね?」

 

「ッ!?どこまで知ってるの!?」

 

「全部ですよ。ぜ、ん、ぶ……〝死銃〟の計画は私が建てたんですから」

 

 

そこで一旦彼女は私から離れ、自慢するように胸を張った。

 

 

「元々朝田さんに近づくあのゴミどもを殺そうと計画してたんですけどホラ、殺しちゃったら捕まっちゃうじゃないですか?それだと朝田さんと一緒に過ごせる時間が無くなってしまうからどうにか出来ないかなぁって考えて、偶々GGOで〝メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)〟付きの装備ゲットした時には思い付いたんですよ。ゲーム内で殺されたら現実でも死ぬ……そういうオカルト的な感じにすれば大丈夫だって思ったんですよね。その為にはまずはそういう噂を流行らさなきゃいけない。だからSAO生還者(サバイバー)の兄に頼んで有名どころだったゼクシードと薄塩たらこを殺してもらう事にしたんです。ちょっと予想外な事に兄のSAOでの知り合いだって奴がどんどん増えて……まぁ手は幾らあっても足りないから丁度良かったんですけどね。住所の問題もBoBのエントリーのパネル覗き込んだら良かったですし。あ、〝死銃〟が〝黒星(ヘイシン)〟を使っているのは私のチョイスですよ、気に入って貰えました?」

 

「ーーー」

 

 

楽しそうに胸を張って濁った目のまま笑う金本さんを見て言葉を失ってしまった。

 

 

言っていることが本当なのだとしたら……彼女は、漣君と新川君を殺す為だけに2人も殺している。

 

 

私が苦悩し続けたあの銃を使って、2人も殺して。

 

 

それなのに、なんて事もないように笑っている。

 

 

「なんで笑っていられるのよ……人を殺してるのに……」

 

「私が直接殺したわけじゃないですよ?私は大雑把な計画を立てただけで直接手を下していないですから。そ、れ、に……()()()()()()()()()()

 

「……え?」

 

「五年前、勇敢に強盗から銃を奪って殺した朝田さんと同じになれた……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

……あぁ、彼女はダメだと思った。何が彼女をそこまで狂わせたのか分からないけど、彼女は間違いなく壊れている。漣君のように自分の異常性を理解していて現代社会に溶け込む為に本性を擬態しているわけじゃない。自分が社会から弾かれる存在だと気付かず……いや、気付こうとしない。

 

 

ただの狂人だった。

 

 

 

「予定じゃあBoB内でステルベンかB・Jが朝田さんかキチガイを〝黒星(ヘイシン)〟で撃ったら殺すはずだったけど……予定を変更して、キチガイと朝田さんがリアルに帰ってきたら殺す事にしました」

 

「どうして……」

 

「だってーーー()()()()()()()()()

 

 

そこで初めて彼女は笑顔を崩し、今まで見たことの無い無表情になった。急激な変化を見せつけられて全身に寒気が走る。

 

 

「私が好きだったのは強い朝田さんでした。超然としていて、何事にも動じなくて、まるで1つの機械のような冷静さを持った……シノンのような、私の理想の朝田さん。だけどあのキチガイのせいで、朝田さんはどんどん弱くなっている。私の好きな朝田さんがどんどん穢されて壊されていく……それに私は耐えられなかった」

 

 

それを聞いて、彼女の考えが分かってしまった。彼女が好いていた私は学校での表面上の私……そしてGGOで〝氷の狙撃手〟と呼ばれているシノン()。彼女は私の事なんて見ていなかった。自分の理想という色眼鏡越しで、私を見ていただけだった。

 

 

「だから、思ったんです。このまま私の理想の朝田さんがいなくなってしまうのなら、その前に殺してずっと理想の朝田さんにしてしまえば良いんだって。あぁ、安心してください。麻酔使ってるから痛覚はありませんし、注射器だって無針高圧注射器で身体に傷は残りません。それにサクシニルコリン?で眠るように死ねるって話ですから」

 

 

無表情からあの笑顔に戻った彼女の顔を見ても寒気は治らない。それどころかその手に持つ円筒の注射器らしい物を……〝死銃〟の本当の凶器を見せつけて私を安心させようとしている。そんな物を見せられても安心なんて出来るはずが無いのに。

 

 

身体は麻酔が切れつつあるのか帰った時よりも動くようになっているが本調子とは言えない。なけなしの力を振り絞って抗ったとしてもそれでおしまいだ。

 

 

私は彼女に殺される……そう考えた時に、不思議と思い浮かんだのは死ぬ事への恐怖では無くて後悔だった。

 

 

頼りになると、支えてくれると言ってステルベンに立ち向かってくれた……いつの間にか好きになっていた彼への後悔。

 

 

死ぬ事に謝りながら、こんな事ならば早く想いを伝えておけばよかったと思いながら頭の中では生きる方法を考え続ける。心と思考が矛盾しているが、それも彼はきっと私らしいと言って笑ってくれるに違いない。

 

 

私の首筋に注射器が添えられるーーーその直前。

 

 

キンコーンとこの場に似つかわしく無い古めかしい音が、チャイムの音が聞こえてきた。

 

 

その音に私も、彼女も注意を引かれる。

 

 

そして注意を引かれ、玄関を視線を向けた瞬間に反対方向から何かが砕ける音が聞こえてきた。

 

 

「ーーーよぉ、クレイジーサイコレズ。ついに本性表したな?」

 

 

そこには粉々に砕けたガラスを裸足で踏みながら、頭とお腹から血を流している漣君の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーいっつぅ……リアルデバフ食らってるとはいえこのザマかよ……気ぃ抜きすぎたな」

 

 

眉間に突き付けられていた銃の銃身を殴る事で弾丸を擦りながら回避し、マウントポジションを返して下手人の顔面を殴ったところで身体の動きが鈍い事に気が付いた。いつも動かせているように動かせないことから一服盛られたかと油断していたのが悪かったのだろう。まだ意識を残していた下手人に腹を撃たれてしまった。

 

 

もう一度下手人を殴って今度こそ気絶させ、手足を砕いておいたからもう反撃される事はないし、逃げ出すことも出来ない。いつもならここで傷の状態をチェックするのだがそんなことをしている余裕は無い。俺の部屋に下手人がいるということは朝田の方にもいると思って間違いない。

 

 

本音を言えばすぐにでも向かいたいのだが玄関は施錠されているだろうから論外、残るのはベランダの窓からの侵入だが普通に行っても俺が下手人を制圧するよりも先に朝田が殺されるだろう。

 

 

何か無いかと止血もせずに頭を働かせているとスマホに着信が入る。差出人は……恭二からの物だった。生きていた事に安堵しながら内容を見ると生存報告と、今からこちらに向かう旨が書かれていた。

 

 

そこで俺は恭二を使う事にした。〝死銃〟の仲間と思わしき男に襲われ、朝田の方にもいると思うから協力してくれと頼む。時間をおかずに二つ返事でオーケーしてくれた。

 

 

恭二にアパートまで着いたら朝田の部屋のチャイムを押すように指示して、恭二が間に合わなかった時の場合に備えて自分の部屋のベランダから朝田の部屋のベランダに移動する。窓の隙間からは何やら話し声が聞こえてきたので耳を澄ませて聞いてみると、金本が〝死銃〟の計画を立てたのは自分だと自慢話をしているところだった。

 

 

お前が犯人かと今すぐにでも飛び出して顔面を粉々に砕きたくなる衝動に駆られるが、それを腹に受けた銃痕に指を入れて痛みで誤魔化す。あの下手人と同じように金本も銃を持っている可能性がある。無策に飛び込んだところで朝田が殺されるだけだと逸る気持ちを必死に抑える。

 

 

そして長々とした話が終わり、金本が朝田の首筋に注射器のような物を押し付けようとしている。このままでは殺されると判断し、飛び込もうとしたその直前ーーー朝田の部屋から古めかしいチャイムの音が聞こえてきた。

 

 

金本の手が止まり、視線が玄関に向けられる。

 

 

注意が逸れたと判断して内心で謝りながら窓ガラスを蹴破って部屋に入る。

 

 

「ーーーよぉ、クレイジーサイコレズ。ついに本性を表したな?」

 

 

間に合った事への安堵と、朝田に自分の理想を押し付けて殺そうとする金本への怒りを抱きながら。

 

 

 






クレイジーサイコレズ本領発揮。


今回の死銃事件は修羅波と新川きゅんを殺すために、自分が捕まらない為にクレイジーサイコレズが起こした物でした。なお、実行犯は別にいた模様。

麻酔でリアルデバフしてるのに普通に活動してる修羅波はおかしい(真顔


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