マザーズロザリオ編についてのアンケートやっているので良かったらどうぞ(2017/08/02現在)
「ーーーあ、起きた?」
目を覚まして視界に移ったのは満天の星空とシノンの顔だった。ステルベンを倒し、気力が尽きて倒れたところまでは覚えているが、この様子からするとそのまま気絶していたらしい。今はシノンの膝を枕に横になっている。
「あ〜……何分だった?」
「ステルベンを倒してから五分ってところかしら……それと、これを見て」
シノンが差し出して来たのはサテライト端末。最後に更新があったのは時計を確認すれば3分前だが、端末に名前が残っているプレイヤーは俺とシノン、そしてキリトとアスナだけでB・Jの名前は残ってなかった。
「2人はちゃんと倒してくれたみたいよ」
「やっぱりか……あの2人なら倒してくれるって信じてたよ」
「ねぇ、彼らって何者なの?話聞いてもSAO
「あっちに戻ったら話すから今は休ませてくれ……てか、こんな事して大丈夫なのか?ライブ中継されてるぞ?」
「今更よ。それに……察しなさいよね、この馬鹿」
光源が星明かりだけでシノンの顔はよく見えない。だけど僅かにそっぽを向けた顔は赤くして拗ねているように見えた。
「そうか……ゴメン。それと膝ありがと」
「どういたしまして」
シノンの膝に頭を預けながら全身を襲う虚脱感の心地良さを味わう。
ステルベンは強かった。俺が本気を出して勝てるかどうかというレベルの強敵だった。ここまで疲弊したのは初めてキリトとアスナのタッグと戦った時以来だ。その時は全力を出した挙句に負けてしまったが、今回は全力を出してその上で限界を超えて、更にシノンの手を借りてようやく勝つことが出来た。敗けを望んでいるが、やはり勝利の味は格別だ。指一本動かす気力さえ残っていないというのに充実感がある。
だけど、それと同時に寂しさもある。ステルベンの動きは完全に覚えた。神速の
もう二度とあの甘美な戦いが出来ないかと思えば寂しいのだが……彼女を守る事が出来たのだ。それで良しとしよう。
「……ん?何か来るわ」
「……バギーのエンジン音だな」
何もせずに、何もする気が起きず、しばらくそのままでいるつもりだったが、遠くの方からバギーのエンジン音が聞こえてきたのでそちらに意識を向ける。と言ってもバギーに乗っているのは誰だか分かりきっている。目だけを音のする方向に向けて近づいて来るバギーを捉える。
バギーにはキリトとアスナが乗っていた。B・Jとの戦いで疲弊したのか覇気は感じられずに疲労困憊のようだ。
バギーが近づいてきてーーータイヤが岩に乗り上げた。
ハンドルを切る事なくそのままバギーは転倒する。
乗っていた2人が地面に投げ出され、転がりながらやって来た。
「ーーー勝ったぞぉ……」
「……」
「なんて締まらない登場の仕方をするんだよ」
「アスナに至っては喋る気力も無いみたいだし……」
ステルベンの同族というだけあって復讐心によるブーストでも付いていたのか、キリトとアスナのALO最強夫婦でも辛勝といった様子だった。サテライトの更新を見てここまで来たようだが俺と同じように気力が尽きたのか顔を上げようともしない。アスナに至っては無反応である。
「そういやぁさぁ、気になったんだけどBoBどうする?俺、正直いって面倒になったんだけど」
「俺ももう戦いたく無いかな……」
「……」
「アスナも同じみたいね」
「動けるのはシノンだけみたいだし……シノン優勝する?」
「そんなおこぼれみたいな優勝なんていらないわよ……あ、そうだ。お土産グレネードって知ってるかしら?」
「オミヤゲグレネード?」
聞いたことはある。確か北米だがどこかのサーバーの第1回BoBで、置き土産のグレネードが原因で優勝者が2人になってしまったことからそう呼ばれるようになったはずだ。
それで、シノンが何がしたいのか理解してしまった。俺のコートから素早くプラズマグレネードを抜き取るとタイマーを10秒にセットして俺たちの真ん中に転がす。キリトはそれに気が付いて苦笑し、アスナは転がるグレネードを無表情に眺めている。
俺はというと、動くつもりも無いのにシノンに両肩を抑えられている。一応周囲を納得させる為に俺と自殺しようとしているというポーズでも取りたいのだろう。
「シノン、1つだけ言いたいことがある」
「何かしら?」
「過去ってのは否定しても、目を逸らしても、抗っても、絶対に無くならない。だってもう変えられない出来事なんだからな。だから……過去を受け入れるってのもありなんじゃないか?」
「……それが、
「あぁ、俺の答えだ。だから、
「覚えておくわ」
10秒が経って強烈な閃光が生まれ、最後にシノンではなくて朝田詩乃としての微笑を見ながら俺はプラズマに飲み込まれた。
リザルト画面に輝く俺とシノン、そしてキリトとアスナの名前を見ながらログアウトする。初めてのBoB大会で優勝したのは偉業といえば偉業なのだが色々なことがあり過ぎて疲れてしまった。明日にでもまたALOにコンバートし直してゆっくりするのもありかもしれない。幸いな事に俺が使っている装備はレアではあるものの未練は無いのでピトフーイ辺りに売りつけてしまえば良いだろう。ガンマニアのあいつの事だから片方だけになったとはいえ〝オルトロス〟を言い値で買い取ってくれるに違いない。
ログアウトのカウントダウンが10秒を切ったところで緩んでいた気を引き締める。ステルベンを倒した事で〝死銃〟の犯行は防ぐことは出来たのだが、周囲にはまだ共犯者がいる可能性があるのだ。それにステルベンに倒された恭二の事も心配だ。俺たちが予想している手段ならば、常時家に誰かがいる恭二は殺される可能性は極めて低い……低いだけで、殺されている可能性はあるのだ。
リアルに戻ったらまずは恭二の生存確認。生きていたら……今回は俺が負けだと認めてやろう。恭二がステルベンと戦ったからあの厄介極まりない迷彩能力を奪う事が出来たのだ。〝死銃〟戦における最大のMVPはあいつだと言っても過言では無い。そして朝田の元に向かい、キリトが来るまで側にいてやる。そのあとはきっと事情聴取とかされるだろう。テレビでやっているようにカツ丼でも請求してやるか。
そしてーーー全てが終わって、気持ちの整理が終わったら朝田に告白するか。
恭二と交わした約束でもあるし、許せなかった自分を許す事が出来た。断られたらこのことを笑い話にして恭二と馬鹿みたいに笑おう。成功したらこれをネタにして恭二のことを煽って馬鹿みたいに笑おう。
そんな未来を、彼女の隣に立っている自分の姿を楽しみにしながら仮想現実からリアルへと帰還しーーー
「よぉ、漣不知火君ーーー死ねや」
ーーー視界に入ってきたのは眉間に押し当てられている黒光りする拳銃。名前も知らない男に馬乗りにされながら一方的な宣告と共に拳銃の引き金が引かれた。
ステルベンとB・Jとの死闘により3人もとボロボロ、シノのんは戦うつもりが無い。故に原作通りにお土産グレネードというダイナミック道連れ自殺。
帰ってやる事を全部終わったら告白しようと死亡フラグを立て、リアルに帰った瞬間に死亡フラグを回収する芸人の鑑。