前話にてウェーブが〝オルトロス〟を渡した際にシノンがマフラーを手渡す描写を追加しました。よかったら確認ください。
振るわれるナイフの一閃が虚空を斬り裂き、放たれる銃剣の刺突が残像を穿つ。俺とステルベンは互いに必殺の間合いを取りながら防御では無く回避を選んで殺し合いを続けていた。
ステルベンの持つ銃剣の刀身は西洋剣や日本刀の様な幅のあるものでは無くて針に、
しかし、ステルベンの動きは見事と言うしかない。腕を引いて放つ動作が極限まで洗練されていて、淀みなく最速の連突を放ってくる。キリトたちの話によれば、ステルベンはSAOでキリトたちに敗れて捕らわれたはすだ。恐らくそこで延々と剣を振るっていたのだろう。自分を捕まえたキリトたちへの憎しみを糧に、いつかその胸に自分が振るう
全体的な戦闘の練度であれば物心ついた時から爺さんと母さんに鍛えられていた俺の方が上だ。しかしステルベンは
システムアシストに頼ることの無い、ステータスとプレイヤースキルのみで行われる戦い。GGOにコンバートしてからは体験することの無かった超近距離戦に心を躍らせながら殺意と怒りを鋭敏化させーーーそれでいて、頭は反比例するようにどんどん冷えていく。
望んでいた全力を出せる戦いを前にして気分は際限無しに高ぶり、シュピーゲルを殺した下手人であるステルベンへの殺意と怒りはとめどない。されども教育され、遺伝子レベルに刻み込まれた漣の反応が振り切れる事を許さない。結果として頭を気分とは正反対と言えるほどに冷やしてしまっているのだが、こちらの方が都合が良かった。振り切れた状態で挑んでいたら恐らくは数手で追い詰められる事になっていただろうから。
「ーーーお前は、何だ」
「何故だ、何故、俺の、邪魔を、する」
「ーーー気付かないのか」
変声機で変えられながらもそこから滲み出る殺意と怒りを感じられる。ステルベンの心中にあるのは俺への苛立ちだろう。ステルベンが〝死銃〟となった理由がキリトたちをこの世界に誘き寄せる為なのか、それ以外の理由があるのかは分からない。だけど〝死銃〟ではないステルベンの標的は間違いなくキリトたちだ。〝死銃〟として俺たちを殺そうとしてやって来たは良いが死なない。その苛立ちを俺にぶつけている。
「俺たちの目的が何なのかは分からないさ。だけど法治国家である日本で殺人という手段に踏み切ったのは素直に凄いと思うぜ?その思いきりの良さは普通に感心する。そこまでしてでもやりたかったのかってな」
確かに〝死銃〟としてステルベンたちがやったことは法治国家では悪行として非難される様な事だ。だが、彼らはそれに踏み切った。そこまでしてキリトたちに復讐したかったのか、それともSAOでの殺しの快楽が忘れられずにやっていたのかは分からないし、知りたいとも思わない。だけど復讐であれ愉悦であれ、それに踏み切ったその行動力は感心するし、凄いと称賛もしよう。
「ーーー
「嫌なんだよ。俺から首を突っ込んだんなら死んでもある程度は納得して死んでやるさ。何で他人の計画に巻き込まれて死ななきゃいけない?死ぬのが怖いと抗って何が悪い?」
故に、お前たちの計画を破綻させたのは他ならぬお前たち自身だと優しく享受してやる。
「ーーーお前たちは、
ナイフを握る手に力が入る。
「ーーーお前は、
支えとなっている脚に力を込め、
「そしてーーーお前は、
もしも〝死銃〟が、
もしも〝死銃〟が、
もしも〝死銃〟が、
それが全ての敗因。〝死銃〟の計画が打ち砕かれる理由。その3つさえなければ〝死銃〟の計画は成就していただろう。キリトとアスナがGGOにやって来ていたとしても、恐らくステルベンならば一対一に持ち込めれば勝機のある程の強さを持っている。
ーーー俺という、不純物が存在していなければ。
「さぁ、もう眠れよ
「漣、不知火ぃ……ッ!!」
〝死銃〟の手口はすでに看破しているが故に、今更俺の本名を口に出されたところで驚きはしない。一際大きい音を立てながら鍔迫り合っていた状態から弾かれーーー
放たれる神速の連突。
それを先読みしながら迎撃する銀閃。
空の手で行われるノーガードの殴り合い。
フェイントを一切入れずにどれもが一撃必殺の連続。
必殺にならぬものなど回避するもの惜しいと互いの身体にダメージエフェクトが刻み込まれる。
手を止めた方が、動きを鈍らせた方が、相手よりも遅くなったが負けると互いに本能で理解しているから回転率を限界を超えてでも上げ続ける。
「ーーーッ!!」
一瞬、コンマ以下のタイミングで出来たステルベンの隙。それを俺の観察眼は好機と受け取り、反射的に懐へと潜り込んですれ違いざまに左腕を斬り落とした。
「ーーー
そして行動を終えてから己の失策に気づいた。あの隙はステルベンが捨て身の覚悟で作り出した誘いなのだと。
左腕を斬り飛ばして振り切った手首を
これで互いに片腕を無くした訳だがイーブンでは無い。俺はナイフを持っていた手を無くした事で無手の状態、対するステルベンはまだ
残された手で新たなナイフを取り出す?否、それよりもステルベンの刺突の方が速い。
後退して体勢を立て直す?否、それよりもステルベンの刺突の方が速い。
この瞬間に勝敗は決した。ステルベンのフルフェイスのゴーグルの真紅のレンズが俺を捉える。限界まで引き絞られた身体から、神速の刺突が繰り出される。武器を失い、取り出す間もない俺に残された手段は無い。
敗北は確定された。
「ーーーウェーブッ!!」
「あぁーーー
俺の名と、銃声と、俺の叫びが同時に聞こえた。
「ーーーぐ、ぉぉ……」
「ーーー言っただろ?〝
そして勝敗は覆された。敗北が確定された?何を馬鹿な……
ステルベンの手から
咄嗟の判断で行われた捨て身の一撃だったが、俺1人だったらこの勝利を味わうことは出来なかっただろう。シノンが放った〝オルトロス〟の弾丸が、ステルベンの刺突に命中した。その結果、眉間を貫く筈だった刺突はズレて頬を掠った。
彼女がいなければこの場の勝敗は逆転していた。ありがとうと感謝を込めながら、ステルベンの喉へと更に
「ーーーまだ、だ……まだ、終わら、ない……棺桶は、まだ、笑っている……あの人が、いる限り……棺桶は、笑い、続ける……」
「ーーーそれがどうした」
ペインアブソーバーによって発生した痛みに呻きながらステルベンの遺した言葉を一蹴して脛骨を噛み砕く。即死級のダメージに駄目押しのとどめを喰らい、ステルベンのHPは全損。〝DEAD〟という死亡を証明するタグを発生させて
「笑うんだったらぶん殴ってでも止めさせてやるよ……何回でも、何度でもな……」
例えHPを全損させても通常とは違い、まだアバターにはプレイヤー意識は残されたままだ。それを知りながら宣言する。
それが聞こえていたのか定かでは無い。しかしもう動かないはずのステルベンのアバターから、少しだけ殺意と怒りが緩んだ気がした。
HPを見れば、イエローを超えて残っているのは僅かに数ドットだけ。あと少し何かの後押しで無くなってしまいそうなほどしか残されていない。
だけど、勝った。シノンを守り、勝利することが出来た。
その結果を噛み締めながら俺はその場に倒れ伏した。
死銃戦終了!!あとはリアルでのあれやこれややってGGOは終わりだな!!あれやこれやが長くなりそうな予感がしてならんのだけど……
ところでマザーズロザリオには突入した方が良いのかな?アンケート作っておくのでよろしくお願いします。