〝廃墟都市〟を抜け、ステルベンの反応が最後に見つかった〝田園〟エリアに接近する。〝死銃〟の手口としては〝メタマテリアル
「心の準備は?」
「とっくに出来るわ」
「なら良しーーー行くか」
シノンからの返事に戸惑いがない事を確信し、ロボットホースの手綱を振るって全力で走らせる。ステルベンの方もキリトの反応がサテライトに表示された事でこちらが動くと察しはついているだろう。なので〝L115A3〟に狙われている前提で動く。不規則にジグザグと動きながら、それでいて時折意味のない横っ飛びをさせながら少しずつ前進する。ライブ中継でこの光景を見ていると間抜けに見えるかもしれないが必要な事だと割り切ろう。でないと精神が持たない。
いつもならば狙われている気配というのが分かるのだが今回に限ってはその気配を察知することが出来なかった。ステルベンが気配が隠すのが上手い?いや、今の俺はハンゾウの隠密だろうが完全に看破できる程に研ぎ澄まされている。ステルベンを知覚できない理由はその察知の鋭敏化と、
ここの辺り修正しておかないと爺さん相手に苦労しそうだなぁと考えてーーー全身に悪寒を感じた。
ロボットホースからシノンを抱えて飛び降りる。
それと同時にロボットホースが後ろ足で立ち上がり、俺たちを振り下ろそうとする。
それの一瞬遅れでロボットホースから鈍い金属音が聞こえ、爆散した。
「タイタニックゥッ!!タイタニックギャラクシー号ォォォォッ!!!」
「待って、あの馬にそんな沈みそうな名前付けてたの?」
爆発四散したタイタニックギャラクシー号に泣き叫びながら別れを告げて近くに転がっていた大岩の陰に飛び込む。その一瞬遅れでさっきまで俺がいた場所に銃弾が通り過ぎていった。予想していた通りにステルベンは万全の状態で俺たちの事を待ち構えていたらしい。でなければあのタイミングでの狙撃はあり得ない。俺の直感とタイタニックギャラクシー号の犠牲によりどうにか窮地を脱する事は出来たがこの距離は
「そろそろ時間か……シノン」
「……闇風は落ちてるわ。それでキリトとアスナの近くにB・Jの反応がある。残っているのはさっきの3人と私たちだけよ」
サテライト端末に隠れていたはずのB・Jの情報が出てきた。それは向こうから姿を見せたのか2人が〝メタマテリアル
俺が認めた2人ならば、どんな相手だろうと倒せると信じている。
なら、俺たちもステルベンを倒さなくてはならない。
「じゃあシノン、援護射撃任せたぞ」
「任せなさい」
本当ならばシノンを置いて俺1人でタイタニックギャラクシー号に乗って〝田園〟エリアに向かえばよかったが、ステルベンの奇襲を警戒し、
サテライトの情報によれば俺たちとステルベンの距離は約300メートル。四、五度は狙撃されると見て良いだろう。シノンの援護で一、二回は阻害できるはずだ。
その間に距離を詰めて接近戦に持ち込めるかどうかが鍵になる。
「あ、これ御守りね」
今更ながらにシノンが
「良いの?ウェーブの
「キリトたちの話によればあいつはSAO
「……不吉な事を言わないでよね」
「もしもに備えて何が悪い」
「じゃあ、代わりにこれをあげるわ。だから、絶対に負けないで」
そう言って渡されたのはシノンがいつも着けていたマフラー。それを受け取り、外れない様にしっかりと首に巻き付ける。それだけで気分が高揚してしまう俺は単純なんだろう。
「ーーーんじゃ、行ってくる」
シノンにそれまでのようなヘラヘラとした貼り付けた様な笑みでは無く、本心から出てきた笑みを浮かべて大岩の陰から飛び出す。最初の狙撃でステルベンの居場所は把握している。あとはシノンの援護を信じてあそこまで最短距離を最速で進むだけだ。
暗くなったフィールドで僅かに漏れるマズルフラッシュの明かりを頼りに、俺は全力で走り出した。
「ーーーんじゃ、行ってくる」
そう言ってウェーブはいつもの様なヘラヘラとした笑みでは無い自然な笑みを浮かべて大岩の陰から飛び出した。ここからステルベンのいる場所までは遮蔽物の一切無いフィールド。〝
だというのに彼は一切怯えを見せず、それどころか震える事なくステルベンに向かって走り出していった。私が彼を守ると信じているから。
「ーーー」
ウェーブが飛び出していったのとは反対側から顔を出して腹這いになってスコープを覗き、ステルベンを探す。暗くなったから一瞬だけ溢れたマズルフラッシュで簡単に見つける事が出来た。
スコープ越しに見えるのは髑髏の様なフルフェイスのゴーグルを被ったステルベンの顔。それと同時にウェーブからキンッと甲高い音が聞こえた。何をしたのかは見なくても分かる……キリトと同じ様に、
トリガーに指を乗せる、〝
外せない、外すわけにはいかない狙撃。だというのに私の心は思っていたよりも乱れなかった。
耳が音を拾う事を止め、
視界が狭まって全ての光景が遅くなり、
ステルベンのトリガーを引く指の動きさえ知覚出来ている。
「ーーー
〝
そして反射的に顔を左に傾けるーーーと同時に〝L115A3〟の弾丸がヘカートIIのスコープを吹き飛ばして背後へと消えていった。あのままスコープに目をつけていたら即死だったと音と速度が元に戻った世界で冷や汗をかく。
だけどさっきの一撃は無駄では無かった。最後にスコープ越しから見えた光景にはステルベンの〝L115A3〟にヘカートIIの50BMG弾が命中するのが映っていたのだ。アンチマテリアルライフルの弾を受けて銃が使えるとは思えない。つまり、これでステルベンから狙撃という手段を奪う事が出来た。
「負けないでね、漣君……」
キリトたちの話を信じるのならこれで漸くだ。ステルベンは接近戦を得意としているらしいので銃を無くしたところで戦闘能力は損なわれないだろう。
だけど彼なら、漣君なら勝つと信じている。
だから私はヘカートIIの次弾を装填しながら彼の勝利を祈った。
一度目の狙撃をナイフで受け流し、二度目の狙撃に備えていたが弾丸は見当違いの方向へと飛んでいった。おそらくシノンに向けて撃ったのだろうが彼女の気配は健在なので安心している。それにシノンの弾丸がステルベンの銃に命中したのが大きかった。これでステルベンは狙撃という手段を失った。銃はまだ〝
しかしステルベンは〝
互いの距離が縮まり俺はナイフを振るい、ステルベンは銃剣をアスナの様な構えで突き出す。ぶつかり合うナイフと銃剣、GGOにコンバートしてから久し振りに聞いた剣と剣の衝突する音を聞きながら静かに宣言する。
「よぉ
悲報、ロボットホースことタイタニックギャラクシー号死す。みんなで冥福を祈ろう……
修羅波だったキリトちゃん君と同じ様に弾丸を斬り払う事は出来るんだよ!!だけど斬り払うよりも避けた方が良いから避けるんだよ!!今回は自分に注意を向けさせようと敢えて弾いたけど!!