「ーーーピトフーイと銃士Xは未だに〝廃墟都市〟で睨み合い、闇風はここから南西の〝砂漠〟と〝草原〟の境目の辺り。そしてステルベンは〝田園〟エリアねぇ……」
シノンを落ち着かせて立ち直らせ、もう大丈夫だと顔を真っ赤にした彼女の言葉を信じてキリトとアスナと合流。キリトが身を呈して獲得した最新の情報を共有する。
「二手に分かれるか纏まって行動するかどっちかになるな……」
「だったらキリトとアスナは闇風を倒して〝砂漠〟エリアでB・Jを待ち構えていろ。あいつは確かAGI特化型で短機関銃を使ってるから2人のスタイルでも倒せる。だけど銃士Xは知らんがピトフーイはオールマイティだ。アサルトを使えばショットガンも使うしライフルだって使う。先に見つかったらヘッドショットされたなんて事になってもおかしくないからな。それにいくら〝メタマテリアル
「なんでALOでソロプレイだったのにそんなに作戦指揮上手いんだよ」
「戦闘特化された戦闘民族舐めるなよ」
「現代社会で戦闘民族なんて……」
アスナが手で顔を覆っているがシノンはもう慣れたのか特に反応もしないでヘカートIIの確認をしている。その目には怯えも恐怖もあるが、それに負けないと戦う意思を見せていた。その目を見て、再度彼女に惚れ直してしまう。この場にいない……死んだかもしれない
「言っておくけどこの場合の最善は俺が1人で暴れ回って3人でサポートに回る事だ。だけどそうしない。その理由は分かってるな?
「……はぁ、キチガイのクセにどうして乗せるのが上手いんだよ」
「挑発する時に口が回らなかったら話にならないだろ?」
「だけど、それに乗せられる私たちも私たちよね」
2人は呆れているように見えるが、その目には確かな闘志が宿っているのが分かる。それを見るだけで確信出来る。2人なら大丈夫だと、B・Jを倒して〝死銃〟の計画を瓦解させる事が出来ると。
「そういえば、終わった後はどうしたら良い?警察に電話するにしても絶対信じられないだろ」
「俺たちの雇い主は公務員だからそいつに頼む。2人の住所や名前を教えてもらう事になるけど……」
「だったら俺の住所を教えとくわ。シノンはお隣だからそれを頼れば分かるだろ」
インベントリからもしもの為に入れておいたメモ帳とペンを取り出して住所とリアルでの俺の名前を書き込んでキリトに渡す。流石にライブ映像を流されている中で口頭でリアルの情報を明かす事は出来ない。キリトはそれを確認してインベントリにメモをしまった。
「じゃあ、また会おうぜキチガイ」
「負けるなよーーー女装少年キリトちゃん君」
「待て、これはランダムで決まったから俺が選んだわけじゃーーー」
キリトが何やら喚いているけどそれに反応せずにアスナにアイコンタクトで任せて背を向ける。シノンの元に向かえば精神統一の為かロボットホースに背中を預けて目を閉じている彼女の姿があった。
「準備は?」
「出来てるわ」
「死地に出向く心の準備は?」
「済ませたわ」
「死ぬかもしれないけど?」
「死ぬつもりなんて微塵も無い」
「Good」
受け答えと感じられる闘志から、彼女からは死臭や死線と言った死を目前にした時に感じられる死の気配が微塵も感じられないので安堵する。これなら再び〝
俺が前衛を務めるから。彼女に近づく為には俺を倒さなければならないから。
「それじゃあ行こうか、シノン」
「えぇ、貴方の背中は私が守る。だから私のことを守ってよね」
先にロボットホースに跨り、シノンを引き上げて座らせる。そして手綱を振るって再び〝廃墟都市〟へと歩を進めた。
「そういえば、洞窟の中で赤い丸が点滅してたけど心当たりってある?」
「赤い丸……?あぁ、ライブの中継カメラね。普通は戦闘中のプレイヤーを追うんだけど残りが少なくなったから来たんじゃないかしら?」
「中継カメラ……それって、洞窟の中でのやり取りが放送されたってこと?」
「…………あ」
「ーーーふぃ……まさかここまでやるとはお姉さん驚きだよ」
〝廃墟都市〟エリアの瓦礫に身を隠し、ライフル銃〝レミントンM700〟のリロードをしながらピトフーイは一息つく。最古参であることも人並み以上のプレイヤースキルを持っている事も自覚している彼女にとって、ここまで戦闘が長引くとは予想外だった。
始まりはサテライト通信で近くにいた銃士Xというプレイヤーを見つけ、ウェーブと戦う前のウォーミングアップには丁度いいと思って戦いを挑みに行ったことだった。初見の名前でピトフーイの脳内にも記憶に残っていないから大したプレイヤーではないと高を括って挑み、予想外の強さに驚愕した。
銃士Xの
「でも、そろそろ終わらせようか」
だけどそれだけ。勝つのは自分だと宣言しながらピトフーイは腹這いになり、瓦礫の陰から〝レミントンM700〟の銃口を伸ばす。確かに銃士Xの
その癖を利用すれば取る事は難しくない。これが彼女の知り合いであるエムというプレイヤーならばその癖を見せた上で罠を仕掛けるくらいは平然とやりそうなのだが見た限りでは銃士Xにはそこまでの狡猾さは見られない。
「ーーー見つけた」
廃ビルの窓から覗くライフルの銃口をスコープ内に映す。いつの間にか夜になってしまっている上に陰に隠れて人影らしき物しか見えないが、スコープを覗くプレイヤーの姿も見える。きっと向こうは自分の姿を探しているだろう。その前に発見してしまった訳なのだが。
銃士Xがピトフーイを探す為にか角度を変え、その姿をピトフーイのスコープの中に晒しつつあった。もう少し、もう少しで確実に当てられる程に姿が見える。ほとんどのプレイヤーが脱落してしまった為に静寂に包まれた〝廃墟都市〟エリアの中で、自分の心臓の鼓動だけが五月蝿い。
そして、確実に当てられる程に銃士Xの姿を捉えたところでーーー銃士Xの背後から手が伸び、暗がりへと引きずり込んだ。
「ーーーッ」
それを見た瞬間にピトフーイは顔色を変えて立ち上がり、その場から全力で逃げ出した。
ウェーブ。ピトフーイが倒したいと思っているプレイヤーが〝廃墟都市〟に現れた。決勝の開始と同時に大暴れして、そこから暫く大人しかったはずの彼がここに来て動き始めた。銃士Xとの戦いで疲弊した今の自分ではウェーブを倒さないと客観的に判断し、態勢を立て直す為にエリアを移動しようとしたのだが……
「ーーー
立ち上がって二歩目を踏み出した瞬間に背後から轟音が聞こえてピトフーイの身体が上半身と下半身に分かれた。耳に届いた銃声はピトフーイが求めて止まなかったGGO内に10丁しかないアンチマテリアル・スナイパーライフル〝PGM・ウルティマラティオ・ヘカートII〟の物で、空中で回転するピトフーイの目は脱落する間際にそれを構えている水色の少女の姿を見た。
「ーーー終わったみたいだな」
ピトフーイをシノンに任せていたがどうやら仕留められたとヘカートIIの後に銃声が聞こえない事から確信する。俺はピトフーイの相手をしていた銃士Xを組み伏せ、喉元にナイフを押し付けていた。名前からして男だと思っていたがまさか女性だったとは思わなかった。ハンゾウといい、紛らわしいのでもっと女らしい名前をつけてほしいものだ。
「ーーーウェーブさん、ですよね?」
「そうだけど何か?」
完全にこちらの勝ち。
「私、
ーーー聞かなければ良かったと後悔しながら
「……さっさとシノンと合流しよう。そうしよう」
今更になってる洞窟でのイチャラブがライブ中継で放送されていたことに気づいたらしい。観客席ではブラックコーヒーを求めるプレイヤーが続出したとかなんとか。
ピトフーイVS
そして