あの後ゲームで得たクレジットをシノンと折半し、そのままガンショップで装備を整える流れとなった。シノンからクレジットを受け取れないと断られたが元はと言えば俺から誘ったのだ。装備が心許ない上にVRMMO初心者のシノンの助けになるのは先達として当たり前の事だと説き伏せ、最終的に借金扱いで必ず返すという事になった。
シノンはハンドガンの〝グロック17〟、アサルトライフルの〝AK-47〟、スナイパーライフルの〝H&K MSG90〟エネミー用としてシュピーゲルから勧められた光学銃の〝ブラスター〟というレーザーを撃つというSFチックな銃を買っていた。初心者であるが故に何も前準備の無いプレーンな状態であるので一通りの銃を使わせ、その中で気に入った物を使えばいいと考えたから。
それに対してGGO初心者だがVRMMO経験者である俺の装備はGGO経験者に中指を立てて唾を吐き捨てる様な物だった。
「イヤね、求められるままにホイホイ進めたのは僕なんだけど本当にそれで良いの?馬鹿なの?キチガイなの?」
「誰がキチガイだオラァ!!良いんだよ、俺GGOで遠くから撃って悦に浸ってる奴らの顔面にドロップキック決めるつもりだから」
「その思考回路がキチガイよ……」
俺の装備を見てシノンがため息を吐くが仕方のない事だと思っている。だがシュピーゲルは許さん。気がついたらPKしてやる。
ショップで俺が買ったのは恐らく銃としては最も有名な部類に入ると思われる〝デザートイーグル〟を二丁、そして通常のナイフよりも刃渡りが長いどちらかと言えば小太刀に近いサイズのナイフを二本、防弾加工の施された紅いコートに黒いインナーと迷彩模様のカーゴパンツに鉄板入りのブーツ。それだけなのだから。
自動式拳銃では世界最高峰の威力の弾薬を扱えるとされている〝デザートイーグル〟を買ったが所詮は拳銃でしかないので射程距離は高が知れている。普通ならアサルトライフルの一本でも買うのだろうが、リアルとALOで培った経験を生かすのならこれが最適なのだ。
「にしてもまさかGGOでガン=カタしようとするなんてね」
「リアルで武術やってたのとALOでの経験で接近戦が強いことは分かってるんだ。だったら下手に使い慣れてないアサルトライフルやらスナイパーライフルやら使ってあたふたするよりも慣れてる近距離戦でやった方が良いだろ?」
「ウェーブって武術やっていたの?」
「あぁ、実家の関係でね」
シュピーゲルは俺の家のことは知っているがシノンは付き合いが浅いので俺の家の事を知らなかったらしい。知られて困る事ではないので話す事を決め、先程アイテムショップで買ってきたタバコに火を着けて咥える。
「ふ〜……うちの実家は端的に言ってキチガイの家系でな、確か武士が出てきた辺りから続いてるんだよ。んで、戦いが当たり前だった時代から続いてきたせいかご先祖様が考えてきた戦闘術が伝えられてきてな、さっさと途絶えれば良いのになんの因果か俺の代まで続いちゃったわけよ。聞こえが良いから武術なんて呼んでるけどな」
「つまりキチガイ一族が産み出した最新式のキチガイがウェーブってわけ」
「それでさっきはあんなに動けたのね……まるで小説か何かの設定みたい」
「ぶっちゃけた話し、ただのろくでなしの家だぞ?爺さんはいつの日か第三次世界大戦が来る事を信じていて米兵ブチ殺す方法を日夜研究してるし、母さんは母さんで強いと思ってる奴を蹂躙するのが趣味だって世界駆け巡ってるしな。この間はロシアか何処かで馬鹿でかい熊の首をへし折ってる写真送られてきた」
「ごめんなさい。なんて言ったら良いのか分からないわ」
それはそうだ。逆に母さんが熊殺ししてるなんて知って平然と返されてもこっちが困る。自重を投げ捨て始めたシュピーゲルですら嘘だと言って、証拠の写真を見せてようやく信じたくらいだからな。
「っと、話し込んでる間に着いたね」
話しながらフィールドを移動し、辿り着いたのは〝SBCグロッケン〟から少し離れた場所にある
「取り敢えず使うよりも慣れろって事で好きに撃ってみようか」
「待って、私使い方とか知らないんだけど」
「あ〜演習場とはいえここは圏外だから周囲警戒しときたいんだよね……」
「心配しなくても良いぞ、うちのキチガイ爺さんから銃の使い方は一通り教えられてるから」
「なんで銃の使い方まで教えられてるのよ……」
「戦争になって上陸された時に武器を奪って戦う為にって教えられた。しかも実弾付きのマジモンの銃」
「突っ込まないからね?じゃあウェーブに任せるとして、僕は周囲警戒してくるから。何かあったら無線で連絡するからチャンネル弄らないでよ」
そう言ってシュピーゲルはストレージからアサルトライフルを取り出して演習場の外へと向かっていった。残されたのは俺と、警戒しているのかチラチラと視線を投げかけてくるシノンだけになる。
「取り敢えず一通りの使い方を教えるからストレージから出してみて」
「分かったわ」
そして始まる銃の簡易レクチャー。それぞれの銃の特徴と安全装置の位置、それと構え方を教えて後はひたすらドラム缶を的にして撃ち続けるだけである。習うよりも慣れろ、凡人であろうが天才であろうが数をこなせ、それが我が家の教えである。それを聞いてシノンは教えられているという立場を意識しているのか反論一つせずに頷いて俺の指示に従った。
ハンドガン、アサルトライフル、スナイパーライフルまでは爺さんから教えられたので良かったが光学銃に関しては使った事はもちろん見たこともない武器だったので理解するのに少し時間が掛かってしまった。それでも銃の形をしている以上、構造も銃に似せられているのですぐに理解することは出来たが。
「脇が甘い、もう少し締めて」
「こう、かしら?」
「そうそう。んで力を抜いて構えろ。反動は押し込めるんじゃなくて受け止めるつもりでな。もう少しステータスが高かったらそっちの方が良いけど今のシノンのステータスじゃ無理だから」
「……」
「うん、慣れて来たな。それじゃあ次からは移動しながら撃ってみようか。基本的に
「全力で走った方がいいかしら?」
「それはまだ早い。まずは移動しながら的に銃を向けることに慣れろ」
「ッ!?キャッ!!」
「的だけを見てるから転ぶんだよ。人間の視野ってのは広いんだから見えてる物をちゃんと意識しろ。大丈夫、俺は出来たから」
「戦闘民族に言われても安心出来ないわよ!?」
そんなこんなで撃ち続けて30分。ゲーム内なので肉体的な疲労は存在しないが精神的に疲れて来たのを見計らって休憩させる。余程集中していたのか休憩を伝えるとシノンは息絶え絶えの状態でその場に座り込んだ。それでも〝グロック17〟を手放さない辺りに意思の強さを感じる。
「ご苦労さん、水飲んどけ」
「ハァ……ハァ……」
差し出された水をひったくるようにして受け取り、それをゴクゴクと一気に飲み干す。どうやら俺が考えていた以上に消耗していたらしい。10分程度の休憩にするつもりだったが今日の目的はシノンを銃に慣れさせる事だ。30分くらい休ませておこう。
「どうだ?苦手だった銃に触ってみた感想は」
「ハァ……ふぅ……意外と、普通ね。もっと怖い物だと思っていたけど」
「そりゃあそうだ。人を殺せるっていっても所詮銃は道具だからな」
そう、朝田が写真を見ただけで嘔吐する程に恐れている銃だが所詮は道具に過ぎない。銃を人が持って銃口を人に向け、引き金を引く事で初めて人殺しの道具になる。
今日の経験だけで朝田が抱いている銃へのトラウマが改善されることは無いと分かっている。だけど今日の経験がトラウマの改善への一歩になればと信じている。
「そういえば、さざ……ウェーブは撃たなくても良いの?」
「他に人が居なかったらリアルの名前でも良いぞ?……そういえば最後に銃触ったのは中学の時か……鈍ってそうだな」
「普通は中学生で銃に慣れてないわよ」
「普通じゃないからな、うちの家系は」
ホルスターから〝デザートイーグル〟を二丁引き抜き、さっきまでシノンの的になって居たドラム缶へと銃口を向ける。引き金に指を乗せた途端、視界にライトグリーンの円が二つ浮かび上がった。恐らくこれが攻撃的システム・アシストの〝
「ーーーいらねぇな」
〝
銃である以上、発射される弾丸は銃口から水平に真っ直ぐに飛ぶ。つまり銃口をきちんと目標に向けていれば、弾丸は目標に向かって飛んでいくのだ。
左右で5発ずつ発射し、全ての弾丸が半径10センチ以内に収まったのを見て思いの外衰えていなかったことを知る。剣などはALOをしていたので衰えるどころか研鑽する事が出来たが、銃は流石にGGOでもなければ取り扱っていないので腐らせるしか無かったのだ。
良かった、これで実家に帰った時に爺さんに銃で奇襲が出来る。
「……凄いわね」
「まだまだ。うちの母さんなんてマシンガンでワンホールショット決めるキチガイだから」
「ワンホールショット?」
「最初に撃った弾が当たった位置に他の弾を当てる技術」
「……それって人間なの?」
「正直言って〝SAZANAMI〟っていう別ジャンルとして扱われても当然だと思ってる」
休憩がてら話していた事でシノンの呼吸も回復し、気力も戻って来たようだ。練習を再開するかどうかを訪ねようとした時、シュピーゲルから渡された無線機からノイズ混じりの声が聞こえてくる。
『ーーーウェーブ!!シノン!!敵襲、PKだ!!狙われてるぞ!!』
テーレッテレー!!
キチガイ は
システムアシストを邪魔だと切り捨てて取得するキチ修羅がいるらしい。エムは泣いてもいい。