「ーーー」
「……もう起きたの?」
「あぁ……」
夢から戻り、枕にしていたシノンの膝から頭を退ける。時計で時間を確認すれば五分かそこらの短い睡眠だったが、調子的には8時間キッチリ眠った時のようにスッキリしている。〝死銃〟に対する殺意は微塵も衰えていない。だけど、あの夢のおかげで精神に余裕が出来た。軽く身体を解しながら調子を確認すれば、明らかに眠る前よりも
「心の有り様こそが覚醒への第一歩ってヤツかね」
「……何か雰囲気変わったわね。良い夢でも見たの?」
「あぁ、スッゴイ良い夢が見れた」
目を背けていた事を止めて、姉ちゃんを許して俺は許された。これは俺だからこれで救われたのだ。朝田にとってこれが正解なのか分からないが、こう言う救済もあるんだと教える事は無駄じゃないと信じたい。
だけど、教えるのは今じゃない。今は〝死銃〟を殺すことが先決だ。幸いな事にあの話し合いのお陰なのか彼女の発作は治って体調も元に戻っているように見える。
「さて、俺はキリトたちと〝死銃〟ブチ殺会議してから〝死銃〟殺しに行くけどシノンはどうする?」
「私も行くわよ」
「〝死銃〟に殺されるかもしれないのに?」
「……本当に変わったわね。そっちの方が素なの?」
「俺としちゃあ性格変わったっていう自覚は無いんだけどね。シノンが変わったって思うのなら変わったんじゃない?」
でも思い返してみれば俺はいつも意識してヘラヘラとした笑みを浮かべていたが、今はそんな事に意識を割いていない。それを無駄だと、必要ないと感じているから。そういう意味では確かにシノンが言っているように変わったのかもしれない。
「行くわよ。確かに〝死銃〟に……〝
でも、と言葉を続けてシノンは柔らかい笑みを浮かべてみせた。
「ーーー貴方が、私を守ってくれるから。それに、私が貴方を守るから」
「ーーーククッ、良い女だよなぁ。ホント」
惚れた弱みと言うべきか、その笑顔に心を奪われてしまい苦笑しながらそう言う事しか出来なかった。
「それでは第1回、〝死銃〟ブチ殺会議を始めたいと思いまーす」
「……」
『……』
『い、いぇーい……』
「アスナ、ありがとう。シノンとキリト、ちょっとノリ悪くない?」
『いや、ちょっとそこまでみたいなノリでやられると困るんだけど』
「諦めなさい、彼はそういう人間だから」
『ALOで知ってたつもりなんだけどなぁ……』
無線越しの会話ではあるがアスナが困ったような顔を、キリトが疲れ切っている顔をしているのが目に浮かぶ。その反応を見る限り、まだ2人の心は折れていないらしい。流石に2人の〝死銃〟を相手にシノンと2人で挑むのは危険だ。そういう意味ではふたりの精神の強さに感謝したい。
「まずは〝死銃〟の情報からだな。〝死銃〟は2人いる。俺とキリトが〝グロッケン〟で出会ったおかしな喋り方をする奴と、〝廃墟都市〟から出るときに追い掛けてきた奴の2人。名前は前者がステルベンで、後者がB・Jだ」
『もうそこまで把握してるのかよ』
『キチガイなのを除いたら本当に優秀よねウェーブさん……キチガイだけど』
「ステルベンの武器はライフルの〝L115A3〟、それとハンドガンの〝
『あ、それと〝廃墟都市〟で私が撃たれた時に〝死銃〟は何も無いところから突然出てきたわ。SF映画の光学迷彩みたいな感じで』
「光学迷彩……〝メタマテリアル
〝メタマテリアル
「これで〝死銃〟がどうやってサテライトを回避しているのか分かったな。それに加えて、どうやらステルベンの方はご自慢の〝メタマテリアル
『どうしてそれが分かるんだ?』
「見て分かるだろ?サテライトの最後の更新でステルベンの名前が載ってる。いつも隠れていたはずの名前が堂々とだ。何故か?使えなかったからだ。恐らくシュピーゲルとの戦闘で〝メタマテリアル
シュピーゲルがどうやって戦ったのかは分からないが、ステルベンから〝メタマテリアル
つまり、俺たちがこうして話していられるのはシュピーゲルのお陰なのだ。
「キリト、アスナ、お前たちはもしかして〝死銃〟の正体に察しがついてるんじゃないか?」
『……あぁ、ウェーブは俺たちがSAO
「そうなの?」
『自慢するような事じゃないからね……デスゲームとなったSAOの中で、人殺しを積極的に楽しむギルドがあったのよ。殺しが最大の娯楽とでも言っているかのように楽しんで人を殺していた彼らは〝
「殺しが最大の娯楽ねぇ……狂人の集まりだな」
人を殺すことに楽しみを見出すなんて正気ではあり得ない。たった1人殺した俺とシノンが長年苦悩していたというのに、そいつらは娯楽目的で次々と人を殺している。だから狂人……倫理観のイカれた、俺とは違うベクトルでの人でなしの集まり。
そんな狂人がどうして捕まっていないのか不思議だが、聞いた話によればSAO内での犯罪行為はログとして残されて居ないらしく犯罪の立証が不可能だったらしい。
「さて、〝死銃〟の装備が分かった。どうして人を殺すのかも分かった。最後に分からないのはどうやって殺すのかだな」
『そこなんだよな……一番有力なのはゲーム内でアバターを攻撃するのと同時にリアルで殺すって事なんだけど……』
『リアルでのそのプレイヤーの住所が分からないのよね……』
流石にアミュスフィアではナーヴギアの様に人を殺さないという大前提を弁えているのか、2人ともそこまでは考えていたらしい。もっとも確実なのが2人の言っている様にゲーム内とリアルで同時に殺す事だが、そうなるとプレイヤーの住所が分かっていないと不可能だ。友人などの親しい間柄ならばそれで殺すことも不可能ではないのだが、そこら辺は既に調べられていると思って間違いない。それに〝死銃〟はシノンを殺そうとしていた。俺と恭二とクレイジーサイコレズしか友人の居ないシノンをだ。それから見て親しい間柄の犯行では無いと言える。
「住所……〝メタマテリアル
「シノン、大丈夫か?」
シノンがブツブツと呟いて顔を青くして震え出した。その顔にあるのは恐怖。
「ねぇ……BoBのエントリーの事、覚えてる?」
それで全てが繋がった。BoBにエントリーする際にはリアルでの本名や住所を入力する事が出来る。そうする事で上位入賞プライズを受け取る事が出来るのだ。シノンはそれでモデルガンを頼み、恭二はゲーム内でクレジットを受け取っていた。エントリーのパネルは複数操作する事が多いからなのかデフォルトで可視化されているので見ようと思えば操作している本人以外でも見る事が出来る。だけどそれを見せようとするプレイヤーはいないだろうし、しようとしてもアメリカのゲームだからなのかハラスメント関係には厳しく下手をすればアカウントが抹消されかねない。
だが、そこに〝死銃〟が持っていた〝メタマテリアル
「あぁ……ああ……!!」
「落ち着け。俺も住所がバレてるから」
自分の部屋に〝死銃〟の仲間が侵入しているかもしれないと恐怖し、落ち着きを無くしかけていたシノンの頭を胸に押し付けて抱き締める。ここでシノンがアミュスフィアの安全装置により強制ログアウトしてしまえばリアルの〝死銃〟の仲間とかち合ってしまう。顔を見られた以上、朝田は殺されるだろう……それだけならまだマシだ。女性である朝田は、もっと酷いことをされる可能性がある。
錯乱しかけながらも無我夢中で抱き締められるのを受け入れる。怖いのは分かる……俺だって死ぬのは怖いから。今回のBoBのエントリーの時に、俺は朝田と恭二にプライズがあることを聞かされていたので馬鹿正直に住所を入力している。つまり、俺も〝死銃〟のターゲットに入っている可能性がある。電磁ロック、シリンダー錠、チェーンとログインする前にしっかりと確認したのだが入る方法なんて幾らでもある。今現実の俺の部屋に〝死銃〟の仲間がいると思うだけで怖くなるが、強制ログアウトされる程では無い。
「安心しろ……殺されるとしたら〝
「でも怖い……怖いよ……」
「俺だって怖いさ……震えてるの、分かるだろ?」
抱き締めるほどに密着している事でシノンが震えているのが分かる。だけどそれはシノンも俺が震えているのが分かるという事だ。シノン程怖がっているわけでは無いが、それでも怖いものは怖い。それでもその醜態を見せていないのは……男としての意地だろう。それ以外に思い付かない。
「キリトたちは大丈夫か?」
『俺たちは依頼主に用意された場所からログインしているし、リアルの住所は入れてないから大丈夫だ』
『私もよ』
「そうか……じゃあ、〝死銃〟を倒すしか無いな」
〝死銃〟は〝
「まずは生き残りを先に倒す。その後で〝死銃〟だ。他の奴らは〝死銃〟の存在を知らないし、ターゲットになっている可能性がある。いざトドメって時に乱入されても邪魔だからな」
『分かった。じゃあ俺がサテライトの更新してくるあと2分で次の更新だからな』
それだけ言ってノイズが聞こえて無線は切れた。それを確認してから俺は話し合いに割いていた意識を全て俺の腕の中で震えるシノンに向ける。
「安心しろ……お前は俺が守るから」
「……うん」
シノンが立ち直るまでずっと、俺は彼女の頭を撫で続けていた。
原作読んで死銃サンの手口に惚れ惚れした。覗き見とかいう単純だけど、単純だから気づかない手段。これを知ったらPoHニキだってニッコリするに違いない。
見方変えると修羅波とシノのんがひたすらイチャイチャしてるだけにしか見えない……こいつら、付き合って無いんだぜ?
感想や評価を沢山くれると作者のヤル気がグーンと上がります。