修羅の旅路   作:鎌鼬

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BoB本大会・6

 

 

格好付けて前に飛び出したものの状況は最悪のまま変わっていない。キリトは俺がいるからなのか〝死銃〟を警戒してか隠れている。アスナはさっきシノンがやられた時と同じ様にスタン弾を喰らっていて行動不能、シノンは〝死銃〟にトラウマを抉られたのか動けない。実質2人しか動くことが出来ないのだ。

 

 

〝死銃〟の1人は姿を見せているがねっとりとした、親に叱られて渋々我慢をしている子供の様な目線は感じられる。このまま膠着状態が続けばもう1人の〝死銃〟は我慢しきれずに飛び出してくるだろう……それまでにこの状況をどうにかしなければ誰かが死ぬ事になる。

 

 

最善はシノンとアスナをこの場から連れ出して体勢を立て直す意味で逃げる事、最悪は……2人が殺される事だ。

 

 

「〝冥狼(ケルベロス)〟、また邪魔を、したな」

 

「そっち呼びで安定か……そりゃあ邪魔をするに決まってる」

 

「クククッ、良く言う。自分だけ、綺麗ぶって、いるのか?」

 

 

〝死銃〟の物言いが気になる。知らないはずのシノンのトラウマを的確に抉った事から俺の事も何か知っているかもしれない。そう考えて身構えているとーーー

 

 

「ーーー()()()()()()()()()()

 

「……ふぅん」

 

 

的はずれの様な、それでいて中々に的を射たことを言ってくれた。同類という事は同じ人殺しという意味だろう。確かに俺は人を殺したことがある。しかしそれは誰にも知られていないし、知れるはずのない事。唯一俺からシノンへと話したが、それ以外は母さんと爺さんしか知らない事だ。よって調べての言葉でなくて感覚的に俺のことを同類だと見破っての言葉だと分かる。

 

 

()()()()()?」

 

 

だからどうした?その事は既に過去の事だし、シノンみたいにトラウマを抱えている訳ではない。例え指摘されたとしても、だからどうしたで済ませられる。確かに殺した当初は精神崩壊を引き起こす程に錯乱と発狂、そして意識の覚醒を繰り返していた。

 

 

していた、なのだ。心の傷(トラウマ)は既に塞がっている。例え言葉で抉られようとも、当事者や関係者でも無い者からの言葉なのでは微塵も痛みを感じない。

 

 

「俺たちと、来い。愉しみを、分けてやる。その快楽を、何度も、くれてやる」

 

「いらん」

 

 

正面からの勧誘を即座に断りながら〝オルトロス〟の銃口を後ろに向けて引き金を引く。その一瞬後に響き渡るのは銃声と金属音。〝死銃〟から目を逸らさずに後ろを確認すれば、そこにはポリゴンになって消えつつある電磁スタン弾が転がっていた。どうも後ろで隠れていた奴が我慢出来ずに先走ったらしい。

 

 

「勧誘する言葉も、相手も間違ってるよ。いくら同類で経験者だからと言ってそれを好き好んでいるとは限らないだろ?どうせいうなら世界の半分くれてやるくらい言ったらどうだ?」

 

「なら、殺すか」

 

 

返事を聞いてこれ以上の交渉の余地はないと察したのか〝死銃〟がライフルの銃口を向ける。後ろから感じ取れる気配に歓喜混じりの殺意が宿る。

 

 

()()()()()()、どうにか出来るかと期待半分でいると俺たちの周囲にいくつかのグレネードが投げ込まれた。

 

 

「ッ!?」

 

 

グレネードだと気が付いた瞬間に〝死銃〟が全力で逃げ出して建物の影へと隠れる。爆風から身を守るための判断だろうが()()()()()

 

 

グレネードから吹き出したのは爆風やプラズマでは無く、白い煙だった。

 

 

スモークグレネードが辺り一帯を白煙で覆い隠す。これならばサーモグラフィーでも使わない限りは俺たちを見つける事は出来ないだろう。ナイフと〝オルトロス〟をしまい、素早く動けないシノンとアスナを肩に担いでその場から逃げ出す。

 

 

「ーーーコッチだ!!」

 

 

見晴らしの良いメインストリートから外れて裏路地を走っているとキリトの姿が見えた。

 

 

「アスナは任せる、あとグレネードサンキュー」

 

「あぁ分かった。買っといて良かったよ」

 

 

前日、いくつかグレネードを持っていた方がいいと伝えていたので買い揃えていたのだろう。火薬でもナパームでもプラズマでも無いスモークを選ぶ辺り妙に凝っているなと感じるが今回はそのお陰で助けられた。

 

 

投げ渡す様にアスナをキリトに任せ、シノンを背中におぶる。肩で担いでいる時もだが、こうして密着しているとシノンが震えているのが良く分かる。今もコートを強く握り締めて助けてと小声で呟いている。

 

 

「あぁ、助けるから、息をしろ。少しずつでいいから」

 

 

本音を言えばキリトにシノンを任せてすぐにでも〝死銃〟に挑みたいが今のシノンは放って置くわけにはいかず、彼女の身の安全の確保と仕切り直しの為に一旦引く必要があった。出来る事なら〝廃墟都市〟エリアから離れたエリアに行きたいのだが人を背負っている以上どうしても足が遅くなる。馬鹿正直にこのまま走って逃げても〝死銃〟たちに追いつかれてしまうだろう。

 

 

「ッ!!ウェーブ、あそこ!!」

 

 

アスナを横抱きで抱えながら走るキリトの視線の先には先日にキリトたちが〝SBCグロッケン〟で利用したレンタルバギーショップの廃墟があった。商品である三輪バギーはほとんどが見て分かる程に壊れていて使い物にならないが、一台だけ走れそうな物が残っている。そしてそこにはバギーだけでは無く、金属フレームとギアを剥き出しにした馬ーーーロボットホースが二頭だけ走れそうな状態で放置されていた。

 

 

「バギーを使え、俺は馬を使うから」

 

「乗れるのか!?」

 

「ガキの頃に猪を乗り回してた経験があってだな」

 

「ふざけてるとしか思え無いけど本当だよな!?」

 

「こんな時でもふざけられるのはキチガイじゃ無くて狂人の類だけだ」

 

 

何か言いたげだったが時間が無いことを思い出したのか、キリトは三輪バギーの方に向かう。俺はロボットホースの方に向かい、手綱を手に取る。ロボットホースはリアルで乗馬の経験があっても操作は難しいと聞いているが、このロボットホースはそんなそぶりを見せずに早く走らせろと目で訴えていた。

 

 

シノンを背負ったままロボットホースに跨り、鐙に足を通す。二輪バイクや三輪バギーとは違った安定感と、機械仕掛けなのに生きているような躍動感が今は心強かった。確かめるように手綱を引いたり、鐙で腹を蹴ったりと動作を確認するがロボットホースはどれも素直に言うことを聞いてくれた。

 

 

「どこに行く!?」

 

「〝砂漠〟に逃げるぞ!!あそこにはサテライトから逃げられる洞窟があるらしいからな!!」

 

 

前回の第2回BoBの報告スレッドを見ている時に〝砂漠〟エリアにある洞窟に立てこもっていたらサテライトに映らなかったという書き込みがあった。グレネードを投げ込まれれば一網打尽だが、それでも俺たちの位置情報をリセット出来るというメリットがある。何らかの手段によりサテライトに映らない〝死銃〟たちとサテライトに映り続ける俺たち、このディスアドバンテージを覆す為にはこちらもサテライトから映らなくなる必要がある。

 

 

それ以上にシノンを落ち着かせる時間が欲しいというのもあるが。

 

 

「ッ!!来るぞ!!」

 

 

隠し切れていない歓喜混じりの気配ーーー隠れていたもう1人の〝死銃〟が近づいて来るのを察してロボットホースを走らせる。本音を言うならもう一頭のロボットホースを破壊しておきたかったが、それをするだけの余裕が無い。〝死銃〟がロボットホースを扱えないことを祈ろう。

 

 

エンジンを吹かせながら三輪バギーを走らせるキリトと共に〝廃墟都市〟エリアを脱出し、〝砂漠〟エリアへと向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……逃げたか」

 

 

スモークグレネードの煙幕が晴れて、ボロボロのマントに身を包んだプレイヤーが建物の影から姿を現した。あれが〝死銃〟、ウェーブが僕との約束を放り出してまで戦おうとしていた奴。成る程、確かにその姿と立ち振る舞いはどう見ても死神のそれにしか見えない。初見の僕でもあれを見ていると〝死銃〟の噂が本当なんじゃないかと恐怖で身体が震える。

 

 

ーーー()()()()()()()と、その震えを歯を食い縛って堪える。

 

 

怖い、嫌だ、死にたくない戦いたくない。ゲームの自分(シュピーゲル)だからこそ雄々しく自由に戦えていたがプレイヤーを殺す〝死銃〟を相手にする以上、リアルの自分(新川恭二)として挑まなくてはいけない。

 

 

臆病で、怖がりで、小心者の大っ嫌いなありのままの自分で。

 

 

だけどウェーブは……不知火は、それを知った上で〝死銃〟に挑んだ。想いを告げないなどとふざけたことを抜かしながら、惚れた彼女を守る為に。

 

 

だったら、僕が行かないでどうする。彼がそうしたように、臆病で怖がりで小心者の僕にだって守りたい者がいるのだ。

 

 

震える身体を押し殺し、逃げ出そうとする足を前に進め、〝FN・FAL〟の銃口を〝死銃〟に向けて引き金を引く。ばら撒かれた弾丸が〝死銃〟の前に着弾し、足を止めさせる。〝死銃〟の紅く光る目がこちらに向けられる。

 

 

「止まれよ〝死銃〟ーーー2人の元には行かせない……ッ!!」

 

 

さぁーーー行こう、シュピーゲル(新川恭二)

 

例え愚かな僕だとしても、通したい意地はあるのだから。

 

 

目を向けられただけで出そうになった悲鳴を必死に噛み殺しながら、自分を鼓舞する為に、絶対にここでお前を倒すと、僕は〝死銃〟に向けて宣言した。

 

 

 






ようやく中盤辺り。ここから予定ではバトル描写が増える予定でよ〜



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