修羅の旅路   作:鎌鼬

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BoB本大会・4

 

 

リッチーをブチ殺し、〝廃墟都市〟に向かうその道中で眼帯をつけたプレイヤー……シノン曰く夏侯惇をついでに殺しておく。リッチーの時は俺が囮になってリッチーの目を引き、シノンが狙撃するだけ。夏侯惇の時も同じように倒した。

 

 

そして〝廃墟都市〟エリア付近まで来たところで、3度目のサテライトの時間になる。

 

 

「ふむ……生き残ってるプレイヤーは8人か」

 

「シュピーゲル、ピトフーイ、銃士Xは〝廃墟都市〟に篭ってるし、キリトたちもここに向かっているみたいね。闇風は離れているみたいだけど」

 

「控え目に言って地獄かここは」

 

 

爆弾魔(ハッピーボマー)〟ことシュピーゲル、最古参の女性プレイヤーのピトフーイ、接近戦最強クラスのキリトとアスナ、そこに俺とシノンまで加わったとなれば地獄以外になんと言って良いのか分からない。

 

 

そして間違いなくここには〝死銃〟の2人がいるだろう。電磁スタン弾を使えるのは一部の大口径ライフルだけだとシノンは言っていた。ライフルを主武装(プライマリ)として扱っている以上、〝死銃〟は狙撃手(スナイパー)になる。それなら遮蔽物の少ないところは好まず、遮蔽物の多い〝廃墟都市〟を狩場にしている可能性があると同じ狙撃手(スナイパー)のシノンが言っていたから。

 

 

シノンの言葉を信じるならば間違いなくここは地獄と言うしかない。〝死銃〟を排除しようにもはっきりと味方と言えるのはキリトとアスナとシノンだけ。それ以外の事情を知らない者たちは全員が敵。その上、隙を見せれば背後からシノンがやられたように電磁スタン弾を撃たれて〝死銃〟に殺される可能性もあるのだから。BoBらしいと言えばらしいのかもしれないが、本当に命のやり取りをしているとなれば足が竦んでもおかしくない。寧ろ、足が竦まない方がおかしい。誰だって死ぬのは怖い、死にたくないと考えてるのだから。

 

 

それを踏まえると、俺はおかしい部類に入る。殺されるかもしれないというのに恐怖するどころか気分は高揚している。身体の末端までもが思い通りに動かせ、五感は鋭敏化されている。殺されるかもしれない?だったらそれよりも先に殺せば良いと結論を出し、それを実行する為に身体が最適化されていく。

 

 

「……怖いか?」

 

「……正直な話、怖いと思っているわ」

 

 

シノンは幸いな事におかしい部類に入っていないようだ。ヘカートIIを持つ手は恐怖で震え、目には怯えが見える。俺がおかしいだけでそれが人間として普通の反応なのだ。だけど、と言葉を続けてシノンは手の震えを無理矢理押し殺し、負けん気と共に俺を睨み付ける。

 

 

「貴方が、私を守ってくれるんでしょ?」

 

「……クックック、睨み付けていう台詞かよ」

 

 

俺が守ると彼女は信じていた。どうしようもないロクでなしの畜生である俺の事を、彼女は一切も疑わずに信じてくれていた。なんの根拠もない信頼で、俺が必ず守ってくれると。それを理解して思わず苦笑してしまう。

 

 

「俺が先行するから後ろからゆっくり付いて来い。なぁに、〝爆弾魔〟(シュピーゲル)だろうが〝最古参〟(ピトフーイ)だろうが、〝最強夫婦〟(キリアス)だろうが〝死銃〟(デス・ガン)だろうがその他諸々だろうが、纏めて〝冥狼〟()が食い散らかしてやるから」

 

 

心中にあるのはシノンをこの場に連れて来た事に対する僅かばかりの罪悪感とやはり彼女は素晴らしいという賞賛。〝オルトロス〟とナイフを握る手に力を込める。こんな素晴らしい彼女を守らなくては男が廃ると、殺し合いへの期待以外の感情で高ぶっていく。

 

 

そうしてシノンを従えて、〝廃墟都市〟へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーあそこ、だな」

 

「ーーーえぇ」

 

 

キリト君が先行する形で、〝廃墟都市〟に転がっている瓦礫や廃車の陰に隠れながら中央にあるスタジアムに向かう。〝廃墟都市〟にいるのはシュピーゲルとピトフーイと銃士Xの3人だけ。闇風は〝廃墟都市〟から距離をとった〝砂漠〟エリアにいるし、ウェーブさんとシノンは〝山岳〟エリアからここに向かっている最中。途中でペイルライダーを倒したがキリト君が出会ったプレイヤーでは無かった。ステルベンとB・Jの名前が無い以上、消去法で銃士Xが〝死銃〟という事になる。

 

 

そして中央のスタジアムでは銃撃戦が行われているのか銃声が響いていた。サテライトの情報からスタジアムで陣取っていた銃士Xと、シュピーゲルかピトフーイのどちらかが戦っているに違いない。

 

 

「銃士X……銃士をひっくり返してシジュウ、ってのは安直過ぎるか?」

 

「名前なんてそんなものじゃないかな?キリト君だって本名のモジリでしょ?」

 

「アスナに至っては本名だしなぁ……しかもSAOじゃプレイヤーネームの意味知らないでリアルネーム言ってたって聞いたし」

 

「待って、誰から聞いたの?」

 

「アルゴ」

 

 

ALOに帰ったらアルゴを〆よう。あの頃の私は色んな意味で黒歴史だ。黒歴史をバラした者に報復するのは当たり前の事。

 

 

「……それじゃあさっきと同じで俺が先行するからアスナは後ろから着いてきてくれ」

 

「……気を付けてね」

 

 

私の言葉に頷くとキリト君は瓦礫や廃車の陰に隠れながらスタジアムに向かって行った。

 

 

本当だったらGGOへのコンバートはキリト君1人だけのはずだった。しかしコンバート直前にキリト君とリアルでデートした時に何か隠していると感じ、〝死銃〟と呼ばれる〝ゲームからリアルの人を殺す〟プレイヤーの真偽を確かめる為にコンバートをすると強引に聞き出したのだ。

 

 

キリト君1人だけだと絶対に無茶をするのはSAO時代からの付き合いで分かっていたのでストッパーとサポーターとして私も着いて行く事にした。キリト君からは当然のように反対され、私もそれに反発したのだが最終的に決闘(デュエル)で決着をつける事にして私が勝ち、一緒にGGOにコンバートする事になった。

 

 

ウェーブさんがいたのは予想外だったが、戦力だけで見れば彼以上に心強い存在はいない。何せ私とキリト君が一対一で戦って負けるようなプレイヤーなのだから。SAOから使っていた〝アスナ〟のステータスはALOでも同じSAO生還者(サバイバー)でも無い限りはマトモに太刀打ち出来ない程に育っている。当然のようにウェーブさんのステータスよりも高いのだが、彼はステータスでは無く()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

身体の重心から次の行動を先読みし、観察眼で急所を見抜いて細剣並みのクリティカルを連発する。一対一で相手になるのは二刀流のキリト君かヒースクリフ……SAO製作者兼SAOラスボスの茅場晶彦しかいないのではと思う程に強かった。

 

 

それだからなのか、彼はALOに飽きている様だった。戦っても戦っても、自分の相手になる様なプレイヤーは一欠片しか存在せず、しかもその一欠片さえ何度も戦えば自然と封殺出来てしまう。蹂躙、作業、ワンサイドゲーム……彼が戦えばいつだってそうなってしまっていた。唯一の例外はALO全種族連合軍と戦っていた時だろうか、あの時だけはいつもよりも楽しそうに見えた。

 

 

それでも、私たちと相討ちになった時には門限になって帰らなければならない子供の様な顔をしていたが……

 

 

「っと、今はそんな事を考えている暇は無いわね」

 

 

キリト君がある程度進んだところで私も彼の跡を追い始める。銃士Xが〝死銃〟なら問題無いが、他のプレイヤーが〝死銃〟だった場合に纏めて倒されるのを防ぐために敢えて別れて行動する事にした。そして周囲を警戒しながら瓦礫から身を乗り出し、次の瓦礫に向かおうとした瞬間ーーー背筋に強烈な寒気を感じ、左腕に激しい衝撃があった。撃たれたと直感で判断し、誰も居なかったはずなのにと混乱しながらも瓦礫に隠れようとして……動かそうとした脚は動かずに私の身体は地面に倒れた。どうして倒れたのか分からない。いくら動けと念じても身体は動かず、呻き声が精々。キリト君に助けを求められない。

 

 

なんとか動かすことが出来る目で衝撃を受けた左腕を見れば、そこにはジャケットの袖を貫通して針の様なものが刺さっていた。これが原因だと分かったが、動かないのでどうする事も出来ない。

 

 

そして撃たれた方向、私から20メートル離れた地点の()()()()()()。人型のノイズが現れ、そこからボロボロのマントを着た髑髏を思わせる仮面を着けたプレイヤーが現れる。それはキリト君とウェーブさんから聞いていた〝死銃〟候補のプレイヤーの特徴と一致していた。

 

 

光化学迷彩ーーーその光景を見て思い付いたのはその言葉だった。SF映画に必ずと言って良い程に登場する、光を屈折させて不可視化する迷彩装置。こんな物がGGOにあったのかと驚愕している間にも髑髏のプレイヤーは私に近づいてくる。

 

 

「……アスナ、〝閃光〟、〝血盟騎士団〟副団長、予選の、決勝で、確信した。お前は、本物だ」

 

 

〝閃光〟、それと〝血盟騎士団〟副団長、その言葉で髑髏のプレイヤーが私たちと同じSAO生還者(サバイバー)であると分かった。アスナという名前自体は珍しい物ではないが、後の2つを知っているものはSAO生還者(サバイバー)に限られているから。キリト君から聞いて半信半疑だったが、本当にそうだとここで思い知らされた。

 

 

「お前を、殺せば、キリトは、あの時と、同じ様に猛り狂うだろう。そうなれば、あいつは、本物だ。だから、死ね。キリトの、怒りと、殺意と、狂気の、糧になれ」

 

 

そう言って髑髏のプレイヤーは空の右手をマントから出し、三本の指を揃えて額に触れ、胸まで降ろされる。続けて左肩から右肩にスライドさせて十字を切った。そして右手をマントの中に戻し、再び出した時には黒いハンドガンを取り出していた。銃口が向けられるが、私の身体はまだ動かない。

 

 

ーーーゴメンね、キリト君……

 

 

このまま殺されるのかと考えた時、自然と思い浮かんだのはキリト君への謝罪だった。本当だったら彼は私をここには……正確には危険な仮想世界へ連れて行きたく無かったはずだ。それなのに私が我儘を押し通し、その結果殺される事になってしまった。

 

 

髑髏のプレイヤーが黒いハンドガンの引き金を引く……その瞬間、ハンドガンの物とは思えない程の轟音が辺りに響き渡った。髑髏のプレイヤーは身体を大きく仰け反らせているのでさっきの銃弾を躱したのだろう。その場から一歩も動かずに躱していたが、続け様に連続した銃声が聞こえる直前に飛び退いていた。

 

 

「ーーーアスナ、大丈夫!?」

 

 

駆け付けてくれたのはシノンだった。主武装(プライマリ)のヘカートIIでは無い副武装(セカンダリ)の銃を抜いて私と髑髏のプレイヤーの間に割って入る。

 

 

「電磁スタン弾……やっぱり、貴方が〝死銃〟ね」

 

「シノン、だな」

 

「う、あ……」

 

「……ゴメン、もう直ぐウェーブが来るからそれまで待ってて」

 

 

ウェーブさんが来ると聞いて彼の強さを身をもって体感している私は少しだけ安堵した。それにさっきの銃声を聞いてキリト君が引き返して来るに違いない。動かない私を除いた三対一の状況、間違いなく勝てると確信した。

 

 

「クククッ」

 

「……何が可笑しいのよ」

 

「知っている、俺は、お前を、知っているぞ」

 

 

そう言って髑髏のプレイヤーは手にしている黒いハンドガンのグリップの部分をシノンに見せた。それは何の意味も持たない行動のはずだった。ただグリップを見せられた……特徴があるといえば黒い星のような刻印が刻まれているだけ。それだけなはずなのにーーー

 

 

「ーーーあ、あぁ……」

 

 

怯えた声をあげながらシノンはその場に崩れ落ち、手にしていた銃を落としていた。明らかに普通じゃ無い。声だけでも怯えていると分かるのに、シノンの身体は見て分かるほどに震え、錯乱状態になっていた。

 

 

「ーーーイッツ・ショウ・タイム」

 

 

十字を切るジェスチャーをしてからシノンに銃口を向けて、髑髏のプレイヤーは辿々しい英語を呟いていた。それは……SAOで数々の凶行を行なっていた殺人ギルド〝笑う棺桶(ラフィン・コフィン)〟のリーダーの口癖だった。聞いていたリーダーの特徴と一致しないので本人では無いと思われるが、恐らくはリーダーに近い幹部クラスのプレイヤーだろう。

 

 

そして……重々しい銃声が聞こえた。

 

 

 






特に何の感慨もなく倒されるリッチー=サンとついでに倒される夏侯惇=サン。修羅波の印象に残らないクソ雑魚なのが悪い。

原作見て思ったけどアスナもラフコフ討伐に参加しているのならPoHニキの情報とかも共有されているはずだなぁって思った。だからここのアスナはクレイジーサイコホモのPoHニキの特徴を知っていたって事で。


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