修羅の旅路   作:鎌鼬

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BoB本大会・3

 

 

「それで、これからどうするの?」

 

 

シノンの状態と、俺の左腕の部位欠損が回復するまでその場で休憩し、いざ行動という時にシノンが疑問を口にした。

 

 

俺たちの目的はBoBからの〝死銃〟の排除。しかしどのプレイヤーが〝死銃〟なのか、そもそも〝死銃〟が何人いるのか分かっていない。調べるという手もあるのだが、そんな事を悠長にやっていれば他のプレイヤーが〝死銃〟の目標となって殺されるだろう。

 

 

「まずはキリトとアスナと合流だな。2人は元々〝死銃〟について調べるために来た奴らだ。根っからのゲーマーでBoBでも優勝したいと考えてるかもしれないが、少なくとも〝死銃〟がいる状態じゃそんな事しないだろ。んで、2人以外の目に付いたプレイヤーは全員倒す。〝死銃〟はあくまで〝死銃〟本人が撃ったプレイヤーしか殺さないはずだ。じゃないとさっきのシノンみたいにわざわざスタン状態にしてまで接近する理由が無い。何人〝死銃〟のターゲットがいるのか分からないが、この場に居ない奴まで殺さないだろう。殺せたとしても、それは〝死銃〟の仕業じゃ無くなるからな」

 

「……」

 

「どうした?そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」

 

「いや……ウェーブってちゃんと考えることが出来たんだなって……」

 

「ハッハッハ、50AE弾逝っとく?」

 

 

普段は考えなしで行動している俺だがちゃんと考えるだけの頭は持っている。学校のテストの順位は毎回シノンよりも上位だった事を忘れているのだろうか。

 

 

「っと、そろそろ2回目のサテライトだな。俺が警戒しておくから確認宜しく」

 

「分かったわ」

 

 

回復した左腕の状態を確かめながら腰のナイフを逆手で引き抜く。左手に持っていた〝オルトロス〟はシノンのヘカートIIの銃弾を受け流すための犠牲になったので残っているのは右手に持っている一挺だけになる。攻め方を変える必要があるかと一瞬だけ考え、別に変えなくても問題無いと結論付けて周囲の警戒に努める。

 

 

さっきシノンを襲っていた髑髏フェイスのプレイヤーはこの付近には存在しない。格好だけ見れば予選控え室で俺とキリトが出会ったプレイヤーと同じ……だが、()()()()()()()()。1人目の髑髏フェイスは静かに燃える炎を思わせる人物だったが、2人目の髑髏フェイスは楽しんでいるだけのガキにしか思えなかった。2人目の方なら例え不意を突かれたとしてもどうにかできる自信はある……しかし1人目の方は正直に言って()()()()()()()()()()。拍子抜けするほどにアッサリと倒せるかもしれないし、敵わずに負けるかもしれないし、もしかしたら意外といい勝負になるかもしれない。個人的に望みは2つ目だが、俺が殺されればシノンも殺される事になるので望みながらも外れる事を願う。

 

 

「どうだ?」

 

「……数が合わないわ。生存プレイヤーは私たちを含めて10人、死亡プレイヤーは18人。2人足りていない」

 

「その2人が〝死銃〟だ」

 

「どうしてそう言えるの?」

 

「〝死銃〟の目的は分からんが行動は人を殺す事だ。そのためにサテライトを躱す装備なり手段なり持っててもおかしく無い。さっきのシノンの時みたいにな」

 

 

1度目のサテライトの時には俺も確認をしていて、シノンが近くにいる事を分かって行動していた。だけどシノンのすぐそばに他の敵影が無かった事も確認している。恐らくはその時のサテライトを装備か手段で躱し、シノンを狙っていたのだろう。俺の事は簡単に殺せるとでも思っていたのか無視した上で。

 

 

「そんな装備も手段も聞いた事無いんだけど……そう考えるのが現実的ね。まさかあの外見通りに本物の幽霊じゃ無いだろうし」

 

「幽霊ねぇ……幽霊だったらクレイジーわんわんおである俺があの世に叩き込んでやるけどな!!」

 

「く、クレイジーわんわんお……ッ!!似合わないわよ……ッ!!」

 

「笑うか罵倒するかどっちかにしてくれない?」

 

 

クレイジーわんわんおがツボに入ったのかシノンが口と腹を抑えながら笑いを堪えている。その姿を見て安堵する。さっきまで殺されていたかもしれない状況だったのに笑えているという事はそれだけ心に余裕があるという事だ。大丈夫、シノンはまだ折れていない、戦える……そう考えてしまう自分に嫌気が差してしまう。

 

 

「キリトとアスナ、あとシュピーゲルの場所は分かる?」

 

「え、えっと……キリトとアスナは〝草原〟エリア、シュピーゲルは〝廃墟都市〟にいるわね。近くにいるのは〝山岳〟エリアのリッチーだけよ」

 

「ペイルライダー、銃士X、ステルベン、B・Jの反応は?」

 

「ペイルライダーは〝草原〟エリアで死亡、銃士Xは〝廃墟都市〟で生存……ステルベンとB・Jの反応は無いわ」

 

「決まりだ、その2人が〝死銃〟だ」

 

 

容疑者4人の内の2人が仲良く揃って行方不明なんて疑う余地は無いだろう。偶々の偶然の可能性はあるが、それ以上に必然の可能性しかない。疑わしきは罰するの方針で殺らせてもらおう。仮に間違っていたとしても疑わしい行動をしている方が悪いのだ。

 

 

「それじゃあキリトとアスナと合流、その後ステルベンとB・Jを探しながら手当たり次第にプレイヤーを倒していく方向で」

 

「待って、シュピーゲルに話さなくても良いの?」

 

「……あのな、これは殺し合いだ。危険を承知で飛び込んできたキリトとアスナ、危険を求めて飛び込んだ俺、巻き込まれたシノン、関わったのなら仕方ないけど、関わっていない奴まで引き摺り込む必要がどこにある?それにな、ゲームならともかくリアルじゃ()()()()()()()()()()()()()

 

 

そう、GGO内のシュピーゲルはグレネードを撒き散らしながらアサルトライフルを乱射するキチガイ野郎なのだが、リアルの新川恭二という男は臆病者で小心者なのだ。俺と友人になってからは奇行が目立つようになったのだがそれでもその性根は簡単には変わらない。

 

 

だから、俺はあいつと友人なんてやっているのだと思う。痛いのは嫌だと泣き叫ぶ小心者で臆病者。それは人間として当たり前の感情で……それでも、ちゃんと立ち向かうべき時には立ち向かえる強さを持っている。

 

 

そんな奴だから、こいつにこそ朝田詩乃(シノン)を任せたいって思っていて……そう考えて思考を止める。

 

 

「良し、まずはリッチーブチ殺してから〝廃墟都市〟に行くか。キリトたちもそっちに向かってるだろうしな」

 

「リッチーは籠城タイプで上から重機関銃で撃ってくるわよ。前はそれで弾切れ起こして負けたけど今回は対策を取っているはず。それなら無視して〝廃墟都市〟に向かった方が良いんじゃないのかしら?」

 

「リッチーが〝死銃〟のターゲットだったらどうするんだよ。被害者は少ないに越した事は無い、そうだろ?」

 

「……確かにそうね。でも、被害者を出さないとは言わないのね?」

 

「被害が出るかもしれない状況でやらなくちゃいけない事は被害を出さない事じゃなくて被害を少なくする事だ。割り切るって言った方が分かりやすいな。俺は何でもかんでも上手くやれる御都合主義者じゃ無いんでね、そこら辺はシビアにやらせてもらうさ」

 

 

〝死銃〟の動向が掴めていない以上、俺たちが後手に回る事は確定している。犠牲者を出さないように行動したとしても、後手に回る以上は絶対に犠牲者を出す事になる。それなら犠牲者を最小限に留める努力をする。そして、その犠牲者の中に死んでほしく無い奴らが入らぬように努める。

 

 

神様に愛された御都合主義者の主人公ならば犠牲者を出さないで最善の立ち回りをして最良の終わりを迎えられそうだが、生憎と俺はそうじゃ無い。だから出来ることをするだけだ。

 

 

「んじゃ、行くか」

 

 

それでも犠牲者を出したいわけじゃ無い。犠牲者を出さない為に、出たとしても最小で済ませる為に、近くにいるリッチーへと向かう事にした。

 

 

 






修羅波=〝冥狼〟=クレイジーわんわんおとかいう言葉遊び。シノのんはツボってたけど、シノノンだったら首輪とリードを持って突貫していた。

次回、〝冥狼〟ウェーブ&〝氷の狙撃手〟シノンVS獅子王リッチー!!デュエルスタンバイ!!(大嘘)

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