修羅の旅路   作:鎌鼬

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修羅式金稼ぎ

 

 

「それじゃあGGO先輩であるシュピーゲルのレクチャーでゲームを始めようか〜って思ったけど一つ重大な問題が出てくる」

 

「重大な問題?」

 

「金が無い」

 

 

そう、ゲーム初心者であるシノンはもとよりコンバートしてアイテムと同時に金も無くした俺もボーナスとして与えられた1000クレジットしか手持ちに無いのだ。ALOなら初心者向けの武器を一つ買えば無くなる程度の金しか無い。恐らくGGOでもそのくらいの価値しかないはずだ。

 

 

シュピーゲルをボコしてカツアゲするという手段があるのだがあくまでそれは最終手段にしたい。このままだと最終手段を取ることになるが。

 

 

「おうシュピーゲル、どうにかしろよ。出ないとお前の装備をカツアゲする事になるぞ?」

 

「止めて!!せっかく集めた装備なのに!!大丈夫だから!!手っ取り早くウェーブのキチガイじみたプレイヤースキルでお金は稼げるから!!」

 

「だったら早く案内するんだな」

 

「ゆう……じん?」

 

 

シノンが俺たちの関係を見て首を傾げているがそうされても態度は変えない。これが俺たちの関係なのだ。

 

 

「シュピーゲル、お前は俺の奴隷(ゆうじん)だよな?」

 

「うん、ウェーブは僕の家畜(ゆうじん)だよ!!」

 

「「HAHAHA!!」」

 

 

互いの肩を叩きながらアメリカンに笑ってみるがシュピーゲルの目は笑っていない。絶対にこいつ別の言葉を友人と呼んでたな。

 

 

「そういえば2人はいつからの付き合いなの?」

 

 

金稼ぎが出来る場所へ向かう途中にシノンが純粋な疑問なのかそう口にした。

 

 

「いつからって……高校に入学した時からだな」

 

「どう見ても10年来の関係みたいな感じなのだけど」

 

「ほら、ウェーブって言動狂ってるじゃん?それに付き合わされたら遠慮してるのが馬鹿馬鹿しくなって同じように接してたらこんな感じになったんだよ」

 

「ヤバかったな。学年に1人はいそうなひ弱なモヤシだったのに気がついたらちょっと煽っただけでタバスコ入りの催涙スプレー噴きつけてくるキチガイになってるんだから」

 

「悪ふざけでパイ投げたら受け止めて投げ返された上に関節外して強制的に土下座させた事は忘れない」

 

「どっちもどっちよ……」

 

 

シュピーゲルのキチガイっぷりを聞いて頭痛がするのかシノンは頭に手を添える。そういう反応をする辺り、彼女は常識的な思考を持っているようだ。出来れば俺たちのようなキチガイにはならないで欲しい。

 

 

付き合っていく内に汚染されたら知らないけど。

 

 

「っと、ここだよ」

 

 

シュピーゲルの案内したのは一見すればアミューズメントパークのような店。NPCの店員が矢鱈と露出度の高いコスチュームを着ているがその手に握られているのは黒光りする拳銃や機関銃。そして店の中にも同じ物が飾られている。

 

 

「ガンショップ?」

 

「そうそう、初心者向けの店だから覚えておいて損はないよ。掘り出し物が欲しかったらディープな専門店に行けば見つかるかもしれないから」

 

「へぇ……色々種類があるのね」

 

「シノン、大丈夫なのか?」

 

 

リアルでシノンは銃の本を見ただけで嘔吐していたのだ。VRMMOでは嘔吐出来るとは聞いた事は無いが、極度の緊張や興奮状態で心拍数が上がればアミュスフィアの安全装置が働いて強制的にログアウトさせられる事になる。しかしシノンは興味深そうに銃を見ているだけで、リアルの時のように顔色を変えたりはしていない。

 

 

「……そういえば平気ね」

 

「仮想現実では平気なのね。良かった良かった、あの時みたいにならなくて済んだな」

 

「……忘れなさい」

 

「ごめん、記憶力良いから基本的に忘れないの」

 

「〜〜〜ッ!!」

 

 

昨日の事を思い出したのか、シノンは顔を真っ赤にして睨みながら殴ってくる。圏内の上に初期ステータスなので痛みは欠けらも感じない。寧ろ猫の様な雰囲気のシノンがこんな事をしても和むだけである。

 

 

「んで、金稼ぎってどこで出来るんだ?」

 

「えっと確か……あぁ、アレだよ」

 

 

そう言って指差した先にあるのは腰ほどの高さの柵に囲まれた幅が3メートル、長さが20メートル程の西部劇の様なセット。その一番奥では酒場の様なセットを背にしたこれまた西部劇のガンマンの格好をしたNPCが立っていて、時折腰のホルスターからリボルバー式の拳銃を引き抜いて挑発的なセリフを叫んでいる。

 

 

「何アレ?」

 

「〝Untouchable〟っていうギャンブルゲーム。手前のゲートから入って奥のガンマンの銃撃を躱しながら前に進むゲーム。今からやるみたいだし見た方が早いんじゃない?」

 

 

シュピーゲルが言う様に今からこのゲームをプレイしようと2組のプレイヤーの片方が手前のゲートに設置されていたキャッシャーのパネル部分に手を乗せるとそれだけで支払いが済んだのか賑やかなファンファーレが鳴り響く。そのファンファーレに引き寄せられ、野次馬なのかプレイヤーがゾロゾロと集まって来た。

 

 

拳銃を弄んでいたガンマンがホルスターに拳銃をしまい、右手を添えて早撃ちの姿勢を取る。プレイヤーの目の前にウインドウが現れて3カウント、0になった瞬間にゲートの金属バーが開いてゲームが開始された。

 

 

20メートルならば大した距離では無い。普通に走れば数秒で走り抜けられる距離だがプレイヤーは数歩程ダッシュしてその場で急停止、上半身をズラして右足を上げるという奇妙な格好になった。

 

 

ここにもキチガイがいるのかと思ったが違ったらしい。ガンマンが拳銃を引き抜き立て続けに3発ぶっぱなす。そのプレイヤーが奇妙な格好になる前に頭と足があった場所を赤いライトエフェクトを纏った弾丸が通り過ぎて行った。

 

 

「今のは……」

 

「〝弾道予測線(バレットライン)〟による攻撃回避。相手の銃撃の軌道を教えてくれる守備的システム・アシストだよ。確か銃撃による戦闘にゲームならではのハッタリ的な面白さを盛り込む為に採用されたとかなんとか」

 

「ふぅん」

 

 

説明を話半分で聞き流しながら俺はゲームから目を離さない。1度目の銃撃を回避し、2度目も立て続けに放たれた3発の銃撃を同じ様に回避してガンマンがリロードする。そして3度目の銃撃でガンマンはリズムを変える。2発までは同じ間隔で撃ち、少し間を開けて3発目を撃ったのだ。2発を躱し、遅れて来た3発目を大きく仰け反って躱す事が出来たがその姿勢では続かない。ガンマンがニヤリと笑い、ゲームオーバーと叫んで行動出来なくなったプレイヤーを撃った。

 

 

結果そのプレイヤーは10メートルも満たない距離でゲームを終了させた。周りのプレイヤーからはやっぱりかとか、ガンマン凄えなどの感想が飛び交っている。

 

 

「こんな感じのゲーム。プレイ料金が500クレジットで10メートル突破で1000、15メートル突破で2000クレジットが賞金。それで、ガンマンに触れたらこれまでプレイヤーが突っ込んで来たプレイ料金を全額バックなんだよ。これはもうリアル戦闘民族のウェーブにやらせるしか無いって思ってさ」

 

「ちなみに全額っておいくら?」

 

「看板のところに書いてあるよ。今なら……15万ちょっとだね」

 

「15万!?」

 

 

1000クレジットしか無い俺たちにとって15万クレジットは大金に等しい。仮にシノンと山分けしても一人頭7.5万クレジットになる。それだけあれば初心者には充分すぎる程の装備が整えられる。その上、このゲームはどう考えても()()()()()()()()。ここまで肥やしてくれたプレイヤーたちに感謝しよう。

 

 

「んじゃ、やって来るわ」

 

「大丈夫なの?」

 

「へーきへーき。こんなのクソジジイに奇襲された時の事を考えれば楽過ぎて欠伸が出る」

 

 

ヘラヘラといつも通りに笑いながら感想を言い合っていたプレイヤーの集団を掻き分けてゲートのキャッシャーに手を添える。次の挑戦者が出た事にか、それとも俺のアバターの見た目に釣られてなのかプレイヤーたちは話していた内容を感想から囃し立てる様な野次に変える。

 

 

ウインドウのカウントダウンが0になり、ゲートの金属バーが開く。それと同時に俺は走り出した。

 

 

前傾姿勢、ただ早く進む事だけを考えて足を全力で前へ前へと動かす。5メートルを超えたところでガンマンが拳銃を引き抜き、銃口をこちらに向けてトリガーに指を乗せる。その瞬間に前へと出していた左足を交差させながら前進して身体一つ分右へとズレらす。

 

 

そして赤い線ーーー〝弾道予測線(バレットライン)〟が現れてさっきまで身体があった所を弾丸が通り過ぎて行った。

 

 

どんなに早撃ちをしたところで所詮は銃なのだ。弾丸は銃口の向けられた方にしか飛ばないし、引き金を引かなければ発射されない。銃口と引き金を引く指、それだけ見れば()()()()()()()()()()()()()

 

 

続く3発も同じ様に左にズレて躱して10メートルを突破。ガンマンは空になった薬莢と新しい弾の交換を0.5秒の早業で交換し、先程の挑戦者を仕留めた変則的なリズムでの射撃を放つ。2発は更に左へと避けて、1発を()()()()()()()()()()()()()()()()()()。野次馬からどよめきが聞こえるがゲームからの警告や強制中止は無いのでルール的にはセーフらしい。

 

 

そして柵を蹴り、()()()()()()()()()()()。柵の上を2発、柵から降りると考えていたのか柵のそばを1発の弾丸が通り抜けていく。

 

 

残り5メートルとなりって地面から降りる。それと同時に早業のリロードが終わり、銃口が俺からズレる。その向きから予想出来るのは横薙ぎの銃撃。成る程、俺が左右に逃げ続けたのを学習してなのか逃げ道を塞ごうとしているらしい。

 

 

それに対して俺は左右に逃げず、更に身体を前へと倒した。もはや地面スレスレまで倒れたことで頭上を6発の弾丸が予想していた通りに横薙ぎで放たれた。これで弾切れ、あと0.5秒でリロードされたとしても撃つまでの間で充分にガンマンに触れることが出来る。

 

 

しかしそこでガンマンが()()()。弾切れで使えないはずの拳銃を向けて来る。どうやら何か奥の手でも持っているらしい。恐らくはノーリロードでも銃が撃てるのだろう。

 

 

なので、()()()()()()()。ハイスピードからマックススピードへのチェンジオブペース。ガンマンが何かするよりも先に間合いを詰め、引き金を引くよりも先に拳銃を蹴り飛ばす。

 

 

宙を舞うガンマンの拳銃。触ればクリアと聞いていたが蹴りでも触ったという判定になったのか、ガンマンは空になった手を震えさせながら〝オーマイ、ガーーーっ!!〟と叫び、背にしていた酒場から大量のクレジットを吐き出した。

 

 

ジャラジャラを音を立てながら流れ出るクレジットを見ても野次馬からは何も聞こえない。ニヤニヤと笑うシュピーゲル以外のシノンを含めた誰もが目を見開き、口を開けて信じられないと驚愕している。

 

 

そして俺はーーーやはりN()P()C()()()()()()()()()()などと言う感想を抱いていた。

 

 

 






弾道予測線?そんなものが無くても銃口と指が確認出来れば充分なんじゃよ。散弾銃でも無い限りは銃弾は銃口から真っ直ぐにしか飛ばないし、引き金を引く指を見ればいつ発砲するか分かるし。それを分かってサラリと実現出来るのが修羅なのだよ。でも修羅波は不満な模様。やっぱりパターン化されたNPCよりも不規則なプレイヤー相手の方が良いらしい。

あとガンマンよ、レーザーはキリトちゃん君が来るまで取っておけ。


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