修羅の旅路   作:鎌鼬

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本大会前・現実

 

 

「あいつ、ホントムカつく……!!」

 

 

冬に入って誰も居なくなった公園で朝田は罵倒を吐きながらブランコを蹴って八つ当たりしている。Fブロックの優勝はキリトで、準優勝は朝田だった。それが普通に戦っての結果ならここまで荒れはしなかっただろうがヘカートIIの弾丸を斬り払われ、その上密着して降参するように促されてなので屈辱なのだろう。隣で缶コーヒーを飲んでいる恭二にどうしたものかと視線を向けるが目を逸らされてしまった。

 

 

取り敢えず何か飲ませて落ち着かせようとベンチから立ち上がって自販機でホットの紅茶を自分用と合わせて2つ購入する。そして戻ってくると足を抑えて蹲っている朝田と愉しそうに笑っている恭二の姿が見えた。

 

 

「何があった」

 

「八つ当たりの力加減を間違えて自滅ってところかな?」

 

「どうしようもねぇなぁ……ほら、これ飲んで落ち着け」

 

「〜〜ッ!!あ、ありがと……」

 

 

痛みに悶えながら手を出した朝田に紅茶を渡し、自分の紅茶を一口飲む。まぁ確かにキリトは色んな意味でやり過ぎだったと思う。朝田が勝手に勘違いしただけかもしれないが性別を偽り、予選トーナメントの決勝戦という大舞台で多数の人目があるのにあんな事をしでかしてくれたのだから。その後、アスナに圏内だが光剣で滅多打ちにされても当然だとしか言えない。ドナドナされてる時に目を逸らして裏切ったな的な目をされてもこっちが困る。

 

 

「でも、朝田さんがそんなに他人を気にするなんて珍しいよね?」

 

「……そうかしら?」

 

「おいおい、言ってやるなよ……朝田でもシノンでもツンツンしてるから基本的にボッチなんだからさ……」

 

「〜〜ッ!!」

 

 

ボッチ発言が琴線に触れたのか中身の入ったままの缶を投げられるがハンゾウの投げナイフに比べれば遅いので受け止める。中身が少し溢れて手が汚れたが気にするほどでもない。

 

 

「でもいい傾向である事には違いないな。他人を気にすることが出来るっていうのは余裕が出来たって事だからな。いつもいつも張り詰めて崖っぷちギリギリの生活するよりも余裕があった方が余程健全だし」

 

「不知火って時々そういう医学的な事言うよね。身内でそう言う人がいるの?」

 

「漣式メンタルレッスンの賜物ですけど何か?」

 

「漣式って付くだけで血生臭く感じるのはどうしてかしら」

 

「そういう人種だからじゃないかな?」

 

「否定はしない」

 

「否定しなさいよ……」

 

 

前までは躍起になって否定していたが最近は面倒だと考えるようになってしまって濁す様に返すのが普通になってしまった。爺さんが見たら笑うか……いや、絶対に腹抱えて笑う気がする。それ以外にイメージが出来ない。

 

 

「でも金本さん辺りならいつもはクールなのに〜とか騒ぎそうじゃない?」

 

「あいつは何処か盲目的な所あるからな」

 

 

今この場にいないクレイジーサイコレズこと金本だが、あいつは朝田を普通の少女として見ていない。負けたくない、強くなりたいと張り詰めているシノンの様な姿こそが朝田の真の姿だと思い込んでいる節がみられる。この場に金本がいたらいつもの朝田じゃないとか喚いてセルフ発狂キメていたと簡単に想像出来る。

 

 

「っと、もういい時間だな」

 

 

公園に集まって話していたのだが辺りは暗くなっていて、時計を見ればBoBの本大会まで後3時間弱といった所である。余裕を持って行動するならそろそろ家に帰っておきたいところだ。

 

 

「本当だ……じゃあ私は帰るわね」

 

「あぁ不知火、少し話がしたいから残ってくれる?」

 

「……それって朝田がいない方が良いやつ?」

 

 

小声で訊ねると恭二は小さく頷く。話の内容は全く想像出来ないが、恭二の目を見る限りでは巫山戯た話ではないと思われる。もう少しだけ恭二と話して帰ると朝田に伝えて、彼女と一旦別れる事にした。

 

 

「……で、何の用?」

 

「1つだけ聞きたいんだけど……不知火って、()()()()()()()()()()()?」

 

「……」

 

 

唐突に、前触れもなく放たれた恭二の言葉に驚愕する。カマかけかと考えたが、恭二の目は確信している様だった。

 

 

「……うん、好きだよ」

 

「……やっぱりか」

 

「どうして分かった?一応表には出さない様にしてたんだけど?」

 

「おいおい、僕は君の親友だぞ?そんな事、ずっと見てれば自然と分かるさ」

 

「……気持ち悪」

 

「喧嘩売ってるんだよな?そうだよな?」

 

 

青筋を浮かべる恭二をドウドウと落ち着かせ、空になった缶をゴミ箱に投げ捨てる。

 

 

「で、いつからなのさ」

 

「五月だな。一目惚れだった」

 

「わーお……告白、するんだよな?」

 

「何いってんだよ……()()()()()()()()()

 

 

確かに恭二に指摘された通りに俺は朝田のことが好きだ。告白して付き合いたいという気持ちもある……()()()()()()()()()

 

 

俺は彼女に相応しく無いから。彼女に相応しい人間は他にいるから。

 

俺みたいな()()()()()()()、彼女に似合わないから。

 

 

「それって家の都合とかそんなので?」

 

「それもあるっちゃあるけどほとんどは俺の個人的な理由からだな」

 

「そっか……」

 

 

頷きながら恭二は立ち上がり……殴りかかってきた。なので一歩ほど下がって避ける事にする。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

何故だか気まずい雰囲気となり、恭二が再び殴りかかってくる。また下がって避ける。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

殴る、避ける、殴る、避ける、殴る、避ける、殴る、避ける……

 

 

「当たれよッ!!」

 

「嫌だよッ!!」

 

 

GGO内では兎も角、リアルではモヤシな恭二は肩で息する程に体力を消耗しながら理不尽な要求をして来た。誰が好き好んで殴られるというのか。ドMでも無い限りは嬉しく無いだろうし、俺はSなので虐められて悦ぶ趣味は無い。

 

 

「なんで伝えないんだよ!!恥ずかしいことかもしれないけどそれは立派な事だろう!?」

 

「じゃあ逆に聞くけど……()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

恭二が俺の感情に気が付いていた様に、俺も恭二が朝田の事を好いているのに気付いていた。10月頃からだろうか恭二の朝田を見る目が変わっている事に気付き、それが異性に向ける好意だと簡単に気付く事が出来た。

 

 

「教えるかよッ!!」

 

「まぁ教える教えないは人の自由だからな……だけど、俺は伝えないよ」

 

 

朝田は結果として人を殺してしまった。だけど俺は明確な意思と殺意を持って人を殺しているのだ。そんな人間がどうして彼女に好意を伝えられる?どうして彼女の隣に立てると思う?

 

 

「……あぁもう!!だったらBoB本大会で勝負だ!!僕が勝ったら告白しろ!!」

 

「じゃあ俺が勝ったらお前が告白しろよ」

 

「あぁいいさ!!勝って朝田さんに告白させてやるからな!!」

 

 

そんな俺と恭二のどちらにも勝利した時のメリットの無い約束を交わし、恭二は荒々しく歩きながら公園から去って行った。

 

 

「まったく……お節介だよな、お前」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒っ……」

 

 

漣君と新川君と公園で別れてからコンビニにより、夕食代わりのミネラルウォーターとアロエ入りヨーグルトを購入して寒さに身を震わせながら自宅へと急ぐ。2人が何を話しているのか気になるところではあるが、首を突っ込んでもロクな事にはならないと直感が警報を鳴らしていたので素直にそれに従う事にした。

 

 

時間が気になって携帯で確認して見たがまだ6時手前、本大会開始の8時までは2時間もあるが装備や弾薬の点検に精神集中などやるべきことは沢山あるのでできるだけ早くログインしておきたい。

 

 

そうして自宅の前まで辿り着いたのだが……自宅の扉の近く、正確には漣君の部屋のドアの前に人がいる事に気がついた。

 

 

GGOのウェーブの髪を肩に掛かるほどに長くして、サングラスを掛けた人物がフェンスに身体を預けてタバコを咥えていたのだ。まるで本当にGGOのウェーブが現実に登場したのでは無いかと錯覚して唖然とする私に気がついたのか、その人物はタバコの火を消して携帯灰皿に吸い殻をしまい近づいてくる。

 

 

「やぁやぁお嬢さん、ここの漣って奴知らない?」

 

 

耳障りの良いハスキーボイスから女性だと気がつく。彼女は漣君の部屋を指差し、彼の所在を訪ねて来た。

 

 

「えっと、彼ならその内帰ってくると思いますけど……連絡しましょうか?」

 

「いいよ、サプライズで来ただけだから。居なかったら居なかったでまた明日来れば良いし」

 

 

ケラケラと楽しげに笑う姿は爽快で、いつも見ているウェーブとは違う印象を与えてくれる。その姿から漣君の身内なんだとは察しがつく。タバコを吸っていたから成人している……姉か母親だろうか。

 

 

「……ふんふん」

 

「……どうかしましたか?」

 

「いんや、こっちの事情だから……いのち短し恋せよ少女ってね!!」

 

「……ッ!?」

 

 

始めは何が言いたいのか分からなかったが、彼女の言いたい事を理解した瞬間に顔が冬だというのに一気に熱くなるのが分かる。少し観察されただけで分かってしまうとは、漣君の身内にはバケモノしか居ないのだろうか?

 

 

「お嬢さんの様な良い子が不知火の嫁に来てくれたら良いんだけどねぇ」

 

「話が飛んでませんか?」

 

「なんで?好きになったら押し倒して既成事実作れば良いじゃん」

 

「漣の家って業が深すぎませんか?」

 

 

彼女の言葉に戦慄するしか無い。なんで好きになった時点でゴールまで突っ切っているのだろうか。そもそも既成事実作るとか逃がすつもりが無い辺りが恐ろしい。

 

 

「アタシは蓮葉(れんは)、また来る時までに不知火のこと押し倒してくれたら嬉しいな」

 

「ちょっと!?」

 

 

あははは〜なんて笑いながら蓮葉さんはフェンスを乗り越えて飛び降りた。思わず駆け寄り下を覗き込んだが蓮葉さんの姿は見えない。左右を見渡しても姿は見えず、静かなのに足音1つ聞こえない。

 

 

「漣君の身内って本当に規格外なのね……」

 

 

漣君がリアルで規格外だったから身内もそれくらいだろうと思っていたが、蓮葉さんという実物を見てしまい本当に規格外だった事を思い知らされてしまった。

 

 

蓮葉との邂逅で若干疲れた身体を引きずって自宅に帰る。本大会の開始までにこの掻き乱された心を鎮めておかないといけないと考えながら。

 

 

 





修羅波、シノのんに一目惚れをしていたという驚愕の事実。だけど自分みたいなキチガイじゃダメだって事で好きになるだけ、それ以上を求めていなかった。

蓮葉とかいう漣一族の刺客が登場。修羅波の身内ってだけでキチガイだって考えてしまったそこの貴方!!……正しいです!!


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