予選準決勝を終えて結果としてピトフーイを合わせた全員がBoB本大会への出場権を手に入れた。ここまでは予想をしていたので驚くことでは無いが、問題があるとすれば本大会に出場するプレイヤーの中に一体何人の〝死銃〟が存在するかと言うことだろう。
予選に敗れ、肩を落としながら去って行ったプレイヤーたちがいるのでこの場は予選開始時よりも空いているのだがあの髑髏フェイスのプレイヤーの姿は見えない。シノンとシュピーゲルに聞いてみたが戦っていないらしく、そもそも見かけてもいないそうだ。あれが負けるとは考えられないので勝っているに違いないが、ここまで姿を見せないとなると不気味で仕方がない。
「まぁ、そんな事よりも今はこっちだな」
6度目でお馴染みになりつつある黒い空間に転移で送られ、ハンゾウ戦で消費した50AE弾を〝オルトロス〟に装填しながら空中に浮かぶウインドウを眺める。そこにあるのは俺の名前とAsuna……アスナの名前。同じブロックで、俺とアスナが本大会への出場権を獲得したのなら決勝で戦うのは当たり前の事である。〝死銃〟の捜索をしている2人からすればこれは消化試合なのかもしれないが、出来る事なら全力で相手をしてほしい。
何せ、キリトとアスナは数少ない全力を出しても簡単に死なない相手だから。行動パターンと思考パターンは全て把握しているが、それでもSAOでの経験則から時折予想出来ない行動をしてくる。それが楽しみで仕方がない。
シノンと負けないという約束を交わしている以上、結果は勝利以外には存在しない。だけどせめてその過程を楽しませて欲しい。
ウインドウのカウントダウンがゼロになり、予選トーナメント決勝戦のバトルフィールドへ送られる。フィールドは荒野だが真ん中には河が流れていて、そこに鉄橋が架けられている。アスナの気配を探るまでもなく、直感であそこにいると分かって鉄橋に向かい足を進める。そして鉄橋に到着した時に、アスナもまた鉄橋の向かい側に到着していた。鉄橋の全長は200メートル程、障害物は一切無しの一直線。
アスナが光剣とハンドガンを抜く。
それに応えるように〝オルトロス〟を握り直す。
そしてーーー合図もなく、打ち合わせたかのように同時に飛び出した。
アスナのステータスはAGIーSTR型。筋力による一撃の火力では無く、敏捷による手数の火力が脅威。ALOではレイピアを使っていたが実物の刃物がナイフか銃剣くらいしか存在しないGGOでは光剣を使うことにしたらしい。だとするなら戦い方はハンドガンで牽制しながら接近して光剣でトドメというこれまでと同じ方法になるだろう。
でも、
100メートルまで近づいた時点からアスナはハンドガンの銃口をこちらに向ける。これまでの戦いで使い方を学んだのか向けられた銃口はブレずに俺に向かっていた。その成長の早さに感心して口笛を吹きながら
それを見てアスナは銃は通じないと判断し、ハンドガンを投げ捨てて一気に加速した。〝オルトロス〟の銃口を向けるものの俺と同じように銃口を向けられた瞬間に左右へジグザグに走られて狙いを定めることが出来ない。このまま撃っても弾の無駄になるだけだと考え、俺もアスナと同じように一気に加速する。
そして鉄橋の中心部で衝突する。先制攻撃はアスナ。ALOと同じ動きで1メートルはある光刃をレイピアのように突き出す。刀身がエネルギーで出来ている光剣は正確には斬る様に焼く上に実体が無いので鍔迫り合うことが出来ない。ナイフで防ごうとしたところでナイフごと焼き斬られるかナイフを無視して貫かれるかのどちらかにしかならない。
なので、身体を前へと倒す。頭上を通り過ぎる光刃を寄り詰めながら躱すのと同時に呼吸を盗み、合わせながらアスナの無意識の領域へと侵入し、俺を見失って無防備な首筋目掛けてナイフを振るう。
雑多ならば気付くことなく、それなりなら気が付いた上で殺す事が出来る必殺の一撃。それをアスナは
ALOでも同じ様な殺され方を何度もしているからなのかキリトとアスナは時折呼吸を合わせた上での必殺の一撃を躱す事がある。このタイミングでそれをするのかと嬉しく思いながら追撃の光刃を躱しながら〝オルトロス〟のナイフを振るう。
アスナの光剣は防御不可能、俺の場合は防がれたとしても一斬からそのまま必殺まで繋げられるので回避するしか無い。互いに触れられないという条件下だからなのか、結果としてGGOで行われたアスナのと超接近戦は息が掛かるほどの近距離だというのにどちらとも被弾しないというあり得ない接近戦になっていた。
一息の間に二、三度、誰に教わったわけでも無いひたすらに磨き抜かれた光刃の刺突が空を穿つ。
一度でも当たれば……それこそ皮一枚程度でも必殺まで繋げるナイフがアスナの残像を断つ。
当たらない、当たらない、当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない当たらない……ただ空を割く音と互いの足音だけしか聞こえない。気合の掛け声すら惜しいと一言も言葉を発する事なく光剣とナイフは振るわれる。
そして、アスナが成長を見せる。
身体からは余計な力が消え、回避と光剣を振るう為に必要な力しか使わない。その上呼吸を外された訳でもないのに無意識の領域からの攻撃を、認識不可能な攻撃を認識不可能なままで対応し始めている。それはALOで俺と戦った経験を元にしているのか、普通ならば信じられない速度で行われている。
冗談がキツイ、と辟易するーーーなんて事はしない。よくぞ成長したと拍手喝采で喜びたい。目の前の1人の少女が、この世界にやってきた目的を放り出してただ俺に勝とうと参加を魅せている。
それを辟易する?それこそ冗談、素晴らしいと賞賛する以外に何があるというのだ。
だからこそーーー
ほぼ同時に放たれる様に感じるまで加速した刺突を避けながらさらに踏み込む。完全な回避は不可能だと判断し、急所を狙われているものだけを避けてそれ以外を斬り捨てる。無傷で勝とうだなんて考えない。それくらいしなければ勝てない相手であるから。
密着状態一歩手前まで肉薄される事を嫌ってからアスナが一歩半下がろうとするのを逃さない。下げようとした足を足で引っ掛けて体勢を崩し、ナイフを突き出す。
「クーーーッ!!」
僅かに苦悶の声が溢れてアスナの身体が倒れながら回転しナイフを躱すのと同時に光剣が心臓目掛けて突き出される。必殺の一撃を回避してからの必殺の反撃。ALO時代ならばそこで終わっていたはずなのにアスナは終わるどころか貪欲に勝ちを狙っている。
ALO時代の俺ならばそれを受け入れて心臓をくれていただろう。
だけど、今の俺には敗北は許されていないのだ。
俺が負けるのは、シノンだけだと決めたから。
「勝つのはーーー俺だぁッ!!」
左手の〝オルトロス〟を手放して光剣を握る手首を掴んで狙いを逸らさせる。心臓に向かうはずだった光剣は脇腹へと突き刺さり、俺のHPを大きく削るものの死亡までは届かない。
驚愕するアスナの顔に右手の〝オルトロス〟の銃口を向ける。アスナの体勢は崩れ切っていて回避は不可能。仮に出来たとしても、それよりと50AE弾がアスナの顔を吹き飛ばす方が早い。
「……あ〜あ、負けちゃった」
諦めた様に微笑むアスナへ向けて、躊躇いもなく引き金を引いた。
「おい、GGOしろよ」
「してるだろ?銃持ってるし」
「私も銃使ってるからセーフ」
「アウトだよコンチクショウ」
アスナを下してBブロック優勝した俺を待ち受けていたのはCブロック準優勝のシュピーゲルからの罵倒だった。
「GGOだからって銃使わなくちゃいけないって決まりは無いだろ?」
「何のためのGGOだよ……!!」
「殺戮」
「このキチガイめッ!!」
「えっとキリトくんとシノのんはっと……」
「シノのん、だと……!?」
「コミュ力高すぎじゃないかなこの人」
シノのんとかいうまさかのワードに戦慄しているとアスナは目的のモニターを見つけたらしく視線を止める。それを見ると10メートル程の距離で〝PGM・ウルティマラティオ・ヘカートII〟を構えるシノンと光剣を構えるキリトの姿が映っていた。そして合図のつもりだろうか弾丸を指で弾く。
そして弾丸が地面に落ちた瞬間に〝PGM・ウルティマラティオ・ヘカートII〟が火を吹き、キリトが光剣を振っていた。何をしたのか肉眼では分からないが想像はつく。
キリトは今の一瞬で、シノンの弾丸を
そしてキリトは腰に下げていたハンドガンを抜こうとしたシノンに肉薄し、シノンの喉元に光剣の切っ先を向けていたーーー
「アスナ様、判決を」
「ギルティ」
何か会話をしているキリトとシノンの映像を光の無い目で見つめながら、アスナはキリトへ死刑宣告を下した。
俺はそんな2人の映像を見て、胸によく分からない疼きを感じていた。
バーサークヒーラーVS修羅波。GGOなのに銃を使わない予選トーナメント決勝戦とかいう狂気じみた決勝戦が行われたらしい。
アスナが戦えていたのはALO時代での修羅波との戦闘経験があったから。無かったら最初の衝突で首チョンパされておしまいだった。
決勝戦から帰ってきたキリトちゃん君は眼から光を無くしてアスナ様にドナドナされていったらしい。