修羅の旅路   作:鎌鼬

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BoB予選トーナメント第五回戦

 

 

二回戦、三回戦、四回戦と予選は何の感慨も無く勝ち進んだ。感想なんて用意していない。何せどいつもこいつも対戦相手が俺だと分かって絶望して自殺(こうさん)するか、背後を取られてそのまま〝ケルベロス〟で撃ち殺されるかのどちらかだったから。これなら一回戦で戦ったダインの方が記憶に残っている。勘とはいえ背後を取った俺に気が付いて反撃したのだから。

 

 

シノン、シュピーゲル、アスナは順調に予選を勝ち進んでいる。しかしキリトだけは違っていた。あの髑髏フェイスのプレイヤーと出会ってからは鬼気迫る様子で捨て身の特攻を繰り返して戦っていた。人体の急所に迫る弾丸だけを光剣で斬り払い、それ以外の物は全て無視する。ゼロ距離まで踏み込んで、銃ごと相手を叩き斬るという神風特攻のような戦い方で。

 

 

あのプレイヤーとの出会いがキリトの何かを刺激したらしい。別れてからの怯えているような姿はなりを潜めているが、今も今でどこか危うさを感じさせる。アスナがフォローしているからこれで止まっているのか、それともフォローなんて関係なしであれなのか分からないが、あの調子のキリトと戦っても()()()()()()()()。神風特攻なんて言えば聞こえは良いが要するに瀕死で暴れまわる獣と同じ。油断は出来ないものの、それと同じ対処をすれば簡単に封殺出来る。

 

 

出来ることなら予選決勝戦で戦うであろうシノンと戦っていつものキリトに戻って欲しい。じゃないと……()()()()()()()()()

 

 

そんな事を考えながら五回戦……Bブロックから決勝へと進出する2人を決める戦いが始まる。転移の先は廃墟となった都市の一角。乱立した廃ビルが死角になっている上に、廃ビルの中も解放されているので行動出来る範囲はこれまでの予選の中で一番広くなっている。

 

 

もしも相手が狙撃手(スナイパー)だったら追い掛けるのが面倒になっていたが聞いた話では狙撃手(スナイパー)では無いので問題無いだろう。

 

 

五回戦の相手はハンゾウというプレイヤーで、GGOで忍者ロールプレイをしていると有名なプレイヤーである。俺はあった事はないがシュピーゲルは一度だけ戦った事があるらしく、AGI極振り型の超接近戦を主体としたプレイヤーだと言っていた。GGOで忍者ロールプレイとか正気かと思ったが、考えてみれば俺もガン=カタなんて事をしているので納得する事にした。

 

 

「さぁって、どっこかな〜っと」

 

 

〝オルトロス〟を握りながら鼻歌混じりに廃墟都市の大通りを歩く。いつもなら気配を察知して接近するのだが、ハンゾウの気配を読み取れないのだ。仮にも忍者ロールプレイをしているのなら〝気配遮断〟くらいは出来るのかと思い、気配を消す事で生まれる空白部分を探してみたのだがそれすら存在しないのだ。考えられるのは俺が使っている気配を消すのでは無く周囲と同化させる〝気配同化〟、しかしGGO内では〝スニーキング〟という〝気配遮断〟に似たスキルは存在しているが〝気配同化〟と類似したスキルは存在しない……つまり、ハンゾウはプレイヤースキルとして〝気配同化〟を使える事になる。

 

 

それに気が付いた時に俺は喜んだ。確かに見つけるか見つかるまでは手間だが、〝気配同化〟なんてプレイヤースキルが使えるプレイヤーが弱いはずが無いから。どうしてそんな凄いプレイヤーの存在が噂程度にしかなっていないのか疑問だが、それは後で解決すれば良いと考えて〝気配遮断〟も〝気配同化〟もしないで歩き回る。

 

 

相手が見つからないのなら相手に見つけて貰えば良い。きっとハンゾウは〝気配察知〟を使えるだろうから。

 

 

そう考えて10分程廃墟都市を練り歩き、ようやくハンゾウは動いてくれた。俺が看破できなかった隠密が僅かながらに乱れ、()()()()()()()()()()()

 

 

「流石にそこまではイってなかったか」

 

 

隠れる事に専念していれば完璧であったが、攻勢に出ようとした瞬間には乱れる辺り()()()()()()()。仮にも忍者ロールプレイをしているのなら完全に気配を隠しながら一撃で暗殺して欲しかったがそこまでは極めていないらしい。まぁそんな技術は現代社会では不要なもので、我が家と同じ頭のイカれた戦闘民族でも無い限りは極めないだろうなと少しだけ残念に思いながら〝オルトロス〟の銃口だけを真上に向けて引き金を引く。

 

 

発砲音と同じ数だけ甲高い金属音が聞こえ、刀身の部分が砕けたナイフが落ちてくる。恐らくはクナイ代わりにでも投げナイフを使っていたのだろう。柄の部分に僅かに残っている刀身には薄っすらと黄色い液体が塗られている。

 

 

「麻痺毒か……割と考えてるな」

 

 

GGO内でも毒物というのは存在し、使用されればバッドステータスが生じる。万能薬的な薬で回復する事ができるのだがそれまでは行動が制限される事になる。今の攻撃で俺を麻痺させ、その間に殺そうとしていたのだろう。ハンゾウの隠密が完璧だったら負けていたのは俺だった。

 

 

改めて頭上へと視線を向ける。そこには廃ビルの窓枠に手をかける事で壁に張り付いて俺の事を見下ろしている人間の姿が見えた。動きやすさを優先しているのかピトフーイが着ていたようなボディースーツを改造した忍者衣装の様な服を着込み、顔をスカーフで覆って隠している。成る程、頑張って表現すれば近未来チックな忍者と言えないこともない。

 

 

「……」

 

 

ハンゾウは挑発のつもりなのか中指を立てると腕の力だけで身体を持ち上げ、廃ビルの中へと姿を消した。気配を探っても同化しているのか追うことが出来ない。

 

 

「分かりやすく誘ってるな……乗ってやるよぉ!!」

 

 

安い挑発で誘われているのを理解出来たがどちらにしても追い掛けなければならないのでその誘いに躊躇わずに乗る事にする。

 

 

廃ビルに足を踏み入れると中は思いの外物が無かった。原型を留めている物は無く、壊された残骸だけが床に散らばっている。光源はガラスが砕かれた窓から射し込む太陽の光だけで窓沿いの通路でなければくらい。一歩歩くごとに埃が舞い上がるがその気になれば無視出来る量でしかない。

 

 

ハンゾウが入って行ったのは五階だったはずなのでそこを目指す事にする。視覚だけでは無く僅かな音を聞き逃さぬ様にと聴覚を、大気の震えを捉える様に触覚を、異臭を感じられる様に嗅覚を、味覚以外の五感を鋭敏化させた上に第六感も働かせる。当然の様に気配は隠さず、それでいて自分の存在を誇張させる様に足音を立てながら奥へと進む。

 

 

日が届かない暗がりの通路を歩き、四階まで辿り着いたが何も無くて拍子抜けだ。ワイヤートラップが無線式の爆弾でも用意されていると思ったが仕掛けられている痕跡は見つからない。トラップハウスにしているからここに逃げ込んだと考えていたが違う様だ。

 

 

「そこのところどうよ?ハンゾウさんや」

 

「……ッ!?」

 

 

頭上から襲って来た不意打ちのナイフを〝オルトロス〟のナイフで防ぎながらハンゾウへと訊ねる。顔を隠しているので表情は分からないが驚愕の声が溢れたのは聞こえた。空中にいる不安定な体勢から放たれた蹴りを一歩下がって躱し、ハンゾウは仕切り直しの為に後退する。

 

 

「……何故分かった?」

 

第六感(シックスセンス)

 

 

ロールプレイのつもりか作っているとしか思えない低い声の疑問に正直に答えたのにふざけていると思われたのか臨戦体勢へと移行された。

 

 

俺のいう第六感とは直感である。人間の誰もが持っているもので、個人差はあるものの危険に対して嫌な予感がしたなどの形で働くことが多い。俺の場合は爺さんの教育のせいで第六感が鋭敏化されているのだ。例え俺が相手の存在に気が付いていなくて不意打ちされたとしても反射的に対処出来る。

 

 

正確に言えば第六感のおかげだけでは無く、隠密から攻撃に移る瞬間にハンゾウの隠密が綻んだというのもあるがそれは置いておこう。

 

 

対戦相手が、敵が目の前にいるのだ。近くに窓は無く、ドアを開かなければ外には逃げられない。後はーーー殺すだけだ。

 

 

左手に持っていた〝オルトロス〟を投擲する。狙いは眼窩、付けられているナイフが突き刺さる様に投げたので避けるか防がなければ大ダメージが発生する。それをハンゾウは首を傾げて頭の位置をずらすことで避けた。その時、一瞬だけだがハンゾウの意識が俺から〝オルトロス〟に向けられる。

 

 

その瞬間を逃さない。ハンゾウの呼吸を奪い、合わせて人間の構造上どうしても発生してしまう認識出来ない死角を把握。その死角へと数歩で潜り込み、腕を伸ばせば触れられる程に接近する。そして脇へとナイフの刃を寝かせて突き刺す。人間の胸部は肋骨に守られているので刃を立てて突き刺しても骨が邪魔をして深く突き刺さらない。その上ハンゾウの重心の移動から胸に防護プレートが入っていると分かったので正面からでは刃が通らない。それを避ける為に脇を狙った。

 

 

発生した痛みとここまで接近された事に驚きハンゾウの身体が僅かに硬直するが手にしたナイフで反撃をして来た。狙いは腹、そのナイフにも麻痺毒は塗られているのだろう当てる事だけに集中していた振り筋だったので開いた左手で手首を抑えて押し倒す。

 

 

「……ん?」

 

 

その時に掴んだ手首が思っていたよりも細かったのでとある可能性に気が付いたがそれを無視して右手で腰に下げていたナイフを抜き、ハンゾウの眼窩に向けて振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜終わった終わった〜」

 

「お疲れ様」

 

「まさかBoBで超至近距離での戦いが見れるなんてね」

 

 

ハンゾウを倒した事で準決勝突破、BoB本戦への出場権を獲得した事で精神的な負担を軽減させながら予選会場へと戻る。そこには対戦相手待ちなのかシノンとシュピーゲルがボックス席に座って出迎えてくれた。

 

 

モニターを見れば光剣を持ったアスナが遮蔽物を使ってアサルトライフルを持ったプレイヤー相手に接近しようと試み、キリトはライフルの弾を斬り払いながら突進をしていた。

 

 

「ーーー御免」

 

 

背後から声をかけられるが髑髏フェイスのプレイヤーの時とは違い、気が付いていたので慌てることはない。振り返ればさっきまで戦っていたハンゾウの姿があった。

 

 

「何かご用で?」

 

「……次は勝つ」

 

 

リベンジの宣言なのか、ハンゾウは少しだけタメを作ってそれだけ言うとさっさとログアウトしてしまった。元々無愛想なのか、それともロールプレイなのか分かりにくいところだ。

 

 

「……さっきのハンゾウさんよね?忍者だって噂の」

 

「一回だけ戦ったことがあったけど強かったのは覚えてる。よく勝てたねキチガイ」

 

「隠密は凄かったけど体術自体はそこそこって感じだったな。だけど反撃したのはベリーグッド。挑まれたらリベンジマッチには応じてやろう」

 

「なんでそんなに上から目線なのよ」

 

「彼も凄いね、またキチガイと戦おうだなんて」

 

「一々キチガイと言わないといけないの?あと、多分だけど()()()()()()()?」

 

「「……ハァッ!?」」

 

 

ハンゾウの性別を明かしたところでシノンとシュピーゲルは驚愕の声をあげた。

 

 

 






ハンゾウ=サンVS修羅波。アンブッシュしたけど失敗し、もう一度アンブッシュしたけどまた失敗。だけど修羅波相手にアンブッシュ仕掛けているだけで相当強いんだよ!!クソ雑魚ナメクジだったらアンブッシュ仕掛ける暇もなくドゴォされるから!!


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