修羅の旅路   作:鎌鼬

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第1予選

 

 

転移で飛ばされた先は真っ黒な空間。舌打ちして音の反響を確かめて見るが帰って来ないので相当に広いか、それともそもそもの果てが無いのかのどちらかという結論に達して興味を無くす。目の前に浮かぶウインドウには予選開始までのカウントダウン、俺と相手のプレイヤーの名前である〝Dyne〟という文字ーーーダインと読むのだろう、それにフィールドの種類である〝森林〟と書かれていた。

 

 

そこで装備の変更を()()()()。シノンやシュピーゲルはフィールドに出る時と〝SBCグロッケン〟にいる時とでは服装を変えているのだが俺は常時紅いコートと黒いインナー、迷彩模様のカーゴパンツと鉄板入りブーツのままだから。

 

 

何故かと聞かれれば習性だからとしか言えない。爺さんと母さんから施された教育と遺伝子レベルで刻まれた漣の本能により()()()()()()()()()()様に思考が誘導されるから。だから今の服装が私服で、同時に戦闘用の服装である。腰に吊るしてあるホルスターには二丁拳銃の〝オルトロス〟とナイフが二本がぶら下げられていて、〝オルトロス〟の方を引き抜くだけで戦う準備は完了してしまう。

 

 

戦闘用の精神の入れ替えなど必要無い。それは常在戦場なんていう心構えからでは無く、通常の精神で戦える様に教育されているから。寝て起きて飯食って働くという生活スタイルに当たり前の様に戦うという行為が組み込まれているから。戦闘とは日常であるからそもそも戦闘用の精神など不要なのだ。

 

 

こんな風に育ててくれた爺さんと母さんを何度ぶち殺したいと考えたことか。

 

 

カウントダウンがゼロになり、予選のステージへと飛ばされる。転移先の森林はそのままで捻りが欠片もない。木のサイズはマチマチだが幹の太さは大きな物で人1人隠れられる程度、小さい物で人が半分隠れられる程度の物。木々が障害物になり、見晴らしの悪いステージだった。

 

 

シノンのアンチマテリアルライフルがあれば障害物ごとズドン出来たかもと考えながら、対戦相手の気配を探る。それはSPさえあれば誰もが取れる様なスキルでは無く、リアルで出来るからゲーム内でも出来るというプレイヤースキル。1と0で構成されているゲーム内では出来ないと思っていたのだが、エネミー相手は兎も角プレイヤー相手には通用するのだ。恐らくプレイヤーは生きているからなのだろう。

 

 

流石に最低でも500メートルは離れてスタートするので正確には分からない。だから視覚と味覚と嗅覚を意図的にシャットアウトし、残る触覚と聴覚の精度を引き上げる。動いたことで伝わる大気の震えを感じ取り、発生する音を聞き分ける。それだけでも、大まかな方向を見つけることは出来る。

 

 

「ーーー見つけた」

 

 

ここから南南西に600メートル、そこに人間の気配を見つけ動き出す。リアルなら数十秒掛かる様な距離と環境だが、ゲーム内である以上与えられるステータスの恩恵をフルに使いながら呼吸を最低限にする事で気配を殺し、十数秒で対戦相手であるダインを視界に入れる。

 

 

カウボーイでも意識しているのかそれ風の衣装に身を包んだ大柄な男性がアサルトライフルを片手に木々で身体を隠しながら前進していく姿が見える。身のこなしから少なくともベテランクラスのプレイヤーだと考えられるが、それだけだ。倒せる相手でしか無い。

 

 

自身の気配を殺す〝気配遮断〟から周囲に自身の気配を溶け込ませる〝気配同化〟に移行し、後ろを取る。足音や服の擦れる音を一切立てる事なく手を伸ばせば触れられる程の位置まで近寄りーーー直感でも働いたのか振り向きざまにアサルトライフルの引き金を引かれた。

 

 

咄嗟に地に伏す事で放たれた弾丸をやり過ごしながら足を止めない。避けたことに舌打ちされて距離を取られるもののこの距離は俺の距離だ。左へ、右へと左右に揺れる事で銃口を躱し、徐々に距離を詰めていく。

 

 

「クソがッ!!なんで当たらねぇ!?」

 

「分かりやすいんだよ」

 

 

銃口と引き金を引く指、それだけあれば銃弾を避けられる自信はあるのだが、ここにはそれにプラスしてダインの視線まで加わっている。人とは何かを狙う時に咄嗟にそこを見てしまうものだ。それを理解している者ならばそれを隠したり、敢えて見せる事でフェイントをかけたりすることも出来るのだがダインはそこまで行っていない様だ。素直に撃つ場所を教えてくれる視線と銃口、それに引き金を引く指を見せびらかしてくれれば簡単に避けられる。

 

 

景気良く銃口から弾丸を吐き出していたアサルトライフルだが弾切れを起こして弾幕を止めてしまう。ダインはリロードしようとマガジンを外し、新たなマガジンを付けようとする。その分かりやすい隙を突かない訳がない。

 

 

一歩でダインとの間に出来ていた距離を潰し、〝オルトロス〟のナイフを両肩に突き刺して斬り上げる。胴体との繋がりを無くした腕が地面に落ち、肩の傷口には出血代わりの赤いポリゴンが発生する。

 

 

「good-bye」

 

 

抵抗や反撃を出来ないことを確認し、〝オルトロス〟の銃口をダインの頭に突き付けて引き金を引いた。発射された50AE弾がダインの顔を吹き飛ばし、頭を失った胴体がポリゴンとなって消え去った。

 

 

宙に現れた〝Wave Wins!〟という文字を眺めながら、ノーダメージだったとはいえ反撃してきたダインに敬意を評した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び転移されて予選会場へと戻ってくる。そこにいるプレイヤーは少なく、見かけるにしても応援に来ているプレイヤーくらいしか見つからない。その中にシノンの戦闘でも見ているサヤを見つけ、キャアキャア言いながらアミュスフィアの安全装置が働いたのか強制ログアウトさせられる瞬間を目撃してしまった。

 

 

相変わらずネタに生きているなぁと感心していると、俺の隣にキリトが現れた。

 

 

「どうだった?」

 

「勝ったぞ。ウェーブは?」

 

「俺が負ける姿を想像出来る?」

 

「……出来ないな」

 

 

そもそもシノンに約束しているのだからシノン以外には負けられないのだ。ふと会場の中央を見れば空中にモニターがいくつか投影されていて、そこで他のプレイヤーの戦闘を中継している様だった。

 

 

シノンとシュピーゲルの映っているモニターを探しながら、キリトにあのモニターの存在を教えようとした時ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーおまえ、本物、か?」

 

 

背後から突然、低く乾いた金属質な響きのある声を掛けられた。

 

 

 





ダインさんが修羅波の犠牲になりdieした様です。流石に戦闘民族には勝てなかったよ……


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