修羅の旅路   作:鎌鼬

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予選開始前

 

 

総督府ーーー通称〝ブリッジ〟と呼ばれる建物の一室で、俺はテーブルの上に足を組みながら座っていた。今日は待ちに待った第3回BoBの当日、人が多くなる前に予選エントリーは済ませたので暇を持て余すことになる。そして俺は第3回にして初めてのBoB参加となる。

 

 

俺がGGOを始めた時にはすでに第1回目は終わっていて、それならば第2回に参加しようとしていたのだが爺さんからの急な呼び出しで帰省することになって参加出来なかったのだ。実家は山奥で、ネット回線なんてないからアミュスフィアを持って行かなかったのが運の尽き。光通信でパソコンを構っている爺さんを見てぶち殺そうかと思った。

 

 

思い出した事で殺意が溢れて来たが終わった事だと自分に言い聞かせて抑える。シノンとシュピーゲルはもう少ししてから来るだろう。問題があるとすれば、苦虫を噛み潰したような表情で俺の事を睨んで来る中肉中背の少女か。

 

 

「何見てんだよ、目ぇ潰すぞ」

 

「アバターがこんな美人モデルみたいとか……詐欺過ぎる。ちょっとザスカー訴えて来る」

 

「お前が負けて名誉毀損で賠償金払わされるところまで予想出来た」

 

「お前を訴えてやろうか?」

 

 

今の言動で分かったかもしれないがこいつは金本のキャラクターでネームはサヤ。わざわざシノンと遊びたいからと言う理由でアミュスフィアとGGOのソフトを揃えたという真性のガチレズだ。よく俺の事を憎しみの篭った目で見て来るが、恋敵とでも思っているのだろうか。

 

 

全くもって阿呆らしい……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

だけどそれを言うとこのガチレズは調子に乗るのは目に見えているので口にしない。

 

 

「つーかなんでお前いるの?BoBに参加するつもりか?そのクソザコで」

 

「シノンの応援に来たのよ。予選までの間でシノンの心と身体の緊張を解してあげようと思ったのに……」

 

 

こいつは一回捕まえて牢屋にでも入れた方が良いんじゃないかと考えながらシノンと言えない様な事をしている妄想に勤しんでいるサヤから視線を逸らす。1時間前だからなのか疎らであるが人は集まって来ている。自分の装備のチェックをしているプレイヤーがいれば、応援に来てくれた友人たちと話し合っているプレイヤーもいる。

 

 

BoB……廃人たちの集まりと聞いているが、どのくらいやれるのか気になって仕方がない。注目しているのはシノン、シュピーゲル、ピトフーイにエム辺りだが、運が良ければ他の強者と戦えるかもしれない。そう考えるだけで気分が高揚してくる。

 

 

「本当になんでこんな男がシノンと一緒にいるんだか……〝死銃(デス・ガン)〟にでも殺されれば良いのに」

 

「〝死銃(デス・ガン)〟って言ったらあれだろ?撃たれたら死ぬって噂の銃の事か?」

 

 

死銃(デス・ガン)〟、それは最近GGOのスレッドで名前が出て来たプレイヤー〝死銃〟が持つと言う銃の名前だ。〝死銃〟の持つ銃で撃たれたらリアルで死ぬという信憑性など欠片も無い噂話……だが、実際に〝死銃〟に撃たれたプレイヤーがそれ以降ログインをしていないらしい。

 

 

「あんなもんただの噂だろ?GGO内で撃たれたから死ぬって絶対に有り得ない」

 

「へぇ、なんでそう言い切れるの?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ナーヴギアだったら人を殺せただろうけど、後続機のアミュスフィアはその問題点を解決して売りに出してるんだ。もしこれでアミュスフィアで殺せるってなってみろよ、VRMMOは完全に排除される事になるぞ?」

 

「だったら、どうやったら殺せると思う?」

 

「アミュスフィアを使っていればどれだけ酷い事をされてもゲーム内だけで済まされて、現実には届かない。だったら現実で殺せば良い。ゲーム内で〝死銃〟が撃つ、それと同時に現実でそいつを殺す。そうすればあら不思議、〝死銃〟が撃ったから人が死んだ様に見える」

 

「ふぅん……でも、住所とかどうやって特定してるの?」

 

「知るか」

 

「キチガイに期待した私が馬鹿だった」

 

 

それから興味を無くしたらしく、サヤは盗撮したと思われるシノンのスクリーンショットを眺めて悦に浸る作業に入っていた。サヤから話を振って来たクセにと思うのだが、これ以上こいつに関わるとロクな事にならなさそうなので放っておく事にする。

 

 

時間が経って人が集まった事で俺に向けられる視線が多くなってくる。自意識過剰などでは無く、色んな意味で俺は有名だから視線を集めると理解しているが、流石に動物園のパンダになるつもりは無い。

 

 

予選まで時間があるのを確認し、一旦外に出ようとすると丁度そのタイミングで見覚えのあるプレイヤー2人が入ってくるのが見えた。出る前に彼女たちに一声かけようと完全にキマっている顔をしているサヤを放って2人に近づく。

 

 

1人は先日一緒に12時間耐久アタックをしたばかりのピトフーイ、もう1人は全身ピンク色とかいう痛々しい格好の低身長の少女。

 

 

なので迷わずに後ろから近づき、低身長の少女の頭を鷲掴みにして片手で持ち上げる。

 

 

「ーーーふぇっ!?」

 

「よぉロリータ、今日も掴み易いサイズの頭してるな?」

 

「ヤッホーウェーブ。〝オルトロス〟ちゃん売ってくれる気になった?」

 

「売るわけねぇよアホ」

 

「あの、ピトさん、助けて欲しいんだけど……あとウェーブさんも人の頭掴んだまま話さないで……」

 

 

頭を掴まれているのに冷静に話してくるピンクロリータの名前はレン。ピトフーイが見つけて来たお気に入りのプレイヤーらしい。

 

 

「んで、エムはどうした?このショッキングピンクロリータも出るのか?」

 

「ウェーブさん、私の扱い酷くないですか?」

 

「用事があるから後で来るってさ。レンちゃんは私の応援だからBoBには出ないよ」

 

「ピトさんも普通に話してないで助けて」

 

 

ピトフーイと一緒にHAHAHAと笑いながらレンを空中でブラブラさせるが飽きてしまったのでピトフーイに投げ渡す。言っても無駄だと知っているからなのか、レンは無言で抗議の視線を向けて来るがそれを無視する。

 

 

「ウェーブはもうエントリー終わらせたの?」

 

「あぁ。で、待ち時間が暇だから少し外に出て来る事にした」

 

「遅刻とか止めてよね?つまらないから」

 

「バーカ、これを楽しみにしてたのにそんなつまらない事するかよ」

 

 

ピトフーイは俺がこの日をどれだけ楽しみにしていたのか知らないだろう、第2回の時に爺さんの呼び出しにどんな気持ちで応じたのか知らないだろう。遅刻で参加出来なかったとかいう馬鹿みたいな事をするはずが無い。したらきっと、俺は()()()()()()()

 

 

俺の返事を聞いて満足したのか、飢えた獣の様な笑みを浮かべるピトフーイを残して〝ブリッジ〟を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーまずい……!!」

 

 

時計を見て現在の時刻が14時51分だと知り、私は焦りに駆られた。BoBの予選エントリーの締め切りが15時。それなのにここからエントリーを行なっている〝ブリッジ〟までは3キロはある。エントリー操作の時間を考えるとあと3分で〝ブリッジ〟まで着かないといけない。

 

 

予定では10分前に〝ブリッジ〟に辿り着いて余裕を持ってエントリー操作を終わらせるつもりだったのだが、時間潰しで街を散歩しているところで新規と思われる2()()()()()()()()()()を見つけたのだ。GGOという埃っぽくてオイル臭いゲームで女性プレイヤーは珍しいので親切心から思わず声をかけ、クレジット稼ぎのゲームを紹介し、装備の説明をしてあげた。なんでもBoBに参加する為にGGOへコンバートしたらしい。彼女たちは前は剣を扱うゲームでもしていたのか、銃よりも光剣に目を輝かせて即買いしていたのが印象的だった。

 

 

光剣をメインで使うならサブにハンドガンをと勧め、防具のオススメを教えて装備を整えたところで時間に気がついたという訳だ。マヌケと言うしかない。多分、ウェーブなら苦笑いでもするだろう。

 

 

「御免なさい、私たちのせいで……」

 

「何か、何か無いのか……!!」

 

 

()()()()()()()()が謝り、()()()()()()()が何か移動手段が無いか探すがそんな都合よく見つかるはずが無い。

 

 

「止まるんじゃなくて足を動かして!!」

 

 

そんな事で時間を使われるのなら必要無いとキツイ口調で怒鳴ってしまう。彼女たちがBoBに参加出来ないとしても事前の準備不足で済むが私はそうはいかないのだ。

 

 

BoBに参加する強者たちを倒して優勝する。そうすればきっと、私は弱い自分に、過去の記憶に打ち勝つ事が出来るから。

 

 

それに今回はウェーブが参加しているのだ。私は彼を倒すと誓った。彼はその誓いを聞いて、それまで誰にも負けないと約束してくれた。そしてその約束は今日まで守られている。だから、この大会で必ずウェーブを倒すと決めたのだ。何がなんでも参加しなくてはならない。

 

 

「お願い……間に合って……ッ!!」

 

 

いくら直線コースでゲーム内で息切れしないとはいえ、通行人を避けながら3キロを3分で走るのは厳しいものがある。それでも参加する為に懸命に足を動かしーーー車道を走っていた二輪バイクが私の隣で急停止をした。

 

 

「ーーーよぉ、遅刻しそうか?」

 

「ウェーブッ!!」

 

 

ゴーグルを外して現れたのは紛れも無いウェーブ本人。彼の事だからエントリーは済ませていて、時間潰しで街をバイクで走っていたと思われる。

 

 

「移動手段は何か無い!?」

 

「そこの2人もか?これだとあと1人が限界だし……どっちかマニュアル操作のバイクの運転出来る?」

 

「出来ます!!」

 

 

黒い長髪の少女がウェーブの言葉に反応する。リアルで免許でも持っているのだろう。アバターとはいえスキンは可憐な美少女なのに珍しい。

 

 

「ふ〜ん……じゃああそこにレンタルバイクの店があるからそこで借りてきて」

 

「分かりました!!行こう、()()()!!」

 

「うん!!」

 

 

2人はそのままウェーブが指差したレンタルバイクショップに向かって走り出す。私はウェーブが何か言うよりも先に、彼が乗っているバイクの後部座席に腰を下ろし、後ろから抱きついた。

 

 

「飛ばすからしっかり掴まっとけよ……!!」

 

「……ッ!!」

 

 

急発進した事でかかる負荷に耐えながらウェーブの身体に強く抱き着く。外見では女性にも見えなくは無いウェーブのアバターだが、それでも男性だからなのか身体付きは完全に男の物だった。

 

 

「どうですかねぇ!!お嬢様!!」

 

「……あは、あはは!!凄く気持ち良い!!」

 

 

風圧に負けないようにか怒鳴るように尋ねるウェーブに私は笑いながら応えた。時速は優に100キロを超えていて、景色が物凄い勢いで流れて行く。車道を走る他の車を右へ左へと躱しながらアッサリと追い越してさらに加速する。現実じゃあ出来ないような体験をして、思わず声に出して笑ってしまった。

 

 

「ねぇ!!もっと飛ばして!!」

 

「了解!!」

 

 

私のオーダーに彼は迷う事なく応じてくれ、バイクの速度がさらに上がる。後ろからは黒髪の少女が三輪バギーの2人乗りでついて来ている。これなら間に合うと安堵した。

 

 

ーーー彼に抱き着いている、それだけで高鳴る鼓動に気付かぬようにしながら。

 

 

 






ショッキングピンクロリータとかいうワードを引っさげてレンちゃん登場。だけどピトフーイの応援だけなので戦わないぞ!!

シノンが案内していた黒髪の少女と茶髪の少女……いったい誰なのか……

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