『ゼネバスの娘―リフレイン―』   作:城元太

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54(2101年)

 ギュンターはシュテルマーに全幅の信頼を置いた。そしてシュテルマーは、ゼネバスの最期の真相もルイーズ=エレナの出自も知っていた。

 ギュンターが欲したのは、暗黒大陸ニクスの覇権ではなく、中央大陸デルポイの支配であったといわれる。しかし異母姉ルイーズがヘリック共和国大統領に就任している事実は、彼にとっても同じ血を引く者が亡き父の偉業を達成したと考えても良いはずだ。彼個人の支配欲を満たすのが目的であれば、大陸制覇を前に爆死した説明もつかない。

 歴史の狭間に埋もれた、偉大な父ゼネバスの犠牲的行動に見合った功績を捧げる為に、その名を冠するゼネバス帝国再興に拘ったと考えれば、彼が命を懸けてまでネオゼネバス帝国建国に執着した充分な理由付けとなるだろうか。

 ギュンターの非凡な才を顧みた場合、それでは余りに感情に流され過ぎている。彼ほどの人物であれば一連の行動に更に合理的な理由付けが必要だ。

 彼自身の人生の持ち時間については以前の章で考察したが、それとは別に、旧ゼネバス系住民の存在がゼネバス帝国再興の最大の動機ではないだろうか。

 中央大陸戦争が2051年に終結し、ニカイドス島からゼネバス兵達はゾイドと共に拉致、鹵獲され暗黒大陸に渡った。だが、仮に拉致された兵士の当時の年齢が20~40歳前後として、40年が経過した2099年からの第二次大陸間戦争に於いて、依然ゼネバス兵が最前線で戦い続けている理由を説明できない。当時の兵士がそのまま参戦するとは思えない。しかし、ガイロス軍の中には、旧ゼネバス兵という枠組みが厳然として残っていた。また、PK師団や鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)を編成できるほどの旧ゼネバス兵の人員も確保されていた。

 つまり、暗黒大陸に渡ったのは兵士だけではなく、その家族も共に移住して後継者が誕生していたとしなければ、辻褄が合わないのだ。

 例として、2099年オリンポス山攻略戦で撃破されたセイバータイガーのレコーダーに残されていた音声がある。

〝ゼネバス帝国の残党だと虐げられたスコルツェニー家の俺が、ガイロス帝国に勝利をもたらしたのだ〟

 これはゼネバス帝国の亡命貴族であるスコルツェニー家という一族が、ガイロス帝国内に存在していた証拠ともなる。つまり旧ゼネバス兵であるステファン・スコルツェニー少尉個人はなく、彼の所属する一族の存在を示している。

 暗黒大陸に面する中央大陸北西の、ダラス海やウラニスク海にガイロス軍が出没し、旧ゼネバス系住民を大規模に拉致したという記録はない。少なくとも、スコルツェニー家は血縁関係を維持したままガイロス帝国内に留まっている。つまりゼネバス兵の家族は、望んで暗黒大陸の地に渡ったと考えられる。人口の少ないガイロス帝国にとって、人的資源はヘリック共和国に対抗するためにも必要だった。恐らくは拉致した兵士を通じてその家族に呼びかけたのだろう。

「共和国軍による帝国住民への復讐、大量虐殺」、「敗戦後の帝国領への共和国支配による圧政と搾取」、「暗黒大陸は理想の新天地」。

 ゼネバス帝国消滅の混乱に乗じて、根拠のない噂や裏付けのないユートピア思想を喧伝するのは簡単である。ホエールカイザーを使用した大規模な移動ではなく、恐らく人員輸送用のブラキオスやウォディックを利用し、共和国の管理が及ぶ前に、共和国に察知されることなく秘密裏に移送を行い、巧みに暗黒大陸の地に家族ぐるみで自発的入植を促したのではないか。

 そして渡った暗黒大陸で待ち受けていたのが、いつまでも続くゼネバス系住民に対する差別であったとしたら。

 ギュンターはただの冷徹な為政者ではない。もし覇王ガイロスと同じ轍を踏んでいたのであれば、老いたとはいえ存命中の猜疑心の強い皇帝によって粛清されていたことだろう。彼が巧みに(皇帝を含めた)人心を把握し、権力の中枢に上り詰めた能力は、エレナと同じくムーロアの血を引く者の証しとも考えられる。

 そして彼が、同じ故郷を持つゼネバス系住民が、祖国の大地がないという理由によって差別される姿を見たとすればどう考えるか。

 残された人生の持ち時間の中で、早急に彼らゼネバスの民を救済する為には、如何にしてもその祖国を取り戻すことを必要と考えたのではないか。それは暗黒大陸ニクスの地では意味がない。中央大陸の、嘗てのゼネバス帝国領しか認められなかった。カシル村に向かうエレナがヘリックに唱えたゼネバス帝国再興の理由と同様に、それが故郷に縛られた民族の宿命であることを、地球人の幾つもの悲しい歴史も証明している。

 ネオゼネバス帝国建国の意義全てを、果たしてギュンターが後継者ヴォルフに全て伝えていたかは疑問である。それを理解するには、ヴォルフはまだ若すぎたからだ。

 

「貴君には息子ヴォルフの護衛として随伴してもらう」

 ヴァルハラの深部、立ち並ぶデスザウラーの群れを前にして(かしず)く老兵に、ギュンターは静かに命じた。一機だけ、血の色に染め上げられた機体がある。ブラッディデスザウラーと呼ばれるその専用機を除き、50機のデスザウラー大隊は、翌日国防軍に編入されヴァーヌの戦闘に向かう予定となっている。その威容に少しも動じることない老兵が、少し視線を上に向けた。

「言いたいことは判っている。私の最期の務めに殉じることが、貴君の以前からの願いであったこともだ。だが、ヴォルフはまだ若い。ズィグナーも、先のブラッディデーモンでの戦闘の傷が癒えずにいる。優秀な兵が息子に欲しいのだ」

 彼は無言のままであった。

「貴君には感謝している。ここまで私の為に貢献してくれた。礼を言う」

 ギュンターの言葉は、儀礼的なものではない。臣下の兵に対し、決して侮ることなく謝辞を込めていた。

「祖国再興を達成する為、孤独に策謀を巡らせる中、同じ目的に向かって付き従ってくれた貴君には、友情とも呼べる感覚を抱いてきた。

 シュテルマーよ、友への(はなむけ)の言葉として聞いて欲しい。貴君の任務は、私が現世に留まっている間までだ。以降は貴君自らの判断に委ねることとする。私に対しての義理立ては充分果たしてもらった。余生は己の望みのままに生きて良いのだ」

 シュテルマーはまだ沈黙している。

「不条理であることは、私自身も知っている。だが、貴君の想い人は私の姉でもあるのだ。我が父よりその行く末を託された以上、貴君にとっても撞着が残るだろう。

 ヴォルフとともに中央大陸に渡るのは理由付けに過ぎぬ。姉の最期を見届けて欲しいのだ」

 老兵が、極度に寡黙であることを知った上で、ギュンターは語りかけていた。その言葉の裏側にある意味を悟ったシュテルマーが、緩慢な動作で深く黙礼をする。

「さらばだ、シュテルマー」

 ギュンターとシュテルマーの別れだった。

 

「時はきた。今こそゼネバスの旗の元、戦う時だ。ヘリック、ガイロスを打ち倒し、長きに渡る屈辱の歴史に終止符を打て。そして、我らが祖国、中央大陸に還るのだ」

 ギュンターによる新帝国建設の演説は、単なる挑発行為ではなく、ヘリック共和国、ガイロス帝国両国に潜伏していた破壊工作員への一斉蜂起の合図でもあった。

 目的はテロ活動による破壊行為ではない。大衆を扇動して騒擾を発生させることだった。表面上は一般人に扮した工作員が、集団で広範囲の破壊活動に移る。敢えて流言飛語を撒き散らし、パニック状態をひき起す。卑劣にも、その噂は旧ゼネバス領民衆の相次ぐ反乱と破壊活動が発生しているというものが大半であった。既に共和国内には旧ゼネバス系住民が混在していて、単純な住み分けは出来なくなっていた。結果、互いの疑心暗鬼が高まり、古くからの共和国系住民でさえ、ゼネバス人と間違われ襲撃される事件が続発した。治安部隊によってある地域の騒乱が終息すると、次に破壊工作員は別の地域で騒擾を繰り返し、あたかも共和国全土でゼネバス系住民が数多く反乱を起こしているかのような状況を作り出した。

 グランチャーとダークスパイナーのジャミングは、共和国内の一般の通信網もズタズタに切断し、正確な情報の入手を閉ざす。

 耳目を塞がれ、集団ヒステリー状態に誘導された共和国では、軍さえもその情報操作の罠に陥った。不確かな噂が、やがて口伝に絶対正確な情報として独り歩きを始める。冷静に状況を判断しようとする指導者がいれば、工作員が暗殺、或いは放火、小爆発を起こしてパニックを増長する。荷電粒子砲も、サウンドブラスターも必要は無い。コミュニティーを破壊するには、ただ人間の信頼関係を断ち切るだけで充分であった。

 ギュンターのネオゼネバス帝国建国宣言以降から、磁気嵐は一層激しくなり、ニクスからの一切の通信を遮断し、ロブ・ハーマン中佐と敵の第一装甲師団長との会談の結果も、ヴァーヌでの戦闘の経過も中央大陸に届かなくなった。全ては鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)によるジャミングによるものである。

 意外なところから、敵地の状況が齎された。

 惑星大異変(グランドカタストロフ)以降、共和国領各地に設置されたプレートの移動を監視する地震計が、大規模な振動波を感知したのだ。震源は敵の帝都ヴァルハラ、深度は極端に浅い場所であった。それは地震ではなく、何らかの人為的に起された爆発と考えるのが的確である。

 共和国、国立天文台所長ファン・ネムポセは、観測されたデータを基に大統領府への緊急回線を初めて使用した。

「ルイーズ・キャムフォードです。天文台の責任者ですね。御用件を手短にお願いします」

「大統領閣下、ヴァルハラで大規模な爆発振動が観測されました。このデータが事実とするなら恐らく都市部は壊滅しています」

 大異変以降設置された緊急回線は、皮肉にも戦況報告に使用されることとなった。

 

「諜報員から、ヴァルハラの閃光を確認したとの連絡を受けました」

「全軍出撃。旧ゼネバス領の同士たちと連携しつつ、共和国残存部隊を撃滅せよ。最終目的地は、共和国首都……ヘリックシティーだ」

 中央大陸北東、共和国軍重要港湾都市クック。深夜の海岸線に、無数の漁火が現れた。だが、軍港周辺での海族の漁業は禁じられている。漁船の類とは別の物体が、次々と浮上を開始しているのだ。

 嘗てギルベイダーの低空侵入を許している共和国防衛線は、海上すれすれの敵の存在にも対応できる低空レーダーの設置も行っていた。だが、肝心の有事に直面した時、レーダー機器は一切の機能を停止していた。

「一体、何が起きたのだ……」

 観測員たちは、突然の電波障害に当惑した。暗い海岸線には驟雨が降り注ぎ、視界も開けない。

 共和国軍港クックでも、電波障害の為首都を含めた各地域との通信は一切不通となっていた。緊急事態を察知したクック市所属の海上部隊は、配備されている7機のハンマーヘッドを哨戒の為に出撃させ、状況確認を試みた。また、地上に配属されたばかりの新鋭スナイプマスター部隊を沿岸に配置し、緊急事態に備え予想される敵の上陸地点へ警戒配備をした。防衛部隊の判断に、一切誤りはなかった。

 クック湾を臨む雨滴の隙間には漆黒の水平線が広がっていた。

 白波に洗われる水平線の一画が、不自然に盛り上る。

 低気圧に伴う高潮の塊に見えたかもしれない。だが波涛は砕かれることなく隆起を続け、やがて海面を引き裂き巨大な岩礁が二つ浮上した。岩礁表面には無数の海草や牡蠣が付着し、それが長く海底に潜伏していたことを示している。驟雨に紛れる水沫を滴らせ、岩礁は次第に沿岸に接近を始めた。それぞれの岩礁の中央に司令塔らしき突起物が備えられているのを沿岸警備のハンマーヘッドが察知した。無線不通のため、直接基地司令部へ向かい浮上を試みたが、海面を離水した瞬間ハンマーヘッドは撃墜されていた。岩礁の後方には更に巨大な塊が浮上していた。

 レーダーとしての機能も併せ持つ触角だけは、微細な振動を伴うため海草の類は付着せず黄金の輝きを放っている。触角の奥より現れた黒い塊を、共和国兵がそれをゾイドであると認識するには暫く時間が必要であった。

 ザリガニのハサミの部分に当たる、分離航行も可能な二隻の突撃揚陸艇ネプチューンとポセイドンの後方から、二隻と同様に海草と牡蠣をこびり付かせた本体が現れる。艦橋に当たる頭部突起の下には、野生体の名残である食物摂取用の捕脚が忙しく動き時折白い泡を滴らせる。突然の浮上に、本来海底に生息域を持つ無数の海棲の野生ゾイドも表面の装甲に付着したままであった。シーパンツァーの外殻に見られるフジツボ型の野生体が背甲にびっしりと群棲し、頻りに潮を吹いている。ウルトラザウルスを遥かに上回る全長136m全高40mの移動要塞ゾイド、ドラグーンネストが地上にその全貌を現したのだ。

 地球でいう蛭にも似た黄色い軟体構造の粘着物が港湾施設に無数に落下する。長さ1m程の長さを持つこの粘着物は、気圧の低下により内臓を破裂させながら息絶えていく。ドラグーンネストは本来最大でも20m程度のザリガニ型野生体を素体としたゾイドであるが、地球でフクロムシと呼ばれるフジツボ科の寄生生物を人工的に寄生させることにより、成長ホルモン促進のバランスを攪乱し強制的に巨大化させていた。上陸と共に体内に無数に寄生するフクロムシのコロニー(群生体)が地上の重力に贖えなくなり、各関節の隙間や鰓脚の間から零れ落ちた。海水とは別にぼたぼたと地上に落下する黄色い物体が異臭を放ち、クック湾沿岸は異常な空間へと変貌していった。

 船体側面に装備された4対の歩脚が陸地に達した。それぞれの脚が巨大なクレーンにも匹敵する太さを持ち、本体同様に無数の海草をびっしりと這わせている。赤黒い巨体を支える8本の黒い柱は、地表が陥没するのも厭わずに船体を地上へと運ぶ。

「『トイフェルスカマー』、『フェアデシュタール』、『フェルトフォーファー』、『フェルトフォーファー・キルフェ』、全ドラグーンネスト艦隊浮上せよ」

 ヴォルフ・プロイツェンの命令の下、クック湾を拠点とした鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の上陸作戦が敢行された。次々とドラグーンネストが浮上する。その数は5隻であったが、余りの巨大さ故と情報の錯綜により、十数隻の艦隊が上陸したとの情報が飛び交う。一斉に照射された探照灯に浮かび上がる巨体は、共和国軍兵士への威圧感を無為に与えるだけであった。

 無数の海草や牡蠣に覆われていた船体壁面の一部が、ずるりと剥離する。来るべきこの日に向けて、密かに疑似装甲の下に描いていた蛇と短剣をあしらった真紅の紋章が現れた。

「ガイロス……いや、違う。あの紋章は……ゼネバスだ」

 歴史の中にしか残っていなかった国章が、再び現代に蘇った。

 海草に覆われたネプチューンとポセイドンの内部、そしてドラグーンネスト本体背後の甲殻がぱっくりと開き、表面とは異なる幾何学的な構造物の中より、シュトゥルムフューラー、ディロフォース、ライガーゼロイクス、グレイヴクアマなど、無数のゾイドが吐き出される。ゾイド群を発進させつつ、ドラグーンネスト本体も8本の歩脚を地表面に突き刺し、移動そのものを武器として進撃する。

 立ち並ぶ港湾施設を薙ぎ倒し、周囲の建造物全てを眼下に見ながら移動する錆色の機体は、縮尺という概念が破綻した幻想と悪夢とが混在する現実である。表面の有機体生物が焼け落ちる匂いが基地周辺に漂っていた。

 船体中央の扉が開き、背鰭を波打たせながらダークスパイナー部隊が一斉に出撃した。漸く帝国軍の強襲を理解し、迎撃に出た共和国ゾイドに向けジャミングウェーブを打ち放つ。途端に動きが凍りつき、やがて共和国ゾイドは味方に向かって攻撃を始めた。

 パンツァーユニットに換装されていたライガーゼロは、操られるまま大量の実体弾を撒き散らし、周囲一面を火の海と化す。コマンドウルフの同士で格闘が始まる。どちらもジャミングウェーブで操られている。同士討ちをさせることで、共和国ゾイドの漸減と、大衆へのパニックを増長させているのだ。ゴルドスが、無差別にレールガンの連射を始める。大加速度を誇る砲撃は、クック市街に無数の火の手を燃え上がらせる。

 依然、共和国軍のレーダースクリーンは白濁したままだった。それは鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の装備する電子戦ゾイドのグランチャーと、ダークスパイナーによる電波妨害の結果である。奇しくもそれは、ちょうど60年前のZAC2041年、バレシア湾にて行われたゼネバス帝国軍の上陸作戦の再現でもあった。海岸に哨戒線を張って防衛に当たっていた警備部隊のスナイプマスターも、突然の上陸部隊に成す術もなく撃破された。

 燃え盛る焔の中、ドラグーンネストが聳え立つ。その中の旗艦『ネアンデル』の張り出したブリッジで、ヴォルフは何の感慨もないかのように炎の海を見下ろしていた。

 彼の表情が僅かに変化する。

 その時、眼下の中央格納庫から、炎に溶け込む深紅のアイアンコングが出撃していた。

 増援部隊も要請できないまま、軍港クックは数時間にして陥落した。そこがネオゼネバス帝国にとってのエントランス湾になった。

 

 国立天文台所長から緊急回線を受けてから僅か数十分。次に齎されたのは、クック湾陥落の報せであった。

「グラント、クロケット、マウントジョー、そしてマウントアーサーに部隊を集結。サラマンダー、レイノス、ストームソーダーなどの空戦ゾイドを優先的に呼び戻して。

 地上部隊はライガーゼロを中心に再編成、到着地に於いて優先的にパンツァーユニットに換装、高速戦闘は現地のシールドライガー部隊に任せ、砲撃戦を担当するように。

 残っているゴジュラスは、可能な限りヘリックシティー防衛線構築に努め、敵の侵入を防いでください。ロブとはまだ連絡は取れないの」

「……ハーマン中佐からは、依然連絡がありません」

 咄嗟に階級ではなく、息子の名前を呼んでいた。確かヴァルハラ攻略の為に移動していたはず。もし天文台の報告通りならば、爆発に巻き込まれている可能性もある。

 絶望的かもしれない。本当なら、この場に倒れ込みたかった。それでも大統領という職責の重さが彼女を律した。今立っていなければ、共和国国民全てが倒れてしまう。

「みなさん、そのまま聞いてください」

 エレナは司令部に響き渡る声で叫んでいた。

 

 


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