私の姉が肉食系だった件   作:ナツイロ

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調子に乗って、続きです。
時間軸は、プラウダ戦になります。
※誤字報告ありがとうございます。修正適応しました。
※誤字報告ありがとうございます。
該当箇所の『残当』は『残念ながら当然』といったニュアンスのスラングとして用いていますので、申し訳ありませんが修正はしない方向です。ご了承下さいませ。


私の姉が肉食系だった件・続き

「はぁー」

 

 白い息が薄暗い寒空に消えていく。

 ここは戦車道全国大会準決勝、大洗対プラウダの試合会場で、つい先ほど試合が終わったところだ。

 本当にかろうじて勝ちを拾った私達大洗女子は、勝利に湧き踊った。

 勝利はもちろんの事、学園艦の首の皮一枚が繋がったことも理由に挙げられる。

 これは試合中に分かったのだが、私が転校した大洗女子学園は今年度で廃校になる。

 少なくとも、役人の認識ではそうらしい。

 それを角谷会長が、戦車道全国大会で優勝したら廃校は取り消しとする、という取引をしたのだそうだ。

 全く、それであれ程までの強引な勧誘を、私にしていたのか。

 普通なら、反発心から即拒否されかねないだろうに。

 生徒会の彼女達も、いや、あのいつも飄々として掴みどころの無い会長でさえ、相当追い詰められていたのだ。

 そうでなければ、売れ残り戦車を掻き集め、一人を除きド素人の集まりが、全国大会優勝を目指す事など考えもしないはず。

 いや、正直に事情を話されても『諦めたら?』と言う他ない。

 

 今となっては私も、大洗女子に愛着が湧いてしまっているわけだが、それでも優勝という栄光は気持ちだけで得られるモノでは無い。

 戦車道が他の競技と違う所は、勝利に必要な要素に、選手以外の部分が多くを占める点だ。

 西住流で育って来た私が言うのも何だが、勝利への近道ははっきり言って、予算と運用ノウハウ、そして過去の実績だ。

 予算があれば、質の良い戦車を大会規定一杯まで揃えることが可能だし、運用ノウハウがあれば、常に稼働状態を維持して訓練に望む事ができる。

 優秀な指導者の有無も、此処に含まれるだろう。

 過去の実績は、優秀な選手を獲得するのに分かりやすい看板になり、人材の取捨選択という贅沢だって可能になる。

 強豪校が強豪校足る所以は、こういった点を備えているからとも言えるだろう。

 世知辛い事極まりないが、仕方ない。

 とにもかくにも、お金がかかるのだ。戦車道は。

 まぁ、大洗女子学園は人も金も実績も無いからこその、廃校の危機なんだけどね。

 

 そういえば、誰が言っていたのか思い出せないが、『他人の財布で戦車転がして悦に浸っている連中』と、罵倒していたのを見聞きした記憶があるのだが、一体誰だっただろうか。

 いや、『札束で殴り合う武道』だったかな?

 まだ熊本にいた頃のはずなので、少なくともこの数年の内だと思うのだが。

 

 それはいいか。

 今はただ、得られた勝利を喜んでいれば。

 途中で、後部を砲撃され撃破されたウサギさんチームとカモさんチームを見つけ、カバさんチームと共に牽引ワイヤーで引っ張り、アヒルさんチームのところへ向かう。

 カメさんチームは既に、大会運営側の回収チームによって運ばれているらしい。

 残りはフラッグ車だった、アヒルさんチームだけ。

 無線では、足回りがヤバイと言っていたが、大丈夫だろうか。

 撃破判定が無いってことは、まだ動けるという証左でもあるが。

 

「ねぇ、みぽりん。アヒルさんチーム、まだ見えないね。方向ってこっちで合ってるの?」

「合ってるよ、回収車の小野先輩にも、簡単な修理で自走可能なら自力で。足廻りが完全に壊れてるなら、小野先輩の回収車輌でって言ってあるから。無線の内容からすれば、アヒルさんチームのところに回収車が向かってると思う」

「八九式は撃破こそ免れたものの、足回りが吹き飛んだって言ってましたからねぇ」

「この寒さの中、周囲に誰もいないのは寂しいですもの。皆で一度集まるのは、気持ちの面でも心強いはずです」

「おい、見えて来たぞ。アヒルさんチームだ」

 

 麻子さんの言葉に、キューポラから身を乗り出していた私の視界にも、アヒルさんチームの八九式が現れる。

 これはまた、こっ酷くやられているな。

 右履帯何かちぎれ飛んで、何処にあるのか分かりゃしない。

 ちょうど同じタイミングで、雪の稜線の向こうから回収車のライトが見えてきた。

 ふむ、チーム勢揃いだな。カメさんチームはいないけど……、まぁいいか。

 

 そんな時、ポケットに入っている携帯に着信が入った。

 誰だ、こんな時に。

 こっちは、忙しいんだ……ぞ……、なぁにこれぇ。

 

 新着メールがあると画面に表示され、携帯を操作するとそこには、聖グロリアーナのダージリンさんからのメールが一件。

 

 

差出人:ダージリン

送り先:西住みほ

添付:IMG.jpeg

本文:

素晴らしい試合、お疲れ様でした。

ところで、こちらの方は貴方のお姉さんでは?

そして、お相手は確か大洗の生徒だったと思うのですが!

確か練習試合のお礼として、チャーチルの戦車模型をかの殿方から頂いた記憶がございますわ。

ありがたく、自室で飾らせて頂いております。

ウンタラカンタラ

………

……

私、このようなこと目がありませんの。

後で詳しく、お聞きしたいわ。

それでは失礼します。

代打ち オレンジペコ

ダージリン様が失礼致しました。お返事は、無理をなさらなくても結構ですので。

 

 

 

 口元が引くつくのを感じながら、私は恐る恐る添付画像を開いた。

 そこには、姉と小野先輩が写っていた。

 それはいい、それはいいのだ。

 一応、恋人同士なのだから、試合会場でちょこっと落ち合うぐらいのことは、まぁ私だって考えなくは無い。

 むしろ、有りだと思う。そのシチュエーション、グッと来ます。

 

 問題は、その画像が濃厚なキスシーンだったことだ。

 くっそ、私達の試合中に何やってやがる。

 何ってナニだよ、って馬鹿野郎この野郎。うらやましかっ!

 違う、そうじゃなかった。

 TPOを考えろ、二人共。

 試合中なんだから、小野先輩は私達を応援するってのが筋でしょうが。

 姉は姉で、偵察してりゃあいいのに。ピンク脳め。

 

 それにしても……、これ絶対入ってるよね。

 携帯の小さな画面の中で、私は画像を拡大させる。

 ちくしょう、頬を染めやがってからに。

 恥ずかしいのは、姉のキスシーンをこうして見せられてるこっちだよ。

 ちょこんと背伸びをして、少し上を向く姉。

 その大きな手を背中と腰裏に回し、グッと引き寄せる小野先輩。

 ちくしょう、そこを代われっ。

 じゃなかった、自重して。

 

 お互い初めての恋人じゃなかったのかよ、何か手慣れてる感がむかつく。

 不慣れなせいで、歯をぶつけ合ってしまって、互いにぎこちなく苦笑いするとか。

 呼吸のタイミングを逃して、息苦しいとか。

 そういうイベントはないんですか!

 ちくしょう、写真じゃ分からん。

 ダージリンさんも、動画で撮ってくれりゃ良かったのに。

 やおいかんね。

 誰か、これをY軸で回転させて。

 無理? くそ。

 先輩のフードに隠れて見えない部分が、後少しで見えそうなのに。

 

 携帯の画面を傾けながら、何とか見えないものかと試行錯誤する私を心配してか、優花里さんが声をかけてくる。

 まずい、これを見られたら……。

 私じゃないのに、すごく恥ずかしい。

 

「西住殿、どうされたんですか? 先程から、携帯を眺めておりますが」

「い、いいやっ! 何でもないよ! 何でも!」

「みほさん、先程から何を……これって!」

 

 まずい、伏兵が隠れておったわ。

 華さんがいつの間にか覗き込んでいたらしく、私の携帯を取り上げ、食い入るように姉と小野先輩の口づけを見つめている。

 心なしか、顔を赤らめているような気がする。ていうか、し始めた。

 分かる、見てる方が恥ずかしいよね。

 

「まぁ! まぁまぁまぁっ!」

「何を見ているんです、五十鈴殿?」

「華、どうしたの?」

「何でもないからっ!?」

「みぽりん、さっきから慌ててるけど……なに、華? 携帯がどうした……はぁっ!?」

「沙織、うるさい」

「うるさいじゃないわよっ!? どういうことぉ!」

 

 完全に停車した戦車から降りた私は、皆から、特に沙織さんから追及を受けた。

 麻子さんも口こそ出さないが、耳をそばだてているのは丸わかりだ。

 優花里さんは……何か、髪をモジャモジャさせている。いつものことか。

 件の人物である小野先輩は、ついて来た自動車部と共に八九式の足廻りを確認中だ。

 あっちに聞きにいけば良いのに、変な所で男子に恥ずかしがるのだから、全く。

 これは貸しだけんね。小野先輩、分かっとると?!

 

 

 

「なぁ、西住隊長。何でそんなに怒ってんの?」

「知りませんっ!」

 

 出場選手用の戦車ガレージへ戻る最中、沙織さん達からこれ以上の追及を避けるため、私は小野先輩が運転してきた回収車の助手席へとフェードインした。

 普段と異なる雰囲気を察してか、小野先輩は事情を聞こうとするが、ぷいっと顔をそむける私に、先輩は困ったように頬を掻く。

 私がどれだけフォローしたか、全く分かってない。

 結局沙織さん達には、『姉と小野先輩はお付き合いをしてるんだよ』と、ただ最低限の事実だけを伝えた。

 流石に、関係が始まって一週間程度だとは言えなかった。

 まだデートもしてないはずでしょうが、約束は何処にいったんだよ、約束は。

 (※時系列ではホテル連込み未遂の前です)

 せめて三回くらいデートして、お互いの事を理解し合う時間を過ぎてから、キスやらハグやらしたら良いじゃないか。

 それが初手から、舌を絡めるような口付けとか。

 

 運転席を見れば、小野先輩はこちらの事を諦めたのか、ライトに照らされた雪道を見ながら慎重に運転している。

 ……ちくしょう、さっきまで姉とねっとり接吻していた、先輩の唇を意識してしまう。

 姉と先輩のアレが近づいて……、先輩の手が背後に回されて力強く抱き寄せられ、息遣いを感じながら舌を……。

 うわっ、想像したらドキドキしてきた。

 絶対、顔赤いわ、今の私。

 

 暫く、顔の熱を冷ます私は、何故私がこんな思いをしなければならないのかと、ふつふつと何とも表現のしにくい感情が膨れ上がりつつあった。

 大体あの二人が悪いのだ、その一方はすぐ隣りにいるし。

 ふふん、少しぐらい困らせても、まぁ許されるだろう。

 裁判官、検察、弁護人、全て私の法廷も、問題なしと太鼓判を押してくれている。

 私は、ゴソゴソとタンカージャケットのポケットに入れていた携帯を取り出し、画面に件の画像を開いて、先輩の前に突き出してやった。

 

「先輩、これはどういうことですか?」

「ん? 運転中はあぶ……のわっ!」

 

 画像を正しく認識できたらしい先輩は、急ブレーキをかけ、狼狽えたように私の方に顔を向けてくる。

 へへ、その顔が見たかった。

 荷台に乗っていたアヒルさんチームや自動車部が、どうしたどうしたとざわついているが、何とか気を取り直した先輩が再び車を走らせ始めれば、それも落ち着いてきた。

 

「こ、これは、いつの間に? いや、そもそも一体誰が?」

「試合が終わって、聖グロリアーナのダージリンさんから……。事細かに、ナニをやっていたか教えてくれました」

「ダージリンさん……確か、隊長さんだった人か。観客席の近くで、お茶してたから挨拶したけど。あの後、見られてたのかぁ……迂闊だった」

「大体、何でこんなことしてるんですか。その、お姉ちゃんと、き、キスだなんてっ」

「いやぁ、西住さんの妹の隊長に言われると……何か恥ずかしい」

「恥ずかしいのはこっちですっ! 皆に見られちゃったんですからね!」

「マジでッ!?」

「……そういえば、口止めしてたっけ?」

 

 とぼけた様子で私が言うと、小野先輩は目に見えて動揺し始めた。

 実際してないし、女子高生に恋愛ネタが流失した時点で、もはや手遅れなので、私がどう言おうと結果は変わりゃしないのだが。

 そもそも、私もそこに混ざるし。

 

「まぁ、人の噂も七十五日と言いますし、そのうち収まりますって」

「二ヶ月半もあるんだけど……」

「身から出た錆では?」

「ちょっと、俺に厳しすぎない?」

「チームが試合中に、彼女とキスしてるような人には、残当としか」

「ぐっ、それを言われると弱い」

「大体ですね、よくそんな時間取れましたよね。試合中ですよ?」

「そう言われても……三時間近く試合が動かなかったところに、その、西住さんから連絡が来て……(実際は、動かなくなった途端に来たけど)」

「お姉ちゃんから連絡が来て?」

「観客席の彼女のところに行ったら、西住さんと隊長のお母さんもいてビビった」

「はぁっ!? 何で、お母さんがおっと!?」

 

 驚きのあまり、熊本弁が出てしまった。

 それは良いのだ、問題は母がいた事だ。

 熊本の道場で、門下生をいじめ倒してるんじゃないのか。

 わざわざ姉の偵察に、付き合っていたとか?

 わからん。

 

「そ、それで。お母さんはなんて?」

「普通に挨拶した。それと、一応『西住まほさんと清いお付き合いをさせてもらってます』、って」

 

 おいぃぃっ、それは早すぎんよぉ。

 それに、姉とベロチューかましておいて、清いとか。

 いや、清い身体って意味なら間違ってない?

 待て待て、落ち着け私。少し、毒されてるぞ。

 

「お、お母さんの反応は?」

「……遠回しに、学生の内は避妊はしろ、と」

 

 理解ありすぎワロタ。

 いやいや、もっと娘の貞操を心配しろよ。

 あなたの後継者ですよ?

 西住流の看板を背負って立つ人材で、西住家長女ですよ?

 確かに、初手休憩所を選ぶような姉のことを考えれば、充分心配してるような気もしないでもないけど!

 

「まぁ、こちらとしても。ガキがガキ作っちゃイカン、ってニュアンスを伝えたよ」

 

 こっちはこっちで、硬派過ぎワロリッシュ。

 何をどうしたら、こんなにお堅い男子が出来上がるの。

 この年頃の男子は、四六時中おっぱいだのおしりだの、そんなことばかり考えてるんじゃないのか。

 くそ、沙織さん。その情報誌、間違ってるぞ。捨ててしまえ、そんなもん。

 

 とはいえ、それなら姉の暴走も、まぁ何とか大丈夫か。

 あの姉も実際に誘う段になれば、躊躇して先延ばしにするだろうさ。

 (※しませんでした)

 

「あの……お母さん、私の事なにか言ってました?」

「あぁ、普段の様子を聞かれたよ。元気してるかとか、友達は出来たか、とかね」

「そうですか……」

「戦車道に関しては、後輩なのに頼りにさせてもらってます、って伝えたら満足そうだったよ」

 

 ふ、ふーん?

 ま、まぁ?

 お母さん達の西住流にはついて行けない所があるけど、それはそれ、これはこれ。

 心配されてたのは、素直に嬉しかった。

 

 ん?

 まてよ。

 ということは母との会合の後に、この人は姉と、そのなんだ、キスしてたのか?

 しかし、写真データの撮影時刻は試合が動き始めた辺りだから、その前の大体二時間半は何してた。

 母との会話だって、三十分も掛からないはずだろう。

 

「先輩、この写真が撮られる前は何してたんですか? 二時間半ぐらいはあったでしょう?」

「えっと、そのだな。何というか、二人で少し場所を移動して、観覧モニターを眺めていたんだけど」

 

 何とも、歯切れの悪い返事である。

 

「西住さんが寒がってな。それで、俺は大きめの防寒着を着てたから」

「着てたから?」

「前を開いて、後ろから包み込むように抱き締めてました」

 

 何それ、私もされてみたい!

 姉妹なせいか、グッとくるポイントが同じだ。

 そもそも、西住流戦車道女子が寒さに負けるなんてあり得ないけど。

 

「一応言っとくけど、西住さんから言い出したことだからな?」

 

 でしょうね、知ってた。

 

「へぇ~、じゃあ先輩は迷惑だったとでも?」

「やったぜ、って思いましたっ」

「やっぱり……。それ以外には、何かしました?」

「……ずっと手を握ってた。女の子の手って、男のそれよりちょっと小さくて柔らかくてヤバイ」

 

 その感想はいらなかった……。

 ヤバイのは、その辺りを全部計算して行動した、姉の方なんだよなぁ。

 小野先輩もまんまと策略に嵌ってるけど、本人は満足してるみたいだし、いいか。

 一通り先輩を困らせたし、追及もこの辺にしといてやろう。

 私の寛大な処断に、感涙むせび泣いてもいいんですよ?

 

 

 

 試合会場から学園艦に戻った私達は、生徒や住民の歓迎を受け凱旋した。

 もっとも、戦車は二輌を除いて酷い有様で、どちらかと言うと敗者の出で立ちであったが。

 今日のところはガレージに運ぶだけで終わり、本格的な修理や整備に入るのは明日からになる。

 何にせよ、損傷を受けた装甲は大洗町鉄工所の装甲板待ちであるし、足回り等の交換も代わりの部品が無ければどうしようもない。

 私も自身の寮へ帰宅し、簡単にだがシャワーを浴びて冷えた身体を温めた。

 他の皆も、大体似たようなものだろう。

 学園艦が南下を始めれば、気温も上昇してくるはずだから、この一日二日の辛抱だ。

 

 濡れた髪をタオルで水気を取りながら、ベッドに座り込む。

 ふと枕元に目をやれば、携帯が転がっていた。

 そうだ、今日の事を姉にも問いたださねばならないな。

 徐に携帯を手に取り、姉に件の画像をメールで送った。

 

 数分もしない内に、電話が掛かってきた。

 全く、慌てるぐらいなら最初から自重すればいいのに。

 

「もしもし?」

『みほ、あの写真は何だ?』

「何って、そりゃナニの写真でしょ。むしろこっちが聞きたいよ、試合中に何やってるの?」

『だって……』

 

 だってて。黒森峰の人達が聞いたら、混乱する。

 うちの隊長がこんなに乙女のはずがない、ってなるよ。

 

『電話だけで、会えないし……。会場に来たら、彼も絶対いると思ったんだ』

「整備班でチームの一員だもん、当然だよ」

『うむ、それで彼に連絡して落ち合った』

 

 それは良い、認める。私も、そうなったら絶対そうするから。

 

『そうだ、お母様も一緒に来ていたから、彼を紹介したぞ。ハキハキとした物言いで、お母様も気に入ったようだった』

 

 それが、どうして避妊しろに繋がるんですかね?

 

『小野君の、学生の内は清い交際をしますと言った言葉には、私の見る目に間違いはなかったと確信した。……ボソ(手強い相手だ)』

「何か言った?」

『言ってないな』

 

 嘘をつけ、聞こえていたぞ。

 欲望に忠実過ぎるのは、戦車道女子の宿命か?

 いや、家だけか。

 

「小野先輩に聞いたんだけど」

『何を聞いた?』

「お姉ちゃんから誘ったんでしょ、先輩に抱きしめられて良かったね!」

『もちろんだとも』

 

 皮肉で言ってんだよ、察しろよ。

 

「何でそんな風に誘ったわけ? 誰かに見られてたかもしれないし、実際こうして写真まであるよ」

『そうは言うがな、目の前にカモがネギ背負って鍋に飛び込んできたら、そりゃあ食べるだろう?』

「確かに食べられてたけどね、先輩が!」

『何を怒ってるんだ?』

「怒ってません!」

『それはそうと。彼と口づけを交わした時に、彼の手が私のブラをジャケットの上から触れたようで、さっと移動させたらその先が私のお尻だったりして、慌てているところは可愛かったぞ。グッと来た』

 

 胸にしまっとけよ、そういうのは!

 

『私もつい変な声が出て、舌を差し出してしま――プツ』

 

 つい、電話を切ってしまった。

 ……、もういいや。どうにでもなれ。

 決勝では、この怒りを砲弾に乗せてやる。

 

 それはそうと、メールで聞くことが増えたな。

 私は、ポチポチと携帯を操作し、メールの文面を打つ。

 

 

差出人:西住みほ

送り先:小野忠勝

件名:どういうことですか?

本文:

お姉ちゃんのお尻を触っていたとは、どういうことですか?!

内容によっては、沙織さんに話しますからね!

そしたら、一斉に皆にバレますから!

………

……

 

 

 

 次の日、長く苦しい協議の結果、私と先輩は『限定版ボコのぬいぐるみDXバージョン』で手を打つ条約を、締結する。

 平和は、守られた。

 先輩のサイフは、死んだ。

 

 




・割りと適当な時系列
説明も無しに前後して申し訳ない。
『もっとらぶらぶ作戦です』時空ということで。

・ダージリン隊長とオレンジペコ
あのクソ寒い中、茶をしばいてる英国流の実践者。
小野先輩は挨拶をしたばっかりに、証拠写真を激写されるハメに。
代打ちのオレンジペコさん、長文お疲れ様でした。

・漏れ出る熊本弁
『やおいかん』とは、物事が上手く行かないことを言う。
『おっと?』とは、『誰々がいる』が熊本弁だと『誰々がおる』から疑問形になり、『誰々がおっと?』となる。
決して、ハズバンドの方ではない。

・遠くに転校した娘を心配する家元
ここは、優しい世界ということで一つ。

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