やはり私と彼の出会いは間違っている。   作:赤薔薇ミニネコ

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第25話です。


第二十五話 難事と出会う

 授業も終わり、いつものように雪乃さんと会議室へと向かう。外来の人だろうか、とても美人な大学生くらいの人が生徒会長の城廻先輩と一緒にいる。周りにいる生徒もあまりの綺麗な女性に目が釘付になる。いい香りを漂わせ、近くにいた男子はなぜか前かがみになっている。隣にいた雪乃さんは、その女性を鋭い目で睨んでいる。その女性は雪乃さんを見つけると、笑顔で近づいてきた。

 

「ごめんね、私が呼んだんだ。有志団体が足りないってことだったから、どうかな~っておもってさ。ハルさん三年生の時、平塚先生とかと一緒に有志でバンドやってたの。それがすごくて~!」

「それは知ってます、見てはいたので」

「めぐりだめだよ~、あれは遊びだし。ねぇ~いいでしょ、雪乃ちゃん~。妹のためにしてあげれることはしてあげたいんだよ~」

 

 お姉さんは雪乃さんの肩に手をかけてお願いする。鋭い目つきで雪乃さんはお姉さんの手を払う。

 

「勝手にすればいいわ、決定権は私にはないもの」

「そうなの?てっきり委員長やってるのかと思ったのに。じゃあ誰が委員長?」

 

 入口の人混みをかき分けて委員長と八幡が姿を現す。いつもは早めに来ている相模さんだが、今日は用事があったのか、二人遅れてきた。

 

「うっす」

「すいません、少しクラスに顔を出してて遅れました」

「ハルさん、この人が委員長ですよ」

「さ、相模南です」

 

 威圧的な雪乃さんのお姉さんを見て、相模さんは怯えながら頭を下げてお辞儀をする。

 

「文化祭実行委員長が、クラスに顔を出して遅刻。へ~」

「あ……そ、その」

 

 冷たい口調で発せられる言葉に、相模さんは泣きそうな表情になる。私だったらすぐに八幡に助けを求めてしまうだろう。

 

「やっぱり委員長はそうでなきゃね~、文化祭を最大限楽しめる者こそ委員長にふさわしい資格だよね~」

「あ、ありがとうございます」

「それで~委員長さんにお願いがあるんだけど、私もさ~、有志団体で出たいんだよね~。雪乃ちゃんにはしぶられちゃって……」

 

 相模さんは、八幡の方に振り向き確認をとる。お姉さんはその行動を見て、なにやら八幡に興味をしめしたようだ。

 

「比企谷いいよね?」

「えっ、なんで俺に聞くの?」

「あ……ごめん、いつものくせで」

「去年より有志団体も足りてなかったし、助かったな」

 

 わからないことを八幡に聞いていた相模さんは、すっかり確認する行動が身についてしまっていた。雪乃さんのお姉さんは八幡に近づいていく。

 

「やっはろ~、君は副委員長さんかな?」

「はぁー、ども比企谷です」

「比企谷?……ふ~ん、君が比企谷君か。雪乃ちゃんと仲良くしてくれてるんだってね~」

 

 周りを引き付けるような笑顔で八幡と話している。彼女の私としてはちょっと心配である。普通の男子高校生なら、挙動不審になってしまうだろう。しかし、八幡は噛むことなくあっさりとした返事で対応している。

 

「仲良く?なんですかね……、えっと、雪ノ下のお姉さん?」

「雪ノ下陽乃ね」

「えっと陽乃さん、そんなに気を遣って話さなくていいですよ」

 

 ほんの一瞬、陽乃さんの表情が驚きに変わる。

 

「雪ノ下との会話なんて、一方的な罵倒かパンさんの話くらいですよ」

「ちょっと妬けちゃうな~、雪乃ちゃんに信頼されてるんだね」

「はぁ……」

 

 雪乃さんはゲームで八幡が倒されると「やわらかすぎるわね、もう少し固くならないの?スポンジ谷君」とか、落とし穴があるエリアとかで落ちると、「目が腐ってて見えないのかしら、落下谷君」など、次の日その名前で一日呼び続けることがよくある。雪乃さんはゲームプレイに一切のミスがないため、八幡もいじるにいじれないのである。私達は笑いながら話せるが、知らない人からしたら罵詈雑言を浴びせているようにしか見えないかもしれない。私もレベル上げでイカのようなアクティブモンスター(人物感知モンスター)を一匹ずつターゲットを取って連れてこなければいけないところを、感知されてまとめて持ってきてしまうと『イカ釣り名人』とか呼ばれたりする。

 

「いや~、君はやっぱりおもしろいね、雪乃ちゃんにはもったいないかな。二人は付き合ってるんだよね?」

 

 陽乃さんの質問に八幡以外に、雪乃さんが反応する。相模さんも、気になるのか、八幡達を見つめている。私も八幡を見つめてます、八幡に穴が開くくらいに。

 

「「付き合ってないっての(わよ)!」」

「息もぴったりじゃない」

「雪ノ下とは部活仲間ですよ」

 

 八幡の口からの仲間という言葉に、私はちょっと嬉しさを覚える。昔の八幡なら仲間という言葉はほぼ出ないだろう。奉仕部と出会ってからいろいろと変化が出てきている気がする。

 

「え~つまんないの!またお話したいし、雪乃ちゃんの彼氏になったらお茶しようね~」

 

 『彼女は私だ、このやろ~!』っと陽乃さんにツッコミたくなったが、気持ちをおさえる。

 陽乃さんは会議室の空気を嵐のように荒らして、去っていった。私は八幡に近づき皆の見えない位置から服を引っ張り、ひねります。

 

「……」

「忠絵さん、無言で肉ごと服引っ張らないで。ち、ちょっとまじで痛いから……、つ、掴んだまま回さないで……」

 

 嵐がさって、落ち着いた会議室に陽乃さんに感化された相模さんからの一つの提案がされる。

 

「みなさんちょっといいですか?少し考えたんですけど、実行委員は文化祭を楽しんでこそかな~って思うんです。自分たちが楽しまないと人を楽しませられないっていうか、予定もすごく順調で余裕もありますしクラスのほうも大事だと思うので、少し仕事のペースを落とすってことで」

「相模さん、それは考え違いだわ。バッファを持たせるための前倒しさせないと」

「雪ノ下さん、ちゃんと私が仕事の調整するから大丈夫だって」

 

 仕事は順調すぎるといっていいほど進んでいる。経験者のいるおかげでみんなの心も仕事も余裕ができて、クラスの方も手伝いたいと思っている人も多くいる。嫌々、文実になった人ならその気持ちもさらに強いだろう。相模さんの意見に周りからも、クラスの方に顔を出したいと声が聞こえる。「俺はしらんぞ」と、小さい声で八幡はつぶやく。

 相模さんの発言により、次の日から徐々に文実メンバーは減り始める。仕事はかなり前倒しで進んでいたので、相模さんはこなくなったメンバーを特に注意はせず、相模さん自身もクラスに顔を出すようになっていった。

 仕事の全体的な進行具合は、相模さんが管理している。最近では八幡にも頼らなくなり、相模さんは陽乃さんのように自信が満ち溢れた表情をしていた。

 

「最近ほんと人減ったね~」

「そうね、相模さんはいつまでこの状況にしておくのかしら」

「ねぇ八幡、相模さんは今日も遅刻?」

「いや、今日はなんか体調悪いみたいで、早退してたな。そろそろメンバー戻さないと余裕がなくなるな」

 

 クラスも文実も両方こなせれば、とても楽しく文化祭を楽しめるだろう。何もかも、問題なく進めばの話である。しかし、現実もそんなに甘くはない。

 平塚先生から、会議室にいる少ない文実メンバーに『相模がインフルエンザにかかった、一週間ほど来れない』と伝えられた。

 

「はぁ~、まじか」

「どうしたものかしら」

「まずいかもね」

 

 インフルエンザにかかったことのない人からすればただの休みとしか受け取られない。タイミングも悪すぎた。忙しい中の委員長の長期休みで文実メンバーはさらに少なくなった。八幡は文実メンバーを呼び戻しには行ったが、クラスも楽しむようにと言われているため委員長が来たら行くと開き直り仕事を投げ出す者が続出した。

 余裕などすでになく各部署の仕事が溜まりまじめ、一気に仕事量が膨れ上がる。進行を遅らせないために、少ない文実メンバーでカバーし合う。いつもほんわかしている城廻先輩も、表情を曇らせている。

 

「やっぱり、相模さんの提案ちゃんとだめっていえばよかったかな……ごめんね、比企谷君仕事増やしちゃって、間に合わなそうなの」

「まあ、やれるとこまではやりますよ」

「あなたが、自分から率先して仕事をするなんて、明日は雪かしら」

「雪が降って休校になってほしい気持ちはあるがな」

「降ったら余計仕事が溜まりそうだけどね……」

 

 最初の頃のような、生き生きとした文実メンバーの面影一切なく表情は暗い。たまに私の父も同じような表情をしている時がある。きっと父も会社で終わらない仕事量を押し付けられているんだろう。

 

「副委員長じゃなければこんなに苦労することもなかったんだが……。相模がいない間の仕事を遅らせたら俺の責任になるし、さすがに今回は諦めて仕事をするしかない。社畜道まっしぐらだな……」

 

 ここ数日、八幡は平塚先生にお願いして文実メンバーに飲み物を差し入れしたり、頭を下げてお願いしている。八幡が言うには本気を出せば土下座までできるそうだ。平塚先生はいまの状況は把握しているが、一切手助けをしない。

 

「比企谷君、目が腐っているけど大丈夫かしら」

「この目はデフォルトだ!」

「ふふ、まだ元気なようね」

「八幡、無理はしないでね」

 

 文実メンバーは黙々と作業をする。私も八幡ほどではないが、増えた仕事を進めていく。八幡は家でも終らなかった仕事を持ち帰ってるようだ。委員長不在の忙しい日々が続く。

 

 朝のSHR中、私の携帯に結衣ちゃんからメールが届いた。

 

『t ッ ≠ ─ カゞ 、キ τ ナょ レヽょ』

 

 意味が分からなかっので、とりあえず返事をしておく。

 

『結衣ちゃん、メールありがとう』

 

 放課後、仕事に追われている文実メンバーの元に平塚先生から、悪い知らせが告げられる。

 

「比企谷は、体調不良で休みだ」

「えっ……」

 

 私が驚く中、雪乃さんは知っていたようで落ち着いてはいたが、やはり表情は少し暗い。彼女の私ががなにも知らなかったことに気分が沈む。そんな私を見ていた雪乃さんは携帯のメールを見せてくれた。

 

「由比ヶ浜さんから、朝メールが来てたわ」

「あ、そういえば私にも来てたけど」

 

 『ヒッキーがきてないよ』雪乃さんに届いていたメールは読むことができた。

 平塚先生は、悪い報告とは別に相模さんが明日から来ると連絡をする。相模さんがこれば、さぼっていた人達も戻ってくるだろう。私達は無事は峠を越えたのだ。八幡の体調を崩して休んだことに、さすがの平塚先生も今日の文実は理由をつけて切り上げさせてくれた。

 早く、終わったのですぐに、小町ちゃんに連絡をして、お見舞いに向かうことを伝える。雪乃さんと結衣ちゃんも一緒に来てくれるらしい。

 

「結衣ちゃん今日の朝のメール読めなかった……」

「タタミンごめんね~、早く伝えたくて焦ってたみたい」

「あれ、文章だったんだ……」

 

 結衣ちゃんが言うには、三浦さんやヒメヒメさんとやり取りする時の文字で書いてしまったらしい。F組の女子は暗号でやり取りしているんだ、と驚愕する。

 

「比企谷君には無理をさせてしまったわね」

「ヒッキー大丈夫かな……」

「小町ちゃんが言うには、朝はゾンビだったけど、いまは人間に戻ったらしい」

 

 比企谷家を目指して三人は進む。

 

 

 

 




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