やはり私と彼の出会いは間違っている。   作:赤薔薇ミニネコ

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第21話です


第二十一話 嫉妬と出会う

 私は、夏休みに入っても八幡の家に行くことが多かった。小町ちゃんが今年受験なこともあって勉強を見ている。

 

「忠絵お義姉ちゃん、ちょっと休憩しよ?」

「さっき休憩したでしょ。今年受験なんだから、この夏でしっかりと中学一、二年の基礎も復習しないとね。八幡なんてこの前の数学テストの点数一桁だったんだよ?小町ちゃんもそうなりたくないでしょ」

「妹としてお恥ずかしい限りです……」

「でしょ? MMOのゲームもプレイヤースキルというしっかりとした基礎がないと、チーム連携ができないのと一緒! 受験まであっという間だよ!」

「むうぅ、母が二人いるみたいで小町ちょっとつらいです……」

 

 八幡は結衣ちゃんのお願いで、飼い犬のサブレの面倒を見ている。なにやらスマホをサブレに向けている。

 

「うーん、このワウリンガル壊れるほど使ってないんだが、同じ台詞しかでないな……」

「八幡も、サブレと遊んでないで小町ちゃんの勉強見てあげようよ。国語は私よりできるんだから」

 

 その時、玄関からチャイムの音が響いた。小町ちゃんは笑顔で立ち上がり逃げるように玄関へ向かっていく。玄関から小町ちゃんの呼ぶ声が聞こえる。結衣ちゃんがサブレを迎えに来たみたいなので私と八幡は玄関へ向かう。

 

「いや~ありがとう、サブレ迷惑かけてなかった?」

「いえいえ~、楽しかったですよ。またサブレ連れて遊びに来てくださいね」

「ありがとう~! あれ~タタミン遊びに来てたんだ」

「うん、夏休みは小町ちゃんの勉強見てあげてるの。私達と同じ高校に行きたいって言ってたしね」

「タタミンがいればコマチちゃんも安心だね。そうそう、今度の花火大会みんなで一緒に行かない?」

 

 小町ちゃんは遊べる理由を見つけて喜んでいる。私も誘おうと思っていたのだが、八幡の性格からして嫌がりそうなので、声はかけていなかった。

 

「今度の花火大会ですね、ぜひ行きましょう!」

「八幡、花火大会行ってもいいよね?」

「小町も行きたいみたいだしな、荷物持ちとかもいたほうがいいだろ」

 

 花火大会当日、会場近くの駅に集合してから行くことになった。集まったメンバーは結衣ちゃん、ヒメヒメさん、三浦さん、小町ちゃん、そしてなぜか千葉村の時にいた留美ちゃんが来ていた。私達は会話しながら移動する。

 

「ねぇ、なんで留美ちゃんがいるの?」

「なんか花火大会に行きたいってメールが来てな。断るのもなんだし、ちょうど俺達も行く予定だったしな」

「ふ~ん、もしさ私と八幡だけだったらどうした?」

「あほか、そんなの断るに決まってるだろ。さすがにそこまで馬鹿じゃない」

(なんだ、最近の忠絵はあたりがきついな……)

 

 三浦さんが、私達を見て不思議そうに話しかけてくる。

 

「ねえヒキオってさ、ただちゃんと仲いいけど付き合ってんの?」

「そうだが、それがどうかしたか?」

「いや、なんかちょっと意外だなっておもってさ。教室でのヒキオを見てるとさ、中学の時ただちゃんと絶対会話しなさそうじゃん?」

「そうだな、学校でまともに話したのは中学三年の修学旅行以降だしな。それまでは海老名さんのやってるゲームで話とかはしてたがな」

「海老名のやってるのって、オンラインゲームだっけ?」

「私も気になるんだけど、ヒッキーとタタミンってどっちが告白したの?」

「う~ん……、まぁ俺からだな」

「そっか……」

 

 結衣ちゃんは小さくため息をついて、空を見つめている。女の子が恋の話を好物なのはどこも変わらないらしい。小町ちゃんは留美ちゃんと仲良く話している。

 

「へ~、ヒキオもしっかり男やってんだ」

「なんだよ、俺が女々しいと言いたいのか?てか俺の話なんて聞いてもつまらんだろ」

「ヒキオはさ、好きな人が告白してくれなかったら自分から言うべきだとおもう?」

「葉山の事か?」

「ば……馬鹿じゃないの、わけわかんないし!」

「いやいや、教室でほかの女子相手にあんだけ威嚇してればわかるっつうの」

 

 三浦さんは顔を赤くして黙り込んでしまった。海老名さんは体格のいい男の通行人を見てカップリングを想像しているらしく、顔の表情を緩めながらキョロキョロしていた。出店のあるエリアまで移動すると各々買い物をする。

 

「お兄ちゃん、リンゴ飴買っていい?」

「ああ、留美もリンゴ飴食べるか?」

「食べる。八幡ありがとう」

「一緒に金魚すくいでもやるか?」

 

 留美ちゃんはニコニコしながらうなずく。

 

「忠絵、ちょっと留美と向こうで金魚すくいやってくるから小町達よろしくな」

「えっ……うん」

 

 八幡は留美ちゃんと二人で人混みの奥へと消えていった。私達は女子五人でまたガールズトークが始まる。

 

「いや~忠絵お義姉ちゃん、留美ちゃんお兄ちゃんのこと好きなんですかね? 質問めっちゃされましたよ!」

「え、なにヒキオあの子に好かれてんの?モテモテじゃん」

「ハチマン君は優しいからね~。私もハチマン君がタタミンと付き合っていなかったら好きになってたかも?」

「うぇっ! ちょっとヒナなに言ってんの!?」

「うーん、留美ちゃん千葉村の時それっぽい行動はあったかな……」

「ただちゃん大丈夫なん?ヒキオ攻めに弱そうだし」

「ぐふふ…! 攻めに弱い、そうだよ。ハチマン君は攻めに弱い、つまり受け! タタ

×ハチは薄い本ならマストバイだよ!? ていうかマストゲイだよ! ブハッ!」

「ほら、こっちにきな」

(さすが三浦さん、一緒にいるだけあって落ち着いてるな……)

 

 三浦さんは焦ることなく、ヒメヒメさんの手当をしていく。

 小町ちゃんは神妙な顔つきで、返事をする。私の中に重い黒ずんだ不安が胸の奥でじっと淀んでいる。

 

「……心配ですね、留美ちゃん」

「そうだね、ルミちゃんまだ小学生だしね」

「うん、八幡大丈夫かな……」

「「へっ?」」

 

 小町ちゃんと結衣ちゃんの声が重なる。私は二人の表情を見て、動きがとまる。

 

「お兄ちゃんが、忠絵お義姉ちゃん以外を好きになるのことはないですよ」

「そうだよ、ヒッキーの表情を見ればわかるよ……」

「ですです!忠絵お義姉ちゃん以外兄はあんな表情で話さないですからね」

 

 どうやら近すぎて見えなくなっていたらしい。当たり前のことだった。恋人の自分が気が付かなかったこと八幡を疑ってしまったことが情けなかった。

 

「ヒッキー戻ってきたね」

「あっ結衣ちゃんだ」

 

 突如、三人組の女子グループが声をかけてきた。真ん中の女子は結衣ちゃんに手を振っている。結衣ちゃんは三人の女子グループに駆け寄っていく。私と八幡も結衣ちゃんについていく。

 

「あれ~さがみん! 来てたんだ」

「あ~偶然!誰と来てるの?」

「そうそう、比企谷君達と」

「うっす」

 

 彼女達は薄ら笑いで八幡を見つめる。私はこれと同じ光景を知っている。中学時の女子生徒がよく八幡にしていた表情だ。

 

「相模だったか?私服だと大人っぽくて綺麗なんだな」

 

 八幡の学校と違った落ち着いた雰囲気と対応に、相模さんは驚いて目を見開いている。

 

「えっ!あ、ありがと……」

「ヒッキーが名前覚えてるなんてめずらしいね」

「ん、そうか?(クラスの名前覚えてないと、忠絵に文句言われるからな……)」

 

 私は、八幡の服を引っ張り、小声で話しかける。

 

「ねぇ、八幡だれ?」

「同じクラスメイトだ」

 

 そこに、手当を終えた三浦さんと海老名さん、綿あめを買っていた小町ちゃん留美ちゃんも合流する。それを見た彼女たちは表情が急変する。

 

「それじゃ相模、花火もあがる時間になるし俺達移動するから、またな」

「うん……またね、結衣ちゃん達もまた学校で」

 

 私達は花火の見えやすい人の少ない場所へと移動する。

 

「あーしらって、よくよく考えると男一人に女六人ってすごい組み合わせじゃない?」

「ぐふふ、ハチマン君ハーレムじゃん」

「いや、まじで勘弁してください……」

 

 八幡は鞄からビニールシートを取り出す。八幡の意外さにみんな驚く。

 

「八幡準備いいね」

「まあ、持ってきて正解だったな」

「なんかヒキオ、学校と違ってしっかりしてる」

「ハチマン君はゲームでもリーダー力あるからね~」

「うん、ヒッキーは頼りになるしやさしいし、すごいんだよ~」

「そんなに褒めてもなにもでないぞ……」

「ありゃ、お兄ちゃんが照れてますな~。小町としては兄が褒められて鼻が高いです~」

 

 破裂音と共に黒い夜空に咲く綺麗な特大花火に私達は圧倒される。

 

「花火きれいだね」

「そうだな」

「たーまやーっ」

 

 楽しい時間もあっという間に終わり各々帰宅をする。結衣ちゃんは三浦さん海老名さん達と。留美ちゃんは親御さんが駅まで迎えに来てくれるらしい。私は小町ちゃんと八幡と帰宅をする。家の最寄り駅に着くと八幡は私の家まで送ってくれる。

 

「花火楽しかったけど疲れたね……」

「そうだな、人混みは体力奪われるな」

「ごめんね」

「ん、どうした?」

「留美ちゃんに嫉妬したり、八幡を疑うようなことしちゃった……」

「俺こそすまん、留美にはちゃんと言ってきたよ。それに疑うってことは俺を心配してくれてるってことだしな、気にしてないし謝ることでもない。それにしてもゲームのイベントと違って本物はやっぱり違うな」

「そうだね、また行きたいね」

「そうだな、今度は二人で行きたいな」

「学校ももうすぐはじまるね」

 

 いつの間にか、私の心の中にあった重く黒ずんだ不安はなくなっていた。

 




読んでくれてありがとうございます。

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