仮面ライダーDRAGOON 赤龍帝で仮面ライダー   作:名もなきA・弐

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 二話目です。しかし、書いていて思いましたがこれはちょっと設定を練り直した方が良いのでは思う今日この頃…何せアーサーと違って面白い設定を使っただけですし…うーん。
 それでは、どうぞ。


HEART2 出会いと変身のMoment

【オキナイト、コロシマス……オキナイト、バラバラヨ】

 

目覚めの朝が一瞬で悪くなるようなヤンデレボイスの目覚まし時計でイッセーの意識は覚醒した。

そろそろ買い替え時なのだが趣味以外の物にあまり出資をしたくない彼にとっては目覚まし時計を買うのはあり得ないことであり、そんな考えすら起きなかったのだが……。

とにもかくにもイッセーは目覚め寝ぼけた頭でゆっくりと周囲を見渡す。

 

(確か、夕麻ちゃんにやられたと思ったら三途の川みたいな場所で変な少年に会って……っ!?)

 

そこで昨日の出来事を鮮明に思い出した彼はもう一度周囲を…見慣れた自分の部屋を見渡す…そこは紛れもなく自分の寝室であり漫画とゲーム(大人向け含む)と言った至って普通の高校生の部屋だった。

 

『起きたか、相棒』

「ドライグ……」

『言っておくが、夢ではないぞ。昨日のあれは俺も覚えているし……何よりも「証拠」がある』

 

「見ろ」とドライグに指示されるままに勉強机の上を見ると、そこには昨日少年に渡されたアイテム…ハートバッテリーが無造作に置いてあり、ベッドから起き上がってそれを手に取る。

 

「…あの後、どうなったんだ?」

『俺も分からん、気が付いた時には相棒はベッドに寝かされていたし愛奈殿の帰りも遅かったからな。少なくともお前が助かったのは事実だ』

 

その言葉を聞いたイッセーは安堵の息を漏らす…自分の身に起こったことを流石に説明するのは骨が折れると思ったからだ。

ゆっくりと伸びをしてから彼は部屋のカーテンに手を掛け日光を身体に浴びる。

 

「…くぅー、やっぱ朝はこうでなくっちゃ……」

『あ、相棒…何ともないのか?』

「えっ?いや別に何も」

 

戸惑うように質問してきたドライグにイッセーは首を傾げながら答えるが、彼は「怠くはないか」・「試しに神に祈ってみろ」などと問い詰めてきたので全て実行してみたが身体にこれと言った異常も変化もない。

 

『……まさか。いや、そんなはずはない…だとしても辻褄が……』

「どうしたんだよ、ドライグ?」

 

考えをまとめるように独り言を始めたドライグにイッセーは訝しみながらも、彼に問い掛ける。

「仕方がない」と言わんばかりにドライグは一度深く息を吸うと言葉を紡いだ。

 

『結論から言うぞ。相棒、お前は悪魔に転生している』

「悪魔って…あの『悪魔』か?」

『そうだ、だがそうだとしてもおかしい。本来悪魔は日光にも弱いが神・天使・光などとは先天的に相容れない性質を持っている。相棒が中級悪魔の素質だったとしても今度は祈りによるダメージがないことが不可解だ』

「転生した時にバグった、とか?」

『分からん、もしかしたら祈りの真似事だったからかもしれないが……』

 

彼の言葉を聞きながらイッセーは机のタンスを引いて、十四の時に一時のテンションで買った銀色の十字架のネックレスに触れるが何ともない。

ふと、少年の言葉が脳内で再生される……。

 

――――『ナイスタイミング!これはもう鬼に金棒…あれ?一石二鳥?まぁどっちでも良いか……』――――

(あの言葉と関係があるのか?)

 

もしかしたら、その時点で自分は誰かに転生させられたのだろうか……それならあの言葉の意味にも合点が行くしタイミングもそこしか考えられない。

どちらにせよ自分はまた助けられたのだ…自分が悪魔?になったことよりも瀕死の重傷を負ったことよりも、その事実が感謝と共にイッセーの中に巣食う自己嫌悪感を増幅させた。

 

「……とりあえず、学校に行こう」

 

自分の身に何が起こっているのか気にはなったが、一先ずは何時ものように登校することを結論付けると下へと降りて行った。

 

 

 

 

 

「御馳走様でした」

『お粗末さん。やはりと言うか家族全員で食べる時間がないな』

「仕方ないよ、母さんは部屋で仕事だし父さんは海外でレンさんと取材。姉さんに至っては朝が早い時もあるんだ、流石にそれは贅沢だろ?」

 

愛奈が作ってくれた目玉焼きとベーコンといったシンプルな朝食を完食し、食器を洗い終えると駒王学園の制服に着替えスマホで母親に「行ってきます」とメッセージを送るとしばらくしてから母からメッセージが届く。

 

『行ってらっしゃい、気をつけてね』

 

短くも何処か温かい文面を見て軽く笑みを浮かべ、イッセーは玄関のドアを開けた。

 

 

 

 

 

「……あああああああああっ、重いっ!!先生、これ無理!絶対無理だって!絶対腕もげるって!!」

「松田くーん?ごちゃごちゃ文句を言うようだったらその上にもう一個乗せるけどー?」

「…と思ったら、腕がもげそうなくらい超軽いなー!!先生の役に立てるなんて俺はとんだ幸せ者だなー!!」

 

現在の時刻は昼休み…昼食を食べ終えたイッセーたち三人は愛奈の手伝いをしていた。

その中で一番体力のある松田が段ボールに入ってある荷物に苦言を呈していたが、彼女の一言によって目から熱い水を流しながらせっせと歩く。

茶色のロングヘアーに若葉を模した緑色の髪飾りを愛奈は身に着けており女子生徒と同等の身長だがこれでも成人女性でありイッセーの伯母でもある愛奈の本職は「動物学者」だが甥と妹たちと暮らしているため、少しでも生活費を稼ぐため講師としても活動しているのだ。

…最近だと正式に駒王学園の教師になろうかどうか本気で考えているが本編とは関係がないため割愛する。

イッセーも荷物を両手で運びながらも、疲れの取れていない身体を動かし階段に足を掛けた時だった。

 

「あ……」

 

ふと、足を止めてしまった。

階段の上にいたのは美しい紅い髪を長く伸ばした美少女……すらりとした長い手足とモデルのようなスタイルの彼女は軽く微笑むと、イッセーはそれに顔を赤くしながらも頭を軽く下げる。

この学園に通う者なら誰もが彼女のことを知っている……二大お姉様の一人である三年の『リアス・グレモリー』だ。

その後はお互いに何か言うこともなく、長かったような一瞬の時間は過ぎ去り彼女は下の階へ、イッセーは上の階へと向かう。

その際、彼女が振り向いてもう一度自分に微笑んでくれたように感じた。

 

 

 

 

 

その後は何事もなく午後の授業を受け、イッセーは帰り支度を終えて涙を流して絶叫している松田と元浜を無視して教室から退室した。

ちなみに二人が泣いているのは心ここに非ずだった彼を元気づけようと主演女優が堕天使の設定であるエロDVDのパッケージを見せてきたのだが今の彼には一番聞きたくない単語だったので条件反射で中のディスクごとへし折ってしまったのである。

とりあえずそれに対して一言謝っておいた彼は帰路に就いており昨日の場所を通り過ぎようとしたが……。

 

『f####……!!』

「ガ、ゲホ……!」

 

そこには一つの惨劇が繰り広げられていた。

右胸にハート型の赤いシンボル…この時のイッセーは知る由もなかったが素体ネオストラはうめき声をあげながら黒いシルクハットのような帽子を被っているスーツ姿の男性を片手で締め上げていた。

その男性は黒い翼を生やしてこそいたが毟られたであろう羽の残骸が地面に散らばっており、苦しげな声を漏らす。

 

「……何だ、あれ…!?」

『悪魔、ではないな。それに天使とも違う…そもそもあんな生き物は見たことがない』

 

イッセーの動揺する声に応えるようにドライグが口を開くが、彼にしては珍しく動揺が声に現れている。

素体ネオストラが楽しそうに締め上げている腕に力を込めた。

 

「…っ!やめろぉっ!!」

 

両脚に魔力を流し込んで一直線に素体ネオストラ目掛けて直進すると、イッセーは赤龍帝の籠手で思い切り殴り飛ばす。

 

『4&Z!?』

 

呻くように声を漏らすと、不意をつかれたのもあってか男性から手を離してしまう。

急いで彼の首根っこを掴んで安否を確認する。

満身創痍ではあったが幸いにも男性は微かに息があることに安堵するとイッセーは素体ネオストラと対峙する。

 

『iy:@y2p@et@9hm7Zwh;quZ!!c;sm、6j5t@t0li3cyw@h;ykt。3#Z?』

「何を言ってるのか分からねぇけど、この人を襲うんだったら俺が相手になってやるっ!!」

 

男性の声で苛立たしげにまくし立てる素体ネオストラにイッセーは籠手を見せつけるように左腕を前に突き出すと倍加を始める。

 

【BOOST! BOOST! BOOST!】

「行くぜっ!!」

 

さらにそこから倍加を行ったイッセーは相手の懐に入り込む…その際、素体ネオストラは鋭いパンチを浴びせようとするがそれを躱すと一気に倍加した力を解放した。

 

【EXPLOSION!!】

「ぶっ飛べぇっ!!」

 

内角をえぐるように渾身の拳を叩き込んだ……しかし。

 

『…hZffffffZZ!!!uyq@cl'3Z!-@hdyh@kj<b@st#Z!?』

「…なっ!?」

『下がれ、相棒っ!!』

 

ダメージを受けるどころか、吹き飛びもせずに嘲るように笑う素体ネオストラに愕然とするイッセーにドライグは警告するが隙だらけだったボディに重い拳を叩き込まれてしまう。

吹き飛ばされたイッセーは受け身を取ることも出来ないまま、噴水に激突する。

 

「ぐっ、ゲホッ、ゲホッ!!」

『6;qai「c;」fz4d@<%9。ネオストラニ、セイクリッド・ギアハ、キュウシュウ、サレルンダヨ』

 

やがて、不可解な言語から…片言だが幾分か聞き取れるようになってきた素体ネオストラの言葉を聞きながらイッセーはあるキーワードに反応する。

 

(ネオストラ…もしかしてこいつが…?)

『オット、ジャマガ、ハイリヤガッタカ。ココデ、オイトマ、サセテモラウゼ』

 

「ジャアナ」と片言でそう吐き捨てて彼は姿を消した。

敵がいなくなったことを確認したイッセーは胸を抑えながらも震える脚で必死に立ち上がろうとする。

 

『相棒っ!無茶をするなっ!!いくら悪魔になったとしてもダメージが大きい』

「でも、あの人を…助けなくちゃ…」

『奴は堕天使だっ!お前を襲った奴の仲間かもしれないんだぞっ!!まずは、自分の心配をしろっ!』

「それでも、見捨てられ…な…」

 

ドライグの必死の説得にもイッセーは力が入らず、地面に倒れてしまうが這い蹲りながらも気絶した男性の元へ近寄ろうとするが意識が薄れて行く。

 

(…畜生…畜、生ぉっ……!!)

 

また同じようなことを繰り返す、どうしようもなく無力でクズな自分にイッセーは憎悪を募らせながら、もはや動かない身体を必死に動かそうとした時…薄れゆく視界に赤い魔法陣のような物体と、駒王学園の女性の制服を着た数人の女子が映る。

その中で…記憶に新しい紅く美しい髪を持った人物…彼女は、確か……。

そこで、イッセーの意識はシャットダウンされた。

 

 

 

 

 

夢を、見ていた……自分を助けてくれた仮面の戦士が、先ほど自分が戦った異形と戦っている夢だ。

あの時と同じ、武器を振るう彼は襲い掛かる敵を斬り払いながら遠くにいる二体を撃ち抜く…颯爽としているのに、自分には何処か苦しそうで……酷く悲しく見えた。

そこで彼の目は覚めた。

 

「ん……変な夢」

 

その呟きと共にまだ鳴っていない目覚まし時計を止めて布団ごと上体を起こす。

やはりと言うか自分はベッドにいる…まるで昨日の朝の出来事をそのまま再現しているみたいだ。

しかし、違うところがあるとすれば今度は自分と同じ学園の生徒が魔法陣と共に助けに現れた…恐らく自分を悪魔に転生させたのも彼女たちなのだろう。

 

(とりあえず、姉さんたちに自分の身体のことを言ってそれから…)

 

今日の出来事を考えながらベッドから起き上がろうとした時、ある違和感に気づく。

今のイッセーは何も身に纏っていない、所謂全裸…もしくはフルティンだ。

 

(何でっ!?)

 

自分が一糸纏わぬ状態であることに流石のイッセーも混乱するしかなく、どうして自分が全裸なのか必死に思い出そうと記憶の糸を手繰り寄せようとするがどうしても思い出せない。

 

「……うぅん。すーすー……」

「……えっ?」

 

自分ではない艶っぽい声と寝息に思わず声を出してしまう……しかも、自分のベッドからだ。

恐る恐る自分の隣を見る……そこに『彼女』はいた。

健康的な白い肌は眩しく、紅の髪が美しく映える…駒王学園のアイドル的存在であるリアス・グレモリーが全裸で寝ていたのだ。

大事な問題なのでもう一度言おう、何も身に着けず全裸で気持ちよさそうに眠っていたのである。

 

(いやいやいやいやっ!待て待て待て待ってくださいっ!!どうして!?WHY!? WHAT!?何がどうなってんのっ!!俺は一体何したのっ!!…もしかして、グレモリー先輩に貞操を…!!?///)

(落ち着け相棒…それを言うのは逆だし、お前もリアス・グレモリーも何もしてない)

 

パニックになっているイッセーはあらぬ妄想を抱いて自分の両肩を抱くが、呆れたようにドライグがツッコミを入れる。

唯一の証人ならぬ証ドラゴンに安堵したイッセーはドライグに質問をぶつける…無論、隣にいるリアスを起こさぬようにだ。

 

(リアス・グレモリーがお前を運んだ後、何を思ったのか服を脱ぎだしてな…最初は何事かと思ったが裸で密着すること魔力を与えて傷を塞いだのだろう、ふひひ)

「おい、マダオ(まるで駄目なオスドラゴンの略)。本音が最後の笑いとして漏れてるぞ」

 

思わず声に出してツッコンでしまったがどうやら過ちを犯していないようで安心した。

自分としては貴重なシーンを思い出せないのは惜しい上に、自分のような塵芥の存在と高嶺の花である彼女と一夜を共にするなんて最低にも程がある行為だ。

 

(さらりと自分を卑下するのはやめろ相棒。お前の悪い癖だ)

「…悪い」

 

イッセーの事情を知っているドライグは厳しい口調で窘めると、彼は申し訳なさそうに謝るが……下の階で声が聞こえてきた。

 

『イッセー?まだ寝てんのー!もう学校でしょー!!』

「『っ!!』」

 

一回から聞こえてくる愛奈の声にイッセーとドライグは反応する。

何時もなら返事をするなりして下から降りれば良いのだが隣で寝ているリアスをどうすれば良いかだ。

起こすべきなのだが全裸で寝ている美少女に健全な男子生徒がベッドの上にいる…どう考えても犯罪である。

 

『イッセー!?まだ寝てるのー!!…たく、しょうがないわね』

 

愛奈の声が聞こえた後、階段を上がってくる足音が聞こえる…心なしか音が大きいことから怒っているのだろう。

慌ててイッセーは愛奈を止めようと声をあげる。

 

「起きた、もう起きたからっ!!だから待って!」

『そうだ愛奈殿っ!相棒は俺が起こしたっ!!ハハッ!このお寝坊さん♪』

『何で目覚まし持っている奴をわざわざあんたが起こすのよっ!!後、その笑い声と口調イラッとするからやめろっ!!』

 

ドライグの渾身のフォローも愛奈の言葉によって打ち砕かれてしまい、足音がやむ気配がない。

そこで、さらにアクシデントが起こった。

 

「んっ?うぅん……朝?」

 

リアスが寝ぼけ眼を擦りながら上体を起こし始めたのだ。

「起きたー!?」とイッセーとドライグがパニクる中、部屋のドアが勢いよく開かれた。

 

「おはようございます…て、政宗先生?」

 

ドアを開けた愛奈と視線が合ったリアスは満面の笑みで爽やかな挨拶を行うが生物を押している非常勤講師である彼女を見て小首を傾げる。

表情が固まったまま、愛奈は甥であるイッセーに視線を向けるが当の本人は適当な言い訳も思いつかず視線を逸らす。

 

「シタク、チャント、シナサイネ」

 

機械的に言うと、愛奈は覚束ない足取りでふらふらと部屋から出ると静かに扉を閉めた。

そして、慌ただしい足音が聞こえた後、隣の部屋のドアを叩きながら声をあげる。

 

「『加奈子』おおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!起きなさいっ!イッセーがっ、イッセーがあああああああああああああああっっ!!」

 

けたたましい音と共に慌てふためいた涙声でイッセーの母であり愛奈の妹である『辰巳加奈子』を呼ぶがドアを叩く音が聞こえている辺り、応じていないのだろう。

 

「何かあったに決まってんでしょうっ!?イッセーが外国の人とっ、しかもよりによってうちの学校の生徒とおおおおおおおおおおっっ!!!良いから早く出てこいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!!」

 

騒いでいる愛奈にイッセーは両手で頭を抱えるしかなく、ドライグも「家族会議決定だな」と諦めていた。

しかし、そんな混沌溢れる辰巳家を生み出した張本人であるリアスは「朝から賑やかな家族ね」と楽しそうに笑っており、ベッドに腰を掛け直してからゆっくりと脚を組む。

 

「……っ!?///」

(ヒュー!見ろよあの女の身体をっ!まるで芸術品のようだっ!!)

(お前もう頼むから黙ってくれドライグッ!!)

 

赤面しながらも、イッセーは妙なテンションになっているドライグを黙らせるが目の前にいるリアスを見てしまう。

括れた細い腰と長い手足、形の良いヒップと胸がほんの少しの動作だけで微かに揺れる。

 

「……見えています」

「見たいなら見ても良いけど?」

 

あまりの衝撃的なひと言にイッセーとドライグは固まってしまう…まさかうら若き学園のアイドルからそのような言葉が出るとは思わなかったのだろう。

そして、そこから一言。

 

「ちなみに私は処女よ」

「あっ、そうなんですか…て、誰も聞いてませんわっ!!」

 

何処か誇らしげに言い放ったリアスにイッセーは渾身のツッコミを入れるが咳払いをしてから本題に切り出す。

 

「グレモリー先輩。昨日と、一昨日に俺を救ってくれたのって…」

「そこまで分かっているのね。そう、私はリアス・グレモリー……悪魔であり、あなたのご主人様よ。よろしくね、辰巳一誠君…『イッセー』って呼んでも良いかしら」

 

その魔性の微笑みは、普通の人間には出せないほど美しかった。

 

 

 

 

 

味噌汁を飲み終えたリアスが両手を合わせて「御馳走様」と言ってから、家族会議が始まった。

愛奈は落ち着いているように見えるが視線が忙しなく動いており今だ慌てているのが分かる。

やがて、話を切り出した。

 

「それで、グレモリーさん。どうしてイッセーの、私の甥の家にいたのか教えてくれないかしら?」

「実は、辰巳君を我が部にスカウトしようと思いまして」

「うちの子を悪魔にしておいて良くそんな戯言をほざけるわね…!!」

 

その言葉にリアスは驚いたような表情を見せる…無理もない、彼女は愛奈を含めイッセーをごく普通の常識を持った人間だと思っていたからだ。

そして彼女から放出される魔力にリアスは驚きの表情を浮かべるが息を吐くように魔力の余波を消す。

 

「冗談よ。あなたがいなければイッセーは五体満足でいられなかったでしょうし、悪魔だろうがイッセーは私たちの家族よ。ごめんなさい、グレモリーさん。恩人なのに怖がらせるような真似をして」

「いえっ……ありがとうございます。先生」

 

そう言って、二人は互いに深く頭を下げた。

イッセーはそのことに胸を撫で下ろしたがメッセージが受信されたスマホを起動させる。

 

『紅い髪の女の子なんて本当にいないよね、イッセーちゃん?』

「……信じてなかったんかい」

 

察しの悪い母親にイッセーは苦笑いをするしかなかった。

 

 

 

 

 

そして、時間は過ぎて放課後…イッセーは爽やかな笑顔が似合う金髪の少年、所謂イケメンに分類される人物『木場祐斗』の後をついていた。

今朝の投稿では、同学年の男子女子に嫉妬の視線を向けられており「当然か」と苦笑いしていたが一部の下級生たちは「辰巳先輩がグレモリー先輩と…やっぱりすごいっす!」・「そんな、辰巳先輩が…あっ」と騒いでいたが当人はそれに気づいていなかった。

実はイッセー、面倒見の良さと並外れた行動力の持ち主などから後輩たちに慕われているのだがあまり自覚がないのだ。

閑話休題……とにかく木場に呼ばれたイッセーはそのまま旧校舎へと入って行き、しばらくして「オカルト研究部」と書かれた扉のプレート前で止まる。

 

「部長、連れてきました」

『入ってちょうだい』

 

扉越しにそう言った木場の声にリアスの声が聞こえると彼は扉を開けて、イッセーと共に部室に入る。

室内は薄暗い雰囲気となっているがアンティーク調の灯台に立てられているろうそくの火が光源となっている。

二つあるソファには白髪の小柄な少女が座っており水ようかんを爪楊枝で刺して口に持って行く。

 

(確か、『塔城小猫』……だよな。一年の)

 

元浜が熱く語っていた一年の生徒で学園のマスコット的存在として人気を集めている少女だ。

木場にしてもそうだ…自分や松田たちと違って女子生徒に高い人気がある男子生徒でこちらもリアスや小猫ほどではないが有名人の一人だ。

 

「辰巳君はここに座っておいてね?」

「おう」

 

言われた通り、イッセーはソファに腰を掛ける。

 

「粗茶ですが」

「あ、どうも」

 

するとタイミングを狙ったかのように前にある机にお茶が出される。

長く美しい黒髪を持った…リアスに負けずとも劣らないプロモーションを持った女子生徒はイッセーのお礼の言葉を聞くとにこやかに微笑んでくれる。

 

(『姫島朱乃』先輩までもか……)

(これが悪の組織だったら完全に詰んでいる状態だな)

 

二大お姉様の片割れである姫島朱乃だと気づいたイッセーは表情を隠すように湯飲み茶わんに入ったお茶を飲む。

ドライグは楽しそうに語っていたが冗談でも聞こえないことを祈るばかりだった。

ふと耳の入った水音が聞こえる…恐らくリアスがシャワーを浴びているのだろう…朱乃が部室にあるカーテンに近づきバスタオルを差し出すと中にいるリアスがそれを受け取る。

しばらくして、学生服を着たリアスがカーテンから現れたことで説明が始まった。

 

「さて、早速だけど…イッセー、あなたは神器を使用出来るみたいだけど悪魔や天使、堕天使のことは知ってる?」

「それは……」

(相棒、正直に答えた方が良いぞ。ただし、答えられる範囲でだ…流石にお前の母方のことまで話すと長くなる)

 

どう答えるべきか言い淀んでいるイッセーに対してドライグは的確なアドバイスを送る…確かに、母親のことまで話すとなるとかなり時間が掛かる上に本筋から外れる可能性がある。

何より、悪魔などよりも突拍子もなさすぎる……。

それを肝に銘じながらイッセーは話を始める。

 

「はい、詳しく…とまでは行きませんが大体のことなら知っています」

「差し支えなければ、誰から聞いたか教えてもらっても構わないかしら?」

「祖母です。小さい頃、祖母ちゃんが俺や従兄弟たちに悪魔や天使たちのことを童話として読み聞かせてくれたんです」

 

数百年前、自分の世界ではずっと昔に聖書の神話体系の天使・悪魔・堕天使の間でかつて大戦争が生じたこと、そして二天龍が起こした喧嘩を三大勢力が協力の元に倒し、魂を神器に封印された状態となっていること。

 

「祖母ちゃん家でやっている定期検査で、その一匹の魂を封印した神器があることに気づいたんです」

「それってもしかして…!」

 

その言葉に反応したリアスは冷静を装いながらも驚いているように見える。

「論より証拠」と言わんばかりにイッセーは左腕を前に突き出す。

 

「来い、赤龍帝の籠手ッ!!」

 

その言葉と共にイッセーの左腕に赤龍帝の籠手が召喚されると、リアスを含む全員が驚き目を見開いている。

 

「赤龍帝の籠手…それじゃあやっぱり…!!」

『お察しの通りだ、リアス・グレモリー……俺は二天龍の内の一匹「赤い龍」だ』

 

ドライグの肯定する言葉に、リアスの表情は増々驚愕に染まる。

しかし、それよりもイッセーに気になることがありそれを彼女に質問する。

 

「今度は俺から良いですか…どうして堕天使は俺を襲ったのでしょう?それに俺はどうやって転生したのですか?」

「恐らくだけど、あなたに神器を宿していたからよ。あなたの場合、それよりもレアな神滅具だったのだけれどね」

 

その言葉を聞いて、多少なりとも納得した。

どうして神器を持った人間を襲うのか疑問に思ったが、ある程度の理由はつく…なぜ自分を危険視したのかなど釈然としない部分はあったがとりあえずは理解することにした。

 

「二つ目の質問だけど、私は瀕死だったあなたに悪魔の駒を与えることで下僕として悪魔に転生させたわ」

「……悪魔の駒?」

 

聞き慣れない単語が聞こえたイッセーは復唱すると、その言葉を待っていたというようにリアスは席に置いてある赤いチェス盤の駒を一つ手に取る。

 

「簡単に言ってしまえば、人間などの特定の存在を悪魔に転生させる物よ。上級悪魔に持たされ、それで自分だけの眷属を作るの」

「へぇ…もしかして悪魔ってそんなに多くないんですか?」

 

イッセーの問いにリアスは肯定するように頷く。

 

「そうね、永遠に近い寿命を持つ代わりに妊娠率や出生率はきわめて低いの。これはそのためのシステムと言ったところね」

 

その後のリアスの解説では、本来複数の駒を使うであろう資質を宿した転生体を一つの駒で済ませてしまう特異な駒『変異の駒』というものも存在するらしい。

ちなみに自分は兵士の駒八つを消費したらしい。

あまり実感のない話だっが「レアキャラみたいなものか」と適当に自分を納得させた。

そして一通り話を聞き終わったのを見計らって四人はリアスを中心に並び立つと背中から黒い悪魔の翼を生やす。

 

「改めて、僕は木場祐斗。『騎士』をやらせてもらってるよ」

「塔城小猫…『戦車』です。よろしくお願いします、イッセー先輩」

「姫島朱乃。『女王』を務めさせていただいてますわ。よろしくね、イッセー君」

「そして、私はこのオカルト研究部部長でありグレモリー眷属の『王』よ。これからよろしくね、イッセー」

 

四人の挨拶の後に「よろしくお願いします」とイッセーは元気よく頭を下げた。

 

 

 

 

 

そして、数日後イッセーは自転車を漕ぎながら真夜中の駒王町の家のポストに簡易魔法陣のチラシ配りをしていた。

リアス曰く「悪魔は人間の欲望を叶える者であり、その欲望を叶える代わりに対価を貰う」……俗にいう悪魔との取引だ。

対価はその欲望に応じて比例するようで、願いが大きいほどそれ相応のリスクも伴うのだろう。

 

『何だか早朝の新聞配達を連想させるな』

「夜更かしは慣れているけど、流石にきついなー」

 

ドライグと軽口を叩きあいながらも手を止めずに作業を進めて行く。

リアスには言ってなかったのだが、本来悪魔は日の光が苦手で昼夜が逆転するのだがイッセーはなぜかそう言った弱点がないのだ。

しかも、全ての言語を共通の言語として捉える能力…つまり相手が話している言語を理解出来るだけでなく、自分が話している言葉も相手は理解出来るようになる。

「英語のテストの時便利だなー」と思っていたが結局あまり意味なかったのは内緒の話である。

やがて、全てのチラシを配り終えたのを確認したイッセーは部室に戻り部長であるリアスに報告すると彼女から「お疲れ様」と労いの言葉と共に指令が与えられる。

 

「小猫の代わりに、お願いしようと思ってね」

「…お願いします、先輩……」

 

ソファに座っていた小猫が軽く頭を下げると、イッセーもそれに快く了承する。

 

「了解、でもあんま期待しないでね」

 

そう答えた彼はリアスに導かれるように歩くと、赤い魔法陣が浮かび光り出す。

そして意を決するように魔法陣へと足を踏み入れた。

……結論から言えば、今回の依頼者は小猫のお得意様でもある『森沢』という眼鏡でやせ形の男性であり人との触れ合いに飢えている人であった。

とりあえず事情を説明して話すことになったのだが本棚にあった人気漫画が目に入り、それが切っ掛けで話が弾み、名シーンの再現ごっこをしていたら何時の間にか契約が取れており、対価に人気アニメのポスターをもらった。

二人目は世紀末覇者の如き屈強な肉体に魔女っ子に憧れる乙女心を宿した『ミルたん』。猫耳付きのゴスロリ衣装に身を固め、語尾には「にょ」と付ける漢の娘(誤字ではない、念のため)。

「自分を魔法少女にしてほしいにょ」と頼み込んできたのでどうするか悩んだが母が以前イラストを手掛けていた『魔法少女 プニ☆マジ』と、恐らくミルたんの名前の由来であろう『魔法少女ミルキー』のアニメBlulay-Boxがあったのでそれを一緒に観ながら筋トレに付き合ったことで契約を結ぶことが出来た。

対価は古びた厚い書物だったが不気味だったので丁重に部室の本棚に置くことにした。

ちなみに契約自体は無事結ぶことが出来たのだがリアスからは「にょ…何これ?」とミルたんの語尾に対して小首を傾げていたが笑ってごまかすことにした。

そして…その次の日、日も暮れかかった夕方にイッセーはリアスたちの後についていくようにある廃墟に訪れていた。

 

「『はぐれ悪魔』……ですか」

「そうよ。主を始末、または裏切った悪魔のことで各勢力から危険視されているの」

 

歩を進めながらもリアスはイッセーに分かりやすく教えて行く。

はぐれ悪魔は各勢力から危険視されており見つけ次第、消滅させることになっているとのことらしい。

 

「……それって、『消す』ってことですよね。今まで俺たちと同じように話したり笑ったりしていた人を…」

「……そうね」

「すいません。俺…」

「良いのよ。あなたは優しい…ここ数日あなたと話して何となく分かる。でも、はぐれになった悪魔は非常に凶悪になっているし被害も出てる…だから私たちがいるの」

「……」

 

リアスにフォローされたことでイッセーは増々自己嫌悪が強くなる…主であり恩人でもある人に自分みたいな腰抜けがフォローされた。

しかし、小猫が止まると同時にドライグが声を掛ける。

 

(…相棒)

「……血の匂い」

 

彼の言葉と彼女の呟きでイッセーは我に返る。

鉄臭さが辺りに漂うようになると、上半身は見た目麗しい女性だったが下半身は完全な化け物へと変化しておりケンタウロスと表現した方が正しいだろうか?

 

『ケ、ケタケタケタケタ』

(おう、気色悪いな)

(せっかくの美人も台無しだな)

 

壊れた人形のように不気味に笑うはぐれ悪魔にドライグとイッセーは胸中で毒を吐く中、何かを思いついたリアスは彼に話しかける。

 

「……イッセー、これも何かの機会よ。悪魔の駒の各駒の特性と由来をレクチャーするわ」

「わ、分かりました」

 

その言葉を聞いた彼は頭の中でメンバーに与えられた駒を思い出す。

木場が『騎士』で小猫ちゃんが『戦車』、朱乃が『女王』、そしてリアスが『王』……そして、自分は『兵士』。

イッセーが自分の駒を確認する横で、一歩前に踏み出したリアスは不気味な風貌のはぐれ悪魔に動じず、厳しい口調で宣言する。

 

「己の欲を満たすために主を殺したはぐれ悪魔『バイサー』………悪魔の風上にも置けない貴方を消し飛ばしてあげる!」

『小娘が……返り討ちにしてやるぅっ!!!』

「祐斗」

 

相手の不気味な声に臆さず彼女は短く木場の名前を呼ぶ…「はい」と短く返事をした彼は腰に帯剣していた剣を引き抜き、常人には目にも負えないような速度で動いていた。

バイサーは召喚した武器で木場を貫こうとするが非常に速い速度でその攻撃を全て受け流し、軽く躱す。

 

「祐斗の駒の性質『騎士』……あのように騎士になった悪魔は速度が増すわ。そして祐斗の最大の武器は……剣」

 

リアスが解説をする中、木場はバイサーの片腕を目にも留まらぬ速さで切り落とすとバイサーの苦痛に塗れた絶叫が響く。

「速い」とイッセーが呟く中、バイサーは片腕を失いながらも体勢を立て直そうとするが彼女の足元に既にオープンフィンガーグローブを装着した小猫がファイトスタイルのまま立ちはだかる。

 

「小猫の特性『戦車』は至ってシンプルよ」

 

バイサーは足元に自分よりも小さな悪魔を踏み潰そうと肥大化した四本の脚を振り下ろすが彼女はそれを難なく両手で止める。

 

「馬鹿げた力と、圧倒的な防御力!あれぐらい悪魔じゃあ、小猫を潰せないわ」

「……えいっ」

 

終いには片手で巨体を持ち上げた小猫は空いた右手で小さな拳を握り、思い切り振るうとバイサーの巨体が紙切れのように吹き飛ぶ。

 

(なるほど、これがギャップ萌えか)

(いや、絶対に違う!…と思う)

「最後に朱乃ね」

 

素っ頓狂な発言をするドライグにイッセーがツッコミを入れる中、リアスは女王である朱乃に声を掛ける。

 

「あらあら、うふふ……分かりましたわ、部長」

 

にこやかな表情を崩さぬまま、朱乃はゆっくりと満身創痍であるバイサーに近づく。

二人のダメージだけで既にボロボロであったがバイサーは未だに戦意を喪失しておらず、急に起き上がり鋭くなった歯で彼女を食い破ろうとするが、ぴたりと動きを止めてしまう……理性を失った者が最後に頼る能力、本能。

朱乃の気圧にゆっくりと交代するが、気にせず彼女は手から黄色い電気のようなものが発生する。

 

「朱乃の駒は『女王』…『王』を除いた全ての特性を持つ最強の駒。そして、最強の副部長よ」

 

彼女は手を上にかざした瞬間、バイサーの上空からそこから激しい落雷降り注いだ。

 

『がああああああああっっ!!?ぐぅぅぅぅ……!!』

「あらあら、まだ元気みたいですわねぇ。なら…」

 

ボロボロになりながらも朱乃さんを睨み付けるバイサーだが、それを見た彼女は心なしか増々笑みを浮かべると、次々に雷撃を浴びせて行く。

 

「うふふふふ」

「そうそう、朱乃は究極のSなの」

「見れば分かりますよっ!!」

 

リアスは何てことのないように話すが惨状を始めてみるイッセーは悲鳴に近いツッコミを入れるが彼女は「大丈夫よ」と彼を落ち着かせる。

 

「彼女は味方には優しいから」

(そういう奴に限って、身内を弄るのが大好きかもしれんな)

(ありそうかつ怖いこと言うんじゃねーよっ!!)

 

ドライグは冷静にコメントを入れたがイッセーによって強引に黙らされる。

そんなことをしながらも、バイサーは完全に倒れておりもはや抵抗すらしない。

 

「部長」

「分かっているわ」

 

そして、この四人を束ねる『王』は毅然とした態度で倒れているバイサーにゆっくりと近づく。

 

「何か言うことは有るかしら?」

「殺せ」

 

リアスからの問い掛けに一言だけ返すと、彼女の手から極大の魔力が生成される…その魔力は黒と赤を混ぜたようなそれは詳しく分からないイッセーでさえも身の危険を感じるほどだ。

 

「なら……消し飛びなさい」

 

その一言と共にリアスから発せられた魔力の塊を受けたはぐれ悪魔…バイサーは跡形もなく消し飛んだ。

その様子をイッセーは悲しげに見つめていた…生物が消滅する光景を目の当たりにした彼は、湧き上がる吐き気を堪えつつもいくつか分かったことをリアスに伝える。

 

「部長、俺の『兵士』は…もしかして『王』以外の全ての駒の特性を使えるんですか?」

「鋭いわね、正解よ。『兵士』は私の承諾によって『王』以外のすべての駒に昇格しその能力を使用出来る『プロモーション』を持っているの」

「なるほど」

 

チェスは、よく探偵を営んでいた叔母から教わっていたが大体の特性が悪魔の駒と同じらしい…こうしてはぐれ悪魔討伐及びイッセーへの悪魔の駒講座が終了するとイッセーはバイサーがいた場所に両手を合わせ、黙とうする。

 

「イッセー?」

「すいません。俺の自己満足ですので」

 

面識も何もなかったが、それでも見捨てられなかったイッセーは黙とうを終えてみんなの方に振り向いた。

 

「じゃっ、帰りましょうか!俺もう疲れちゃいましたよ!!」

 

明るくそう言う彼だったがリアスはほんの少しだけ後悔していた。

もしかして自分は最も非道なことを彼に強要してしまったのではないかと…口ではああ言ったが結局彼に最低なことをさせてしまったのではないかと……。

 

(…帰ったら、イッセーに謝っておきましょう)

 

そう結論付けた彼女は痛む心を手で軽く抑えながらも旧校舎に戻ろうとした時だった。

 

「おいおいおいおい、何だもう終わっちまったのかぁ?」

 

聞き慣れない声と共に彼らの行く手を阻むように現れたのは眼鏡をかけたグレーのスーツを着たサラリーマン風の男性。

しかし、その態度と言動は全くと言って良いほど一致しておらず何処か不可解さを感じさせる。

 

「けど、まぁ…赤龍帝の籠手のガキと、そこにいるニンゲン四匹も強そうだな。グレモリー眷属ってのをぶっ潰したらお上からもそれなり優遇されんだろうな」

 

ぶつぶつと独り言を言いながら男性は全員にうすら寒い殺気で舐めるように観察する。

全員に心当たりがなかったが、イッセーだけは心当たりがあった。

何処か粘着質のある…その声を。

 

「んじゃっ、精々逃げ回れよニンゲン共ぉっ!!」

 

そう叫ぶや否や男性の身体は黒と紫の何かに包まれると…イッセーが初めて対峙した素体ネオストラへと変わる。

しかし、それだけでは終わらない。

 

『ぐっ、うぅ……ははっ!来たっ、来たぜええええええええっ!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!』

 

雄叫びを上げると、素体ネオストラから先ほどの男性が倒れるように排出されると同時に上半身に変化が生じる。

爬虫類の鱗で出来た装甲、拳部分には毒牙を模したグローブが装着されており、それはさながら蛇のようでもある。

悪魔とも…ましてや堕天使や天使とも妖怪とも違う異形にリアスは視線を外さずに口を開いた。

 

「あなた、何者なの…!?」

『あぁ?はっはは!!特別に名乗ってやるよ、俺はネオストラ…歴史に新たな名を刻む細胞生命体。そして俺は、「スネーク・ネオストラ」だあああああああああっっ!!!』

「危ないっ!!」

 

好戦的な口調でそう名乗りを上げたスネーク・ネオストラはリアス目掛けて拳を振るう、ゴムか何かのように凄まじいスピードで伸縮したその拳はイッセーが彼女ごと押し倒したせいで難を逃れるが廃墟の壁にけたたましい音と共に穴を空ける。

 

『~~~~最高だぜぇ!!やっぱ気に入らねぇ上司も、ガキ共も、身の程知らずに襲ってきた堕天使の男もっ!この手でぶちのめすのに限るなぁっ!!えぇっ、おいっ!?』

 

楽しそうにまくし立てるスネークに狂喜に満ちた表情で目の前にいる多くの得物たちを睨みつける。

 

「…舐めるなっ!」

「……っ!!」

 

木場も高速で相手との距離を詰めて攻撃を、小猫も鋭いストレートを放とうとする。

しかし……。

 

『無駄なんだよぉっ!!』

「うわっ!?」

「くっ…!!」

 

スネークは刀身を防御せずに、小猫のストレートを掌で受け止めると思い切り身体を振るって吹き飛ばす。

 

「お仕置きですわっ!!」

 

今度は朱乃が落雷を操り、スネークに直撃する…イッセーに庇われたリアスも彼に礼を言うと、追撃するように滅びの力を放つ。

手ごたえを感じた彼女たちは勝利を確信する……。

 

『無駄だ。てめぇらは既に「呪われてんだよ」……』

 

その言葉に全員が首を傾げるがやがて全員が苦しげに膝をつく。

それを見たスネークは楽しそうに笑うと、言葉を紡ぐ。

 

『所詮はニンゲンのガキかっ!!俺たちは特殊な術…「呪法」でてめぇらを無力化出来るんだよっ!つまり、今のてめぇらはヒト以下ってことだ』

 

楽しそうに、狂喜に歪んだ声で開設するスネークの右胸に埋め込まれたハート型シンボルが脈打つ。

まるで、次の得物を待ち望むように……。

一方のイッセーは頭を働かせていた。

彼だけはスネークの呪法による影響を受けなかったのだが戦況が不利なことには変わらない……このままでは全滅してしまう、また誰も救えずに…。

諦めかけたその時、ポケットに当たる固い感覚に慌てて中をまさぐると入れておいたまま放っておいたハートバッテリーがある。

それと同時に、少年の声がフラッシュバックする。

 

――――「それはネオストラと戦うための道具…えっと、二天龍の赤い方が入っているから…『ドラグーンドライバー』でいっか。それとこれもプレゼント」――――

――――「それは『ハートバッテリー』…動物の擬似心、まぁ動物の力を宿した物体だと思ってくれて良い。これで君の神器は生まれ変わった」――――

「っ!…一か八かだっ!!」

 

イッセーは、覚悟を決めると赤龍帝の籠手を解除する……そして、『自身の魔力』で生成したドラグーンドライバーを腰に巻きつけた。

 

【START UP! DRAGOON!!】

『っ!!?』

 

ドライグの声にも似たテンションの高い電子音声に、全員がイッセーの方を振り向く。

リアスたちは動揺していたが、ただ一人…スネークだけは動揺した声をあげていた。

 

『バッ、バカなっ!!そのベルトは…』

 

スネークの慌てた声を無視して、イッセーは緑色のハートバッテリー…『ローカストバッテリー』を下部のホルダーにセットし、ホルダーを上に傾けた。

 

【WHAT THE CHOICE HEART!? WHAT THE CHOICE BATTERY!?…♪】

 

テンションの高い待機音声が鳴り響く中、イッセーは相手から視線を逸らさずに装填されたローカストバッテリーのインジェクタースイッチを押し込んだ。

 

「変身っ!!」

 

瞬間、イッセーの身体は赤い龍を思わせるような赤いスーツに装着する。

そして何処からともなく飛翔してきた緑色の双剣に似たエネルギーがイッセーに向かって飛んでくるが彼はそれを受け止めることもせず、交差するように彼の頭部に突き刺さった。

 

「イッ、イッセー!!?」

 

リアスは突然の惨劇に悲鳴をあげるが……。

 

【CURSE OF CHARGE!…L・O・C・U・S・T! LOCUST~!!♪】

 

軽快な電子音声が鳴り響き、緑色のラインが全身に駆け巡るとその上にイナゴを模したパーカーが装備された。

そこに現れたのは赤と緑の戦士でありアニメキャラクターを思わせるようなオレンジの瞳は禍々しさと獰猛さを感じさせる。

『仮面ライダードラグーン ローカストハート』……辰巳イッセーが変身するネオストラと戦うための姿。

 

『仮面、ライダー…!!』

 

恐れるように、先ほどまでの態度が嘘のように一歩下がるスネークをしり目にドラグーンは産声をあげた。

 

「ミッション・スタート…!!」

 

湧き上がる高揚感を抑えるように、ドラグーンは相手に宣言した。




 かなり長くなりました。
 もしかしたら、設定を練り直すために削除するかもしれません……そうなったら申し訳ありません。
 ではでは。ノシ

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