仮面ライダーDRAGOON 赤龍帝で仮面ライダー   作:名もなきA・弐

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 一話ですがまだ変身はしません。とりあえず本作のイッセーがどんな人間かわかっていただけたら幸いです。
 それでは、どうぞ。


HEART1 奇跡と言う名のDestiny

「はい、ドーンッ!!」

「ぶふぅっ!!?」

 

謎の声と共に顔を水面に叩きつけられた辰巳一誠は、激しく抵抗すると意識を覚醒させた。

少しだけ水を飲み込んでしまった彼は、咳き込みながら周囲を見渡す。

背後を見ると巨大な滝があり、そこから流れる音がこれは現実だと彼にはっきりと認識させる。

あちこちを見渡すと視線の先には彼岸花が点々と咲いており、神秘さや寂しさを感じさせる…そんな場所に彼はいた。

 

「やっと起きたかー。君遅いぞー?」

 

見覚えもない自分のいる場所に混乱している彼を笑うように、目の前にいた少年は話しかけてくる。

その少年は青いスーツを着ており、中々の美貌だがあどけない笑いから自分よりも幼く見える。

スーツが水で濡れるのにも構わず、少年は川辺の水で遊んでいる。

 

「えっ!いや…そもそもここは何処っ!?誰っ!?」

「おーおー、分かりやすい反応だなー。一から説明してあげるから適当に腰を掛けなよ…あっ、君の中にいるドラゴン君も質問があれば喋っても構わないから」

(っ!?こいつ…!!)

 

混乱している彼に少年は笑顔を崩さずに岸の方まで案内すると楽しそうに答えると、静観していた彼の中にいた『それ』は話しかけてきた彼に警戒する。

そんな二人(?)の様子を気にする様子もなく、少年は少し大きめの岩場に腰を掛けながら口を開いた。

 

「そうだなー、君は自分の身に何があったか覚えてる?」

「…えっと」

 

少年からの問いに自分のことを思い返す…そうだ、自分は帰り道の途中で誰かと出会って、それで戦っていたはずだ。

でも、『何か』のせいで動きが止まって、それで、それで……。

こうなった原因を探り出そうと…走馬灯のように今日の出来事が再生された。

 

 

 

 

 

自身の通う学び舎『駒王学園』に所属する辰巳一誠…気心の知れた人たちからは「イッセー」と呼ばれている彼は、二人の友人と共に廊下を全速力でダッシュしていた。

本来、廊下は走る場所ではないのだが、この時ばかりはそんな校則など無視して追跡者から逃走を開始しており、必死に足を動かす。

そして、追跡者からの怒声が響いた。

 

『待てええええええええええええっっ!!この覗き魔共おおおおおおおおおおおおっっ!!!!』

「今日という今日は絶対に許さないわよおおおおおおおっっ!!!」

「「「ぎゃああああああああああああっっ!!!?」」」

 

追跡者…剣道部の女子たちの怨嗟とも憤怒とも言える言葉に三人は折れそうになる心を必死に支え、ギアを上げる。

察しの良い方々なら既に分かりきっているかも知れないが、イッセーと中学からの付き合いであるその友人、丸刈り頭の『松田』と眼鏡でロリコンの『元浜』は『変態三人組』として良く知られており、今回の騒動も松田の発案によって覗きをしようとしたが案の女子一同にばれてしまい、このように追い掛け回されているのだ。

一応のフォローだが、イッセー個人は人並み以上の性欲はあるし、中学時代には彼らとは紳士トークに花を咲かすなどをしていたが高校入学時には一通りのPTOを弁えるようになっていたため、「どうせ失敗するから諦めろ」と忠告したが当然聞き入れられず、流されるがままに参加してしまったのだ。

しかし、そんなことは被害者からしたら知ったことではないし、知っていて止めなかったのならそれは連帯責任だ。

「殴り飛ばしてでも止めとけば良かった」と内心毒づきながらイッセーは足を速めた。

 

(やれやれ、相棒も損な性格をしているな)

(そういうお前は呑気だな畜生っ!)

 

呑気そうに渋い声で語りかけるのは、ア・ドライグ・ゴッホこと『ドライグ』…二天龍のうちの一匹であり、「赤龍帝」の二つ名を持つドラゴンでありイッセーの神器に魂を封印されている存在だ。

イッセーとは何と幼少時からの仲であり、母方の祖父母の実家で行われている『定期検査』が切っ掛けで知り合った異色の経歴を持っている。

当初は厳格な性格だったが、今では牙が抜けてしまったのか現代を謳歌している状態であり、そんな彼にイッセーはツッコミを入れると主犯である松田に話しかける。

 

「松田っ!もう土下座しようっ!!誠心誠意真心を込めれば相手もきっと許してくれるはずだっ!!逝って来いっ!」

「おいっ!今お前違う方の言葉使わなかったかっ!?元浜お前が逝けっ!」

「ふざけんな、お前らが逝けっ!!そして俺のために犠牲になれっ!」

 

そんな余裕とも言える掛け合いをしながらも、三人は捨石を用意しようと醜い言い争いを続けていたが、ふとイッセーが窓の方を見る。

 

「っ!お、おいイッセーッ!?」

 

何と彼はそのままUターンを開始したのだ。

突然の行動に松田はおろか元浜や剣道部全員が足を止めてしまう…イッセーはそれを気にもせず先ほど通り過ぎた窓まで走り、窓枠に足をかけると思い切り跳躍した。

 

(おい、相棒何をっ!?)

(うるさいっ!)

 

流石の行動にドライグは驚きの声をあげるが、イッセーはそれを無視して近くの木の枝に着地し、そこにあった『何か』を抱えると足を滑らし…。

 

「あれ?」

 

そのまま地面へと自由落下を開始した。

 

 

 

 

 

「あー、まだ身体いてー」

(無理をするからだ。愛奈殿も表情こそ出さなかったが心配していたぞ)

 

夕方、イッセーは未だ痛む身体に眉を顰めながら帰路へとついていた。

あの後、クラスの副担任であり伯母でもある『政宗愛奈』に捕まり、反省文及び一週間の教師たちの手伝いで処分は決まり、女子たちにも謝罪したことで何とか場は治まった。

ちなみに無事だったとはいえ、人が落ちる瞬間を見てしまった女子もいたのでイッセーはそれに関しても謝っていた。

 

(しかし、まさか黒猫一匹のために窓から木に飛び移るとはな)

「見捨てるわけにもいかないだろ」

 

周囲に人がいないのでドライグの声に口を開いて言い返す。

イッセーのモットーは「絶対に見捨てない」ことであり、例えそれが猫でも見捨てないし見過ごせないのだ。

それが彼の目標の一つでもあり、『罪滅ぼし』でもあるのだ。

歩きながら、イッセーは白い手袋に覆われた自分の掌を見る…それは消してはいけない過去であり、絶対に忘れてはいけない傷痕。

やがて、歩道橋を過ぎて近道である公園まで通りがかったところで「あの!」と少女の声が聞こえてきた。

自分に話しかけられたのだと気づいた彼は後ろを振り向く。

そこには一人の少女がいた…長く美しい黒髪に均整の取れた豊満な身体、恥かしそうに頬を染めている彼女は他校と思わしき学生服に身を包んでいる。

 

「は、はい…」

(相棒、声が上ずっているぞ)

 

好みのタイプに近い女子を見て緊張するイッセーをドライグは茶化すが、当然そのような声は目の前にいる少女には聞こえない。

当のイッセーは「モテ期かっ!俺にもついにっ!?」と内心狂喜乱舞していていたが、恥ずかしそうにしている彼女に違和感を覚える。

やがてそれが確信へと変わりながらも、女子生徒は顔を俯かせながら言葉を紡いでいく。

 

「私、『天野夕麻』って言います…その、私と…」

「ごめん、殺気を出している人とは付き合えない」

「っ!?」

 

天野の言葉を遮るように言い放ったイッセーのその言葉に、彼女は顔を上げて目を見開いた。

しかし、その表情は悲しみでも驚きでもない…例えるならそれは。

 

「そう……なら、消えなさい」

 

冷たい、氷のような…冷酷なまでの感情。

言葉と共に天野は召喚した光の槍でイッセーを貫こうとする…しかし、彼はそれを最小限の動きで躱し左手に召喚した赤いドラゴンを彷彿させる籠手…『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』でカウンターを叩き込む。

呻きながらも彼女は距離を取り、黒いボンデージに身を包み黒い翼を生やして宙に浮かぶとイッセーが召喚した神器を見て笑みを浮かべる。

 

「…はっ。神器を宿してるって聞いたからマークしてたけど、『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』じゃない。警戒して損したわっ!!」

 

吐き捨てるように、傲慢なまでの態度と表情をその美貌に載せながら冷たい声で嘲笑う。

赤龍帝の籠手は厳密には神滅具に分類されるのだが、一介の高校生が宿しているとは思わないだろう。

完全に油断をしている彼女に視線を外さず、イッセーは打開策を考える。

相手がこっちを弱者と認識している以上、それを利用しない手はない…持久戦に持ち込むことも可能と言えば可能だがそろそろ帰らないと愛奈と母がうるさいだろう。

それならば……。

 

(先手必勝っ!!)

 

速攻で片付けることを決定すると、巨大な光弾…ドラゴンショットを二発だけ飛ばす。

そのスピードと大きさに驚いた天野は苦虫を噛み潰すように紙一重で躱す…それがイッセーの目的だった。

脚に魔力を込めて走り、思い切り跳躍して天野に近づく…油断し驚愕していた彼女の顔面に魔力の籠った左拳が炸裂した。

吹き飛ばされた彼女は態勢を整えて、顔を抑えながら憎悪の籠った目でイッセーを睨む。

 

「この…人間の分際でええええええええええええっっ!!!」

 

堕天使である自分にとって、人間に追い詰められるのは耐え難い屈辱であろう。

最初の面影とは見る影もなくなった天野は、感情に突き動かされるように先ほど以上の光の槍を生成し投擲する。

あまりにも単純、シンプルな攻撃にイッセーはため息を吐いて躱そうとするが…後ろから聞こえた鳴き声に気を取られてしまい…。

 

「ぐっ……うぅ…!!」

 

光の槍は無情にも彼の胴体を貫いた。

辛うじて立っていられる状態だが、口からは赤い塊を吐き出し地面を赤く染める。

それを、イッセーの後ろにいた子犬が見つめている。

首輪がついていることから恐らく飼い主と離れてしまったのだろう…場違いにもそんなことを考えていたイッセーの思考をかき消すように天野は楽しそうに笑う。

 

「あはははははっ!!まさか犬を守って重傷だなんて…気付いてなかったらデート位はしてあげたのに…可哀想な一誠君♪」

 

その言葉を聞いてようやく確信する…どうやら彼女の目的は自分だったようであり、理由は不明だが自分を始末するつもりだったのだろう。

下手に動かない方が出血も抑えられるがそれでもイッセーは身動きを取る。

天野は完全に勝利を確信している…このまま退散しないのも自分を追い詰めた人間が苦しんで倒れる様を観たいのだろう……それならば、チャンスはここしかない。

 

【BOOST!】

「…はっ?」

【BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST!…】

 

連続して鳴り響く倍加の音…それと同時に膨大なまでの力と魔力の奔流がイッセーの身体から漏れ出す。

左手に力を込めて、朦朧としている意識を払うように呆然としている天野を睨む。

 

「なっ、何よ…その魔力……くっ、来るなっ!!」

 

明らかに龍の籠手では出せない威力に恐怖でひきつらせた表情と共に光の槍を飛ばすが、それを掠らせるように躱して勢いよく走る。

ここで逃がしてはいけない、恐らく奴は自分に会う前から同じことを繰り返していたはずだ…ならば自分が止めるべきだ。

死なない程度に…二度と悪巧みが出来ないように再起不能にさせる……。

右手で天野の黒い翼を渾身の力でもぎ取り、怨嗟と激痛の悲鳴をあげる彼女目掛けて赤龍帝の籠手を構える。

 

「ひっ、やめ…」

 

命乞いを聞く暇も必要もない彼は、鳩尾に膨大な力が籠った拳を叩き込んだ。

悲鳴をあげることも出来ないまま…天野は黒い羽根を撒き散らしながら上空へと吹き飛ばされた。

 

「は、はは…ざまぁみろ。ゲホッ!!」

 

目の前の敵を倒したイッセーは薄れゆく意識の中、勝利を確信すると制服を真っ赤に汚す。

恐らくもう限界だろう、彼はそんな今日の一日を走馬灯のように思い返すと家族と友人たちへの懺悔と共に意識をシャットダウンさせた。

 

 

 

 

 

「…夕麻ちゃんの攻撃を受けて…それで」

「敵にも『ちゃん』づけとは恐れ入ったなー。そうそう、でも…君はまだ生きているよ」

「えっ?」

 

少年の言い放った言葉に、イッセーは驚きの表情を見せるも彼は言葉を続けて行く。

 

「とは言ってもかなりやばい状態だよ。普通の人間なら死んでもおかしくないのに丈夫だねー、もしかして生まれが特殊とか?…まぁそれは良いか。とにかく君はまだ生きてるし僕なら簡単に君の怪我を治すことが出来る」

 

少年のその言葉にイッセーは半信半疑ではあったが、彼が嘘を言っている様子もなく、何を考えているかは分からなかったがその言葉だけは不思議と信用することが出来た。

 

「だったら…!」

「その代わりにさ、僕の手伝いをしてほしいんだ」

 

逸る気持ちを抑えるように少年はイッセーを手で制すると、わざとらしい咳払いをしてから本題へと入る。

 

「単刀直入に言うよ。ネオストラを倒すための戦士…仮面ライダーになって、ちなみに拒否権はないからね♪」

「……はっ?」

 

突然の要求に唖然としている彼を無視して、少年は目の前で手をかざしてイッセーの腹部に赤いバックルを召喚させる。

赤いボディと恐竜の左眼のようなディスプレイがデザインされており下部には何かを装填するためのホルダーがある。

急に現れた見たこともないバックルにイッセーは困惑するばかり。

そして……。

 

『おいっ!これはどういうことだっ!?』

「ドライグッ!?」

 

何とそのバックルから聞こえてきたのはドライグの声…突然の出来事に普段冷静な彼も慌てており、イッセーもベルトから聞こえてくる相棒の声に驚くしかない。

 

「それはネオストラと戦うための道具…えっと、二天龍の赤い方が入っているから…『ドラグーンドライバー』でいっか。それとこれもプレゼント」

 

思い付きで名前を決めると、少年から投げ渡された手のひらサイズの物体を反射的に受け取る。

それは注射器と乾電池が合体した不思議な形状をしており、底の部分はスイッチとなっていて、中央に赤い銀色のラインが入ったグリーンカラーとなっている。

 

「それは『ハートバッテリー』…動物の擬似心、まぁ動物の力を宿した物体だと思ってくれて良い。これで君の神器は生まれ変わった」

 

「良し」と納得した少年はイッセーが困っているのにも関わらず、何度も嬉しそうに頷く。

しかし、しばらくしてから「おっ」と何かに気づいた彼は指を鳴らす。

 

「ナイスタイミング!これはもう鬼に金棒…あれ?一石二鳥?まぁどっちでも良いか。安心しなイッセー…これでもう君は完全復活だ、むしろ強くてNew Gameだよ」

 

「ラッキー」と言わんばかりの満面の笑みでそうまくし立てると、彼の元に近づき嬉しそうに肩を叩く。

 

「それじゃ、頑張りたまえっ!!」

「えっ!?ちょっ…うわああああああああああっっっ!!?」

 

少年の明るい言葉と共に、心の準備も出来ぬままイッセーは先ほどまで自分がいた場所…滝壺へと落とされた。

 

 

 

 

 

薄暗い森に存在する今や使われていない廃墟となった教会に、天野夕麻こと『レイナーレ』は這いずるように自身のアジトでもあるこの場所へと戻って来た。

イッセーの渾身の一撃によって吹き飛ばされた彼女は光の力すらも生成出来ない己の身体を引きずりながら扉を開いて内部へ入る。

本来なら自分は人間になど負けるはずがなかった…至高の存在である堕天使の自分にどう傷を負わせたどころか美貌を傷つけた。

それに憤りを感じずにはいられるか…彼から受けた激痛と屈辱に憎悪の炎を瞳に宿し始めた時だった。

 

「何だ、随分と遅い帰りだったな」

 

そう語りかけたのは教会の席に座っていた青年…黒いスーツの上には同じ色のフロックコートを羽織っておりレイナーレの目には見えなかったが文庫本に目を通していた。

顔立ちは端正で短くも長くもない茶髪が特徴の青年であり、身に纏っている黒い手袋とブーツからまるで明治時代の洋装を思わせる。

自分には目もくれず、必要最低限の言葉しか話さない協力者でもある青年に彼女は怒りの矛先を彼に向ける。

 

「…ざけんじゃないわよっ!!何なのよあのガキッ!?あんな力を持っているなんて聞いてなかったわよっ!!!」

 

自身に蝕む激痛に身体を震わせ、壁で支えるように立ち上がると余裕のない口調で男を責め立てるレイナーレ。

そんな彼女に気にもせずページを捲りながらも青年は言葉を返す。

 

「言ったはずだ。辰巳一誠は強力な神器を宿している…とな。そのことを理解せずにバカ正直に向かったのは誰だ?実際に戦ったのにも関わらず、赤龍帝の籠手だということにも気づかなかったとはな」

「ブ、赤龍帝の籠手?十秒ごとに力を倍増させる、神を殺せる力を宿した最強の神器…それをあんな高校生が…!?」

「何だ、それすらも分からなかったのか?所詮、光る物を漁るしか能のない薄汚いカラスか」

 

一度も視線を向けないまま、鼻で笑うようにページを捲る男にレイナーレの殺意は限界まで来ていた。

どいつもこいつも自分を侮辱する……それは誇り高い堕天使のプライドを刺激するには十分だった。

 

「ふざ、けるなっ!!!」

 

武器すらも生成出来なくなった身体を動かして彼に掴みかかろうとするがそれよりも先に彼は行動を開始していた。

 

「俺と…ネオストラと対等の口を利くな、異形風情が…っ!!」

 

右腕に装備した生物的なクリーチャーデザインをした紫色のデバイスにある銃口を向けるとグリップにあるボタンを押して、そこから黒いハートバッテリーをレイナーレに向けて射出する。

躱すことも出来ないまま、レイナーレは黒いハートバッテリー…『ネオストラバッテリー』に命中してしまい、地面に崩れ落ちると共に胸を抑えて苦しむ。

 

「あっ、あぁ…ゲェッ!?あああああああああああああああっっっ!!!!」

 

胸元を掻き毟るように床にのた打ち回る彼女を横目に彼はデバイス『インフェクションドライバー』のディスプレイを観察する。

そこには二つの情報が映し出されており、片方は先ほど射出したレイナーレ…そしてもう片方は最初に見込みのある人間に放った奴だ。

 

「…そろそろ、最初の奴が『覚醒』するころか」

 

そう呟いた青年の横で、レイナーレは黒い粒子に覆われるようにその姿を隠すとそれを振り払うように右胸にハート型のシンボルが埋め込まれた黒い異形…素体ネオストラが立ち上がる。

 

「奴の監視を行え。もしも独断行動をしていたなら……俺に報告しろ」

『g@)e』

 

青年の言葉に、レイナーレの声で不可解な言語で了承した素体ネオストラは口から白い糸を吐き出しながら境界を後にする。

 

「さて、お前はどう動くかな?」

 

この場にいない存在に語りかけるように、青年は口元を僅かに吊り上げながら再び文庫本の活字に目を通し始めた。




 カギを握る人物は取りあえず登場させました…急展開な上に詰め込んだ気もしますが…。
 それとレイナーレファンの方はごめんなさい。彼女の魅力を引き出したかったのですがネオストラの特徴を知るための生贄にしてしまいました…面目ない。
 次回は『彼女たち』と初変身(の予定)です。ではでは。ノシ

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