正義の味方に至る物語   作:トマトルテ

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3話:あるべき姿

 

 ヒーローとは見返りを求めてはならず、自己犠牲の果てに得る称号でなければならない。

 

 

 もし、これが正しいか正しくないかを問えば、多くの者が賛同の意を示すだろう。

 これは紛れもないヒーローであり、人々が描く理想だ。

 だが、所詮は“理想”でしかない。

 

 ヒーローと言えど人間でしかなく、生きる糧のために見返りを求めることはある。

 多くの人間がヒーローを目指す理由は、スポットライトに当たりたいという願いも含まれる。

 そう、純粋に誰もが描く理想像としてのヒーローは存在しないのである。

 

 ただ1人―――オールマイトを除いては。

 

「俺はオールマイトに憧れてヒーローを目指した。だが、現実はどうだ? 金と名声に目が眩んだ馬鹿共がオールマイト(ヒーロー)という名を汚すばかりだ。ハァ……俺はそれに耐えきれなくて私学のヒーロー科を中退したのさ」

 

 駅前のベンチに座り、ジュース片手にぼやく血染(ちぞめ)

 その隣では切嗣が缶コーヒーを飲みながら黙って話を聞いている。

 傍から見ると、高校生の友人同士に見えるが二人は初対面だ。

 ただ、お互いに感じ入るものがあり、こうして並んでいるのだ。

 

「どいつもこいつも私欲を優先させるだけの()()だ。本物のヒーローは人を助けるために力を振るう。自分のために力を使う奴にヒーローを名乗る権利などない。大人しく人並みの生活を送ればいい」

「……随分と過激な考えだね」

「ハァ…誰かが正さねばならないんだ。このままでは社会は腐ってしまう。英雄(ヒーロー)が真に求められた時に贋作(にせもの)しかいないなどあってはならない」

 

 贋作は決して認めないとばかりに、血染は飲み干した缶を握りつぶす。

 一見すれば彼はただの過激な夢想家だ。だが、彼を動かす原動力は夢想ではない。

 目の前にある現実、強迫観念だ。

 

 オールマイトという英雄(本物)が実在しなければ、彼も夢と諦めただろう。

 だが、オールマイトは"完璧なヒーロー"であり続けた。

 人の身でありながら平和の象徴にまで昇り詰めた。

 

 オールマイトの強すぎる光が、他のヒーローの影を色濃く映し出してしまったのだ。

 彼を見てしまえば誰もがヒーローとはかくあるべきだと思う。

 その光に強く当てられたものであればあるほど、彼と他のヒーローの落差に絶望する。

 

「君が望んでいるヒーローは、アーサー王のような英雄のことか」

「そうだ。何かを為した者につく称号でなければならない。だというのに、今のヒーローは何も為していない人間が名乗っている。順序が逆だろう! 人を救え! 自己を犠牲にして救い続けた結果が英雄(ヒーロー)だ! 行動で示せない奴はヒーローの名を捨てろ!!」

「なるほど……」

 

 血染の叫びは今のヒーロー社会の歪みを如実に表している。

 ヒーローは多くの人間の憧れの存在だ。今も昔も英雄として認識されている。

 しかし、現実のヒーローはどうだろうか。

 

 一騎当千の戦士につけられる名前ではない。ただの国家公務員だ。

 普通に仕事をし、普通の家庭を持つ、1人の人間でしかない。

 だというのに、ヒーローという肩書だけで祭り上げられる。

 

 まるで、アーサー王のような偉業を為した者達と同じように扱われる。

 ただの人間でありながら、オールマイト(頂上の存在)と同じ名前を名乗るのだ。

 それが血染には耐え難いことだったのだ。オールマイトという英雄(ヒーロー)に憧れたが故に。

 

「確かに、英雄と呼ぶには今のヒーローは色々と足りないところがある」

「そうだろう! だからこそ、社会はもう“英雄回帰”するべき―――」

「でも、僕は今のヒーローのことが嫌いじゃない」

 

 自身の言葉を遮られたことに血染が目を見開く。

 

「普通の、当たり前の人生を送る。確かに英雄とは言えない人生だ。でも、ヒーローという仕事を通じて誰か1人でも救っているという事実はなくならない。そして、それがどんなに私欲に塗れて、自己満足でしか無いものだとしても―――救われた人にとってはヒーローじゃないのかな?」

 

 困ったように笑いながら切嗣は思い出す。

 世界平和の理想のためと言いながら、誰も救うことなく殺し続けた過去を。

 理想を捨てた果てに1つだけ救えた、自身を正義の味方と呼んでくれた少年のことを。

 

「……だとしてもだ。今のヒーローには英雄を名乗る資格もなければ力もない」

「当然だよ。みんながみんな英雄になれるのなら、とうにこの世から悲劇はなくなっている」

「英雄になれないのならヒーローを名乗るな! 英雄(ヒーロー)を歪ませる存在は総じて悪だ!!」

「英雄になれなくても正義の味方(ヒーロー)を目指せる。それがこの社会の良いところだ」

 

「違う! 贋作(にせもの)の英雄は社会の毒だ!! 誰かが本物の英雄(ヒーロー)を取り戻さねばならない!!」

「例え、贋作(にせもの)英雄(ヒーロー)であったとしても……誰かを救う行為は決して間違いじゃない。

 それだけは誰が何と言おうとも―――正義だ」

 

 怒鳴り声を上げながらしゃべり続ける血染。静かに諭すように語り掛ける切嗣。

 だが、瞳だけはどちらも静かに炎を滾らせたまま睨み合っている。

 この二人は似ているようで違い、違っているようで似ているのだ。

 

 どちらもヒーローというものに憧憬を抱いている。しかし、そこに描く絵は全く違う。

 血染は燦然(さんぜん)と輝く道を切り開き、人々に希望を与える英雄(ヒーロー)

 切嗣は地獄の中に手を伸ばし、そこから救い出して欲しいという願いを叶える正義の味方(ヒーロー)

 

 話し合うことはできても、理解し合うことはできない。

 

「ハァ……お前は同じものを見ていると思ったんだがな」

「君が望む未来が現在(いま)を壊した先にあるのなら、僕が望む未来は現在(いま)を続けた先にある」

「現状維持だけで正しい社会に辿り着けると思っているのか?」

「少なくとも破壊するよりは確実にね」

 

 その言葉で最後だった。互いに手を取り合うことはできないことだけを理解し道を分かつ。

 血染は、どこか残念そうな素振りを見せながらベンチから立ち、歩き出す。

 そして、切嗣に背を向けたまま最後の問いを投げかける。

 

「お前は……何を目指している?」

 

「―――正義の味方」

 

 切嗣の返答は一言だけ。しかし、血染にはそれでだけで十分だった。

 

「正義の味方…ハァ……お前なら必ずなれるだろうな。だが、俺も―――正しき社会を必ず創る」

 

 決別の言葉として、決意表明を残して歩き去っていく血染。

 もう二度と2人が夢を語り合うことはないだろう。

 仮にそれが実現するとすれば、それは殺し合いの場でしかありえない。

 そのことに気づいているからこそ、切嗣は黙ったまま彼の背中を見つめていた。

 彼の、無防備な背中を。

 

 

 

 ―――ここで殺すか?

 

 

 

 冷たく無機質な機械の瞳で。

 

(奴は危険だ、あの目は理想のためならどんなことでもする人間の目だ。僕には分かる。あれは昔の()と同じ目だ。ここで止めないとこの先に何かとんでもないことが起きるかもしれない)

 

 かつての衛宮切嗣の基本方針は、問題が起こる前に原因を排除することだった。

 それに従うのであれば、今ここで赤黒(あかぐろ)血染(ちぞめ)を排除するべきだ。

 

(最小の犠牲で、最大多数の幸福を守る。最も効率的な選択)

 

 だが、しかし。

 

(でも……それはただの人殺しだ。今の彼は何も罪は犯していない。まだ心変わりする可能性もある。何より、直接武力で訴えることをしなければ何も問題はないんだ。それに……)

 

 ―――正義の味方は人殺しはしない。

 

 そう決めていた。いや、決めていなくとも殺してはならないのだ。

 殺して解決するだけでは根本的な問題は何一つ解決しない。

 前世で嫌という程思い知らされたではないか。

 

 だから、切嗣は血染から完全に視線を離す。

 

「……帰ろう。もう遅い時間だ」

 

 ベンチから立ち上がり、血染とは反対方向に向かって歩きだす。

 そんな彼の背中に冷たい風が当たり、無性にタバコが吸いたくなるのだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ……お茶が美味しい」

 

 血染と出会った日から数日が経ったある日。

 切嗣は雄英の食堂で熱いお茶を飲んでいた。

 

 色々と考えなければならないことはある。だが、物事は焦っても仕方がない。

 有事の際の活力を養うために、こうしてのんびりとすることも重要なのだ。

 そんな英気を養っている最中の切嗣に、何者かが背後から音もなく飛び掛かってくる。

 

「ジャジャジャーン! あちき参上!!」

「ん? 知子ちゃんか。何か僕に用でもあるのかい?」

「背後からあちきが飛び掛かったのはスルー!?」

 

 女の子から背中に飛びつかれて抱きしめられるという、男なら誰もが羨むような状況にも切嗣は特に反応を示すことなく、穏やかに語り掛けるだけである。

 彼の対応にガーンと効果音がついたような顔でショックを受ける知子。

 そんな彼女の頭に、続いて現れた信乃が咎めるように手を載せる。

 

「知子、いきなり飛び掛かったら危ないでしょ、切嗣はお茶を飲んでいたんだし」

「あ、ごめんねー、えみやん。零れたりしてない?」

「大丈夫だよ。知子ちゃんが飛び掛かる寸前にテーブルに回避させたから」

 

 そう言って、回避させておいたお茶を手に取ってみせる切嗣。

 その対応に知子は安堵の息を吐き、信乃は複雑そうな表情を見せる。

 

「ねえ、切嗣。それって……知子が飛び掛かるのに気づいてたってこと?」

「そうだけど、それがどうかしたのかい?」

 

 何やら、ムッとしたような表情を見せる信乃に自分が何かしたのだろうかと首を捻る。

 だが、いくら捻っても思い当たるふしはない。

 

「なんで避けなかったの?」

「いや、僕が避けたら知子ちゃんがテーブルにぶつかるじゃないか」

「……確かにそうね」

「シノシノ、顔が怖いよ?」

 

 理由を説明しても、未だに釈然としない顔をする信乃に二人そろって首を傾げる。

 

「ねこねこねこ…理由を当ててあげようかにゃん?」

「流子!?」

 

 そこへ、今度は柔と流子の2人組が現れる。

 柔の方は至って真面目な顔をしているが、流子の方はクスクスと笑い、実に楽しそうだ。

 さながら悪戯好きの猫と言ったところだろうか。

 

「信乃は幼馴染みが、知子に盗られちゃうと思ったから不機嫌になってるのよね?」

「なっ…!? ち、違うに決まってるでしょ!!」

「その割には顔が真っ赤になってるけど?」

「き、気のせいに決まってるでしょ! 熱々のお茶かけるわよ!!」

「猫舌だから勘弁するにゃん」

 

 顔を赤らめて首をブンブンと振る信乃を楽しそうに弄る流子。

 超人的な力を持つ彼女達も、ただの高校生。青春真っ盛りなのだ。

 ただし、そのみなぎる若さも公共の場で発揮されると多くの人の迷惑になる。

 なので、柔は大きく咳払いをすることで2人のいざこざを止めさせる。

 

「食堂であまり騒ぎ立てるな。他の利用者の迷惑になるぞ」

「う……ごめんなさい」

「了解にゃん」

 

 怒られた子どものようにシュンとする信乃に、上機嫌に笑う流子。

 流子の方はあまり反省しているように見えないが、やめたので柔はそれ以上何も言わない。

 しかし、説教する相手はまだ残っている。

 

「お前もだ『ラグドール』。乙女が男子に気安く抱き着くものではない」

「んー……でも、えみやんって男の子っていうより―――おじいちゃんみたいだし」

「お、おじいちゃん…!?」

 

 知子のまさかのおじいちゃん発言にギョッと目を見開く切嗣。

 確かに精神年齢で言えば孫が居てもおかしくはない…いや、やはり早い年齢だ。

 何より、今の自分はピチピチの10代だからその呼び方は相応しくない。

 そう思い、他の人からも同意を得ようとして目を向けるが、3人の反応は切嗣のものとは正反対であった。

 

「あー……確かに」

「ねこねこ、おじいちゃんでも違和感ないね」

「ぬぅ……貫禄で言えばそう見えぬことも」

「いや、僕はまだ15歳だからね!?」

 

 謂れのない誹謗中傷が切嗣を襲う。

 

「いや、あなたって子供の頃から縁側でボーっとするのが好きだったし」

「さっきのお茶の飲み方が年寄りっぽかったのもポイント」

「『ラグドール』に向ける目も孫を見るような目であったしな」

「あはははは! ほら、えみやんはおじいちゃんなんだよ」

「僕は…僕は……10代半ばなんだ…ッ」

 

 四人から寄ってたかって年寄り呼ばわりされて涙を流す切嗣。

 確かに若作りなんてしたことはないが、あんまりじゃないかと愚痴るが誰も聞いてはくれない。

 そこにあるのは、おじいちゃんという称号だけだった。

 

「ふふふ……でも、おじいちゃんってよりも、切嗣は―――“じいさん”って感じかしら」

 

 ―――じいさん。

 

 ふと、懐かしい声が聞こえてきた気がする。

 切嗣は一瞬だけ目を見開き、息子が自分を呼んでいた呼称に苦笑いを零す。

 どうやら、自分は子どもからはとことん年寄り扱いされるらしいと。

 

「まあ……じいさんならいいかな」

「じいさん」

「じいさん」

「じいさん」

「じいさん!」

「……ごめん、やっぱりやめてくれないかな?」

 

 思わず心が欠けそうになる切嗣。

 

 だが、このままではいけないと心を奮い立たせ顔を上げる。

 軽く涙が流れているような気もするが、無視して話題を逸らす。

 

「まあ、僕の呼び方は置いておくとして、四人も揃って何をしに来たんだい?」

「そうそう! 今日はえみやんの呼び方を決めに来たんだよ!」

「できれば、じいさん以外で頼むよ」

 

 割と本気で警戒する切嗣だったが大きく笑われてしまう。

 

「あははは! 違うよ、ヒーロー名の方」

「ああ……ヒーロー名か。よかった」

 

 どうやら恐れていた事態は避けられそうだと、切嗣はホッと息を吐く。

 ヒーロー名。学生である内は必須のものではないが、いずれヒーローとなる以上は欠かせない。

 何より、多くの学生は教師に決めろと言われるまでもなく考えている。

 切嗣が元居た世界では笑い話にしかならないが、ここでは昼食時の話題になることも多々ある。

 

「あちき達はみんな決まっているけど、えみやんはまだ決めてないからね」

「別に今すぐに決めないといけないわけでもないだろう? 宿題にされたわけでも無いし」

「ぶっちゃけ、私達の暇つぶし」

「信乃ちゃん……」

 

 暇つぶしに自分のヒーロー名を決められる方は堪ったものではないと、抗議の視線を送るが当然のごとくスルーされ、切嗣はガックリと肩を落とす。しかし、いつかは決めなければならないことなので、良い機会だと考えることで気を取り直す。

 

「それで、どんな名前がいいかな?」

「いや、あなた自身が考えているやつはないの?」

「今まで考えたこともなかったな」

「へー、じいさんは変わってるねぇ」

「……じいさんは止してくれないかい、流子ちゃん」

 

 ナチュラルにじいさん呼ばわりしてくる流子に、溜息を吐きながら切嗣は考える。

 元々、ヒーローになる気もなかった為に考える機会が無かったのだが、これではいけない。

 自分の人生で、2つ名らしきものが何かなかったかと頭を捻ったところ、あるものを思い出す。

 

「……『ヴィラン殺し』なんてどうかな?」

『却下』

 

 『魔術師殺し』を捻った『ヴィラン殺し』だったが、全員から否決されてしまう。

 

「結構良いと思ったんだけど……」

「名前の良し悪しの前に、ヒーローとして不味いと思うぞ」

「……まあ、殺し屋っぽいのは否定できないけど」

 

 柔から至極真っ当な意見を言われ、しぶしぶ納得する切嗣。

 別に自分から名乗っていたわけでもないので、思い入れがあるわけではないが、完全否定されるというのは悲しいものだ。

 

「だったら、君達はどんなのが良いと思うんだい?」

「うーん……どう見ても正統派ではないのよね」

「かと言って、余りに悪役っぽいのも人気が出なさそう」

「はーい! あちきに良い案があるよ!」

「本当かい、知子ちゃん?」

 

 いつの間にやら手にしていたホワイトボードに、何かを書き込む知子に視線が集まる。

 そして、書き終えると同時に勢いよく掲げる。

 

「『ダークヒーロー・アサシン』! もう正統派は素直に諦めて、バットマン的なダークヒーロー路線で売り込んでいくべきだと思うの!」

「……そんなに正統派に見えないかな」

「あははは! 正統派は(ヴィラン)がホテルに籠城したら「ホテルごと爆発させればいい」なんて言わないよ」

 

 ヒーロー基礎学の時間に、(ヴィラン)がホテルに籠城した場合の対処について問われた切嗣の回答がこれだ。無論、「オイオイオイ、死ぬわ(ヴィラン)」という声で教室が溢れかえり、否決されたが。

 因みにその時の切嗣の表情は、酷く納得のいかないものだったとか。

 

「……ちゃんと殺さないように加減できるなら、効率的でいいと思うんだけど」

「ダメだよ」

 

 反論してみるものの、真顔で言い返され、ため息をつく。

 今度から実行する際は、彼女達にばれない様にやらなければならなそうだ。

 

「で、あちきの案はどう?」

「悪くないと思うよ。でも、簡単に決めるのもあれだし、他の意見も聞いてみたいかな」

「残念。みんなは何か良い案はない?」

 

 少し残念そうな表情を見せながらも、我が儘は言わずに他人の意見を求める知子。

 

「我が思うに……名前をもじって『ゲートキーパー』などどうだ?」

「衛宮で宮を(まもる)者ってところかな」

「他に思いつかんですまないな」

「いや、カッコイイと思うし、参考になるよ。流子ちゃんは何かないかな?」

 

 柔からの案は本人の名前を基に作るといったもので、ポピュラーなものだ。名前とは生まれて初めて貰ったプレゼント。ヒーローと言えど、自分の名前に愛着のある人間は多い。同時に、そういった思いが強い人間ほど、ヒーロー名は凝ったものが多くなる。

 

「私? んー…取り敢えず“個性”に関係する名前なんてどう。もしくは猫の名前」

「“個性”はともかく猫の理由は?」

「私が(CAT)が好きだから!」

「そう言えば、みんなはネコ科の名前がモチーフだね」

 

 自他共に認める猫好きである流子は『ピクシーボブ』。

 どちらかと言えば猫好きな信乃も『マンダレイ』という猫。

 『ラグドール』と命名した知子も猫。

 

 そして、柔の『虎』もジャンルが変わっていそうだがネコ科なので猫だ。

 どう見ても猫に見えずとも、段ボールが好きでマタタビに誘惑されればそれは猫だ。

 そこに何の違いもありはしない。

 

「でも、“個性”か……」

「『固有時制御』だっけ? 体の速度を上げられる“個性”」

「正確には体内時間の操作だよ。時間を遅くすることだってできる」

「ねこ? 何だか凄いような、凄くないような」

 

 時間を遅くできると言われると、一体いつ使うのかと思ってしまう。

 だが、潜伏などをする際には敵のセンサーなどを回避するのに重宝するのだ。

 また、毒物などの回りを遅くする。通常の3倍程息を止めるといったことができたりする。

 

 もっとも、現状だと長く使えないのと、フィードバックが辛いのが欠点だが。

 

「“個性”を鍛えれば継続時間は長く、リスクは少なくできる。現に僕の父さんは、もっと上手く使()()()()()

「ぬ、衛宮は父親譲りの“個性”か?」

「そうだね。“個性”は両親どちらか、もしくは複合的なものが発現する。これは僕が父さんから()()引き継いだものだ」

 

 弱点が多いように見える『固有時制御』だが、それも努力と工夫次第でどうにでもなる。

 そのため、最近の切嗣は限界まで『固有時制御』を使用する特訓をしている。

 訓練を続けていけば、もしかすると外部の時間にも干渉できるようになるかもしれない。

 

「お父さんかぁ。ねえ、えみやんのお父さんって今、何を―――」

 

「―――そう言えば、切嗣のお母さんの“個性”ってなんだったけ?」

 

 知子が何気なく父親に尋ねようとするのを遮るように、信乃が問いかける。

 切嗣は一瞬だけ視線を動かして信乃と目を合わすが、すぐに元に戻し、何ら変わった様子も見せることなく答える。

 

「母さんの“個性”は『切って嗣ぐ』。色々と使い道がある“個性”だよ。母さんは僕にこっちの方を引き継いで欲しかったみたいだけどね。ほら、僕の名前って切嗣だろう?」

「へぇー、そうなんだ」

「知子ちゃんは両親のどっちから遺伝したんだい」

「あちき? あちきはねー……」

 

 特に自分の質問が遮られたことに疑問を抱くこともなく、楽しそうに話を続けていく知子。

 その様子に信乃はホッとしたような見せ、伏し目がちに切嗣へテレパスを送ってくる。

 

【勝手に止めてごめんね】

 

 彼女からの謝罪に切嗣は、気にしなくていいと視線を送り知子との話に戻る。

 

「……ねえ、虎」

「なんだ、ピクシーボブ」

「目と目で通じ合う関係ってことなの、あれ?」

「だろうな」

「くぅ…このリア充め…!」

 

 何故か流子と柔に、至らぬ誤解を受けていることに気づかずに。

 




次はキングクリムゾンして、2年生で体育祭です。
飛ばす理由は通常の1年生だとインターンとかが書けないから。

それと切嗣のヒーロー名が決まらない。作者の頭では本文のやつで限界だった。
まあ、他人から呼ばれるのは『ヴィラン殺し』で落ち着きそうだけど。

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