しかし、今作でAFOと戦った時にはまだ高校2年生なので、その時点では視線を遮られると“個性”が効かなくなるという弱点があったことにします。そして、そこから成長して原作での瞬きするまでなら目を逸らしてもOKになったのだと解釈してくださると助かります。
衛宮切嗣対謎の男。その危険人物同士での戦いが今まさに始まろうとしたところで。
「て、わーッ! また、師匠が人を殴ろうとしてる!?」
「ちょっと、オジサン! 私達がベロチェックするから大人しくしていてって言ったでしょ!?」
何やら、慌てたような2人組が戦闘止めるように割り込んでくる。
1人はオールマイトのなりきりコスチュームを着た大学生ぐらいの少年。
もう1人はやけに露出の多い、コウモリを思わせる衣装を着たピンクの髪の少女。
「放せ、コーイチ。あいつは明らかに怪しい奴だ」
「本当にそうだとしても確認してからじゃないとダメですよ! 間違ってたらどうするんですか!? これじゃ師匠の方が犯罪者ですって!」
「そんなものは悪そうな顔をしている方が悪い! それと俺はカッコいい
「だから、それは危険思想ですって!! ポップ、その人の舌を確認して!」
コーイチと呼ばれた少年が、師匠と言われた男の腕を必死に抑えている光景を切嗣は思わずポカンとした表情で見つめてしまう。そんな切嗣の下にポップと呼ばれた少女の方が声をかけてくる。
「ねえ、すぐに済むからベロ見せてくれる! ベロ! 黒くなってないか調べるだけだから!」
(ベロ? それにトリガーについて調べている…ああ…なるほど…僕の勘違いか)
舌を調べているということは、要するにトリガーの使用歴を調べているということだ。トリガーは使用すると副作用で舌が黒く染まる。そのため、舌を見ればすぐに使用したかどうかが分かる。つまり、目の前の男達はトリガーの売人ではなく、その逆。トリガーを使用した人間を捕まえようとしているのだ。
敵と勘違いしてしまった自分に恥ずかしくなるが、自己弁護をするならばいきなり人を殴ってくる人間を信用する方がおかしい。自分のあの時の行動は別に間違いではなかったと内心で言い訳をしてしまうのも無理のないことだろう。
「それよりも僕を信用してもらうのにもっと早い方法があるよ」
そう言って切嗣はポップにあるものを投げる。
ポップは不思議そうに受け取り、それが何かを理解した瞬間に顔をサッと青ざめさせる。
「ヒ、ヒーロー
「そういうことだよ。今は
「ク、クロノスって確か……」
クロノスの名前を名乗ると、今度はコーイチの顔が青ざめる。
彼はヒーローオタクというよりもオールマイトオタクであるが、それでもヒーローには詳しい。
故に、クロノスの異名を知っているのだ。
「ヴィ、ヴィラン殺しだぁ!?」
「はぁッ! ヴィラン殺しって、外道行為ばかりするっていうあのヴィラン殺し!?」
「そう!
「…………」
余りの言われように切嗣は思わず大きなため息を吐いてしまう。
確かに
だとしても、市民を守るために頑張っているんだからその言い様はあんまりだろう。
「ちょっと、コーイチヤバいよ、あのヒト! 絶対オジサンが殴りかかってきたことチョー怒ってるって! すごい大きなため息吐いたし!」
「お、俺らは何もしてないから大丈夫だって。それに、いざとなったら土下座でも何でもして殺されないようにするから!」
「お前ら、何をそんなに焦っているんだ…?」
ギャーギャーと青ざめた顔で叫びながら必死に謝ってくるコーイチとポップに、その様子を呆れた様に見つめる男。そして、渦中の人物である切嗣は顔を上げて夜空を見上げる。
そうでもしないと、涙がこぼれてしまいそうだったから。
1時間後、切嗣達4人は
「あのー、クロノスさん」
「なんだい、コーイチ君。いや、ザ・クロウラーの方が良いかな?」
「そっちでお願いします! あ、それより、なんでわざわざこんな場所で話し合いを?」
言外にこのような場所ではなく、他の場所で良かったのではないかと尋ねる、ザ・クロウラーことコーイチ。そんなコーイチに対して切嗣はヴィラン殺しのイメージを払しょくするために、出来るだけ穏やかな口調で説明を行う。
「あまり聞かれたい話ではないからね。だから、本当なら僕が今泊まっているホテルか、そちらの拠点にでも行くのがいいんだけど、僕のホテルだとそっちは罠の可能性を捨てきれない。逆に君達は拠点をできれば知られたくない。そうなると、適当に選んだ場所で話すのがフェアだろう?」
「あ…はい。そうですね」
今の今まで、別に3人のアジトと化している自分の家で話しても構わないと思っていたコーイチは間違いに気づく。
コーイチが実際に住んでいる家である以上は、一度見つかれば本名などの個人情報も知られる。
そうなれば非合法的にヒーロー活動を行っている自分は非常にマズいことになる。
そんな考えに至ったことを見抜かれたのか、付け加えるように切嗣が話しを続ける。
「
「あ、あははは……そうならないように気をつけます」
「ちょっと、コーイチ。あたしにまで迷惑はかけないでよね。オジサンを巻き込むのはいいけど」
「構わん、立ち塞がるなら殴り倒すまでだ」
「オジサンは黙ってて!」
そんなワイワイガヤガヤとした3人のやり取りを見ながら、切嗣は思考を巡らせる。
それは超常
元々はヒーローのルーツでもあり歴史は古い。言わばヒーローの生みの親。
しかし、現在では100%
法に依らない個人的な私刑行為は全て犯罪である。
本来であればヒーローが取り締まるべき存在であるが、前世が前世であるために切嗣は自分が言うのも何かおかしいと思って、悪事を働かない以上は見逃すことにしているのだ。
「さて……周囲にホームレスなどの人間も居ないし、盗聴器の類もないな。気になるならそっちでも調べてくれ」
「いや、構わん。さっさと話を始めるぞ」
「ああ、そうさせてもらうよ。ナックルダスター」
全く警戒した様子も見せずに煙草を吹かす男、ナックルダスターを切嗣は観察する。
他の2人とは明らかに違う。戦いのさなかに身を置き続けた風格だ。
今、警戒をせずに煙草を吸っているのも所詮はポーズに過ぎないだろう。
いざとなれば、こちらに襲い掛かってくる油断ならない敵であることには変わらない。
「話の内容はトリガーについてだ。既に即席
「タダで情報を渡せというのか?」
「こっちとしては今すぐに君達を捕まえても問題ないんだけどね。特にお前に関しては」
既にヴィジランテである彼らを見逃していることが、交換条件であると暗に告げる切嗣。
ついでに言えば、切嗣らしくもなくナックルダスターに対して若干の苛立ちを感じていた。
その理由は分からないが、何故だか彼とは仲良くなれない気がしている。
「し、師匠! なにヒーローに喧嘩を売ってるんですか!? ここは善良な一般市民らしく知っていることは話しましょうよ!」
「そうよ! あたし達はこんなところで前科とかつけられたくないし!」
「まあ、タダとは言わないさ。そっちが知りたい情報があるならこっちも
こっちも情報を与えると言っている切嗣だが、
仮に突発性
ヒーローとしての立場上教えられないと口を閉ざすつもりだ。
基本的に情報を与えずに情報を取るのが切嗣の方針である。
そうした際に、ヴィジランテとは違い法と国に守られ、社会的に地位のあるヒーローは便利だ。
法に縛られないメリットは確かに存在するが、基本的に守った方が多くのメリットが得られる。
「いえ、こっちがやっているのはお節介なんで、専門的な情報とかは大丈夫です。俺達じゃ情報をもらっても活かせないでしょうし」
「……お人好しなんだね」
「え? はぁ、良く言われます」
照れるように頭を掻くコーイチを見て、思わず毒気を抜かれてしまう切嗣。法を守らないヴィジランテがどんなものかと思えば、ただの趣味が人助けの人間だったのだ。完全に信頼したわけではないが、彼はそこまで注意する必要もないだろうと頭の中のメモに書き留める。
「すまない、それじゃあ本題に入ろうか。単刀直入に聞くとトリガーの売人に心当たりはないかい? 小さな気づきでもいいんだ。情報が欲しい」
「すみません、売人自体には心当たりが無くて……」
「あたし達もバイニンは探してるんだけど、今のとこはジャンキーしか見つからないのよねぇ」
「売人から辿ってないとなると、トリガーの使用者は地道に舌を確認して探しているのかい?」
「はい、そうなります。最近は色々とやっているんですけど、基本はベロの確認ですね」
コーイチとポップの説明に、
この3人は事件が起こる前に、トリガー使用者を割り出して捕まえているのだ。
ただ、ナックルダスターに関しては怪しい奴というだけで殴ってはいるが。
「ことが起こる前に事件の芽を摘む…か」
「あ、いや、その、事件を起こす前の人に暴力を振るうのは悪いと思ってますよ。だから師匠を止めようとしているんですし」
何かを咎めるように目を細めた切嗣に慌てて弁解するコーイチ。
しかし、切嗣が咎めたのはコーイチ達ではない。過去の自分自身だ。
「いや、僕には君達を咎める資格はないよ。ただ、これだけは覚えておいて欲しい」
「は、はい。なんですか?」
「例え、世界を滅ぼす人間を平和のために殺すのだとしても、それは、ただの―――人殺しだ」
それは警告であり、自戒だ。
目の前の心優しき少年達が道を踏み誤らない様に、自身と同じ轍を踏まない様に。
物事を悲観的に考えて、助けられる人間を見捨てる方法を是としないために。
自らを縛り付ける鎖とする。
「わ、わかりました……」
「と、ごめんよ、偉そうに語って。とにかくやり過ぎないようにしてくれると色々と助かる。何もしてない相手に危害を加えるのはそれこそ犯罪だからね」
怯えるように首を縦に振るコーイチとポップに切嗣は苦笑する。
自分らしくもない。少し感情的になってしまったようだと反省し、話を元に戻そうとし。
「いや、確かに殺しはダメだが、クズなら何かする前に殴りとばすべきだろう?」
「師匠ーッ!?」
ナックルダスターに空気をぶち壊される。
「なんだ、コーイチ。なにか変なことを言ったか?」
「変ですよ! 大変ですよ! 今、クロノスさんの話を聞いてたんスか!?」
「聞いたうえで言ってるぞ」
「だぁっ! やっぱり師匠って頭おかしい!!」
「やっぱりオジサン一回ぐらい捕まった方が良いんじゃないの?」
頭を抱えて大きな嘆き声を上げるコーイチ。一度牢屋に入って反省してこいとばかりに冷たい目線を贈るポップ。そして、相も変わらずに煙草をふかし続けるナックルダスター。そんな様子を見て切嗣はコーイチとポップに同情の視線を送りながら、ナックルダスターに対する不快感を強める。
目の前の男は、かつての自分のように何かを起こす前に危険人物を潰した方がいいと考えているのに。なぜ、ああも堂々としていられるのだろうか。なぜ、強く笑っていられるのだろうか。なぜ―――正義の味方であると胸を張って答えられるのだろうか。
「本当すみません、クロノスさん。絶対に犯罪はしない様に俺らが押さえておきますから!」
「ちょ、コーイチ、あたしを巻き込まないでよ!?」
「……ああ、うん。頑張ってね…?」
そんなどこか嫉妬染みた思考に沈んでいた所を呼び戻され、
そして、馬鹿げた考えに浸っていたことに自己嫌悪しながら切嗣は踵を返す。
もう、彼らに聞いても有用な情報は出ないだろうと判断した故に。だが。
「―――“蜂使い”だ」
覚えのある言葉に驚きの表情を浮かべ勢いよく振り返る。
その先には煙草を吸うのを止めたナックルダスターがニヒルな笑みを浮かべ立っていた。
「……詳しく聞かせてもらおうか。その
物語は今、少しずつ動き始める。
ザ・クロウラーこと
いや、正確に言えば“いいコト”をすることがストレス発散の方法となっているのだ。
「お嬢さん、携帯を落としましたよ!」
「道に迷っているのならご案内しましょう!」
「む、こんな所にポイ捨てされた空き缶が。分別して捨てなければ!」
暇さえあればこんな風に親切を振りまき、世のため人のためと
そんな、自らを省みず汗水流す姿に人々は敬意を込めてこう呼ぶ。
「ありがとう、苦労マン」
「助かったよ、苦労マン」
「また頼むよ、苦労マン」
「いや、苦労マンじゃなくてザ・クロウラーなんだけどなぁ……」
クロウラーのクロウが苦労に言い換えられ、必死に人のために動く姿から苦労マンという称号を得てしまっていた。以前は親切マンと呼ばれていたのだが、果たしてどちらの方がマシなのかはコーイチ本人にも分からない。
「ううん……どうにかしてザ・クロウラー呼びを定着させたい」
そんなことをボヤキながらも空き缶を拾う手は休めない。
こうした自分から他人の苦労を背負う姿が、苦労マンたる所以であることに彼自身は気づいていない。
「お疲れ様です。自販機のお茶で申し訳ありませんが、どうぞお飲みください」
「あ、これはどー……も?」
そんなコーイチの背中に何者かが声をかけてくる。
何者かと思い、コーイチが振り返るとそこには1人の神父がいた。
短く切り揃えられた黒い髪に、黒い瞳。そして黒の角ブチ眼鏡。
一見すれば地味という印象しか抱かせない容姿であるが、その姿は不思議と世間と隔絶しているように見える。それが身にまとう神父服の影響なのか、本人の資質なのかは分からないがコーイチは思わずマジマジと見つめてしまっていた。
「えーと…どなたでしょうか?」
「おっと、これは失礼。
「はぁ…
第一印象では怪しい人物だったが、意外に物腰穏やかな男性だったので自分も名乗るコーイチ。
薬師寺の方も、色よい反応を楽しむかのように薄く笑いながらお茶を渡してくる。
ちょうど喉が渇いていたコーイチは、厚意に甘えてそのお茶を軽く口に含む。
「いえ、用事という程ではありませんが、何かお悩みのようでしたので
顔に笑みを浮かべながら自身の神父服を引っ張ってみせる薬師寺。
悩み、
コーイチはそう当たりをつけて恥ずかしそうに頭を掻く。
「ははは…悩みって程でもないですよ。中々みんなが正式な名前で呼んでくれないから、愚痴ってただけです」
「愚痴で良いのです。人に話せば何事も心が軽くなりますからね。しかし、正式な名前とは?」
「このコスチュームで動くときはザ・クロウラーっていうヒーロー名を名乗っているんですけど、みんな苦労マンとしか呼んでくれなくて。いや、なんちゃってヒーローなんで仕方ないと言えば仕方ないんですけどね」
「なるほど……」
コーイチからの説明を聞き、何やら考えるように頷く薬師寺。
そこで初めて、コーイチは自分があっさりと素性を話してしまったことに気づく。
警察やヒーロー以外には、別段、聞かれて困るというわけでもないが、教えたことに驚く。
と言っても、これも常に人の悩みを聞く聖職者の力なのかと単純に納得してしまうだけだが。
「ふむ…そうですね。あなたがザ・クロウラーと呼ばれない理由は恐らくは親近感故でしょう」
「親近感?」
「はい、あなたが今まさにやっているような空き缶拾い。これを見てヒーローを連想しますか?」
言われて考えてみるコーイチ。オールマイトがせっせと空き缶拾いに精を出す様は、何故かすぐに思い浮かんだが、エンデヴァーが空き缶拾いをする姿は全く思い浮かばなかった。というか、ヒーローが空き缶拾いをする姿に違和感を覚えた。
「……何というか、情けない印象がでますね」
「でしょう? 本来ヒーローとは奉仕活動。ですが、世間一般の認識では輝かしいスター、アイドルといったものになります。皆、カッコいい姿こそがヒーローだと思っているのです。なので、今のあなたの姿を見ても、ただの善人である苦労マンとしか認識できないのです」
そう言われると頷くことしかできなかった。
地道な作業をしている人間をヒーローとは思いづらい。
やはり、派手に
「そうなると……こういったことはやめて
「はい。強く、格好のいい姿だけを見せていけば、あなたを苦労マンと呼ぶ人は居なくなるでしょう。勿論、その道を選ぶかどうかはあなた次第ですが」
そう言って何かを試すような目で見つめてくる薬師寺。
コーイチはその目から逃れるように思考に埋没する。
自分が輝かしいヒーローとして祭り上げられる未来。
自分が親切をすることを止めて
どちらが大切か、そんなことは答えるまでもない。
コーイチは足元に落ちていた紙屑を拾いゴミ袋に入れることで返答とする。
「ほう…正式な名前で呼ばれなくてもいいのですか?」
「いや、それは呼ばれたいですよ? 切実に」
「では、なぜ?」
問われたコーイチは若干恥ずかしそうに頬を掻きながら口を開く。
「困ってる人が居たら助けるのが当たり前でしょう?」
子どものような理論。そんなことはコーイチ自身も分かっている。どうしようもないものを前にして助けるのを諦めたくなったことは、幾度もある。だが、それでも。助けた人がお礼を言ってくれる姿はいつだって彼の心を幸せにしてくれた。
目の前に困っている人がいたら救ってあげたい。
その思いは自身がヒーローとして人気者になることよりも強い。
だから、コーイチは小さな親切を行い続けることで目の前の人を救い続ける。
「あ、すいません。俺なんかが生意気なことを言っちゃって……」
「……あなたは、“ありがたい”人だ」
「え?」
満面の笑みを浮かべて言われた言葉に思わずポカンとしてしまうコーイチ。
だが、そんなことを気にすることなく薬師寺は続ける。
「ありがたい、つまりは“有り難い”。あなたのような正しき心を持つ人は少ない。故に、“有り難い”のですよ。暗闇の中でこそ光が最も輝けるように」
「は、はぁ、ありがとうございます…?」
「あなたはあなたの心に背くことなく、真っすぐに歩いて行くのが一番でしょう。そうすれば、いつの日か“有り難い”存在ではなくなる。皆があなたを見習い、光を灯すようになれば世界は神の国のように光に満ち溢れるでしょう。……私はそうした世界を望んでいます」
何やら意味深な言葉ばかり並べられて混乱するコーイチ。
しかし、言われていることはそんなに難しいことではない。
正しい人が少ないからこそ、正しい人は輝いて見える。
しかし、本来それは喜ばしいことではない。正しいことは当たり前でなければならない。
だから、コーイチのような正しい人間が“有り難く”なくなるように皆が正しくなる。
非常に分かりづらい言い方だが、薬師寺はそんな世界を望んでいると言っているのだ。
「おっと、すみません。私の方が長々と話してしまうとは神父失格です」
「いえ、正しいと言われるのは嬉しかったですし……」
「それは、ありがたい言葉です。では、あなたの悩みも晴れたようなので私はこれで。……それと、もし、またお悩みができたようでしたら鳴羽田教会へお越しを。神の家は万人を受け入れますのでお気軽にどうぞ」
最後に再び薄く笑い、薬師寺は歩き去っていく。
そんな後ろ姿を見つめ、コーイチは変な人が居たものだと思いながらお茶をもう一口飲む。
なぜだか、少しだけ
「ふむ……
まあ、良い出会いができたので良しとしましょう
主よ、彼のように心優しい者が増えることを願います」
薬師寺は十字を切り、祈りを奉げる。この世が
なぜならば、
「―――私の
【クロノス、君から頼まれて調べていた“蜂使い”について何だが、
「そうですか……流石に簡単に身元が割れることはないですね」
【そうだね。でも、逆に言えばこれは計画的な犯行だという証拠でもある。衝動的な犯罪ならこうも上手くは隠せない】
「ええ。警察やヒーローに気づかれることを嫌い、局所的にしか活動を行っていない点から見ても間違いないでしょう。もっと言えば、現段階では大々的にトリガーを広めるためのデータ採取期間というところでしょうか」
鳴羽田に潜伏するにあたり、仮の事務所として使うホテルで切嗣は塚内と電話をしていた。
ナックルダスターから教えられた、売人は蜂を使いトリガーを打ち込んでいたという情報から、塚内に
しかし、そこから考察するに値する情報は得られたので無駄ではなかったと結論付ける。
【可能性は高いね。といっても、これだけで決めつけるわけにいかないから更なる調査が必要だ】
「分かっています。ですので、現在は他の売人の情報も調べています」
【他の?】
「はい。蜂使い以外にも居る可能性を考えて、住人に最近不審なことはなかったかを聞き込んでいます」
【しかし、それは
「ああ、失礼。住人と言っても、ゴロツキやヤクザ、ホームレスを中心にです。」
今回、切嗣が中心的に聞き取りを行っているのは一般市民ではなく、アウトローの者達だ。
なぜ、そういった人間に聞くのかと言えば、蛇の道は蛇にというわけだ。
日向を歩く人間が見つけられないことも、売人と同じ影を歩く者達なら見つけることもできる。
こうした考えをもとに切嗣は裏路地を回りながら聞き込みを行っている。
もちろん、そうした相手は面倒な人間が殆どなのでトラブルも多い。
なので基本的には札束で叩くか、
その結果、今回は非常にきな臭い情報が出てきたのだ。
【なるほど……それで他の売人の情報は出たのかい?】
「売人かどうかは分かりませんが、あるホームレスから興味深い情報を聞き出せました」
因みにこのホームレスは
【どんな情報何だい?】
「なんでも、仲間のホームレスが
【消えている…?】
「はい、別の事件の可能性もありますが、仮にトリガーと同じ事件ならば、身体実験用に連れ去られた可能性があります」
【しかし、それだけで判断するのは情報が少なすぎないかい?】
塚内の言う通りである。切嗣の考えは憶測にすぎない。確かに人が消えているのなら調べなければいけないが、確証がないのだ。ホームレスは住民票もないのでそこに住んでいたことを示すものが無い。勝手に移動して、別の場所に住み着いていたなんてことも考えられる。
だが、切嗣にはホームレス達の失踪を、事件性のあるものだと確信する要因があった。
「……消えていった者達が皆、失踪前に良く通っていた場所があるそうです」
【ある場所?】
「その場所は……」
一度言葉を切り、切嗣は嫌な記憶を思い出しながら口に出す。
「―――鳴羽田
普通の人「教会? 神聖で落ち着く場所だよね!」
Fateの人「教会? 黒幕が潜んでる場所だよね!」