ある部屋から呟きが聞こえてきた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・受かる・・・受からない・・・受かる・・・受からない・・・受かる・・・受からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それは小さな男の子が花の花弁を一枚、また一枚と取りながら呟いていた。実に古風な花占いである。
そんな花占いをする男の子を部屋のドアの隙間から二人の男女が見ていた。
「あら、今時珍しいわね~。花占いをしているわよ。」
「駄目な息子だなぁ。メンタル弱すぎ。」
と、このような会話をしておりました。つまりは花占いをしている小さな男の子とは峰田実である。
どうも、お久しぶりです。峰田実になった青年Aです。何をしているかって?・・・占い?かな。自分にも分かりません。ただまぁ・・・落ち着く。
・・・・なにかをね、何かしらをね・・・してないと落ち着かないのですよ。だってね・・・来ないのですよ・・・ナニがって?・・・それはね・・・・
「受験結果が来ないんだよーーーー!!!!」
「うわ!急に叫ぶなや!」
あれ?いつの間に自分の部屋に人が入って来ていたのでしょうか。全然気がつかなかった。
あ、峰田父上おはようございます。
「そして叫んでからの変な落ち着きようが逆に怖いわ。サイコさんかよ。」
失礼な。サイコパスでも何でもないわ。ただ情緒がアレで、ちょっとどころか、かなり不安定な状態なだけだわ。
「もう色々と酷いな。まあ、気にするなよ。落ちた結果が来ないからって。」
ぬわぁぁまだ落ちたと決まってないぃぃぃ・・・
「まあ、たぶん落ちたって。来るの遅せぇし。もう身悶えすんなよ。動きが気持ち悪いわ。」
・・・くっそー。他人事だからって。
「他人事ってお前。一応俺も親だからな。ちゃんとお前のことを考えてやってるぜ。」
・・・・え?まさか自分を心ぱ
「ざまーってな!」
あらやだ。なんていい笑顔なんでしょう。とりあえず
シねやーーーー!!!
激情に流され、峰田父上の顔に飛び込むように渾身のパンチを繰り出すも、アッサリと避けられ、足を掴まれ、そのままベッドへ放り込まれた。
「いやぁ、お前ってさぁ、今まで優秀で特に人生的に転ぶことも挫折っぽいこともなかったからな。いい勉強だと思って受け入れろって。」
・・・・・うるせーよ。諦められっかよ・・・
「あん?」
ヒーローに・・・なりてぇんだよ。
「・・・馬鹿だな。お前。こんなケガとかしちまうかもしれんぞ。」
ため息混じりに峰田父上は言った。
そんな峰田父上は現在『休日のお父さんスタイル』によくある半袖短パンなのだが・・・数年前の仕事で腕をケガした傷跡が生々しく残っているのが見てとれる。
自分も馬鹿だとは思う。・・・思うのだが
そんな傷をおっても続けたい仕事なんだろ。ヒーローって。憧れないわけないじゃんか・・・・
「はんっ!あくまで俺はサイドキックだっつぅの・・・馬鹿すぎ。・・・ちょっと待ってろよ。」
峰田父上が部屋から出て行き、すぐに帰ってきた。荷物を両手に抱えて。それを部屋にぶちまけた。
その荷物は大きめの封筒がいくつもあり全てが
「これ全部がヒーロー科のある高校だ。今からでも受験は間に合う。」
そう、全てが高校の入試案内と書いていた。
峰田父上はドスッと座り込み、封筒を開けていく。
「ぼさっとしてんじゃねぇよ。ほれ、全部開けてくぞ。俺にだけやらせんな。」
呆然としてしまった。
あの・・・どういう・・・
「どういうも何もないだろうが。一手目に失敗した時のために二手、三手目を考えとくのが当たり前だろうが。変に自信があるお前のことだ。失敗するなんて考えなかったろ。」
・・・・・・・
「図星かよ。ほれ、何でもいいから手を動かせ。」
正確には図星ではないのだが、今考えれば油断をしていたところはあったかも知れない。なんだかんだで受かる気がしていた。何故なら原作を知っているから。漫画を知っているから。
・・・そうだよな。今は漫画じゃないよな。今は現じ・・・
パカン!
という小気味良い音と共に、頭に軽い衝撃が走った。
「ほれ、さっさと開けろ。」
・・・もう少しこう、色々と物思いに耽らせてもらいたいものである。
渡された封筒に目をやると、そこには士傑高校と書いていた。
「確かこの士傑高校ってのは雄英に落ちた奴が結構入るんだけどよ、卒業したやつらって優秀なガキが多いんだ。まあ、今のところは一押しだな。」
・・・ここはもう自分にとっては漫画の世界ではなく現実なのだ。
まだ決まってはいないが、雄英に行けなかっならしょうがない。雄英に行けなくてもヒーローになりさえすれば、それでいい。
自分の存在が無くても雄英のやつらなら、ナンだカンだで困難を乗り切るだろう。むしろ自分が居ない方が上手くいく可能性の方が高い気がする。
というわけで、
峰田父上!
「ん?なんだ。」
自分、これから頑張ります!
「おう。頑張れよ。」
なんか久しぶり親子らしい会話をした気がする。それが何か嬉しく思え、やる気が出てきた。
「よっしゃ、どんどん切って中身を見ていくぞ。」
はい!
自分は目の前の封筒を手に取り、封筒の上部を切って中身を出していく。それを繰り返し、次々と開けては並べる。
「うむうむ。少しは元気になったみたいだな。さぁ俺も次をやる・・・か・・・・」
峰田父上は、何か言ったあとで封筒を手に取り固まった。
ん?峰田父上どうした?
「あっ、いや、なん・・でも・・・ない・・・かな。うん。・・・あ~・・あっ、今日寿司でも取らねぇか?」
え?あぁ、いいねぇ寿司。寿司食べたい。
「んじゃ、ちょっと電話をね、してくるわ。」
ああ、了解。自分は封筒開けとくよ。
「オ、オウ。ガンバッテクダサイ。」
??何故敬語??
不信に思いながらも部屋から出ていく峰田父上を見送り、自分は次々と封筒を開けていると、部屋の外からドタバタと音がして、それから・・・・
「ほぎゃーーー!!!ちょっ、今回はワザとじゃないの!!ワザとじゃないの!!!違うの!!あっ、そんなんされたら昇天!昇天しちゃうって!!今回は!今回ばかりはね!ちゃんと親父っぽいこと頑張ろうとしたんですぅぅぅぅ!!!あっ、気持ちいいれす!!サイコーーーーーデス!!!!おっふぅぅぅ」
という悲鳴?が聞こえてきた。
えっ?!!なに?何事?!
と戸惑っていると、程なくして部屋にノックをされ、返事をすると・・・ゆっくりとドアが開けられ、峰田母上が入ってきた。
血だらけで。
ただ峰田母上にケガらしいものは一切なく返り血であることが伺える。
あ、あの、いったいなにがあ・・・
「実ちゃん。」
あ、はい。
「これ届いたわよ。ごめんね。少しトラブルがあって破けちゃった部分はあるけど、中身は無事だからね。」
あっ、ハイ。・・・って、これっ!!
「そう、雄英の受験結果みたい。一緒にみる?」
えっと、あの・・・一人で見たいです。
「そうよね。わかったわ。じゃあ後でね。」
はい。
ガチャリとドアが締まり、部屋の外ではズルズルと何かを引きずる音が遠くなっていった。
いったい何が起きたん。
・・・・あー、まいっか。いつもの事だしね。うん。さて、早く開けて結果を見てみよう。
え?何で親と見ないのかって?
いや!見ないでしょ!特に今の峰田母上とは。封筒をくれた時はいつもの良い笑顔でしたよ。でもね、血が服とか顔に飛び散ってるのよ。怖いよ!ガッタガッタ震えるよ!
と一人で思いながらも元々破けていた封筒を破くと機械がポロリと落ち、カチッという音を出して
3D映像が再生された。
『ぇぇ、もう私の出番は終わりかい!しょうがないなぁ。では最後に"PlusULTRA"!!』
おお!オールマイトだ!!って終わりかい!
『はい、じゃあ次、相澤先生お願いします。』
おお・・え?相澤先生が結果言うの?
少しすると、漫画ではA組の担任である相澤先生が首にマフラーとゴーグルを着けてカメラの前に現れた。いつもの仏頂面で。
『・・・』
『もっと笑顔でお願いします。』
カメラマンの指示に嫌そうな顔を浮かべ、何か思い付いたのか目を少し開くと、マフラーを口元まで上げ、ゴーグルを目にあてた。
『・・・・・・・これでいいだろう。』
『・・・大丈夫です。撮りましょう。』
相澤先生、クールやで。
『はい、カメラ回しま~す。3、2、1、お願いします。』
『あ~受験番号3710、峰田実。合格。必要なことは封筒に入ってる要項に書いてある。以上。』
・・・・・・・・・・え?合格?合格っていったよね!
『・・・あの相澤先生、そっけ無さすぎです。もう少しコメントを』
『・・・雄英に来たら鍛えてやる。』
『・・・ツンデレ?・・・あ、ちょっ何で、にじりよって来るんですか?まだカメラ回ってますよ。ちょっ、や』
ザァーーーーー
映像が途切れた。
えっと、一瞬自分もツンデレ?って思ってごめんなさい。でも、あれだ・・・
身体が震える。
受かった。合格・・・・
「よっしゃーーーーー!!!!」
封筒を確認すると、要項と一緒に合格通知が入っていた。それを持って自分は部屋を出てリビングに向かった。
後書きに書くことじゃないけど
『おまけ編。』
リビングでの会話。
「あなたって、何でいつもこうなのかしらね。」
「いや~今回はマジでスマンとは思ってます。まさか受験結果が混じってると思わんで。」
「あの封筒の束は何時からあったの。」
「うん?あ~あいつが受ける前からコツコツと溜めてました。あいつの部屋に持って行った分はココ一週間分くらいかな。まだあるんだぜ。」
「あらそうなの?」
「うん、まあ。あいつってば変な奴でな。優秀なくせに脇が甘いというか、真っ直ぐ突っ走るというか。『雄英に受かる』ってことしか考えてなかったからな。」
「ふふっ、よく見てるのね。」
「まあ、なんだ。愛してる女と俺の間に生まれた子供だからな・・・・」
「・・・恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。」
「お、お前だって顔赤いぞっ!」
「ちょっとカッコ良かったからね。」
「っっ!!」(もうマジで俺の妻は最高やで!!)
「で、結果はどうなったと思う?」
「あん?受験の?受かってんじゃねぇか。」
「あら。そうなの?あんなに高校の入試案内を用意してたのに?」
「受かってると思ったが、万が一のためってやつだよ。」
「そうなの。ちなみに受かってるって根拠は?」
「俺達の子供だから。」
「ふふっ、親バカね。」
「・・・」(この笑顔には一生勝てないッス!)
ドタバタと息子の部屋から音がする。
「あら、もう終わった見たいよ。」
「あの足音なら受かったみたいだな。」
「そうみたいね。」
「あ~というわけで、そろそろ下ろしてくれません?逆さづりで合格したってのを聞くのはちょっとカッコがつかんので。」
「あら?ご褒美にならない?」
「いつもなら良いんだが今日だけは・・な。」
「そうね。今日だけは・・ね。」
急ぎめで逆さづりの状態を解いて、リビングの椅子に座って二人は息子を待つ。すると廊下を繋ぐドアがバタンと開き
「う、受かったーーー!!!」
息子の嬉しそうな声を二人で聞いた。