豚々さん、誤字報告ありがとうございました。
集中するために精神統一する者。
不敵に笑顔を浮かべたまま待つ者。
周りを観察して何かを探ってる者。
ワイワイ、ガヤガヤと受験生同士で話す者。
この実技試験の会場となる模擬市街地演習場の入口に来てから既に15分、気が少し抜けるのも分かります。
どうも、すいません。峰田実になった青年Aです。
気が少し抜けるのも分かりますと言いましたが自分自身、既にかなり抜けてます。だって現在自分、模擬市街地演習のビルの中にいます。
フライングじゃないかって?違うんです。聞いてください。一応、演習場の入口付近で待機とは行ってましたが演習場に入っちゃダメとは言われてません。それに本当にダメなら入った時点で監視してる雄英側から注意があるはずです。
それにですね、緊急事態だったのですよ。何故ならば
と、トイレは何処だ。
膀胱がね、少しヤバい。
というわけで演習場のビルならばトイレがあるのではないか?と、膀胱を刺激しないように慎重に歩きながら探してるのです。一応、戦闘準備は終わらせていたせいですかね。油断しました。
とか思ってるうちに、昔のビルにはありがちの乳白色のような緑ともとれるような微妙な色のドアを発見。昔のビルのトイレのドアって大抵はコレなんだよね。
見つけたことに嬉しくなり、しかし膀胱を刺激しないようにゆっくり移動してドアを開ける。すると
『ハイ、スタートー』
と、プレゼント・マイクのアナウンスが聞こえた。
え?今ですか?
と、呆けながら自分が開けたドアの中を確認する。部屋の中はトイレの風景とは程遠く、壁際に豪華な本棚、部屋の中央には虎柄のマット。奥には大きい机、壁には『仁義』と書かれた掛け軸が・・・どう見てもトイレではありません。更には部屋の中で人型のロボットが約10体ほどおり、皆さんドス(小刀)を持っております。
そんなロボット達が目を赤く点滅させながら
「「ダレヤワレ!」」
「「カチコミカ!」」
「「ドコノクミノモンヤー!」」
「「コロスコロス!」」
「「イテモウタレー!!」」
と、おっしゃっております。
・・・うそん。
自分は、即刻ドアを閉めて、その場から緊急離脱します。その緊急離脱先とは
「ドコダ」
「ハヤイナ、アノチビ、モウイナイ」
「イナイワケナイ、チビヲサガセ」
「サガセ」「サガセ」「チビヲサガセ」
どんどん部屋からロボット達が出てきます。そんなロボット達を自分は、めっちゃ間近で見ております。一体どこだって?
それはですね、天井でございます。現在、もぎった玉を足に着けて蝙蝠状態です。
何故こんなに効果的に効くのか、と申しますと自分の背の低さによるものかと思いますね。だって自分、背が低いのですよ。そうなると、背が低い自分を探すには目線が下に行きます。すると天井には目線が来ないわけで。先程からロボット達にチビヲ、チビヲと言われて傷ついてますよ。・・・もっと背が高くなりたかった。
さてと、そろそろ怒りを込めてやりますか!
自分は頭に手を添えて、やってやります。
「グレープラッシュ!!!」
-----別会場
「うーん、僕ってやっぱり不運だなぁ。」
「きゃーーー!!」
「またか~。」
またも女生徒が何処からだろうか、自分へと降ってくる。それを受け止めて
「大丈夫かい?」
「・・・は、はい」
「じゃあ、僕は行くね。」
「はい。あ、あのお名前を」
「矢吹スギルです。では。」
「・・・・・・スギル様」
このやりとり、もう何回目だろうか。既に十回を越えている気がする。
流石にここ一年、鍛えに鍛えた。そしてこの戦場となってる所で、自分の個性を考えれば女生徒が降って来るのは当たり前。なので、気をつけておけば、かなりの率で受け止めきれる程にはなれた。
そして出てくる仮想ヴィランも
ドゴーン!!
ビルの壁や隙間から出てくる、少し動きの早い雑魚ばかり。
「コロス、コロス」
「たぶん1pなんだよね。はぁ。」
仮想ヴィランの動きに合わせて、右へ左へと動き、テーザー銃の照準をつけて撃つ。
「ギャーー!!」
と、叫びながら煙を上げる仮想ヴィラン。
これも何回もしてきて、既に作業とかしている。
「そろそろ飽きて来たなぁ。はぁ、峰田君に会いたいなぁ。二人っきりの旅行は断られたけど、旅行自体は断られなかったよね。姉さん達と・・・皆で一緒に旅行ならオーケーってことだよね。」
鞄を開け、とあるケースを開けると峰田君の笑顔を浮かべた写真が入っている。何でもない写真に見えるが、実はレアものである。峰田君は普段あまり笑わない。ニヤけることはあっても、心から笑ってるようなことは数える程しかないのだ。コレは、その数える程しかない笑顔の写真である。
「・・・うん。もう少し頑張ろう。峰田君と同じ高校に行くためだもんね。」
少し昔のことを思い出そう、としたところに
「きゃーー!!」
「またか~。よっと。」
またも女生徒が降ってきた。神様は、どうやら思い出を振り返えさせてくれないらしい。
「無粋だよね~。」
「え?」
「いや、何でもないよ。」
えっと、確か峰田君の憧れてるオールマイトは『ヒーローは常に笑顔を絶やさない。』って言ってたっけ?
矢吹は直ぐに笑顔を作って
「大丈夫かい?」
「・・・は、はい」
こうやって今日も矢吹に恋い焦がれる女性被害者は増えていく。
とある試験監視ルーム
「た、大変です!」
「なんだ。」
「か、開始1分で30pを越える受験者が出ました!」
「「「・・・はぁーーー!!??」」」
一同は試験が始まったばかりで、あまり画面を注視することがなかったので
「な、どうやって・・・」
「こちらを御覧ください。」
モニターに映しだされたのは、頭に紫色の玉をつけた小さな男の子。ビルの中を何か探るように慎重に歩いている。
「コレは?」
「試験開始の合図まで、あと1分のところです。」
「何故、試験が始まる前にビルの中へ?」
「理由は分かりませんが慎重に歩いているところを見ると敵情視察かと思われます。」
「確かにそんな素振りだね。」
「これは、アリなのかい?」
「アリだな。」
無精髭を生やして半眼にしながら画面を見つめる男が言った。
「あ、相澤先生。」
本名、相澤消太。抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』その人である。
「そもそもマイクが言っていただろう。実戦にカウントなんて無いんだ。だいたい、現場を想定しているなら、スタートなんて言葉を使う事が既におかしい。」
小さな男の子は、何かに気がついてドアを開け、自分の姿をわざと晒すように動き、仮想ヴィランに見られた後、直ぐにドアを閉め、天井にかけ上った。そして仮想ヴィランの全てが外に出たと確認すると、上から大量の粘着力のある玉を投げつけ一網打尽とした。実に鮮やかな手口である。
「あの子、中々のやり手ですね。」
「しかし、本当に良いのだろうか?」
「・・・巻き戻してマイクを見ろ。」
相澤先生に指示された通り、映像を巻き戻してプレゼント・マイクを見てみると
「・・・めちゃくちゃニヤけて、彼がビルに入っていく所を見てますね。」
「そういうわけだ。これは責任者であるマイクがアリだと認めてる証拠だ。」
この雄英では先生であるヒーローの裁量が重視されることが多い。つまり、彼が認めていれば全てアリなのだ。
「なら、しょうがないか。」
「そっちも良いけど、私はコッチを見て欲しいわ。」
今度は何だと見てみると、特別審査制『救助活動p(レスキューポイント)』を細々と稼ぎ、更にテーザー銃を片手に仮想ヴィランを次々と倒していく男の子が映っている。
「これは一体?何故、こんなにも細々としたレスキューpが?」
「それはコレを見てよ。」
そこに映ったのは、何かに男の子が気がつき、一歩後退り腕を上げるとそこに女の子が降ってきたのだ。
「おお、見事なキャッチ。」
ここで災害救助で活躍しているスペースヒーロー『13号』が補足を入れて
「そうですね。結構派手に飛んできたのに完全に勢いを殺してキャッチしてます。どちらも怪我をしてません。それに最後は笑顔で相手を気遣ってます。素晴らしいですね。」
その後の女の子の表情は完全にアレなのだが誰もツッコミは入れなかった。
「俺は銃の腕を評価する。」
「スナイプ先生。」
「銃ってのは基本的に動きながら狙った所に当てるってのは困難を極めるものだ。それをテーザー銃で射程が短いとは言え、彼はしっかりと仮想ヴィランの装甲が薄い部分に当てている。これは観察する目と、かなりの腕を持ち得なければ出来ないこと。」
「なるほど。つまりこの歳では中々いないということですか。」
首を縦に振り、肯定するスナイプ。誰もが彼の声に納得した。
「やーやー、今期はとっても良い子達が集まったね。」
突然の声に振り返ると、顔に傷のある大きなネズミが服を着て紅茶を飲みながら歩いて部屋に入ってきた。さて、偉そうに入ってきたのだが、実際に偉い人(ネズミ)である。彼こそ、この学園の
「こ、校長先生。」
校長である。
「いや、本当に素晴らしい子達だね。しかし、心はどうだろうか?大きな壁が現れてこそ、ヒーローとしての資質が表に出るからね。」
ヒーローの資質を表に出る。これを聞いて講師陣は皆、ニヤリと笑う。
「それじゃあ、そろそろいってみようか。これからが本番さ!」
ネズミの校長は紅茶を机において、部屋の仮想ヴィラン操作パネルのボタンを押した。
試験を監視するカメラがブレる。それは大きな何かが動いている証拠。そしてカメラにはその大きな0p仮想ヴィランが地下から現れ、ビルを押し退け、歩き始める所が映し出された。
「さあ、どうする?ヒーローを目指す子供達?」
次回は実技試験終了かな?
まだちゃんと決めてません。