「ユージンよ、一度でもそんなことをすれば私たちはギャラルホルンの犬に成り下がるぞ」
「つっても、これしか方法がねえだろ!」
CGSを乗っ取り、オルガを筆頭にした新CGSは早速金銭的な面で行き詰まりかけていた。
そこで持ち出されたのかクーデリアだ。
クーデリアをギャラルホルンに差し出し、それを交換条件に金銭を貰い受けるという話になったのだ。
しかしヨハンはそれに反対し、ユージンは賛成した。
「ヨハン、お前は分かってると思ってたんだがなー」
「オッサン、兄貴が間違ったこと言うはずねえだろうが! それに、バルバトスとスローネさえあれば俺たちが負けることなんて有り得ねえな」
オルガはまだ動かない。
そこにどういう意味があるのか分からなかったが、ただ腕を組んでこの場を見ていた。
「オルガ、お前は……「大変だ! ギャラルホルンのモビルスーツがこっちに来てる!!」……意外と早くこちらに来たのだな」
「数は何機だ?」
「そ、それが……」
「――そちらの代表との一対一の勝負を望む!」
オルガたちが見たのは赤い布のグレイズ一機が決闘を申し込む姿だった。
「私が勝利すればクーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を引き渡してもらう!」
「……やはり、それが狙いか」
先程の話もあり、クーデリアを引き渡した方がいいのではという声も多少ではあるが聞こえ始める。
「ほら見ろ! あっちはお嬢さんが目当てなんだ!!」
男は続けて話す。
「クーデリアの引き渡しが無事済めばそこから先は私が預かる」
「……なに?」
「ギャラルホルンとCGSと因縁はこの場で断ち切ると約束しよう!」
全員がざわつき始める。
ヨハンは少しばかり悔しそうに見ている。
「……これで私たちは戦う意味がなくなったと一部は考えるようになるだろう」
「なら、私は行きます。私が行けば全て済むのでしょう?」
それは、クーデリアも同じだった。
彼が約束を守るかどうかさえ分からないというのに彼女は話に乗ろうとしていたのだ。
「どうなるか分かんねえんだぞ」
そこでオルガが動きを見せた。
「……既に、多くの人が死にました。それに、私はただ死ぬつもりはありません。何とか話を聞いてもらえるように頑張ってみます」
クーデリアの意思は、決意は揺るぎないものだった。
そして、オルガは何かを決意したかのように笑った。
「……そのつもりはねぇ。あのオッサンの言葉がどこまで本当か分からねえしな」
オルガはクーデリアを引き渡さないと決めた。
もしかすると初めからクーデリアを引き渡すつもりはなかったのかもしれないし、クーデリアを試すまで決められなかったのかもしれない。
しかし、その結果は正しい選択だとヨハンは思っていた。
それは過去に正義と信じて行った破壊と殺戮が滅びの道だったことを身を以て知ったヨハンだからこその考えなのだろう。
「……オルガ、戦うなら私に任せてくれないか?」
「ヨハンか? まあ、確かにミカのモビルスーツは相変わらずボロボロだけど……」
現在のバルバトスは動かせるという意味では万全だが、それでもスローネと比べるとお世辞にも万全の状態で戦えるとは言えなかった。
「あちら側が負けた時の交渉は私が得意だ。それに……」
「それに?」
ヨハンは手を強く握り、目を瞑った。
「……私は、今回の決闘で克服しなければならない」
かつて、ヨハンはサーシェスとの格闘で敗れた。
その時の絶望が、それ以前のフラッグ相手に片腕を奪われた敗北が、ヨハンにビームサーベルを持つことに対してのトラウマを与えていた。
だが、それが理由で射撃しか行うことの出来ない男に成り下がりたくはなかった。
「頼む、私に戦わせてくれ」
「……分かった。今回はヨハンに任せる」
ヨハンは一礼だけし、スローネが格納された場所に向かう。
過去のトラウマを、断ち切るために。