リアルでの仕事が落ち着いたので不定期にはなりますが更新を再開します
ネーナ・トリニティは唯一の女性パイロットということもあり、一部からは戦えるのかという声が聞こえたが、クランクとの模擬戦でその声は消え去ることになる。
「アッハハハ! そんな攻撃じゃ私には当たらないわよ!!」
「……ふっ、確かに初めてモビルワーカーを操縦したにしてはいい腕だ」
ネーナは元々支援機体であるスローネドライに搭乗していた為、射撃のセンスも近接のセンスもミハエルやヨハンに劣っている。
しかし、アリー・アル・サーシェスを倒すためにネーナ自身も特訓は行っていたようであり、その操作技術は以前とは比べ物にならないほどになっていた。
「だが、攻撃を当てることが出来ていないのはお前も同じだ!」
「……ッ、言ってくれるじゃない!!」
その結果、熟練のパイロットと言えるクランクとも性能差が同じならば互角とはいかずとも応戦できるようにはなっている。
「――そこまでだ!! この後は本格的に俺たちの初仕事だ。しっかり体を休めとけよ!」
あと少しで勝敗が決まるというところでオルガの声が響き渡り、二機の他にも訓練をしていたモビルワーカーたちが動きを止める。
「クランクのおっさん、ネーナはどうだ?」
「ヨハンやミハエルに比べればまだまだと言えるが、これならすぐにでも前線に出せるだろう」
モビルワーカーから二人が降り、ネーナはピースサインでオルガの方を向いた。
「とーぜんよねっ! ネーナ強いんだもん!!」
「なら、先ずは兄二人を超えるほどに強くなることだな」
「えーー!? それは難しいかも……」
ネーナはそのノリの良さもあって周りからも好印象だった。
ただ……
「ネーナだっけ? これから鉄華団の内部を案内して……」
「私パス。それより、ミハ兄とヨハ兄はどこ!!」
「あ? ……二人ならスローネの調整に行ってると思うぞ」
「そ。ありがとう!!」
「……振られたな、ユージン」
「う、うっせぇ!」
ネーナ本人はヨハンとミハエルに依存しているところがあり、鉄華団のメンバーに関しては仲間だから一応仲良くしているような印象が強かった。
たった一人を除いて。
「三日月、今のバルバトスって三日月の実力でなんとか動かせてるのよ」
「へえ」
「でも、今みたいな無茶な動かし方してちゃ機体のほうが先に悲鳴をあげるわ」
「……そんなにバルバトスってボロボロなんだ」
「誰が見たって口を揃えてボロボロだって言うと思うわ。そこで!」
そういってネーナが見せたのはヨハンのスローネアインの肩に背負われていた滑腔砲だった。
「こういうのはどうかな? バルバトスでも十分使えるものを選んでみたんだけど」
「……これ、おやっさんが大事にしてた」
「そこはヨハ兄が許可を取ってくれたわ。見たところモビルワーカー以外でまともに遠距離攻撃できるモビルスーツが殆どいないから三日月のバルバトスにはそういう武器が必要だと思うの」
「……分かった。早速使ってみる」
それを聞くとネーナは笑顔でヨハンたちのもとに向かう。
このように、三日月に対しては積極的に話しかけているように見られ、一目惚れしているようにも見受けられていた。
「……まあ、似てるしな」
「いや、似てるようで似てないが無愛想さは似ているか」
ミハエルとヨハンはネーナが三日月のことをかつて敵対してしまった刹那・F・セイエイと何となくだが似ているからこそ行為を抱いていると思っていた。
「あーあ、私もドライがいれば敵なんて皆やっつけちゃうのに」
「この世界にはGN粒子が存在しない。スローネドライを取り戻しても一日に動けるのは十五分が限界だろう」
「えー!? そんなの乗ってないのと同じじゃない!」
「スローネアインはグレイズのお陰で改修が進んでいる。ビーム兵器は使えなくなったが、ドライが帰ってきた時のためにアインのGN粒子を温存することに決めた」
「……ステルスフィールドのためか」
「エイハブ粒子を利用しての新武装も検討してもらっているが、こちらはほぼ諦めてもいいと思っている。だからこそ、残り僅かでも使えるGN粒子は大切に温存しなければならない」
「了解。それじゃあ私は先にシャワー浴びてくるね!」
「任務開始までには戻ってこいよー!」
二人に手を振り、そのままシャワー室へと向かっていった。
ネーナの姿が見えなくなるとヨハンは頭を抱えて隠していた通信機を取り出した。
「……マクギリス・ファリドだったか。私がヨハンだ」
「話は君の妹から聞かせてもらった。こちらとしては今後君たちとは手を組みたいと思っている」
「しかし、我々鉄華団とギャラルホルンは敵対関係にある」
「だとすれば尚更好都合だ。私の目的とも一致する」
「……どちらにしても、私に決定権はない。それに、理由はどうであれ貴様たちはネーナを捕まえ、今もスローネドライを所持している。それを返してもらわない限りは考える余地すらない」
「……あの機体には我々も知らない技術があった。君たちの妹は返せてもあれは簡単に返すことは出来ない」
「そうだろうな。ならば、交渉は決裂だ」
ヨハンは電話を切り、ミハエルと共にスローネアインが改修されている場所に向かった。
「よお、おやっさん」
「ミハエルか……って、また誰かと喧嘩したか? 最近は大人しくなってたし妹も見つかったのによ」
「うっせぇ! ギャラルホルンの奴らがムカつくだけだ!!」
「……なんらかの妨害があることは覚悟しなければならない。そのためには一刻も早くアインの改修が必要なのだが」
ヨハンは現在も改修作業が行われているスローネアインを見上げた。
かつてのスローネアインの原型はなくなりつつあり、この世界で生きていくための新たなスローネアインが生まれようとしていた。
「もう少し時間はかかりそうだ。その間にギャラルホルンが攻めてきたなら待機してもらうしかねえ」
「そうか……」
「ミハエルと昭弘、クランクのグレイズはなんとか仕上げてある。バルバトスも完全じゃねえがいつでも出撃はできる」
「……了解した、その間はオルガのサポートに回るとしよう。ミハエル、頼んだぞ」
「任せてくれ兄貴!」
二人はその場をあとにした。
数時間後、ついに鉄華団の初仕事が始まった。
鉄華団初の仕事となるクーデリアの護衛は鉄華団に残ったメンバーに加えてアトラ、フミタンの二人が来ることになった。
元々フミタンはクーデリアの侍女であったために全員が知っていたが、アトラの同行には皆驚きつつも炊事係はアトラが適任であることから同行を許可されたようだ。
「これで三日月とも一緒にいれるな」
「ミハエル! 私、頑張るから!」
「ネーナほどじゃねえけど応援しといてやるぜ」
ミハエルが応援するという言葉にヨハンは珍しいことを聞いたという表情をする。
それにミハエルが気付くと目を細めてヨハンに近付いた。
「……確かにネーナと三日月を応援したいけど、ずっとあいつも見てきたんだ。くそっ、昔ならネーナの邪魔するやつは切り刻んでやったのに」
「ふっ、そう言いながら嬉しそうじゃないか」
「……けどよ、ネーナがこっちに来てから改めて思うんだよ。俺はもう、トリニティじゃいられなくなったってな」
「私もだ。これでは刹那・F・セイエイたちに人のことを言えなくなってしまったが、今なら彼らの気持ちが分かる」
「……ネーナにも、いつかは俺たちみたいに変わってほしいよな」
「そうだな。ネーナとミハエルはよく似ているからかなり時間はかかるだろうが、いつかは変わるさ」
「ミハ兄、ヨハ兄……どうして二人は……」
様々な思いを乗せ、鉄華団は歩み始める。
……新たな魔の手が迫ってきていることに気付かずに。