「くっ……!!」
スローネドライ。
今でこそ旧型のガンダムになってしまったが、かつてはアイン、ツヴァイと共に世界の変革のために動いたガンダムだ。
支援型とはいえ、パイロットのネーナ・トリニティ自身の実力もないわけではない。
「畜生ォ……!!」
だというのに、このザマだ。
敵に為す術もなく握りつぶされる。
……だが、死ぬ直後に彼女は笑った。
(……兄兄ズ、私も、行くね)
かつて世界を脅かしたチームトリニティの生き残り、ネーナ・トリニティは機体と共に宇宙のデブリとなった。
ーーー
火星。
ここに「革命の乙女」として知られているクーデリア・藍那・バーンスタインが現れたことで事態は急速に変化していく。
「……おいおい、またやったのか?」
オルガ・イツカは全身傷だからけの男を見て同情の意をみせる。
「正当な理由ならともかく、彼等のやっていることはただの八つ当りだ」
ヨハン・トリニティ。
もっとも、現在はトリニティではない為にヨハンの名だけで通っている。
「クソ! 思い出しただけでもイライラしてくるぜ……!!」
同じくかなり殴られた痣があるミハエルはどうしようもない苛立ちを覚えていた。
「ヨハンもミハエルも落ち着け。……それと、二人に頼みたいことがある」
オルガの真面目な顔に新しい仕事が来たのだと理解する。
二人にとって乗っている機体の性能が低い以外は以前やっていた仕事に比べて楽なものが多い。
二人がCGSに入ったのがもう少し遅ければ子供扱いされずに一番隊にでもいたのだろう。
「オルガからの頼んでくるなんて珍しいな?」
「……あー、いや、ヨハンだけでいいかもな」
少し目を逸らして話す。
それだけでもミハエルが怒るだけの理由にはなった。
「あぁ!? オレじゃあ任せられねえってか!!?」
ミハエルは参番隊の中では三日月・オーガスや昭弘・アルトランドに負けず劣らずの主戦力だが、少々怒りっぽい性格な為に戦闘面以外では任せられることも限られてくるのだ。
それに比べるとヨハンは戦闘面では援護射撃に特化していて自身が前線に立つことは苦手のようだが、参番隊の中では一番頭がよく、ビスケット・グリフォンが困った時にはヨハンが動くこともある。
「……クーデリア・藍那・バーンスタインか」
「やっぱ知ってたか。その事で頼みたいことがあるんだ」
そこまでくれば何をさせたいのか察しはついた。
ヨハンは呆れながらも仕事だと割り切ろうとしていた。
「私を案内してくれ」
「すまん! ミカ一人でも大丈夫だとは思うけどよ、念の為にヨハンもいてくれ」
「お、三日月がいるならオレも行くぜ。時間があれば一緒に特訓してえし」
そう言い、二人はオルガについてくるように歩く。
(……にしても、始めて会った時に比べると大分人らしい顔になってきたな)
オルガは二人に初めて出会った時のことを思い出し、思い出に浸っていた。
「どうかしたか?」
「いや、ヨハンとミハエルが昔に比べるとかなり変わったなって思っただけさ」
「……そうだな」
生きる意味を失い、何の為に生まれてきたのかが分からなくなっていた頃を思い出す。
そんなヨハンが以前以上に明るい表情になれたのは、彼よりも早く元気を取り戻したミハエルや参番隊のお陰なのだろう。
(……ふっ、らしくないことを考えてしまったか)
また何か怒っているミハエルとそれをあしらうオルガを見て、笑いながらそんなことを考えていた。
ギャラルホルンが攻めてきたのは、それから数時間後のことである。
地下に置かれた黒いガンダムはその時を待つかのように静かに眠っていた。