戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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流は完全に壊れました。


#94『砕けて生まれた新しい彼は』

 流は意識が覚醒すると体が拘束されていないことに気が付いた。しかも体には力が入り、頭が柔らかい何かに乗っている。だが、この柔らかさには最近覚えがない。

 流は装者の身体測定も担っているのである程度皮膚の柔らかさなども覚えているが、こんな感じの人はいなかった。

 

 流は警戒して目を開けるとそこには丸い二つの肉の壁があった。これで皮膚の感覚的には有り得なかったが、翼と調と未来と娘二人は絶対にない。響と切歌もここまで視界を邪魔しない。

 

 そして胸の横から見える朱色の髪の色を見て、流は誰だか分かったが理解出来なかった。

 

「……は?」

「起きて早々酷ぇな。おはよう流……久しぶり、でいいんだよな?」

「……そうか、俺はまだソロモンのアホの世界にいるのか。現実にいる牢屋と奏を再現するとか本気でソロモンは粉微塵にしよう。|異世界()()からの記憶と想いの流動現象で知ったデュランダルの技を今こそ使う時」

「え?……なるほど、これを喰らえばわかるだろ? ふんっ!」

 

 流はどうやらまた現実と妄想の区別がつかなくなったと奏は思い、流にもよく効く拳を流の鳩尾にめり込ませた。

 その痛みは物理攻撃の痛みに慣れているはずの流をも悶絶させる一撃。何故かデュランダルの防御も、流の筋肉も、発勁すらも無視してダメージを与える奏の拳……これによって流は目の前の奏が、本当に実在する奏である事が分かった。

 

「ぐへっ! ゲホッゲホゴホ……本当に奏!?」

「確認の仕方が酷ぇなおい! そうだよ、天羽奏、って待て!」

「奏えええええ!!」

「やめろ!」

「ゴホッ!」

 

 流は感極まって奏にキスをしようとしたが、流の顔に奏の拳が穿たれて流はその場で倒れた。

 

「なべびゅ(ぜゆ)え」

「流、お前ずっと捕えられてたろ? それのせいでめっちゃくせぇ」

「……なんで体から薬品の臭いとか、火薬の臭いまで、ってくっさ! マジくっさ!!」

 

 流が意識を閉じたあとから切歌のお願いでお爺さん達が監視員になるまでの間に色々されていたのだ。流は意識を閉じる前にも色々されていたがそんな事()()()()()()ので記憶に残っていない。

 

「まずはシャワーだな。おっちゃん達に案内してもらえばいい。あたしはフード被るから」

「え? もうちょい生身の奏の顔を見たい」

「そうかそうか、まあ後でな」

 

 奏はローブのフードを被ると、部屋から出ていこうとして、扉の近くで流に待ったを掛けられた。

 

「シャワー浴びないと近づかないからな?」

「わかってるって、ここで浴びる。錬金術の火と水で」

 

 奏の目の前で、流は右手に火の錬金術陣、左手に水の錬金術陣。流は自分の体を炎で燃やしながら、水柱に自らを飲み込ませて、その水を攪拌して洗い流した。

 

「は? 流って細かい錬金術陣の操作は苦手じゃなかったか?」

「え? 何だって?」

「錬金術苦手だろ?」

「今も苦手だし、戦闘ではこれを使うよりも殴った方が早い。でもせっかくだから克服しておけって習った」

「誰に?」

「クソお節介な王様」

 

 流は今までそこまで錬金術が好きではなかった。キャロルに言われた通りにやっても全く出来なかったのだ。飛行の錬金術も習ったが、それを劣化させて無理やり飛んでいただけだった。

 だが、何故流が彼の基準で苦手としていたのかはソロモンによって判明した。

 

「流の右腕と左足はエネルギーの伝導率がほぼ100%だ。骨もそうだね。だけど、所々人間な部分を残しているから、そりゃエネルギーの操作がゴタゴタになるよ。錬金術って結構繊細な技術だし。シンフォギアみたいに気合でどうのはリソースを絞り出す時くらいだからね」

 

 その後ソロモンに無理やりエネルギーを押し込まれ、何度か死んでやっと色々理解した。だが、流は錬金術の研究にそこまでハマらないので、結局は飛ぶ以外だと殴ったほうが早い程度の認識になってしまった。今は体の全てがデュランダルなので、エネルギー伝導率も良く、特に扱いやすい。

 専ら流が錬金術を使おうとしている場面は、料理や洗濯、掃除などの家事だ。家事でもあれば便利だなと程度しか思っていない。

 

「……というかさ、平然と奏は俺の全裸見てるけどズルくない? 奏も見せて」

「なんか随分とグイグイくるな。あとズルくない。今の流って全身デュランダルカラーだから、全然エロくないしな」

「……あー」『デュランダルお願い。少しだけ戻せる?』

 

 流のデュランダルとなっている箇所は、この世界にはないが『愚者の石』と同じような性質を帯びている。基本役立たずなどの性質ではなく、金属質で色まで変わっているが、人体の構造組成に極めて近いものという要素が一緒なのだ。

 デュランダルの部分といったが、流の生身の部分を検査しても人体の構成組成に極めて近いものという結果になる。100%人間とは出ないのだ。これは元完全聖遺物融合症例である了子も同じだが、子供が産めるからどうでも良いとの判断が出た。

 

 完全聖遺物デュランダルとも、轟流とも違う、全く別な存在になっているが流の右腕(デュランダル)左腕(生身)も成分は同じなのだ。なら、デュランダルから生身へも変えられるはずだ。

 デュランダルに頭を下げると、流の体は全身デュランダルからゆっくりと生身へ戻っていった。

 

「あとで裸見せてね?」

 

 数ヶ月ぶりに流の全身が肌色の皮膚に戻った。もちろん見た目だけで、昔とは成分自体が違う。それでも流がずっとデュランダルの腕や足だった事は、ほかの人が気にしていたので、流にとっても嬉しい身体操作技術だ。

 

「……抜剣してんじゃねえよ」

「奏の汗の匂いを嗅いだらつい」

(あれ? 流ってこういうやり取りすると、テンパるやつじゃなかったっけ?)

 

 流は責めるのが好きだが責められると簡単に白旗を上げてしまうやつだ。なのに、むしろもっと弄ってと全身をさらけ出しているのでとりあえず奏は無視しておいた。今の流は何かが違う。

 

 なお、ちょうど今はクリス達三人が必死になって八つ首のアルカノイズの周りのアルカノイズを削っている時間だ。流も奏もその事は知らない。

 

「匂いはよし、アンチリンカーの影響も無さそうだな。ペンダントもよし……なんか他に回収するものはあるか?」

「ないんじゃないかな……あれ? セレナは?……って待て! だから、なんで奏がいるのさ! もうそろそろフロンティアで奏の体の()()が出来る時だけど、そこまではどうやって行ったの!?」

 

 服を回収という考えが抜け落ちている二人だが、流はやっとセレナが足りない事を思い出した。しかしそれよりも重要な案件を思い出してしまったためまたセレナは忘れ去られることに。

 まだ不完全な蘇生であり、流は完全な体……錬金術が求めている完全ではなくちゃんとした奏の体が出来上がるまでの繋ぎとしての体は既に出来上がっているはずだ。だが、奏とセレナは流からあまり遠くへ離れることかができないと二人から聞いている。

 

「無理した」

「……精神体で無理をするってどういう意味か分かってるよね! あの状態で無理して減るものって魂か想い出のどっちかしかないんだよ!! なんで無理したのさ!!」

 

 精神体、幽霊である二人が無理をしないのは、流に呪いのペナルティを与えない為でもあるが、自分達の存在が消えてしまうかもしれないからだ。それなのに奏は鎌倉からフロンティアまで移動したようだ。いったいどれだけの距離が離れていると思っているのか。どれだけの糧を支払ったのか。

 

()()()()()し、母さん父さんとの想い出の一部が消えちまったけど、流が泣き虫翼みたいになってたからあたしが慰めてやらなきゃって思ったんだよ。まあ、勝手に復活してたけどさ」

 

 クリス以上に奏は流の強さの裏にある脆さを知っている。もし奏が死んだ後、霊体として流に憑いていなければ流は()()していた。

 奏を死へと向かわせてしまった自責の念。翼から拠り所を奪った責任。そこまでして自分は生き残りたいのかという自分の汚さの自覚。弦十郎の教育を受けたからこそそれらがあまりにも強くのしかかり、当時は妄想だと思われていた奏が居なければ流はあの時点で死んでいた。

 

 それを奏は知っている。だからこそ自分の魂が削れることも厭わず、流の下へ行くために自分の体のある場所まで向かった。体に馴染むのに数日掛かったが、奏は流の体で忍術や武術、錬金術を体験し、理解した流の記憶を共有しているのでそれらを行使できる。

 ここに来る時も空を飛んだり、忍術で隠密をしたりしながら来ていた。胸が色々邪魔していたが。

 

「また俺のせいか」

「いいや、流のおかげでまた生身で生きられる。もう流は覚えてないけど、アニメではあたしってめっきり出番減ったんだぜ? 1期は翼のイマジナリーフレンドとして出てたのに、期を追うごとに出番が減ってたし。まあ死者だから当たり前だが」

「……そうだな。時間は取り戻せないけど……本当に無理か? いや、やめた方がいいな。取り戻せないけど、これからを作ることは出来るし、下手に悩むことはもう辞めたんだ」

 

 全裸の流は奏の手を取って奏も流の手に手を絡める。二人はゆっくりと近づき、おでこを当てたり見つめあったりしてから流は奏と(流の認識では)二回目のキスをした。

 その時、奏が首に下げていたペンダントに流が触れた。

 

『やっと出られたあああああ!! って何してるんですか!? え? なんで奏さん生身になってるの? あと無視してディープしないで!!』

 

 流の精神世界をS.O.N.G.の皆で見た時、セレナはソロモンのところにいた。色々知って、やらなければいけないことに集中するためにガングニールの欠片の中にある流の前世だと思われる部屋の一室に篭もって研究を続けていた。

 やっとある程度理解出来て、成果も出たので欠片の部屋から出ようとしたら扉が開かなかった。

 

 流はアンチリンカーで完全にソロモンの指輪の効果が停止してしまい、それ由来である欠片の部屋は空間として独立してしまっていたのだ。

 そんな事を知らないセレナは始めは奏や流の冗談だと思ったが、何日も開けてくれなくて少しずつ落ち込んでいき、扉の前で泣いていたら扉の鍵が開いた音がした。

 

 それで喜び勇んで飛び出してきたらなんか全身生身の全裸の流と生身の奏がキスをしていた。しかも自分達の世界に入ってガン無視された事にキレたセレナは流に憑依した。

 

「……ふん!」

「痛ってええええええ!?」

「イギっ!」

 

 セレナは流の体を操って、奏の太ももの内側を思いっきり抓った。奏はいきなりの鋭い痛みに耐えるために膝を曲げて蹴り上げてしまった。その膝は流の大切なあれにクリーンヒットして流は地面で悶絶し始める。

 クリーンヒットする前にセレナはうまく流の体から出ていた。

 

『……あれ? もしかして私の勝ちですか?』

「「ふざけるな!」」

『ふざけるなはこっちですよ! 私がどれだけ寂しかったか分かります? マリア姉さんに曖昧な意識で憑依していた時のあの漠然とした寂しさ。時折思い出す……』

 

 それからセレナがガチギレして、奏と流は正座させてから説教を始めるのだった。

 

 説教が終わった辺りでちょうどマリアVSクリスが始まったであろう時間だ。もちろん三人とも知らない。

 部屋の外でちょいちょい中を確認していたお爺さん達は二人で並んで正座をして、架空に謝っているのを見て変な宗教に切歌がハマんなきゃいいけどなんて思っていた。

 

『……なるほどなるほど。マリア姉さんがごめんなさい!』

 

 セレナは自分の説教が終わったあと、何故流が牢屋に居るのかを聞いているうちに少しずつセレナの体勢が下がっていき土下座して詫び始める。

 

「別にいいって」

『良くないですよ! もういっそ私が体で支払います!』

「わかった。あとでたっぷり貰う。やめてって言ってもやめないから」

『……え? あれ? なんかいつもと反応が違ったような』

 

 いつもの流なら手を出して嫌われたら嫌だとか、失敗したくないしなどを思いながら適当に話を切り上げるのだ。

 

「なんかソロモンに色々教えこまれたらしいぞ」

『そうですか……え? 体で支払うの確定ですか?』

「もちろん。セレナも愛しているからね」

 

 その言葉に生身を得た奏が青筋を立てている。自分にはそんな事を言わないのに、セレナに言ったのだ。キスまでしたくせに。

 

「……あっ、もちろん奏も愛してるよ? それでさ、俺思ったんだよ。今回のマリアの行為は俺が何も伝えなかったのがいけなかったんだって」

 

 奏は更に追加の言葉を聞こうとしたが流が語り出したので黙ることにした。やっと流が自分が如何に周りに対して不誠実だったのかを理解したのだから……まあ、二人は流を独占するために注意も少ししかしなかったのだが。

 

『確かに流さんは秘密が過ぎたと思いますけど、それは話せないからしょうがないですし』

「違うんだよ。俺はマリアに好きだと、愛している! としっかり伝えていなかったのが悪かった!!」

「『……は?』」

 

 奏とセレナはどう考えても流がマリアによって拘束されたのは怪しすぎるからだ。もしかしたらパヴァリアと会っていたのがバレてしまったせいかもしれない。今のところ流はパヴァリアに襲撃されたが情報も色々くれている。こちらの情報は渡さないでだ。だが、そんな事ほかの人はわからない。

 その事だと思ったら流は訳の分からないことを言い出した。

 

「二人と違って生身を持っている人は選択肢を間違えれば嫌われて、そのまま俺の元から消えてしまうかもしれない。愛を囁いても奏と同じように選択をしないといけなくなるかもしれない。そう考えると怖くて好きだという想いを伝えられなかった。だけど、俺はもう迷うことはやめた!! 俺はそういった事で我慢をするのをやめたんだ!!」

 

『奏さん、流さん壊れちゃいましたね』

「……うーん? どうだろうな。今まで抑圧してたものを解放しただけかもしれないけど、納得はいかん」

『マリア姉さんは今の流さんにゴリ押しされれば、股を開いちゃうかもしれません。困りました』

 

 奏とセレナは会えたら、ソロモンをぶん殴ると固く誓った。この性格の変化は流の精神の根底にいるあの男が関わっていないわけがない。ソロモンが錬金術以外にも色々教え込んだのだろうと奏は思い、セレナにその事を伝えた。

 

「今回マリアにアンチリンカーで昏倒させられて牢屋にぶち込まれて色々されたし、精神的にメチャクチャダメージを受けたけど、それも全て俺に対する愛故にだったんだ! 俺を愛しているからこそ痛みを与える。俺が愛を口にしないからマリアも口に出来なかったんだろうね。色々器用にこなすけど所々不器用なマリアは俺に痛みで愛を伝えてきたんだよ! これを乗り越えて自分の元へ帰ってきてという愛だったんだよ! あはははははは!!」

「……」

『……あっ、分かりました。流さんはどちらかと言うと、加虐趣味でしたけど被虐趣味……マゾい感じの方面に目覚めてしまったんですね』

「ソロモン、なんて面倒なことを」

 

 ソロモンは別に流を被虐趣味にする気はなかった。

 

 ただ流にはもっと周りに自分の思っていることを言うべきだという事、了子の言う痛みは愛の真似はやめるべきだとという事、もっと周りが自分をどれだけ思ってくれているのかを知るべきだ。この三つを何度も言いながら流の精神を鍛える為に何度も壊した。

 そして何より流の心はクリスによって動き出していたが、恋愛方面の想いを塞き止めていた奏が復活した。その結果がこれである。

 

「マリアだけじゃない。翼もクリスも響も未来も、調も切歌も、友里も、ママも、キャロルも、エルフナインも…………みんなみんな、俺を愛しているし、俺も愛している!!」

「いや、母親と娘は絶対に駄目だろ」

「え? ああ。この愛しているは異性的な意味だけじゃなくて母親に対する愛や娘に対する愛とか、友里なら友情かな? そういったのを引っ括めて愛と呼ぶようにしたんだよ。まあ、装者は皆抱きたいし、異性として愛したいし、異性として愛されたいけどね」

「そ、そうか」

『なるほど、ウェル博士の考えが中心に来てしまったんですね。生き返ったらウェル博士を殴ろうかな? 争いは嫌いですけど、流さんと奏さんといると、そこら辺のこだわりが壊れつつあるんですよね』

 

 流は二人を抱きしめながら、改めて心の中でこの愛の考え方を教えてくれた(教えてない)、ソロモンと了子に心より感謝していた。

 

 

**********

 

 

 流の高笑いを外で聞いたお爺さん達がやっと部屋に入ってきた。

 流は強いことで知られているので早く切歌達の援軍に行かせたい。だが、なんか感動の対面をしていたり架空と交信していたから空気を読んでいた。お爺さん達はただイチャついているだけなら、切歌の援軍に行ってほしいので部屋に入ってきたのだ。

 

「おい、坊主」

「……そうだ。この人たちは切歌のお願いで、ある時から流を守っていてくれた人たちだ」

「あー、なるほど。御三方、今回は本当に有難うございます。あとうちの切歌を鍛えてくださり、本当に助かります」

 

 流は二人から離れてすぐに頭を下げてお礼を言った。お爺さん達は内心流は訃堂に無礼な言い方ばかりする小僧だと思っていたのだが、メリハリは付けられるのねと思い直した。訃堂も訃堂で黒いのであの扱いなのかと理解する。

 

「いんや、儂らも切歌ちゃんと話せて楽しかったからな。それでお爺ちゃん呼びでお願いされちゃ、聞いてやるしかねえよな」

「だな。流は相当強かったよな? 死合からして」

「ああ、装者達よりもだいぶ強いぞ。弦十郎父さんには勝てねえけど」

「あいつは化けモンだからな。切歌ちゃん達が特殊なアルカノイズと戦いに行ってるのは知らんよな?」

「……知らない、詳細を頼む」

 

 その後流は東京湾に八つ首の龍のアルカノイズが現れたこと、切歌達が討伐に行ったこと、S.O.N.G.も出発したこと。そしてマリアはカリオストロを何としてでも倒すこと、流の無罪を証明するために戦っていること。それらが分かった。

 

「……やっぱりマリアは俺の為だったんだな。マリアは俺の事好き過ぎるだろ。だけど、あいつら(パヴァリア三人娘)と殺し合いだけは駄目だ。御三方ありがとう、今から援軍として向かうよ」

「頼んだぞ……いや待て、服を着ていけ」

 

 流はカリオストロとプレラーティの死亡シーンと、響がサンジェルマンに手を伸ばすシーンがフラッシュバックするが、後者はともかく前者だけは絶対にやらせない。装者に人殺しなどさせてなるものか。

 流は服があると動きが制限されるので嫌がったが、奏とセレナの命令によりお爺さん達が持っていた袴を着た。

 

「俺が勝手に抜け出したってことにしておいてね? 爺さん達が訃堂に首切られたら、俺が切歌に怒られちゃうから」

「ああ、そこら辺はうまくやっとくよ」

 

 流は宝物庫経由テレポートで東京湾に向かった。

 

 

 **********

 

 

 八首のアルカノイズは翼と調と切歌と響と未来によって討伐された。

 翼と調とクリスは事情は知らないがマリア達があんな行動に出るには理由があるのだと思っているし、一緒に戦ってくれるならそれに越したことは無い。クリスはマリアを許せていないが。

 逆にマリアについて行った人達は色々と負い目があるのでどうしても連携がぎこちなくなる。しかし基礎的な実力は伸びているので多少苦戦する程度で倒すことが出来た。

 

 今までに比べて十数倍もいたアルカノイズを処理しながらの八首龍のアルカノイズ討伐だったため、苦戦は必至であり、スタミナが危険域に突入している。

 

 マリアとクリスは最終的にシンフォギアのアームドギアを使わずに殴り合いになっていたが、翼が許したのは八首を倒すまでだ。倒したあと翼がクリスを回収し、マリアには倒すべき敵は他にいることを告げると切歌達の方へと向かっていった。

 

 八首のアルカノイズ達が暴れたせいで壊れた工業地帯にファウストローブを着たサンジェルマン、カリオストロ、プレラーティが降りてくる。

 本来なら装者達は一箇所にいるはずなのにパヴァリア、マリア達、翼達という三グループに別れてしまっている。

 

「なんか勝手に仲間割れしてくれてラッキーだったわね」

「敵がいる前で味方同士で戦うなんて御笑い種なワケダ」

「だが、それこそがバラルの呪詛による弊害」

 

 サンジェルマン達も無駄にフローティングキャリアを消耗したくないので、装者達の元へ降りてきた。

 もちろんこの人数と真正面から戦う気は無い。サンジェルマンがまた空間閉鎖型アルカノイズを増産したので、隔離して少人数を三人で叩く気だ。

 

「バラルの呪詛? 今サンジェルマンさんはバラルの呪詛と言いましたか?」

「言ったともさ。貴様らが味方であるはずなのに、その拳を突き立て合うのも、人類の()()()()()()バラルの呪詛による不和がもたらす結果だ」

「……待て待て、なんでフィーネみたいな事言ってんだ!」

 

 クリスはバルベルデで傷ついたクリスを懐柔した時のフィーネの言葉と似たものを感じた。他の人も似たような意味に聞こえている。

 

「フィーネは我々の宿敵だが、やろうとした方針は同じ。フィーネは月を破壊しようとしたのに対し、我々は月遺跡を掌握し、バラルの呪詛によって支配されている人類を解放する!」

「バラルの呪詛を解放する!?」

 

 それではまるで了子のようではないかと皆が思っているが、実際は人々を聖遺物で支配しようとしていたことを知っているクリスは微妙な顔をする。

 

「人が人を蹂躙するのはバラルの呪詛によるもの」

「不完全なこの世界を改めて、完全に正すことこそ、サンジェルマンの理想であり、パヴァリ……サンジェルマンと私達の理想よ」

「月遺跡の管理権限を上書いて人の手で制御するには、神と呼ばれた旧支配者と並ぶ力が必要なワケダ。その為にもバルベルデを始め、儀式を行ってきたワケダ」

 

 カリオストロはパヴァリアの掲げる思想と言おうとしたが、アダムがやる気がない時点で結社のどれだけの人物が、実際に完全な世界を作ろうとしているのかわからない。下手したらここにいる三人以外は誰も作る気がないのかもしれない。

 

「貴様らは人が争わぬ世界を作る気でいるのに自らで騒乱の種を撒くのか! バルベルデでもそしてこの日本でも!」

「その流れた血も失われた命も、世界を変えるための礎だ。やれ、ヨナルデパズトーリ」

 

 サンジェルマンは黄金銃を持っている手とは逆の手で、術式を解放し、ヨナルデパズトーリを召喚した。

 

「あははははは! なるほど。だから、初めからサンジェルマン達を殺したいほど愛おしいと思っていたのか! 仕組まれた殺意から始まる愛もあるとおもうんだよね!」

 

 サンジェルマン達が語っていたので、流は話を聞きながら、飛び出すタイミングを見計らっていた。不意打ちも出来たのに、笑い声をあげて、サンジェルマン達、翼達、マリア達の真ん中に、ローブを着た人と共に着地した。

 流がいきなり登場したことに皆が驚いている中、翼だけはそのローブがとても気になっていた。




主人公は色々とぶっ飛びました。
マゾでサドで全裸癖で、右腕に話しかけたり、架空に話しかけたり、何も無いところでいきなり吹き飛んだり、周りの人が全て自分を愛しているとか言う変態になりました。


そういえば初期から奏の攻撃は流によく効いていたけど、これってもしかして、奏がガングニールの性質を使って神殺しが発動していた可能性が! 束ねる力がないとティキ倒せないけど。

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