戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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第1期 シンフォギア!
#9『覚醒の鼓動』


「昨日も襲撃があったのなら、命令してくれたら行ったのに。俺には連絡すら来なかったんだけど」

 

「お前は連日出動だったからな。規模的にも一人で問題ない量だった。それに翼も必要ないとよ」

 

 昨夜ノイズの発生があったらしい。しかし流には昨日、呼び出しのコールがなかった。朝、二課に行ってみると、襲撃があったと聞いたので弦十郎に問い詰めていた。

 

「ならいいか」

 

 翼は流の事を宿敵レベルで嫌っているが、自分だけでは対処できない量の場合、迷いなく救援を出してくる。自分の感情よりも防人としての責務を優先しているようで、流はその点では安心している。

 

「今日はリディアン近くで待機してくれれば、何をして……あまり無茶な鍛錬以外なら何をしていてもいい。まあ、今日はあれがあるだろ?」

 

「なんかあったっけ?」

 

「……はぁ、やはり忙しさで忘れていたか。今日は翼の新曲の発売日だぞ? いつものをやるんじゃないのか」

 

 弦十郎の言葉に流はハッとして、端末を見てみる。確かに今日は翼の新曲発売日だ。

 

「皆さん行ってきます! 父さんも!」

 

「おう、行ってこい!」

 

 流は周りの人に挨拶をしたあと、技術者がいる部屋にも行き、了子達にも挨拶をしてから、地上へ戻るエレベーターに向かって急いだ。

 

 

 **********

 

 

「よかったよかった」

 

 朝、弦十郎に教えて貰ったおかげで、開店してすぐに音楽販売店で特典CD版を買うことが出来た。

 データで購入するのが一般的になっているので、CD版での生産量は低く、更に特典が色々つくので高い。それでも人気があり、初日に買えないと特典版は売り切れる。

 前の曲の時は夜通し戦っていたせいで寝過ごし、ギリギリだったことは記憶に新しい。

 

『また複数か。三つは絶対に要らねえだろ』

 

「保存用、開けるやつ、お供え用」

 

『……もういいわ』

 

 販売店で購入した後、流はこの街を一望出来る高台に向かって移動している。その場所には墓場があり、翼の新曲が出るたびにそこに通っている。

 

 墓場は忙しくても週に一度は来て、掃除をしているので綺麗なままだ。天羽奏の墓に翼の新曲CDをお供えして、データで取った新曲を彼は端末で流して奏にも聞かせる。

 

「……」

 

『あのよ、あたしはここにいるって何度も言ってるよな?』

 

 ここに来て奏に新曲を聞かせるたびに、妄想の奏が言ってくる言葉を無視する。この奏は風鳴翼が患わっていたのと同じように、自分に都合のいい妄想のはずだ。シンフォギアの世界でも、死者が守護霊になることなんて無い。

彼は妄想の奏の相手をしつつ、墓で眠っている奏に曲を聞かせながら、最近あった事を語りかける。

 

『……おい、もう昼過ぎてるぞ』

 

 流は翼の新曲を聞き終わり、今までの曲も一通りメドレーしながらあった事を話していた。奏に言われて時計を見ると、既に三時を大きく過ぎている。

 

「まあいいじゃん。今日は特にやらないといけないことも無いし、朝に鍛錬もやったから」

 

『腹減ってんだろ? 飯いこうぜ飯』

 

「減ってるけどさ、墓参りの後にすぐに飯だ! はどうなのよ」

 

『よし決まりだ! 夕方からまた開店する、ふらわーに行くぞ』

 

 妄想の奏に引っ張られる(. . . . . . )ように、流はふらわーに向かうことになった。

 

 

 **********

 

 

『肉だ、肉だ、肉だあああ!!』

 

 肉のお好み焼きをたらふく食べた後、出来る限りやっている翼の新曲発売日のルーチンワークを行なう。

この街にある臨海部の工業地帯に侵入し、一番高い建物を外側から登り、その上で辺りを監視する。

 

『あのよ、ほとんど毎回やっている、この行動の意味を教えてくれねえか?』

 

「直にわかる」

 

『毎回それじゃん』

 

 この奏は妄想なので自分が転生してきた事や、未来の事を喋っても問題ないはずだ。なのに、この奏に話そうとしても伝えたい事が言語化出来なくなる。だから言いたくてもいえない。

 

 その後、奏と他愛もない話をして盛り上がっていると、端末に連絡が入った。

 

「流です」

 

『ノイズの襲撃だ! 何処にいる!?』

 

「臨海部の工業地帯にいます」

 

『何故そこに!?』

 

 弦十郎からの電話を取ったちょうどその時。少し先の建物からオレンジの光の柱が空に向かって伸びていった。

 

『おい、あれってまさか!!』

 

 奏はその光を見て、今は無きペンダントの位置を触れる。

 

『なに! ガングニールだと!?』

 

「父さん、出撃します。翼をよろしく」

 

 流はそれだけ言うと端末の通話を切る。

 

「とうとう始まるのか……うまくやらないと」

 

『おい、どういう事だ! なんでガングニールが!』

 

 奏は流の肩を持って強く揺さぶってくる。その手に彼は手を重ねて告げる。

 

「奏が命懸けで蒔いた種が芽吹いたんだ」

 

『……おい、まさか! あの子を巻き込む気か!!』

 

「あの時点で既に巻き込まれているんだよ。しかもあの子がいないと……あれ? 話せる。あの子がいないと、手を繋ぐことの出来るあの子がいないと、未来がない」

 

 奏にそれだけ言うと、彼は光の柱の方へ建物の上を飛びながら向かう。

 響に近づくにつれて、胸元のガングニールの欠片から力を感じ始める。欠片に触れてみるがやはり男では起動出来ない事が直感的に理解できる。

 

 響が女の子を抱えてビルから飛び降りた。響はシンフォギアを纏っているから問題ないが、女の子にノイズが触れたら死んでしまう。

この後、翼が現れて掃討してくれるはずだけど、その前に数を減らしておいた方がいいだろう。

 

 響がビルから飛び降りたのでそれを追って飛び降り始めたノイズの集団の真ん中に着地する。少し行ったところに大型がいるが、あれは翼に任せた方が早い。

 

「ノイズども、来い!」

 

 流は叫びながらノイズに殴り掛かる。

 

 ノイズと何度も戦っているおかげで認識できるようになった事がある。それはノイズに触れた瞬間、何かがズレる感覚を得られるという事。これが了子が言っていた、ノイズに位相を合わせている感覚なのだろうと、数年前に理解した。

 未だ位相を自ら変えることは出来ない。

 

 二足歩行のノイズと丸型ノイズを殴る蹴るで殲滅していく。半分ほどは響を追っていったが、バイクの爆発する音がいつものように(. . . . . . . )聞こえたので、翼が到着したのだろう。翼ならこの程度の奴らなら鎧袖一触だ。

 

 丸型は突撃だけで、二足歩行は突撃と腕を伸ばすだけ。日々弦十郎にボコられている流が苦戦するわけもなく、ノーダメージで倒しきった。それからすぐに翼も大型を含めて倒し終えた。

 

「素手とシンフォギアだと殲滅速度が違うよな」

 

『バーロ、当たり前だ。素手でビームやら出されたらシンフォギア装者の立つ瀬がねえ』

 

「確かにね」

 

 何故か痛む頭を抑えながら、翼と響のやり取りを遠くから眺める。

 

「戦闘中さ」

 

『だな。まーた翼に睨まれてた』

 

「はあ、奏を殺したのは俺みたいなもんだからしょうがないけどさ、少しくらいは話せるようになって欲しいよね」

 

『ははは』

 

 流は現場を翼に預けて、一人帰投した。その姿を睨む防人もいた。

 

 

 **********

 

 

「すみません司令はどこに?」

 

「多目的ホールにいると思いますよ」

 

「ありがとうございます」

 

 流が帰還すると、弦十郎がいつもの中央管理室にはいなかったので場所を聞くと、何故か多目的ホールにいるらしい。

 

「あの準備って父さんもやってたのか。人を使えよ」

 

 流はこの後に起きることから弦十郎がやっている作業が分かり、頭を抱えながらホールに向かう。現場主義で、率先して矢面に立つからこそ、部下に慕われているのだが、もう少しどうにかして欲しいと思う息子であった。

 

多目的ホールに入ると案の定である。

 

「ねえ、パーティーの準備くらい部下にやらせなよ」

 

「俺がやりたいからやっているんだ。それなら問題ないだろう?」

 

「いや、立花響の事とか色々やれよ」

 

「……知っているのか? 彼女のことを」

 

 赤いシャツにハット帽を被って、縦横無尽に動き回りながら飾り付けをしている自分の父親に呆れながら話しかける。流の言葉に弦十郎は動きを止め、ほかの人に飾り付け用の花を渡してこちらに向かってきた。

 

「奏が助けた人の一人。心臓の内部にガングニールの欠片が混入してしまい、摘出が不可能だった少女。リディアンには風鳴翼がいるから、小日向未来が行くから、学費が安いからの三つの理由で音楽院に入った女子高生。口癖が『……』じゃなくて『平気へっちゃら』……これで終わり」

 

 流は今まで言語化出来なかった響の詳細を口に出来る分だけ話した。絶唱やシンフォギア特性については語ることが出来なかったが、前に比べて相当話せるようになった。

 流の中ではいくつか話せるようになった理由が予想できるが、弦十郎も知っているというのが一番有力な理由だろう。そのことは一度置いておく。

 

「お前はあれか、立花響のストーカーか」

 

「ちげえし!」

 

「大丈夫だ。父さんはお前が豚箱に入っても、しっかり面倒見てやる」

 

「違うから!」

 

 誤解が解けぬまま、流も歓迎パーティーの準備をさせられた。

 

 

 **********

 

 

『皆さん。今、翼さんと立花響さんを連れてリディアンに着きました。よろしくお願いします』

 

「よし、準備もギリギリ間に合ったな! そことそこにいい感じのバランスに並んでくれ! 流、お前はここ」

 

「嫌だよ、無駄にテンション上げてる父親なんて横で見たくない」

 

「了子くん! 流を捕獲しておいてくれ」

 

 ステッキにハット帽、クラッカーなどを装備し始めた父親から逃げようとした。しかし、いつの間にか横にいた了子が羽交い締めにしてきた。流には母親代わりの了子を押し退けることは出来ない。

 

「ちょ!」

 

「立花響についての情報を流しなさい」

 

「……離せ!」

 

 羽交い締めにしてきたフィーネっぽい了子は耳元でボソリと呟き、いつもの櫻井了子に戻った。

 

「……さーて、学歴なしの流はここにいなさい」

 

「その言い方やめろ! 資格や技術は持ってるから!」

 

「小学校すら行けてないのにねぇ〜」

 

「その弄りはマジでやめて!」

 

 二課のスタッフに暖かい目で見られている中、騒ぐのは得策じゃないと理解して、渡されたクラッカーを構えて黙る。その間も了子がうるさく騒いでいる。

 

『流はあんまりケーキとか食わねえから、私も食べる機会ないんだよな。甘くて美味しい』

 

 妄想の奏が勝手に出てきて、ケーキをつまみ食いしている。了子は騒ぎ、奏は摘み食い、弦十郎はマジックの最終チェック。一部大人達は既にシャンパンを開けている。とてもカオスだ。

 

「ようこそ! 特異災害対策機動部二課へ!!」

 

 ホールの扉が空いた瞬間、流も含めて皆がクラッカーを鳴らし、弦十郎が手を広げて、立花響を歓迎した。

 

 緒川さんに勧められて中に入る響だったが、垂れ幕や看板に『立花響』と書かれているのを目にした。

 

「なんで初めて会う皆さんが、私の名前を知っているんですか?」

 

「我々二課の前身は」

 

「カバンを勝手に拝借させてもらったからだよ」

 

 流は了子に響のカバンを渡されて背中を押されたので、そのまま父親の言葉を遮ってカバンを響に見せる。

 

「あ! 私のか……ああ!! ふらわーの前でビルの屋上へ飛んだ忍者!」

 

 響の忍者発言に緒川がピクりと動くが、常人なら全く気が付かなかっただろう。響がこちらに来ようとするが、その前に響と流の間に立ちはだかるように翼が入ってきた。

 

「……立花、こちらへ来い。あんな者と関わるな。緒川さんお願いします」

 

「え? 翼さん!? 引っ張らなくても行きますから!」

 

「……えっと、調査などお手の物なの……さ」

 

 息子に被せられ、手品を披露したかった相手も翼に連れていかれ、不完全燃焼な感じに手品でステッキを花束に変えた。

 

「初成功おめでとう」

 

「ああ、練習した甲斐があったってもんだ。だがよ、被せなくても良くないか?」

 

「良くない」

 

 土壇場で初成功した手品に息子からの賞賛が来るが、その後の会話はすげなく切り捨てられて落ち込む弦十郎であった。

 

 

 **********

 

 

 流はあの歓迎パーティーの料理を軽く分けてもらって、その場をあとにした。

 

「あなたはあの子を歓迎する場には相応しくない。この場を去れ」

 

「……わかった。だけど、あの子は奏の残した種だ。ぞんざいに扱うなよ」

 

「裏切り者が奏を語るな! 去れ!!」

 

 弦十郎を切り捨てた後、流自身も翼に斬り捨てられた。それに大人しく従って出ようとしたが、奏がまだ食いたいと言って動かなかったので数人前ほどのパーティー料理を包んでもらって出てきた。

最近は妄想奏の行動が活発になってきて、ストレスが溜まってるのかな? と流は考え始める。

 

『最近は露骨に避けられてたからわからなかったけど、お前らの関係は相当重症だな』

 

「しょうがないさ、時間が解決してくれる」

 

『で、なんで雪音クリスの所に向かっているんだ? 夜這いか?』

 

「お前さ……多分フィーネは飯は与えても、趣向品はあまり買い込んでないと思うからおすそ分け」

 

 女なんだから少しは慎みを持てと言おうとしたが、自分の中で作り上げた奏に何を言っても変わらないだろうから、流は言葉を止めた。

 

『雪音クリスは敵なんじゃないのか? 流がフィーネと協力してるのだって、あれ(. . )の為なんだろ?』

 

「クリスは敵じゃないよ。ただ暴力に両親を殺されて、力で支配をしないと不安を感じてしまうようになった、ただの女の子」

 

『シンフォギア装者をただの女の子扱いは普通しねえから』

 

「奏だって、シンフォギアを纏っていただけの女の子だろ……って妄想に言っても意味ねえか」

 

 奏はいつの間にか消えていて、流は少しの寂しさを覚えるが、歩みを止めずに屋敷に向かって高速で移動する。

 

 既に夜も更け、クリスも眠っている時間になっていた。お裾分けだという事を置手紙にしたため、冷蔵庫に入れてそのまま家に帰った。


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