戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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前回の話でマリアがあまりにも流を信用していないと指摘を受け、色々考えた結果、あのやり取りは不適切であると判断し、訃堂とマリアのやり取りを改訂しました。

出来れば、その部分だけでいいので読んでほしいです。ですが、面倒という方もいると思いますので、ここに変更点のダイジェストを書きたいと思います。
要らないという方は本編までスクロールお願いします。


マリアは監視者になる代わりにナスターシャを補助としてつけるように譲歩を引き出す。大人に巻き込まれてきたからこそ、信頼出来る大人を付けることにした。
ナスターシャはマリアに助言までで留める気でいる。
レストランのキスシーンに見える映像を見たあと、ナスターシャと共にマリアは別室へ移動。
マリアは証拠が揃いすぎてどうしようもないとナスターシャに弱音を吐くが、ナスターシャは『だとしても』の精神をマリアに教える。それと共にどうすればいいか話し合う。
流が他の人に干渉されないために、あえて捕まえておいて、真相を暴くとマリアが訃堂に言う。改定前は訃堂が提案しましたが逆になりました。
訃堂はそれを承認。しかし流の軟禁の監視は訃堂に譲ることに。

こんな感じの変更になりました。長い前書き失礼しました。


#86『別れる仲間達』

 全身が痛い。自分が起きてるのか寝ているのかも分からなくなってくる。手が震える。嫌な思いが頭を巡る。流はそんな感覚を無理やり押さえ込んで、尚を動かぬ体で叫び続ける。

 

「返せよ! あれはてめえらが触っていいもんじゃねえええええ!!」

 

「声が大きすぎる。あれをやれ」

 

 流は牢屋の前にいる人間達によって、自分の位置を大体察した。風鳴宗家に付き従う名家の人間や風鳴機関のお偉い方たちの子飼いの人間であることがわかる。きっと鎌倉のどこかなのだろう。

 流はマリアに理由は分からないが、訃堂に売られ……。

 

「そんな事は無い! マリアは俺に待っててと」

 

 石の牢屋は確かに部屋の作りはThe牢屋だが、鉄の檻の外側から透明な隔壁が落ちてきた。たったそれだけで流がいる場所は、ある穴を除いて完全な密室となった。

 その唯一の穴からは赤い煙が入ってくる。

 

 流はそれがマリアに打たれたアンチリンカーの強化版である事を察する。流は自分を奮い立たせるために叫んでいたが、息を止めて目を閉じる。しかし、人間には塞げない穴、耳に鼻、そして何よりこれは聖遺物に作用する薬物なので、むき出しのデュランダルである右腕や左足から直接影響を受け、また僅かに戻っていた体の力が抜けていく。

 

(やばいやばいやばい。体が聖遺物になり過ぎて、まともに……)

 

 流はまた気絶した。

 

 流の体の内蔵は大体がデュランダルの恩恵を受けている。毒を食らっても、デュランダルを侵す毒などこの世にはない。しかしデュランダルにすり変わりすぎたせいで、流は抗体が作られない。

 抗体は()()()()が病と戦うためのものだ。流は短期間に色々な意味で進化し過ぎて、いらない機能を捨ててしまっている。

 故にどれだけ流はこのアンチリンカーを受けても、慣れることはない。耐性が作られることがないのだ。

 

 

 **********

 

 

 流が訃堂に渡されたあと、訃堂は風鳴機関や宗家に従う者の中でも、とりわけ流を知っている人達を集めた。ここにいる人達は最低でも、流の死合を知っている人たちだ。それと共に風鳴には及ばないが、それ相応の権力を持ったヤツらでもある。

 

「説明しろ」

 

 訃堂は部下として使っている、信用できる一人に現状を説明させる。

 

「現在、風鳴流はマリア・カデンツァヴナ・イヴ、小日向未来、立花響、暁切歌、ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤの協力により、風鳴の所有する秘所の一つで拘束されています。まず何故そのようなことが起きたのか……」

 

 流が拘束されているという言葉で一派が盛大な歓声を上げた。

 

 アニメでは風鳴機関も風鳴宗家に付き従う名家の人間も、ほとんどが風鳴訃堂に順従に従っていた。なので、派閥というものがあれど、秘密裏な敵対という程のものでは無い。

 

 だが、今ここにいる機関と名家の集まりは、大まかに分けると三つの派閥がある。

 

 一つ目は今まで通り訃堂だけに付き従い、利益を得ようとしている人達。ここの人達は一応国防の事も考えているが、当たり前だけど、訃堂ほどに熱心な訳では無い。訃堂は権力の象徴だからこそ従っているという人が大半だ。

 二つ目は流も利用するために、変な妨害をせず、便宜を図り、後のちに有利になろうとする一派。この一派はどちらかというと、この中では新興勢力であり、この中の序列は真ん中までのものが多く、上位の人達も少しいる。もちろんこの中で新興勢力でも、世間から見れば十分な名家だ。

 三つ目は流を殺す。もしくは流を完全に人形とし、自分達に都合の良いようにしようという過激な一派だ。訃堂は既に衰え過ぎ、人を見る目を失っていると見切りをつけようとしている古参の人達だ。

 

 まず何故アニメでは従っているのに、こんなにも派閥が別れているのかというと、ひとえに流が()()()()()だからだ。

 

 風鳴翼は風鳴訃堂の後継者である事は皆が知っている。だからこそ、自分こそが! とアピールする為に仕事に励んでいたのだ。

 しかし流が婚約者となり、しかもその男は功績をどんどん重ねている。訃堂の言う強さも持ってしまっているし、フィーネの技術を会得しているという噂も立っている。

 

 訃堂はこの男を実質的な後継者にしようと考えていると思われてもしょうがないだろう。実際訃堂はそう考えているわけだが、古参の奴らからしたらたまったものではない。

 翼の夫になれば、日本の権力を実質的に握ったも同然なのだ。それが欲しいからこそ今までの順従にしてきたのに、それを他の名家ではなくパッと出の若造に渡してしまった。

 

 たった一つの事柄が変わっただけで、現在機関と名家は荒れている。

 

 訃堂は流のキレる地雷を知っている。装者達に手を出してはならない。天羽奏を貶してはならない。などの様々な事に訃堂は気にかけてきた。しかも、訃堂は流に監視を()()()()()()()()。流は好きな者を与えておけば、絶対に仕事をこなし、権力を欲してもいない。日本のエージェントと流に付いているのはS.O.N.G.が守るために付けている人達と、機関や名家が流のスキャンダルを得るために付けている人達なのだ。

 

 今回のカリオストロとの密会がなければ、マリアともあんな交渉をする気はなかったが、錬金術師はあまりにも危険。それと繋がっているのであれば、流が反撃できない手段で抑えるしかない。

 そして証拠が出揃い、流を捕らえるに至った。訃堂は流は鋭すぎる諸刃の剣だと思っているので迅速にことを成させた。

 

「此度の流の行動は、明らかに国土防衛上危険。故に装者を使って、我は捕えさせた。貴様らにはもう一度だけ言っておく。先に述べた五名及び、S.O.N.G.の構成員に手出しだけはするな!! 良いか、それをすればこの日ノ本は滅びる! マリア・カデンツァヴナ・イヴとは、流を特別待遇での拘束を契約としたが、牢に入れてあるのも、貴様らの考えを尊重してやった結果である。良いか、風鳴流が居ないからといって、S.O.N.G.構成員には絶対に手を出すな!!」

 

 訃堂はそれだけを告げると、上座から立ち上がり、部屋から出ていった。流が本当に繋がっていたとしても、結果的に殺すことは物理的にも出来ないだろう。ならば、ここから解き放たれた時、もし装者やS.O.N.G.の構成員に何かをこちらがしていたら、きっと風鳴は滅ぼされてしまうだろう。

 

 

 部屋に戻った訃堂は、流を拘束した牢屋を秘密裏に監視しているカメラの映像を再生させる。この監視カメラは牢屋を監視するわけではなく、監視員達を監視するためのものだ。

 

「やはり流に対して攻撃を始める腹積もりか。流よ、貴様は日ノ本に危険を及ぼすかもしれない事をし過ぎた。貴様の娘を実質無罪にしてから、国防ではなく権力欲しさに我を失脚させようとする不遜な輩が増えすぎた。なればこそ、貴様を利用して掃除をさせてもらうぞ」

 

 流に対する敵対行動は流が翼の婚約者になった時点で禁止されている。だが、当然な事ながら流を敵対視しながら監視したり、攻撃を仕掛けた人達が後を絶たなかった。

 だからこそ、流の強さを見せつけるための死合。その死合で、武を持って防人としての力を証明をしようとしている権力が欲しいだけの輩の駒を殺した。

 日本を荒らしたフィーネを実質的に無罪にしたのも、溜め込んでいる功績を使わせるため。

 

「あやつは使いやすい。身内が危険に及べば確実に敵を排除し、危険が及びそうになれば及ぶ前に殺す。権力を求めぬ故に重宝しているのに、この馬鹿共はやはり分かっていないらしい」

 

 訃堂は気絶した流に拷問を加えている人達に、指示をしたであろう奴らをピックアップする作業に戻った。流は捕えられているが、まだ本当に裏切りを行ったのかわかっていないのだ。ならば、ここで何かをするヤツらは訃堂の命令を無視した事になる。そして流は国防上、とても使いやすい行使者。国防の戦力を損なうのであれば、そいつらは訃堂は容赦なく排除できる。

 流は訃堂にツケていたモノの返済が始まった。

 

 

 **********

 

 

「なるほどデス。確かに流は私達だけじゃなく、クリス先輩や翼さんにすら、秘密にしてる事が多すぎるのデスよ」

「あの了子博士にすら、流くんはあまり告げていない様子でしたね。その了子博士は何となく察している風でしたが」

 

 訃堂に渡された家は一般家庭からしたら、とても大きな一軒家だった。だが、ここら辺の区画は日本の権力者が家を建てているので、まわりから見たらみすぼらしく見えるだろう。

 しかし、元々F.I.S.な環境にいて節約家のマリアやその意思を見てきた切歌、一般家庭生まれの未来や響はその家をポンとマリアに譲渡されたのを見て、生きている世界が違うと実感した。

 

 夜も遅いが切歌と響が説明を要求してきたので、マリアは自分でも整理するためにもう一度訃堂が接触し始めた時から話した。

 

「……」

 

 一言も喋らず黙って響は話を聞いていたが、それよりも響は流の心配をしていた。流は表には出していなかったが、相当弱っていたらしい。ソロモンと名乗る人が()()()()流の体を操作しながら、響に忠告していたのだ。

 

 響はあれのおかげで、流は無敵の正義の味方でもなく、()()()()()である事をやっと認識した。そんな事があったのに、響は流誘拐を手伝ってしまった。しかも流からしたら、自分達が他人に売ったように見えているだろう。

 

「それでも他に方法はなかったんですか! こんなやり方間違ってます!」

「……響の言う通りよ。他に方法がなかったかと言われればあった。だけど、いつ他人に別の手段を取られるかわからなかった」

「流先輩は……色々と強い人ですから、その少しの時間くらいなら何とか出来たんじゃないですか?」

 

 流が弱っていることなどを言おうとしたが、もう流れを変えられないことは響でも分かる。なのに、ここで流が弱っていると言ったら、マリアが気を病んでしまう。言葉を濁してマリアに問いかけた。

 そしてそこで流は()()()()()である認識を持った人は弦十郎や了子、多分翼くらいしかおらず、響やその後に入ってきたF.I.S.の人達も恐らく、流を特別な人間だと思っていたであろう事も理解した。

 

「流ならきっと時間は稼げたわ」

「なら!」

「でも、私達の存在が彼の足を引っ張っているの」

「私たちが?」

 

 マリアがナスターシャと作戦会議をした時、もっと他にも色々なやり方が出てきていた。だが、それらを採用しなかったのも、ひとえに自分やみんながいるから。

 

「風鳴訃堂は国土国防上の敵と判断したら、容赦ない手段を取るわ。まずそこで流が抵抗してしまったら、何もしていなかったとしても罪が重くなってしまう。そして私達が人質になってしまったら、流は何も出来なくなってしまうの。彼は自分の身よりも、私達の事を優先するわ」

「……私達だって、そんなに簡単に捕まりませんよ」

「確かに私達にはシンフォギアだってある。生身でも戦う術はある。だけど、流のように狙撃を耐えたり、察知したり、数の暴力には勝てない。この力は普通の人達に振るってはいけないものでもあるからこそ、ただの人に攻撃されることに弱い」

 

 罪が多少増えてしまうが、流だけなら逃げることなんていくらでも出来る。バビロニアの宝物庫やテレポートを駆使すればいい。しかし、自分達は元二課のS.O.N.G.からのバックアップなしに、本気の大人達から逃げる事は出来ない。

 マリアは自分達が流の最も強烈な弱点である事を響に伝えた。

 

「……」

「そしてもし私達が傷つけばきっと流は本気で風鳴と敵対してしまう。それはどういうことか分かる? 風鳴は日本の権力の象徴よ」

「……日本との、決別」

 

 流がアメリカを嫌っているのは一緒に暮らしている人達も、響達ですらよく分かっている。アメリカのトップがテレビに出るだけで、一般人でもわかるほどの殺気が漏れ出ているのだから気がつけないはずがない。

 流がアメリカを嫌いっているのはマリア達を傷つけたからだということも知っている。なら、同じことをすれば日本に向く可能性は極めて高い。

 

「そう。そして暴れてしまった流を()()しないといけなくなる。その流と戦うのは私達シンフォギア装者でもある。流はノイズが操れるから、絶対に私達がやらないといけなくなるわ」

 

 S.O.N.G.は異端技術、とりわけノイズ関連に対して大幅な権限がある代わりに、ノイズが出た場合なにがあっても動かなければならない。

 そして流はノイズを操れる事を世界各国のトップはもう知っている。流が暴れればマリアの言った通りの事になってしまうだろう。

 

「……なら! クリスちゃんや翼さん、それに了子さんにだって相談すれば!」

「それは駄目です」

「なんで!」

 

 今度はナスターシャが響の言葉を否定した。

 

「まず了子博士ですが、彼女はフィーネではないのか? と各国が睨んでいます。実際そうですが、彼女は彼女なりにフィーネである証拠を握られないために色々細工をしています。そんな彼女に頼るのは危険です。そして弦十郎さんは国家権力にはあまり抵抗できません。風鳴故にでしょう」

「それでね、響。翼さんは流さんの事をほぼ無条件で信用もしてるし、信頼もしている。翼さんと流さんは私達と同じくらい一緒に過ごして来たから正常な判断ができないと思うの。それにクリスは流さんの意見を否定しないでしょ? 調ちゃんはさっき聞いた理由で、キャロルちゃんは今動いちゃうと、下手したら死刑にされちゃうから駄目」

 

 ナスターシャが大人の問題を、未来が子供の問題を響に教えた。特にキャロルは現状でギリギリ今のような生活を出来ているが、もし犯罪を犯していた流を助けてしまったら、それこそ今までの全てを払わされてしまう。イザークと同じような末路にだけはしてはならない。

 

「……やっぱり駄目、なんですね」

「私もマムと話し合った結果、こういう手段を取っているわ。だからこそフロンティアを強襲して、何かを始めようとしているパヴァリア光明結社と戦うために、私達に力を貸してくれないかしら? 流の軟禁を出来るだけ早く終わらせるために」

 

 マリアは同意を得ずに連れてきてしまった響に頭を下げて頼み込んだ。

 

「私のこの手は人と手を握るために使わないといけません。そうじゃないと、きっと壊れてしまう。だけど、また流先輩や皆と平和に暮らして手を握るためなら、きっと大丈夫ですよね……わかりました、私も協力します!」

「響、本当にありがとう」

 

 マリアと響は手を繋ぎ、疑いを晴らすために動く事になるのだった。

 

 ちなみにこの家の中には監視カメラの部類は一つもない。訃堂は風鳴の血を絶やさす為に八紘の嫁に手を出したのであって、綺麗な女に手を出したかったからではないのだが、流や弦十郎や他の人にもそれを疑われているので、付けられるわけがなかった。

 

 **********

 

 

 時同じく、場所はS.O.N.G.の仮設本部である潜水艦に移る。

 

 キャロルに連れられて翼と調とクリスとエルフナインはここに来ていた。キャロルはその場にまだいた弦十郎に主要な人材の緊急招集を呼びかけさせた。

 そしてキャロルが状況の説明を始める。

 

「まず始めに言っておく。俺は知識面でのサポートはしてやらんでもないが、俺と俺のオートスコアラーは戦わない。パパや皆で過ごす場所が侵害されない限り、俺は敵が錬金術師でも、アルカノイズでも動くことは無い。その事をまずは認めてもらおう」

「なんでだよ! マリアにあの馬鹿に小日向、それに切歌まで寝返っちまったんだぞ! 戦力の逐次投入は」

「は〜い、クリスは私のおっぱいに胸を埋めておきましょうね」

 

 キャロルは今の自分が不用意に動けば、流や皆が不利になる事が話を聞いた時点でわかった。なので、始めからヨナルデパズトーリの時のような手助けは出来ないと宣言しておく。

 了子はクリスがキレて来た時点で、流に何かがあったことは分かっていた。そして話を聞いている間、ずっとクリスが騒ぐのを邪魔していた。今もクリスを無理やり抱きしめて、関節をキメつつ胸にクリスの顔を埋めて話せなくしている。

 

「キャロルくんの事情も分かっている。知識だけでも借りられるのはとてもありがたい」

「それとエルフナインをマリア達の方へ送ろうと思う。スパイだとかではなく、エルフナインは向こうに協力してやれ」

「……これからの敵が錬金術師だからですね」

「そうだ」

「すまない。言っている意味はわかるが、説明をお願いできないだろうか」

 

 次にキャロルが提案したのはエルフナインをマリア達のサポートにつけることだった。

 今度の敵はパヴァリア光明結社だ。きっとマリア達はナスターシャや協力しているであろう組織がある程度ちゃんとしたサポートをしてくれるだろう。

 

 だが、科学やシンフォギアなどの異端技術の知識を持っていても、錬金術はそれだけではない。錬金術はあらゆる万象に関与出来るので、高位の錬金術師と戦うには錬金術の知識がある程度必要だ。その事をキャロルは説明した。

 

「……故に、錬金術師と戦うなら錬金術の知識がないと初見殺しに会ってしまう。装者を何人か犠牲にしていいのであれば別に送る必要は無いが、そんな事は望んでないだろ? なら、俺がしっかり教育し直したエルフナインを向こうのサポートに付けるべきだと思う」

「そうね。異端技術の厄介な点は知らないとどうしようもないという事よね。例えばこんな感じで」

 

 了子は護身用の拳銃を取り出し、壁に向けて撃つモーションをしながら、陣を使わずに土属性の錬金術を発動させて錬金術で出来た弾を発射した。

 

「本来なら錬金術で撃ったのに、知らない人には拳銃で撃ったように見えるでしょ? 対異端技術の戦いはこういったブラフとか初見殺しがあるから、私はキャロルちゃんの意見に賛成よ」

「……あの、私にいきなり撃ち込まないでくださいよ」

「緒川なら余裕でしょ?」

 

 緒川の横に撃たれた弾は緒川がクナイで撃ち落としていた。初見殺しの意味を教えるために壁に穴を開けるのは忍びなかったので、緒川に撃ち落とさせたのだった。

 

「わかった。その件もなんとかしよう。マリアくん達がS.O.N.G.から離れてしまった事もバレないようにしなくてはな」

「それは俺達も協力しますよ」

「彼女達がなんの考えもなく、こんなことをする訳がありませんからね」

 

 S.O.N.G.がシンフォギアという戦力を管理しているからこそ、今までその力を正義のために行使しても咎められなかった。だが、S.O.N.G.の監視下から外れて勝手に変身を繰り返せば、とてもまずいことになる。装者を守るためにも、S.O.N.G.の存続のためにも不味い。

 弦十郎はまた不正をしないといけないことに気を落としていたが、藤尭と友里も協力するという言質を取れたので、何とかなりそうだなと気合を入れ直した。

 

 その藤尭と友里は現在、技術系のスキルはメキメキと伸びている。二人は気がついていないが、了子やキャロルやエルフナイン、ウェルやナスターシャのサポートをしているので完全に知識や技術が常人を超えている。だが、二人はまだ一般人であると言い続けているのだった。

 

「いいかクリス。勝手な暴走だけはするな。あとイグナイトを抜剣するのもやめろ。今の精神状態なら、絶対に魔剣の呪いに飲み込まれる」

「うっせえ、んなことは分かってる……」

 

 キャロルは最後にクリスに軽く忠告をしてから、エルフナインを連れてテレポートで戻った。クリスも関節をキメられていたが、了子にずっと抱きしめられていたおかげで、現実を受け止めることが出来た。受け止めたせいで、相当気を落とすことになったが、暴走して殴り込みが起きないだけ良いだろう。

 

「……三人。この人数も懐かしいな」

「間違えて十人分のご飯を作っちゃいそう」

「それは困るぞ? 沢山食べる立花も切歌も居ないのだから」

「翼さん……切ちゃんも流も、皆離れて行っちゃって寂しい」

「私もだ。そうだな、今夜は三人で寝るとしよう」

 

 翼はあんなにも人がいたのに、今では奏と自分と流の三人だった頃の人数まで減ってしまったことに、少しだけ気を落としていた。そこへ調が冗談を言って励ましてくれたので、いつものSAKIMORIとしての自分を取り戻し、せっかくだからと提案した。二人は嫌がるクリスを真ん中にして、手を繋いで自分達が守り、帰ってくる家へと戻っていった。

 

 次の日、無事にエルフナインはマリア達と合流したことがキャロルから告げられた。

 

 

 

 

 そんな中、響は次の日起きてすぐにあることに気がついた。

 

「家に宿題置きっぱなしだから、進められないじゃん!!」

 

 パヴァリアとのいざこざが終わらない限り、流の家に帰れないのに、響は宿題をその家に忘れてしまった。

 響は宿題を夏休みの八月中に終わらせられることが出来るのか!?




S.O.N.G.、マリア達、キャロル、訃堂、パヴァリア、流。陣営が別れすぎて、処理できるかわかりませんが、何とかしていくつもりです。

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