戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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#70『歪みの予兆』

 初日は遊び倒したが、これはレクリエーション()()あるので怒られることは無い。そしてこれは鍛錬でもあるので、遊んでいるだけではいけない。

 特に流は自分では倒す事が相性で不可能な敵が現れた時は、シンフォギア装者を頼らざるを得ない。その為にも何者にも負けぬ強さを手に入れてもらわなければならない。その内の一人が神獣鏡だったが、それとは戦わずに済んだ。

 

 

「だからって、ほとんど歌わないで戦うのは辛いデスよ!」

 

 現在、装者達は森の中で2チームに別れて演習をしている。出力が落ちない程度にしか歌わせておらず、それでいて木々を出来るだけ傷つけないというルールがあるので、獲物持ちは少々辛そうだ。

 2チーム……いや、正確に言えば2チームとお邪魔敵が一人だろう。

 

「さて、時間だ。linker投与なし、蹴りなし、特殊技能なし、俺専用アンチlinker薄めを投与してるけど、舐めて掛かったら痛いぞ!」

 

 装者は歌わなければそのギアはただの鉛の鎧になってしまう。逆に歌えば出力は増していくが、それは制限されて、大技が使えない状況で戦っている。

 そこに流が入ってきたら、簡単に蹴散らせると思うだろう。しかし流と聖遺物の繋がりを邪魔をするアンチlinkerを投与し、デュランダルが戦いの途中で起動しないようにしているので、ただの重い金属の右腕になっている。左足も同じく動きづらい重い足だ。

 

 流は双方の敵であり、近づけたら凄く面倒な敵なので、装者達が協力して倒すことにしたようだ。木々から顔を覗かしてきたのは翼で、いきなり頭を下げてきた。

 

「……すまない流」

 

「皆で囲んだ事?」

 

「いいや……確か流に攻撃を10回当てれば倒した判定であっているな?」

 

「そうだね」

 

「どうしても流に勝ちたいと皆も私も思っている故、少しだけズルをさせてもらう」

 

 翼が手を上げると、遠距離からイチイバルのガトリングが回り始めた音、シュルシャガナの丸鋸発射音、アガートラームからナイフを引き出す音、上空には青く煌めく光の刀が見えた。

 

「やばっ!」

 

 忍者秘伝の瞬間移動をしようとしたら、流の周りにいつの間にか神獣鏡のミラーデバイスが展開されていた。地面の中に隠しておいたのだろう。流の出撃地点は決まっていたので、本気で倒しに来ているようだ。出撃前に細工をしてはいけないなんてルールもない。

 あと未来の攻撃で脅されると流はほとんど何も出来なくなる。

 

「流がマリア達にやった戦法。戦う前に勝負は終わっているというやつだ」

 

【蒼ノ一閃】

 

 翼が手を下ろし、青い光の刀が降ってくると、全方位から攻撃が飛んで来る。

 ガトリング弾が、丸鋸が、ナイフが、ミラーデバイスから放たれた光線が、流の元へ殺到してきた。

 

 流は少し離れたところにある木に向かってジャンプをして、全方位から来る攻撃を避けようとする。その時に蒼ノ一閃が何発か当たるが、必要経費として捨て置いた。

 

 だが、光線は流の逃亡ルートを絞るためのもので、ガトリング弾と丸鋸がこちらに大きく軌道を曲げて追っかけてくる。

 シュルシャガナの丸鋸は前も多少ホーミングしていたが、ガトリング弾はおかしい。しかも丸鋸は少しずつ数が多くなっているように見える。忍術の分身をさせているのかもしれない。非常に厄介だ。

 

 流は木をそのまま()()()()()、逃げようとしたのだが。

 

「なんで銃弾がホーミングしてんだよ」

 

「よそ見は危ないですよ先輩!」

 

「なんで木の上にいるんだよ!」

 

 目の前には神獣鏡を纏った未来と一緒に隠密状態になっていたガングニールを纏った響がいた。

 未来が鞭を振るってきたので、それを手で弾くが、響の接近を許し拳を一発貰ってしまった。

 

「響! そっちに飛ばしちゃ!」

 

「え? あっ!」

 

 流は響に殴り飛ばされた勢いのまま、包囲から抜けるべく、吹き飛ばされた。

 未来の声でやっと連携が途切れたかもしれないと、少しだけ安心していたが、そんなことは無かった。

 

「えっと、流が木に登ったら、ここでってきたデス!」

 

「なんで切歌がこんな所にいんだよ!」

 

 吹き飛ばされた勢いを殺さないために、体勢を直していなかったのがまずかった。断殺・邪刃ウォttKKKの時に射出される鎖に体を拘束されて、まだ追尾してきていた丸鋸とガトリング弾を背中にモロ喰らった。

 

「ガハッ……背中はまだ生身、グフッ」

 

 背中に銃弾の痣ができ、背中が少しだけ削られて擦り傷が出来たが、重症にならずに済んだ。クリスも調も殺傷力は減らしておいたようだが、それでも威力自体はそのままで、鎖に巻かれて力を受け流せず、流は気を失った。

 ちなみに未来が放ったミラーデバイスの光線は、手加減無しだったので、喰らったら腕や足が消えていた……デュランダルを起動させればトカゲの尻尾のように生えてくるが容赦がない。

 

 

 **********

 

 

「皆やりすぎデスよ! linkerがない流は無防備な司令くらいの防御力しかないん……あれ? 固くないデスか?」

 

「あなた達、流は人間なのよ? linkerなしなら、だいぶ丈夫程度なんだから気をつけないと」

 

 攻撃を受けて服がほぼ意味がなくなり、全裸になりかけている流を切歌が抱えて、テントまで戻ってきた。

 張り切り過ぎて作戦よりも弾も丸鋸も、そして光の刀も多く出しすぎた三人は砂浜に正座させられ、マリアの説教を受けている。

 

「だがな、あれくらいやらねば全てはじき返されていたと思う」

 

「翼さんが言う通り」

 

「あたしは流がフィーネシールドを使う想定で撃っちまったな。まあ、あんくらいやらないとダメージを与えられないってのは同意だが」

 

 調は丸鋸のノコ部分はない状態で放ったし、翼の光の刀はエネルギー分のダメージしか入らないようにしていた。クリスは流なら問題ないと普通にぶっぱなしていて、三人とも特に反省する気はないようだ。

 翼とクリスはあれくらいではダメージにならないと本気で思っているし、調は本気で戦った方が流も喜ぶと思っているので、自信満々で言い返した。

 

「私もダメージを与えるならそう思うわよ? でも、今回は十発当てれば良かったの!」

 

 

 マリアの説教を受ける必要のない切歌に未来に響は、離れて数値を測定していたキャロルとエルフナインの場所に来ていた。

 未来が手加減していない事は本人以外には分かりづらいので、お説教はうまく回避したようだ。

 

「でも、本当に凄いねこれ」

 

「書いてある通りに流が来たデスからね」

 

「櫻井了子はそれだけパパの行動を理解してるんだろう」

 

 ここにいる全員が見ているのは、了子が渡してきた研究資料の一つ。流の戦闘パターンを解析して、いくつかのパターンを出してくれるアプリだ。

 了子は流に首輪を付けても、すり抜けてどっかに行ってしまうことは分かっているので、どこに行ったのか見つけるための物を作ろうとした。まずは戦闘予測を立てられるアプリケーションを作った。

 

 今回の演習は了子からの要請で、フィールドの決定から流の出撃地点なども細かく指定されていた。そして装者は指示されたポイントで指定された攻撃をしただけだった。

 

「他人の行動パターンをシミュレーションし切ってしまうのは凄いですよね」

 

「だけど、まだデュランダルを使った状態やソロモンの杖、位相差操作なんかを使われた場合は予測出来ないデスよね?」

 

「私が錬金術も教えてしまっているから、完成はだいぶ先だろうな」

 

 キャロルはドヤ顔で四大元素錬金術を教えていることを口にすると、響や切歌が驚いた顔をしてから、キャロルの肩を掴んだ。

 

「な、なんだ!?」

 

「駄目だよキャロルちゃん! 先輩に錬金術を教えちゃ!」

 

「了子さんにこっぴどく怒られてしまうデスよ!」

 

 装者とエルフナインが遭遇したあと、S.O.N.G.で会議をした時、了子がエルフナインに絶対に流が錬金術を教えて欲しいと言っても教授しないようにと念押ししていた。

 

「ああ、その事か。私はパパの最も望んでいる願いを踏みにじる事なんて出来ない。櫻井了子も遅かれ早かれこうなる事は分かっていたはずだ」

 

 キャロルと大人組と翼は流が奏を蘇らせようとしていることを知っている。そしてキャロルは不完全ではあるが、もうすぐ天羽奏が復活することも知っている。

 

「最も望んでいる願い?」

 

「立花響は皆と手を取り合い平和に暮らす。小日向未来は立花響と平和に暮らす。暁切歌は皆と楽しく暮らせるようにする。パパは自分の身を捨ててでも、成し遂げたい事がある。無論私は言えないからな」

 

 エルフナインはその事は知らないが、チフォージュ・シャトーを流が従えている()()()()()()をした時、ホムンクルス製造機がなかったのを思い出した。そこから流のプロフィールで得た情報で、今気がついた。

 気が付いたことをキャロルに悟られ、目で牽制されたため言葉できなかった。

 

 死んだ人間を甦らせるのは間違っていると。

 自分がイザークと会えたのも、蘇ったようなものだが、きっとあれ以上の禁忌なのだろう。

 

 

 **********

 

 

 一部がやり過ぎたのを咎めるが、本人達は信用しているので軽く流し、もう片方は了子の解析能力に驚き、一人は流の目的を理解した。

 そして霊体の二人は必死に流を起こそうとしていた。

 

『起きろって! 寝たらヤバいんだろ!』

 

『どうですか?』

 

『駄目だ。起きねえ』

 

 流は睡眠を取るのはやばいと言っていたのに、体に入ったまま気絶、寝るのと同じことをしてしまった。必死に二人は、怪しまれてしまうから触らないで起こそうとしたが、流は全く起きない。

 

 説教組のすぐ横に流は寝かされているので、体を揺らしたら不審がられてしまうから触らないで、優しく起こそうとしたのに、流はある寝言を言った。それで奏がキレた。

 

「……カリオストロッ」

 

『……ガングニール!!』

 

『奏さん待って、なんか苦しそ……あーあ』

 

「ゴフッ、ゲホゲホっ……な、なんだ!?」

 

 奏は拳を握りしめ、流の鳩尾を思いっきり殴る事によって、無理やり彼を覚醒させた。セレナは流がカリオストロと呟いた時に、悲壮な顔をしていたのを見た気がするが、すぐに殴られて起きたため、本当にそんな顔をしていたのか分からなかった。

 

「流、大丈夫?」

 

 説教組で一番近くにいた調が即駆け寄ってきて、流を起き上がらせた。

 

「……調(つき)

 

「え?」

 

「…………ん? なんだ、あー。調(しらべ)おはよう」

 

 流はすぐに言い直して、話の流れを変えようとする。

 

「おはよう。月がどうしたの?」

 

「いや、特に何でもない。あと抱きついてるから胸が当たってる」

 

 無駄に近づいて、起き上がるのを手伝ってくれたので、調の小さいが柔らかさのある胸が当たっていた。手も太ももに当たっていて割とやばい。

 

「その方が元気が出ると思って」

 

「凄く出た」

 

 お礼として調の頭を撫でていると、クリスが間に入ってきた。

 

「ほら、早く離れろ。流はもう起き上がれんだろ?」

 

「おはようクリス」

 

 流は皆に挨拶をしたあとまだ体調が優れないから、パラソルの下で休憩していると言い、今日の鍛錬は終わらせて、皆は遊びに行った。何人かが介抱につこうとしたが、遊んでいる姿を見たいと言ったら元気に海へ入っていった。

 

 

『なんで起きた時、ツキなんて言ったんだ? まずツキって何だ?』

 

『俺って気絶してたんだよな? それから起きて、調を見た時『調(つき)神社』っていう、神社名が書いてある石碑が見えたんだよ。調に重なるように……あんなの見た事ねえし、アニメであんな描写あったっけ? 二人は覚えてるだろ?』

 

 調と調神社という石碑が重なって見えただけではなく、調という文字がツキと読める事も何故かわかった。

 流自身は奏が翼に話しかけた時、原作知識を焼却されたので覚えていないが、その記憶をある程度共有している二人の記憶には問題がないことは、前に確認済みだ。

 

『あたしにはねえな。神社ってことは魔法少女事変だろ? だけど、アニメの流れに神社へ行く描写なんてあったか?』

 

『海の時にありましたね。でも、名前は表示されていなかったはずです。屑な響さんパパの時のシーンですね……私も分かりません。もしかして流さんが言っていたヤバい事というのはこの事ですかね?』

 

『わかんねえ』

 

 流は端末で『調(つき)神社』と調べてみたら検索にヒットして、画像を見てみると、調と重なった石碑と合致していた。

 何故こんなことが起こったのか、どんな理屈で発生したのかは分からないが、一つ理解したことがある。きっと続編のワンシーンなのかもしれないと。

 

 

 **********

 

 

 皆が寝静まった夜、いきなり流の頭の中に声が響いた。

 

『流さん起きてますか?』

 

『……起きてるぞ』

 

 ファラがテレパスで流に連絡を入れてきた。

 

『こちらで緊急事態が起きました。至急装者を回収して対処すると方針が決定したのですが……』

 

 ファラは流の考えを読んで、先に連絡をくれたようだ。

 

『先に伝えてくれてありがとう。やっぱりオートスコアラーくらい強くて気の利く部下が欲しい』

 

『娘の部下を引き抜こうとするのはおやめ下さいね?』

 

『わかってるよ。父さん達に伝えてくれ。俺が行っても駄目なら、装者を集結させればいい。今からS.O.N.G.にテレポートする事を伝えてくれ』

 

『わかりました。急いで戻ってきてくださいね』

 

『了解』

 

 ファラのテレパスが切れ、寝袋を広げて寝ていた場所から起き上がろうとして、起き上がれなかった。

 テントは大きいのもが一つだったが、当たり前のように流もその中で寝ている。

 

 クリスは寝相が酷く、流の頭に足を乗っけている。切歌が調に抱きつき、寝苦しそうにこちら側に侵食している。クリスは最近寝る時下着を付けなくなったせいで、寝間着として今日は着ている浴衣から胸が露出しているし、下半身も見えているが、彼女は全く気にする事は無い。

 未来と響は隣同士で寝ているのに暑そうにしていないのは、長年の経験故になのか? 翼は微動だにせず寝ていて、マリアはあの巨乳なのにうつ伏せで寝ている。キャロルとエルフナインも抱き合って寝ている。

 

「……やっぱり体重で潰れているよな」

 

「何をやっている」

 

 触ってみると、やはり体でマリアの胸は潰れていた。痛くはないのだろうか? そんな事を確認していると、微動だにせず寝ていた翼が目を開けてこちらを見ていた。

 

「翼って髪を下ろしてた方がお嬢様感出るよね」

 

「話を逸らそうとしても無駄だ。寝ている者の胸を触るのはやめておけ」

 

「あの巨乳でうつ伏せで寝てるんだよ? どうなってるのか気になるだろ? あっ、ごめん」

 

「私は剣だからこれでいいのだ! で? 何かあったのか?」

 

 翼は特に何も言っていないのに、何かがあったことを察知したようだ。

 

「なんで分かったの?」

 

「長年顔を見ていれば、流の戦いに赴く時の顔くらいわかってくるものだ」

 

 それって異性に気軽に言う言葉では無いのだが、翼は流を本当になんとも思っていないので、気にせずこのような言葉も口にする。流が婚約者だと知っても、それなら変な奴を付けられなくて済む程度の認識だったので、特に騒いだりしていない。

 

「S.O.N.G.に緊急招集がかかった。俺だけでは対処できない事なら、装者も集合させられるから。まあ、そんな事はさせないけどね」

 

「何事もなく流が帰ってくれば、皆に言わなくていいという事だな。だが、無茶だけは控えろ。皆が悲しむ」

 

 翼が起き上がり、クリスをどかしてくれたので起き上がれた。自分でも出来たが、あまり凄い格好をしているクリスに触れると煩悩を払うのが大変だ。

 

「ありがとう。では、行ってくる」

 

「うむ」

 

 宝物庫経由で流は一人S.O.N.G.へ向かった。




AXZ10話にて響が人間が人間のまま云々と言っていたが、流は響からしたらまだ人間なのかどうか。

次回、アレキサンドリア号事件

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