戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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第3.5期 シンフォギア3.5
#69『可愛くても食料』


「ちょっと待って、ごめんなさい、だからね? 未来ごめんなさいごめんなさい、いやああああ!!」

 

 この家で未来と響が私物化している部屋に、響が未来に手を取られて、少しずつ引っ張られていった。今、流と翼やその他は、助けを求められても、きっと393が怖くて助けられないだろう。南無三。

 

 

 **********

 

 

 弦十郎の電話の内容を皆に話すと、まず一番反応したのが響だった。弦十郎のお墨付きで勉強ではなく鍛錬が出来ることが分かると、喜びの声をあげた。

 

「……響?」

 

 始めは未来も二ヶ月分の勉強が遅れているので、響を流に任せて勉強を進め、ある程度習得したら流の参考書を見ながら、響に自分で教える気でいた。その為に頭の中で色々考えていたのに、響が勉強から逃げれる事への喜びの声をあげた。

 

 普段のテストや課題なら、響を尊重して、響が助けを求めた時に手を差し伸べていた。だが、今回リディアンから渡された課題は期末試験の代わりの物であり、進学に関わるから、あまり引き伸ばせようもないものだった。未来は響を優先したいが、それ以上に響との学生生活を楽しみたい。

 それなのに響は課題を拒絶するような反応をした。イコールで結べるものではないが、響は未来との学生生活を望んでいないのでは? という考えが未来の頭を掠めた。

 

 そのあと未来は響にニッコリと笑いかけた後、関節を決めて、響を自室と化している部屋へと連れていった。

 お説教と勉強をしに行ったはずなのに、何故か参考書などはここに置きっぱになっている。それにいち早く気がついた調が口を開く。

 

「……切ちゃん、明日から無人島だから今日は勉強しよっか」

 

「え? あ、そうデスね。勉強は大切デス。強くなるためにも必要な事デスから」

 

「そうだ。全てを直感と映画で処理できる立花とは違うからな。さて、私は刀の手入れを」

 

「海へ行く準備をしなきゃね。日焼け止めとか必要でしょ? 私と翼は変に焼き過ぎるのは良くないでしょうし、買いに行くとするわ」

 

「なら、あたしも行くわ。家にいると色々巻き込まれそうだしな」

 

「……え? あの二人に参考書持っていくの俺?」

 

 残っている装者達の優しい笑顔が流を迎えた。皆一様に頷いたあと、各々の行動を開始した。まるで逃げるように離れていったが、まさか見捨てられた訳では無いだろう。

 

『流石に巻き込まれたりしないだろ』

 

『393……ではなくて、未来さんは理不尽には怒りませんからね。響さんに手を出したとかではなければですけど』

 

 流は気配を完全に断ち、位相差操作も併用して本気で己の存在を希薄にして、ひびみくの部屋に課題や参考書などを置きに行った。

 

 中で行われている事を流は見て、自分……()()()()()()()()を再確認した。

 

「お尻ペンペンって他の人もお仕置きに使うんだな。ぶっちゃけ疑ってたけど、未来もやってんなら普通なのか」

 

『当たり前じゃねえか。あたしはそんな酷い嘘はつかねえよ』

 

 流は奏を少しでも疑ってしまっていた事を恥じ、奏が笑って流の言葉をスルーして、少し離れたところでセレナがボソリと呟いた。

 

『……確か流さんがクリスさんにやってるお仕置きを見て、未来さんが取り入れた気がしますけど、言わない方がいいですよね?』

 

 このお仕置きがおかしいと気が付くことが出来る最高のタイミングをまた流は取りこぼした。

 

 

 **********

 

 

 次の日、流以外はがっつり海へ()()()()()準備をして、ボックスカーに荷物いっぱいに詰め込んでいた。もし流だけなら、塩と真水と緊急連絡用の端末だけを持たされて、無人島サバイバルを始めさせられるが、装者達がいるので、その難易度はない事にホッとしていた。

 山篭りに比べてやれる事や楽しめることは多いが、今回は山篭り以上にある事がネックでキツくなるだろう。

 

 あと何故か響がお尻を抑えながら、痛そうに座っていたので、流と奏とセレナ以外は不思議そうに見ていた。一部同じお仕置きを受けている人も察していた気もする。

 

 セレナが流に憑依して、響のお尻をつつきにいこうとしたが、未来がキレると、流の命が消える(神獣鏡によるお仕置きがある)ので奏が本気で止めていた。

 無謀にも切歌がちょっかいを出すと、未来に別所へ連れていかれた。切歌は帰ってくると、涙目で調に抱きついていたが、連行される時に調が見捨てていたけど、あれはしょうがない事だろう。

 

 

 

 S.O.N.G.の横に皆で移動して潜水艦の入り、指令室へ向かうと弦十郎がぐるぐる巻きで拘束されていた。

 カ・ディンギルで流を拘束する時に使用されていた、猛獣用の鎖を流の時の倍以上使われて、完璧に拘束されていた。鎖だけの拘束なのに、見栄えも良く綺麗に巻き付かれているので、この腕前はNINJA緒川によるものだろう。

 

「父さん何やったのさ」

 

「何もやらなさ過ぎた」

 

「流石に司令はS.O.N.G.の本部を離れすぎなので、緒川さんにお願いして拘束してもらいました」

 

 藤尭が自分の席から立ち上がり、こちらに近づいてきながら説明した。

 

「この場にいなかったが、代理も立てていたし、何より俺も流のテレポートやキャロル君のテレポートジェムで戻ってこれる訳だしな?」

 

「司令だってわかっているでしょうに、駄目です。司令には色々やってもらわないといけないことがありますから。それに」

 

「それに?」

 

 藤尭は大きく呼吸してから口を開いた。超人ばかりのS.O.N.G.では一歩引いている感じがあった藤尭だが、日頃の鬱憤が吹き出した。

 

「司令ばかり狡いですよ! 流くんも狡いですけど、仕事で海に女性と行く? 司令には了子さんがいるし、流くんは装者の子達と同棲している。なのになんで僕には恋人の一人も居ないんですか!」

 

「……その、すまん」

 

「とりあえず料理の腕を披露すれば?」

 

「披露する相手を作る機会がないって流くんは知ってるよね!?」

 

「ご、ごめん」

 

 弦十郎も流も藤尭のいつもとは違うテンションに押されている。

 

「今回は僕達が行きますので、司令は了子さんと仕事をしてればいいんじゃないですか?」

 

「そうね。藤尭も友里ちゃんも一気に休み取っちゃいなさい。私とウェルとナスターシャがいれば問題ないわけだしね」

 

 弦十郎の後ろから現れた了子が藤尭の意見に賛同した。ここにはまだウェルはいないのに、仕事を押し付けられることが決定された瞬間だった。天才生化学者がただの事務処理をさせられる事があるのがS.O.N.G.という組織なのだ。

 

「他の人たちもついでにバカンスに行ってらっしゃい。緒川の所から人を借りる手筈になっているから、エージェントは足りているし、解析なら私がいるだけで大抵なんとかなるもの」

 

「いや、俺は仕事をしているから、了子くんは海に行けばいい」

 

「ノンノン。弦十郎が私に色々させたいのは分かってるわよ? でもね、私は弦十郎くんと一緒にそういった事をやりたいの。だから、今回はお仕事を本気でやることにするわ」

 

 藤尭と友里のペアは月の欠片の軌道の計算を在り合わせの機材でやったり、潜水艦の周囲にミサイル発射して潜水艦が無傷。未知のエネルギー体の臨界点突破までの時間と、爆発によって発生する被害を計算をコンマの狂いなく行ったりする凄腕だが、それを大幅に上回るのが了子だ。

 その彼女が本気で仕事をする宣言をし、お前らは休めという言葉を聞き、指令室にいる人達は沸き立った。

 

 そして弦十郎は巫女としてカストディアンに仕えたあと、ひたすら統一言語のために動き続けてまともに青春を謳歌していない了子を海に行かせたいから、今回無理やり無人島サバイバルを提案した。しかしその了子は弦十郎といたいと言って共に居るようだ。

 

「そういうことだから、パパ達は無人島に行っていいよ」

 

「僕達も了子さんをサポートしますから、安心してください」

 

 キャロルとエルフナインは残る気なのか、了子の横でそんなことを言っているが、了子に押し出されて、流達の方へと歩かされた。

 

「お子ちゃまが一人前ぶってるんじゃないわよ。キャロルもエルフナインちゃんも行くのよ」

 

「私は行かないぞ! あとフィーネと比べたら全ての人間は子供じゃないか!」

 

「……わかりました、了子さんのご好意に甘えますね」

 

「待てエルフナイン。何故引っ張る!」

 

「キャロルは僕よりも何百倍も生きてるのに、空気を読めないよね」

 

「そんな訳あるか! いいさ、行ってやる」

 

 そんな訳で装者と流とキャロルとエルフナイン、あとは基本指令室で缶詰になっている人達やその他スタッフも行く事になった。オートスコアラーはキャロルとエルフナインの代わりに錬金術側の知識として残ることにしたようだ。

 

 

 **********

 

 

「海だああああ!」

 

「無人島デース!」

 

「体操しないと危ないよ響!」

 

「流、服お願い、切ちゃん急がなくても海は逃げないよ」

 

「おう。体操しないで足つっても知らないぞ」

 

 弦十郎が手配していた船に乗り、流が幼少期に修行のために放置された無人島までやってきた。大人達は無人島の整備されている島の裏側で、バカンスをすることになった。流石に装者達のサバイバルには合わせたくないとの事。

 

 藤尭は解析や通信制御のために基本的に指令室にいるので、他の場所にいる人達とはあまり話したりしない。今回のバカンスは主に結婚していない人達が来ているようで、この機会に彼女を作る! と公言していた。友里も少し前に合コンで上手くいかなかったが、そういうのを抜きにして息抜きをする気みたいだ。

 

 島の表側のthe無人島と言った見た目の砂浜に、マリア以下の年齢の人たち(キャロルも含む)が降ろされていた。

 皆で荷物を持って海水が来ない場所まで来ると、響と切歌は着ていた服をその場で脱いで、海に駆け出して行った。もちろん下に水着を着ているので全裸などという訳では無い。

 その二人に無理やり引っ張られる形で海に入ることになった未来と調は、引っ張られながらもその場で脱いで入っていった。

 

「エルフナインも海に行ってらっしゃい。私達が準備しておくから」

 

「……はい! ありがとうございますマリアさん。行こうキャロル」

 

「わかったから引っ張るな!」

 

 響達を見てソワソワしていたエルフナインに、マリアが声を掛けて遊びに行かせた。

 エルフナインがやりたいと思う事は、大抵がキャロルもやりたいと思っている事だ。元の記憶が同じで、人格のベースもキャロルを参考にされているので、根っこの部分はほとんど変わらないので、エルフナインはキャロルに遠慮することがない。

 

 流は脱ぎ去っていった服を回収して、マリア達の元へ戻る。既にマリアと翼も水着を着ていたようで、その水着は見たことがある気がするのだが、流は思い出せない。

 アニメの知識が消えたので、その中で見たのだろうとすぐに分かる。

 

 ちなみに皆の水着は、アニメの魔法少女事変の海でのレクリエーションで使っていたものと同じであった。キャロルは()()だからと、マリア以上に際どい物を持ってこようとしたら、エルフナインに同じ水着のカラーリングだけ違うものを持たせられていた。エルフナインの水着がワインレッドになったものなので、錬金術師キャロルの時の赤い服と見た目がさほど変わっていない。

 

「お前達も行ってもいいぞ。テントなら俺が立てておくし」

 

「こういう準備もバカンスの醍醐味の一つよ。自分で準備したもので寝泊まりするからいいんじゃない」

 

「まず私達は日焼け止めをしっかり塗らないと、アイドルとして不味いからな」

 

「なるほどね…………ならまず塗っておけば?」

 

 流はシートを取り出して引き、パラソルを立てて塗る場所を作ってあげた。別に邪な思いがあるわけではなく、二人が焼けてアイドルとして微妙になるのを避けるための行動だったのだが、マリアは白い目で見ている。

 

「助かる。マリア、塗ってもらってもいいだろうか」

 

「いいわよ、って待ちなさい!」

 

 翼が流がいるのにも関わらず、平然と水着を脱ぎ出したので、マリアは体で流と翼との間に割って入る。流は特に見ることなく、テントの準備を始めている。

 

「そんなに慌ててどうした?」

 

「彼がまだいるのよ? あとなんで流は見てないの? 普段なら凝視しているわよね?」

 

「幼少期から同じ風呂に入り、同じ釜の飯を食べ、同じ布団で寝ていた故、私は別段見られても構わない」

 

「いやいやいや、子供の頃と今は違うわよ?」

 

「……マリアが気にしているから、少し離れたところでテントの設営を先にやっていてもらえないだろうか」

 

 翼はそういうものなのか? と思い直し、流に指示を出す。流も翼がそこまで遠慮がないことは想定外だったので、驚きのあまりガン見するという選択肢を忘れてしまった。

 

「わかった」

 

 流がその場を離れようとしたのだが、セレナに腕を取られていて動けない。

 

『マリア姉さんの日焼け止め塗り手伝ったりしないんですか? 私はやりたいです』

 

『流石に無理だろ』

 

『マリア姉さんなら拝み倒せばいけますよ』

 

『……行けそうだよな。マリアって割とちょろいし』

 

『嫌だよ。そういう気を抑えるのって割と大変なんだよ? 煩悩がないわけじゃないんだから』

 

『胸触りに行ってる時点で煩悩だらけじゃねえか』

 

『おっぱいと煩悩は別ね?』

 

 流は二人と話ながらテントを建てていると、クリスがこちらに戻ってきた。

 

「……塗ってくれ」

 

「喜んで」

 

『流石にそれはアウト!』

 

 赤い水着を着たクリスが、シートと日焼け止めを持って後ろに立っていた。もちろん流は了承したが、奏によって妨害された。

 流は自分の体から引っペがされて、普通の黒ビキニを着ているセレナに目を抑えられてながら拘束された。奏が手伝ったことにより、霊体なのに関節が決まっていて体に戻れないし動けない。

 

『わかった。見るだけは許して!』

 

『後ろから拘束していますし、私の胸が当たってますよね? ご感想をどうぞ』

 

『セレナは露骨すぎて飽きた』

 

『飽きた!?』

 

 流は自分の体がクリスの体の隅々まで日焼け止めを塗っているはずなのに、それを一切感じ取ることが出来ず、素敵イベントが終わってしまった。

 開放された時には顔を真っ赤にして気絶しているクリスがそこに居た。

 

 そのあと奏がセレナとバトンタッチしたので、その隙に体へ戻ろうとしたが、白ビキニの奏に捕まり、セレナに体の所有権を握られてしまった。

 何だかんだお姉ちゃん大好きなセレナは、翼に日焼け止めを塗られている場所まで足音を立てずに向かい、イタズラをして流の体が折檻を受けた。

 

 セレナ曰く、筋肉の割に体は柔らかかったとの事。そしてその犯行を手伝った翼も一緒に砂浜で正座をさせられていた。

 

 

 

「それッ!」

 

「まだまだ!」

 

「スパイクがぬるいぞ先輩!」

 

「クリス先輩には負けない!」

 

 響、クリス、マリア、切歌のペアと未来、調、翼、流のペアでビーチバレーをやる事になった。流はやりたがっていたセレナにセクハラなしの条件で体を貸し与えた。

 キャロルとエルフナインはこの人達の動きにはついていけないと言って、見学しながらバレーボールで遊んでいる。

 

『やってる奴らが白熱しているからいいんだけどさ。なんでこんなチーム分けになったんだろうな』

 

『グーとパーで分かれた結果なんだけどな』

 

 前者チームは動く度に色々揺れる。後者チームはほとんど揺れない。流はどちらの胸も好きなのだが、ビーチバレーを観戦するなら前者の方が色々楽しいなと思った。

 

『……ふぁ〜〜。眠い』

 

『ずっと寝てないからな。やっぱり寝ると不味そうなのか?』

 

『不味いだろうね。直感だけど』

 

 ここ二ヶ月の間、流の体は寝ているが、流の精神は睡眠を行っていない。霊体である奏やセレナが寝ていることから分かる通り、精神体でも眠くなるが、流はそれを無理やり押さえ込んで起きている。

 魂が消失してから、寝たらやばい気がしているからだ。

 

 流は眠い目を擦りながら、躍動する胸や太もも、お尻などを観戦して、奏に怒られていた。

 

 

 **********

 

 

「米と調味料と調理器具を渡されているけど、このままだとおかず無しになるから取りに行こう」

 

 皆が体を動かしてお腹が減ってきた時、流はそう口にした。皆が遊ぶことを優先したが、早く動かないと日が暮れてしまうので不味い。

 流が全部やることは禁止されているし、マリアもそういうのが醍醐味だと言っている。

 

「……あっ! そうデスよ。これって()()サバイバルデスだから、食料は取らないといけないんでしたね」

 

「なら、次はグーとチョキとパーでチーム分けだね!」

 

「それなら僕達も出来るね」

 

「適当に森に入って、小動物を屠殺すればいいのだろ? 余裕だ」

 

 チーム分けの結果、流はキャロルとマリアと一緒に森林の中に入ることになった。

 翼とクリスと未来と切歌は海で釣りをして、調とエルフナインと響は岩場で食べられそうな貝を拾うことにしたようだ。

 

 三人は長袖を着て、虫や小動物に刺されたり噛まれたりしないように準備をする。

 装者達はまだそこまでキャロルと仲良くなっていない。敵だったのにいきなり味方になり、そのあと交流を挟む前に二ヶ月修行になってしまった。マリアとキャロルの間には微妙な距離があり、流がそこに立って空気を良くしようと励むが上手くいっていない。

 

「……あっ、ウサギさん」

 

 散策していると、食べれそうな木の実や野菜のような物が手に入り、キャンプ地点に戻っている時にマリアが呟いた。

 

 流はマリアの視点の先を見ると、確かにウサギが存在しているのが見えた。流は手に持っているナイフを構えて、うさぎに向けて投げようとした。

 

「待ってえええ! え? 流はまさか、可愛いウサギさんを攻撃しようとした?!」

 

 マリアは流がナイフを持っている腕に飛びつき、必死になって腕を止めている。なかなかに腕が幸せだが、それよりも貴重な肉だ。

 

「食料だし」

 

「ウサギさんよ!」

 

「なら、私が」

 

「駄目よ!!」

 

 マリアは流から離れ、キャロルを無理やり押し倒して、発動しようとしていた錬金術を失敗させた。

 

「何故だ! ウサギだって立派な食料じゃないか!」

 

 キャロルは山の中でイザークと暮らしていた記憶の中に、お肉を食べるために狩りをした想い出もあるので、ウサギだからと言って見逃す理由にはならない。

 

「そ、それはそうだけど……お願い、ウサギさんは見逃してあげて?」

 

「……まあ、マリアの大声で逃げていったからもう狩れないけどね」

 

 マリアは流の声で腰から力が抜け、キャロルに抱きつくように倒れた。キャロルは反応に困っていたので、とりあえず今回の事は貸し一つにでもしておけばいいと、流が収めて、彼がマリアを担いでキャンプまで戻った。

 

 

 戻る途中、海の方から爆発音が聞こえ急いで戻ると、クリスがシンフォギアを纏って、ドヤ顔で立っていた。どうやら翼は釣りがうまく大漁なのに自分は出来ず、前にテレビで見たダイナマイト漁を真似したらしい。

 クリスはそのあと夕飯まで全裸で『私はムカっとしてダイナマイト漁をシンフォギアで再現した馬鹿です』というプラカードを持たされて、正座をずっとしていた。流も食料を無駄にするような事だったので、フォローせず……いくつか写真を撮るだけにしておいた。

 

 もちろん島に来た時から、思い出を形に残しておくためという理由で写真を撮っていた。本当にエロ的な他意は無く、頭の中の想い出はいつ消えるかわからないから、流は昔の記憶が消えてから、よく写真を撮るようになった。

 

 

 そしてその夕飯では、何故かあるはずのない()()の料理があった。調が活きがいい肉が手に入ったから、自分で調理したとVサインをしていた。この因果関係にマリアは気が付かず食べていたが。

 

「これ美味しいわね。このお肉って調が見つけたのよね? なんのお肉なの?」

 

「ウサギ肉。初めて調理したけどうまくいった」

 

 マリアはその声を聞くと倒れてしまった。けれど、死んでしまったウサギをしっかり弔うために、起き上がったあと、ウサギに感謝しながら食べていた。

 そうして無人島一日目は幕を閉じた。




明日も軽く無人島描写してから、別の話しに移行します。

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