戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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#65『星詠む夜の誕生話』

「だから言ったろ? 情報が手に入るって」

 

『むむむ!』

 

『なんか流はカリオストロを気に入ってねえか?』

 

 レストランに行った次の日。司令官代理としての仕事をしながら、流は奏とセレナの二人と話している。二人は昨日、何だかんだカリオストロが役に立つ情報を与えてきたので機嫌を損ねてしまった。

 

 今回の会合でカリオストロがこちらの情報を掠め取るだけの女なら、接触禁止を強く推すことが出来たのに、結果は流が最も知りたいことに近づいてしまったからだ。生理的に受け付けないのと、流がパヴァリアの件で知識もないのに無茶をしようするのは分かりきっているので、止めようとしたが説得材料が足りない。

 そんな物がなくても、二人が本気で流に頼み込めばカリオストロとの接触は止めてくれるだろう。だが、それでは理由もなく他の女に会うことを禁ずる女になってしまう。二人はその選択を避けたいようだ。

 

「そりゃあいつって奏みたいじゃん」

 

『あんな男か女かイマイチわかんねえ奴と一緒にすんな!』

 

『……どういう意味ですか?』

 

 奏が流に制裁を加えようとしたが、流が奏の事を侮辱するわけがないので、セレナは奏を羽交い締めにして冷静に続きを促した。

 

「奏は命を懸けて俺や翼を生かしてくれただろ? あの時の俺は奏を選んでやれなかった。きっとサンジェルマンもカリオストロと作戦を天秤に掛けたら迷っちまうかもしれない。その一瞬でカリオストロは命を懸けてきっと死ぬ。奏と同じ仲間思いなやつだって思ったんだよ。だから、放っておけない。特別好きだとかじゃないからな?」

 

 カリオストロだって、S.O.N.G.のエージェントである流に会いに来るのは、結構危ない橋渡りのはずだ。それでも情報を交換しに来て、サンジェルマンの事を念押ししていたのはそれだけ愛しているからだろう。

 

『……めちゃくちゃ複雑だけど、意図は理解出来た。でもやめろ』

 

「セレナも似たタイプだな」

 

『言うと思ってました。私は覚悟とかを決める前に死にましたけどね、グチャっと』

 

 奏は照れくさそうに頬を掻き、セレナも恥ずかしいのか奏に突っ込んで、奏のお腹で顔を隠している。セレナは最近やっと、自分の死を例えに出せるほど余裕が持てるようになってきた。

 

「それでもだよ。俺はそれが出来なかった。だからこそ、俺の出生を暴いて、呪いのような行動制限を解除する手掛かりを手に入れる。二人の完全な死者蘇生の邪魔はさせない…………誰であっても」

 

 流は司令の仕事を終わらせると、連絡をくれればテレポートで飛んでくることを約束して、S.O.N.G.仮設本部から飛び出した。

 二人は照れて互いを庇いあっていたので、流の最後の言葉は聞こえなかった。流も自分が何故こんな事を言ったのか理解出来ていなかった。

 

 

 **********

 

 

 流は昔の、自分の個人情報が記載されている()()を見て、轟流だった時の住所の場所に訪れた。流は彼の中にいるソロモンがデュランダル、聖遺物の使い方を教える対価として、6歳以前の他愛も無い記憶を焼却されている。そのため、住んでいたはずなのに、初めて見る景色のように思える。

 

 轟流の家は旧リディアンの近くで、この世界のルナアタックの規模でギリギリ破壊されていないくらいの位置にあった。アニメに比べてフィーネは街の破壊を控えたのに、それでもギリギリだったのは、それだけ旧リディアンに近かったのだろう。

 今でも弦十郎が人を雇って、定期的に清掃を行ってくれている。なので、人が住まなくなって十年以上経つのに、壊れたりしている所はない。流は少し時代遅れな外装程度にしか感じない。

 

 小さい庭のついた二階建ての一軒家。門を通り、玄関前に立ってやっと、ここに住んでいた気がすると思える程度の記憶が微かに思い出される。

 

『なんか微妙な顔をしてんな』

 

「自分の生家というよりも、幼い頃に行った親戚の家みたいな感覚だな。まだ緒川家の忍者屋敷の方が記憶があるし」

 

『燃えちゃったんですもんね。中に入れば少しくらい思い出すのではないですか? 全てが綺麗に燃えた訳では無いですよね?』

 

「……轟流の時なんてどうでもいい」

 

 流は位相をズラして、玄関扉をすり抜けて家の中に入った。

 もし変に思い出して、奏やセレナを捨てるような選択肢を取る自分が戻ってきたら怖い。まずソロモンの指輪が誰から受け継いだのかすら思い出せず、それでいて流の体は聖遺物に対する耐性が強すぎる。もしそれらが装者と真っ向から敵対しないといけない理由だったら、流はどうすればいいか分からない。

 

 中に入ってみると最近清掃がされたのか、廊下や玄関にホコリが見えない。流は靴を脱がずにそのまま進む。

 

『待てよ、靴くらい脱げ。元お前の家だろ』

 

「何があるかわからないから無理」

 

『流さんは何かがあると思っているんですか? 靴を脱がないくらい警戒してるってことですよね?』

 

「……わからないから、一応警戒してる。何も分からないからね」

 

 玄関の棚には男の人と女の人、それに幼い頃の流が写っている写真が飾られていた。

 

『うわっ、会った時よりも大分幼いな。4歳くらいか? ここまで幼いと可愛いな』

 

『それが今ではこれですからね。人間って大きくなるんですね』

 

 流は写真の母親は見ることが出来る。流は母親の目元が遺伝したのだと良くわかる。だが、父親を見ても認識出来ない。見ているのに、情報として頭が理解してくれない。特に顔なんて空白としか思えない。

 

(なんかやってたのは父さ……父親か)

 

 流と霊体達の間では『神の呪い』や『呪い』と呼んでいるものがある。流が言語化できない現象がそれの一つで、それ以外にもイザークのような、|通常じゃ無理な事()()()()()()()()()も制限されていることがわかる。

 その呪いが適応されているのが父親なら、その発生源もしくは黒幕は父親なのではないか?

 

 

 

 そう思っていたが、三人で協力して探ってみても、一切怪しいものを見つけることが出来なかった。

 

「……何もないな」

 

『普通の一般家庭だったな』

 

『少し物が多いくらいですかね?』

 

 轟流の部屋であっただろう場所で三人は話している。その部屋でさえ、入ったことがあるくらいの認識しか出来ない。

 

『……あっ!』

 

「『なんだ!?』」

 

『ランドセルですよ! まだ箱に入っていますけど』

 

 机の下にボロボロの箱に入った黒いランドセルがあった。きっと轟夫妻に轟流が入学前に買ってもらったのだろう。

 風鳴流は自ら選んで小学校に入らなかった。それを責められているみたいに見えて嫌になる。

 セレナは何故かランドセルではしゃぎ、今の姿でランドセルを背負い、酷い絵面できゃっきゃ言っている。小さいランドセルを背負っているせいでセレナの服が伸び、胸部が大変なことになっている。

 

「机の下?……そっか、まだ見てないところあったな」

 

『あったか?』

 

『私くらいの人がランドセル背負うと、色々やばい匂いがしますよね』

 

『セレナは早く戻ってこい』

 

「本当に怪しいことやってんなら、家の地上部分にはないでしょ」

 

 奏はその言葉で言っている意味がわかったが、その可能性は低いはずだ。

 

『地下への入口は無かったじゃんか』

 

「テレポートがあるんだし、下手したら入口はないかもしれないだろ? 位相差で行くぞ」

 

 流はまだ遊んでいるセレナを掴んで、位相差をズラして床に沈む。二階から一階にに落ち、一階の床から地面に落ちる。一階の床から数メートル降りたところで、大きな空間に出た。

 

 そこはアニメで見たF.I.S.の研究所のように白い壁で覆われている大きな部屋。流のいる場所から見て、他に繋がる扉がないので、この部屋だけかもしれない。もしくはテレポートなどの移動術が必須なのもかしれない。

 

『本当にあったよ』

 

『F.I.S.みたいな感じですね。周りに置かれている機械もそれっぽいですし』

 

 大きな白い空間には、所々大きめな機械が置いてある。その内の一つの流は見覚えがあった。

 

「これってキャロルに貰った培養槽に似てないか?」

 

 流はその機械に近づいて、二人に聞いてみる。巨大な水槽のようなものに機械がついていて操作盤がある。キャロルに貰ったものは錬金術で構成されているが、何となく似ているように思える。

 

『……流! 一つだけ光ってる画面があるぞ』

 

 奏が指し示す方を見ると、大きな画面が光っている。皆でそこに近づくと、画面には『血液を垂らし、彼の者か示せ』と書いてあった。

 流は迷いなく指を軽く切って、血液を垂らすように指定されている機械の穴に数滴垂らした。内部で成分でも見ているのか、機械の駆動音だけが広い空間に響き、すこしすると画面に『認証完了』と出た。

 そしてある人物を映し出し喋り始めた。

 

《初めま……いや、ここは久しぶりだね。久しぶり我が息子、流。君の父親である轟轟(とどろきごう)だ。流が二十歳になっても普通に生きていたら、この施設は爆破しているはずだから、何かしらの原因で私も妻も死んで、この施設を放置してしまったのだろう。そしてテレポートが必須な施設に息子が現れた。流がここに現れたというのなら、多少は自分の特異性に気がついているはずだ。それを今から説明しよう》

 

 やはり流は父親を名乗る存在の顔を認識することが出来ない。だが、そんなことはどうでもいいだろう。父親らしき人が説明してくれるのなら……あと今施設の爆破と言わなかったか?

 

《流が生まれた計画が『プロジェクトDEUS』だったりとかの情報はいるかい? いらないよね。我が息子が欲しい情報は自分が何故生まれたのか、自分は何なのか、これらの情報だと思う。あとこれは記録された映像のため、受け答えは出来ないから。とか言って、うまく言葉に反応なんて事もないから安心して欲しい》

 

 奏は共に見て、セレナは何かないか探してくると言って、辺りを周回しに行った。

 

《何故生まれたのか。プロジェクトは神の依代を創造し、異端技術が発達し過ぎた人類に、人類自身が粛清をするのが目的だね。まあ、人類が粛清すると言っても中身は神と呼ばれる奴なんだけどね》

 

 神、フィーネが言うあの方というのはカストディアンと呼ばれていて、そいつはフィーネがあの方に届く塔を築いたから(フィーネが言うには)、それを破壊して統一言語を奪った。今までどんな者達とも話せていたのに、いきなり話せなくなり争いを生んだ。

 カストディアンはどうやら人類が発展し過ぎることを良しとしない存在らしい。そんな存在は後世でも、再び発展したら粛清を行う機構を残したようだ。

 

《流は何なのか、多分人間だと思う。まず神の依代だから、魂と呼ばれる物の収納する場所がとても大きくその体は作られている。だからなのか、数千年の間、一度も神の依代が動かなかったらしい。我々が作り出した神の依代は人間の魂が入り込んでも、動かすにはパワーが足りないようなんだよ。だけど、神でもなく人間として、流は動きだした。流は今代に新しく作られたその依代だね》

 

《まずプロジェクトは人間の意思がその体を動かして、降臨の準備をしないといけないのに、人間の魂では体を動かせないという矛盾を孕んでいた、結果的に言うと何故か動いてしまった。しかももし動くとしても、障害があるかのように、体がうまく動かないはずなのに、普通の子として()()()()()()()()()。流は何なのか……()()()()()()()()()()としての面でいえば、生贄なんだろうね》

 

 流は吐いた。自分の体がどんな者でも、流は転生者なのだから、変な理由があってもおかしくない。だからこそ、別に真実を聞いても動じる気はなかった。

 しかし父親と名乗る人が自分を生贄と言い、お前は神を降ろすための贄なのだと説明してきた。それは想像以上に強烈な威力を秘めていた。

 

 頭がグラグラする。体に力が入らない。酷く気持ちの悪い汗をかく。息が上手くできない。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。流は自分の体が気持悪くてしょうがなくなった。

 

 しかし、グラグラ揺れ出した流の体を、奏が優しく抱きしめて、セレナが甘えてきた時に撫でるような優しい手つきで流の頭を撫でた。その後奏はキスをしながら、流の鼻を摘み、無理やり呼吸を止めてむせ返らせた。

 命の危機に瀕したことにより、勝手に肉体に力が入り、流は多少は自分を取り戻した。

 

「げほッゲホゲホっ……ありがとう奏」

 

『自分がどんな存在でも関係ないね、キリッ。とかカッコつけてたのに、いざ聞くとこんなに取り乱すとか、かっこわりいな』

 

「マジすまん」

 

 二人がやり取りをやっている間、画面の中の轟轟は話を止めてこちらを見ているように奏は感じた。

 

「すー、はー……俺は神の依代で作った奴らでさえ、なぜ動いているのかわからない。だが、動くのが元々のプロジェクトの内容なのか」

 

『みてえだな。あたし達が話していると、画面の語りが止まるみたいだから黙ろう』

 

「ああ」

 

 二人が黙り、少しするとまた画面の男が話し始めた。

 

《今までの話で流を相当傷つけただろう。だが、これは知っておいた方が良い情報なんだよ。何故ならプロジェクトでは依代に伝えてはならないと言われていたからね。あのくそプロジェクトリーダーは嫌いだから言っちまったわ、あはははは。さて次は俺と母さんの馴れ初めから話そう》

 

『「は?」』

 

 話の内容が180度変わり、男の表情が柔らかくなったのが奏にだけわかる。流は顔を見れないので気がつくことが出来ない。

 

《俺と母さんは神と呼ばれる存在の血を引く者らしいんだよ。もちろん神が人間とヤったとかではなく、神の力の代行者たる天使とヤって生まれたらしい。俺達の役割は流の体を作ること。母さんが川で溺れてて、水着から巨乳がポロリしていたんだ。何とか川から救いながら軽く揉んだんだけどさ、そしたら母さんは「異性に水着姿を見られてしまいました。責任を取ってください」とか言ってきたんだよ。母さんはいいとこの箱入り娘で、多分神の血を受け継いでいた家なんだろうな。そんな家から母さんを攫って、言われた通り結婚した》

 

 流は別の意味で奏に抱きついて泣いた。父親が母親を川から助けた理由が、巨乳がポロリしていて、触りたかったからだと判明したのだ。泣きたくもなる。

 

《だが、俺と母さんは子供を産めなかった。二人共神に近しい血を色濃く残した先祖返りのようなものだったんだよ。相性とかで子供が作れないとわかった俺達は自暴自棄になっちまってね。その時にプロジェクトDEUSに唆された。俺は頭はよかったから、言われた技術を習得して依代、俺達の子供を作った。母さんの腹で生むことが出来なかったけど、子供を作ることはできた。だが、やはり残酷な未来が待っていた。0歳児くらいの大きさまで育つと、そこから10年ほど流の体は動かなかった》

 

《調べてみると神の依代では人間の魂が宿らないらしい。宿ったとしても動かすに足る力がないのだとか。俺はブチ切れたね。そんな事言われてなかったから。だが、何故か中身が神ではなく、人間の赤ん坊が生まれた。色んな矛盾を孕んでいたけど、流は人間として産声をあげてくれた。そのあと俺達は抜け出して、お前を人間の子供として育てようとしたが、そんなことをする前に俺達以外のプロジェクトメンバーは全て死んだ。ノイズによってね》

 

 流も奏もおかしい点に気がついた。流は自分が人間として順等に成長したことを覚えていた。今は記憶にないけど、そうだったという事実だけは覚えている。

 18年前にソロモンの杖は起動してなかったし、フィーネが言うには他にノイズを操るものは製造されていないはずだ。それなのにプロジェクトの人間が皆死んだ。父親と母親を除いて。

 

 どう考えても何かしらの作為が働いている。それが何者による意図なのかわからない。

 そんなことを考えていた時、流の両親がノイズで死んだらしいことを思い出した。ここに来る時の書類で再確認したので間違いない。

 もしかして、役割が終わったから殺された?

 

《父親として言わせてもらえば、流はどうあれ俺の息子だ。母さんもそう思っている》

 

「……それを先に言ってから、研究員としての立場で言え」

 

『重要なことを先に言いたかったんだろ。親としての意見よりも重要だと思ったから、先に言ったんだろうな』

 

 流は奏に抱きしめられているうちに、体の気持ち悪さや震えは止まり、父親の後半の暴露で苦笑までできるように戻った。

 

《次に男親としてのアドバイスをしよう。女遊びは結婚するまでにしておけよ? 俺は母さんにゾッコンだったから、浮気とかしなかったけど、出会う前はそりゃ女遊びをしたさ。最高の巨乳を見つけるために! ってな》

 

「……」

 

『……』

 

 この男も流同様、シリアスを長続きさせることが出来ないようだ。しかも流よりも圧倒的に落差がひどい。

 

《あ! 俺がお前の体を作る時に手にいれた異端技術があるんだけどさ。女性の美容に良い異端技術とかもあるんだよ。昔の女性も美しさを長続きする方法に躍起になってたんだな。巨乳が垂れず、老化を遅らせ、性欲を旺盛にするなんていう異端技術もあったんだわ。やっぱり人間ってエロだよな。エロパワーが最強だわ。教えられないけど頑張って探して覚えろ》

 

『良かったな、父親と意見が一致してるぞ』

 

「俺は愛のパワーが最強って言ってるんだからね? エロパワーとは言ってないからね?」

 

『調やクリス、微妙に拒否しない切歌に翼、拒否できないマリアの胸を触ったりしているのに?』

 

「言うほどしてないからね? 両手では数えられないけど、それだけだから」

 

 奏が顔をひくつかせ始めたので、流はその場で土下座をして何とか許しを乞う。

 ()()()()許してあげるという決断がされた。

 

《だけど、複数の女に同じ時期に手を出すのはやめておけ? 二股以上は絶対にダメだ。俺は色んなおっぱいを楽しめるから逆に推奨なんだけど、殺されそうになるからな。ナイフで腹を滅多刺しにされた時は死ぬかと思ったわ。数週間入院したけど。絶対に複数の女性を囲うのはやめておけ。絶対に管理できなくなるから。それに甲斐性がないなら、結婚もするなよ? 互いに不幸になるからな》

 

「……」

 

『なんか言えよ』

 

「……奏を一番に愛しています」

 

『二番目は』

 

「……多分クリス」

 

『フンっ!』

 

「ゴハッ」

 

 流は轟轟が映る画面に腹パンで吹き飛ばされ、機械の角に背中をぶつけた。今の奏には何を言っても怒りそうなので、流は黙っていることにした。土下座の格好のまま、流は映像を見ることになった。

 

《……こんな風に流とは話さないで俺は死んだはずだ。後悔がないっちゃ嘘になるが、死んだ後に想いを残しておけたんだから良かったわな。母さんはビデオが苦手だから嫌だってさ……最後に、流の誕生日はお前が知っている通りだ。1月1日だけど、お前の肉体が製造された日はそこからちょうど10年前だ。あと流の体に神を降臨させる術を、知っていたかもしれない人は星の配列を見ていたから、もし流が神の力を欲するなら、星図と自分の製造日を照らし合わせてみてくれ》

 

 おちゃらけた後にまたシリアス。奏はなんだかんだこの男と流は親子なんだなと思った。流もシリアスからネタに走り、まあシリアスに戻るなんてことをよくする。

 

『……めぼしいものはありませんでした。ノイズに炭素変換されたような跡はありましたけど、それくらいですね。大体20人くらいの炭素がありましたよ』

 

 セレナはまるでタイミングを図ったかのように部屋に戻ってきた。セレナは流の心の支えの役割は奏以上には出来ないので、ムードを良くする事を心掛けている。基本的に楽しいことをしてたりすれば、ムードは良くなるのではっちゃけたりしているが、一応考えての行動なのだ……とセレナは後に言い訳として語る。

 

《そろそろ時間だ。流は神の依代で俺は天使の血を引く。星図を読み解き、おっぱいや尻を綺麗に維持する異端技術がある。これくらいは覚えていけよ。まあ、息子は幼い頃から優秀だったし、大学とかに行ってんだろ? 学生生活を楽しめ。社会人とか学生時代に比べてクソだから》

 

「ぐふっ」

 

 流は精神ダメージを受けた。何故か土下座をしている流の上に、座っていたセレナは落とされて、流の踵に頭を打った。

 

『……うう、痛い。小学校にすら行ってませんからね、流さんって』

 

「F.I.S.にいたんだからセレナだって行ってないだろ!」

 

『基礎知識くらいは習いましたからね? 日本でいう小学校は卒業した資格も持っていますし』

 

「……セレナ以下?」

 

『あたしは中学にも行ってたから勝ちだな』

 

 響未満の学歴の争いを始める三人だったが、画面の轟轟が話しているのに、いきなり爆弾発言をした。

 

《この施設にあるものは絶対に持ち帰らないこと。そして機密保護のために5秒後に自爆するから。じゃあな、我が息子よ》

 

「『『え!?』』」

 

 画面が急に切れると、アラームがカウントを始めた。

 

「殺す気か!」

 

 流はすぐにバビロニアの宝物庫のゲートを開き、中に退避する。5秒経ったあと、同じところにゲートを開いたが、瓦礫がなだれ込んできたので、本当に自爆をしたようだ。

 

「本当に自爆してるよ」

 

『流が知らない方がいい何かがあったのかね』

 

『……どうなんでしょう』

 

 セレナの元気が少しだけ無いことに、二人とも気がついて、セレナの顔を覗き込む。それに反応してセレナは逃げるように欠片の中に入っていった。

 

『セレナはなんか知ったっぽいな』

 

「だな。セレナが話さないということは、緊急性がないんだろうし、別にいいか」

 

『だな』

 

 二人は轟の家で手に入れた情報を整理したあと、フロンティアの制御室にテレポートした。なお、地下部分は崩壊していたが、上のある一軒家は普通に無事だった。

 

 

 **********

 

 

『第一段階、聖遺物との接触。第二段階、聖遺物との融合によって人間性を下げる。第三段階、聖遺物が人間の割合を上回る。第四段階、人間の魂の消失によって人形へと移行する……もしかして、流さんはイザークさんの件がなくても、魂を消失していたのでしょうか? なら、第五段階……』

 

 セレナは地下で見た情報は、流にも自分にも不要であったので、何とかして忘れようと、布団に頭を突っ込んで自分に忘れるように言い聞かせていた。

 そしてセレナは覚悟を決めた。

 

 

 **********

 

 

「グォォオォオオ!!」

 

 流がフロンティアに宝物庫経由テレポートを行うと、ネフィリムが制御室の壁面から、体を土塊で作って現れた。その姿は見ようによっては犬に見えなくもない。車ほどの大きさであるが。

 ネフィリムは流に飛びつき、右腕に本気で齧り付くが、腕を響のように、ぱくりとすることは出来ず、骨を齧っている犬のようにじゃれついている。

 

「いやさ、確かに芸を仕込んだのは俺だし、犬のような姿だったら、俺はお前を優しくできたかもしれないって言った。だけど、お前は完全聖遺物ネフィリムだろ! 犬の姿で媚びるな!」

 

 ネフィリムはその言葉に首を横に降って拒否してきた。ネフィリムは流と弦十郎と緒川と了子、これらには腹を見せてでも降伏し、シンフォギア装者には尻尾を振って媚を売る。

 上記の人達以上に、神獣鏡を使っている女にネフィリムは絶対に逆らわない。あれ(神獣鏡)は自分を消し飛ばせる天敵であることをネフィリムは生物型故の本能で悟っている。

 

『アニメでは響の腕を喰ったり、フロンティアを飲み込んだりしてたのに、色々台無しだよな、これで完全聖遺物なんだぜ?』

 

「言わないであげてくれ。さて、ネフィリムにお願いがある。このフロンティアの機能で、18年前の地球を中心とした星図と、28年前の星図を見せてくれ」

 

 このフロンティアは星間移動に使われた飛行船なのだ。今はネフィリムのテリトリーであり、キャロルの工房がある場所であり、装者達がシンフォギアを纏って大暴れしても被害が出ないところであり、弦十郎と流が申し合わせて手合わせをする時の場所になっている。だが、フロンティアは本来星間飛行船なのだ。

 聖遺物以上のオーバーテクノロジーで作られたフロンティアなら、これに乗ってきたカストディアンが見ていた星図が見れるかもしれないと思った。

 

 ネフィリムは犬のように吠えて、体から赤い光を漏らしながら地面と腕を融合させる。少しすると、流の上空に巨大な星図が現れた。

 

「七つの惑星に七つの力、それに七つの音階。キャロルはこれらのバランスが良かったから、カストディアンはこの地に来たのではないか? とか言ってたよな。水星から海王星をマークしてくれ」

 

 流がネフィリムに指示すると、地球を除いた水星から海王星までの惑星をマークした。それを18年前と28年前の二つを紙にメモした。

 

『なあ、地球をなんで省いてんの? 錬金術的には、水星、金星、地球、火星、木星、土星。水、金もしくはエーテル、不明、火、風、土になるから、ここに月か太陽を加える方がいいんじゃねえか?』

 

 キャロルもあまり星図を読み解くことはして欲しくないようで、ヒントしか教えてくれなかった。そんな中奏は流とともに、キャロルの錬金術の教室に出ているので、錬金術的な観点からの指摘をしてきた。

 

「地球は唯一生命が豊富に存在する星だから、命に関するなにかかね。月はカストディアンが作った装置だし、太陽かな?」

 

『何パターンかメモっておけばいいだろ。見ようと思えばいつでも見れるわけだし』

 

「だな」

 

 その後何パターンかを紙に書き示し、ネフィリムと軽くじゃれてから帰った。

 

 藤尭曰く、流とネフィリムのじゃれ合いを普通の人がやれば死ぬからね!? と言っているが、シンフォギアを纏った人や弦十郎とじゃれあっている流には理解出来なかった。




多分ティキよりも正確に星図を示してくれるはずのフロンティアさん。
この次は7月後半の修行パート後編まで飛びます。多分もう書き漏らしは無いはずですし。
父親の話で書き漏らしがある気がしますが、多分大丈夫でしょう。

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