戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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弦十郎と了子の場所の描写です。


#63『人間のやめ方』

 開放感溢れる大きな建物が湖の辺に存在している、彼女が用意しておいた拠点のひとつ。

 

 アニメのフィーネの拠点を彷彿とさせるそこには、クリスと了子がいた。

 

 

「……」

 

「いらっしゃい」

 

「なんで了子と一緒に入らないといけねえんだよ」

 

「流とは入ってるじゃない」

 

「……ふんっ」

 

 了子がジャグジーの中で両手を広げてクリスを誘うが、警戒した猫のようにクリスはツンケンして近づいて来ない。そこで了子は流の名前を出したり、このジャグジーの美肌効果を解説したりしてクリスはジャグジーに入ってきた。

 入ってしまってば緒川すら捕縛できる了子に為す術もなく捕まり、膝の間に借りてきた猫のように、ちょこんと座らされてしまった。

 

「私に師事を求めたのだから、これくらいは答えないとね」

 

「うっさい」

 

「本当私に対してつんつんよね。まあ、私が悪いんですけど」

 

 了子はクリスの頬につけられた傷、暴走した流を止めた時についてしまった切り傷を優しく撫でると、クリスはバツの悪そうに体をジャグジーの中に深く入れた。

 

 暴走した流を止めるために、クリスはシンフォギアを解除して抱きしめた際、頬に出来たメイクでは隠しきれない傷は、傷が出来た当初ならば跡を消すことが出来た。了子は身内にすら存在を秘匿している異端技術を、未だにいくつも持っており、軽い傷消し程度なら出来るくらいの技術も思い出していた。だが、了子の治療をクリスは拒否した。

 痛みは愛。傷もまた愛の証だとして、クリスはそのまま傷跡として残してしまった。

 

 顔に傷など残さない方がいいと了子は必死に説得したが叶わず、クリスは自分に必死になってくれた了子を思い出して、風呂程度で反発してしまった自分が少しだけ恥ずかしくなった。

 

「それにしても不思議ね。フィーネの時は、クリスなんてただの手駒としか考えてなかったのに、今では可愛い子の一人なんて勝手に思っているのですもの」

 

「了子はフィーネじゃないから、それでいいんだよ。弦十郎のおっさんと流に絆された、ただのアラサー手前の女だろ」

 

「……クリス、アラサーは余計よ? 今の私を見てどれだけの人が、私を見てアラサー一歩手前だと分かるのかしら!」

 

 クリスを一度横にずらし、了子が立ち上がって自分の体をクリスに見せつける。クリスもよく見てみると、胸元にある大きな傷以外は無駄にタマゴ肌だったり、瑕疵(かし)の一つもなく、肌も瑞々しく、枝毛もない完璧なボディー。

 

「いや、そういえばおかしくね? 了子って不健康な生活ばっかりだろ? 研究したり、食生活だってフルーツにステーキとか酷いバランスだったじゃないか!」

 

「これもフィーネ足る実力よ」

 

「……もしかして異端技術なのか?」

 

「YES!」

 

「錬金術はなんでもありだと思ってたけど、フィーネの異端技術はそれ以上になんでも出来るんだな」

 

 また了子に捕まって、クリスは了子の股の間に収まった。了子は流がするようにクリスの頭や顎の下を撫でながら話す。

 

「いまも昔も女は美を求めるものだしね。美容にしか使えない異端技術なら教えてもいいわよ。デメリットもほとんど無いし、戦闘には使えないから」

 

「……ん」

 

「この撫でられ方にはすごく弱いわよね」

 

「……うるさい」

 

 少しずつぬるま湯で二人の体温は上がっていく。クリスは普段しないような話を何となくしてみたくなった。バルベルデの後に色々されたが、フィーネに育てられたのも事実であり、胸糞な捕虜時代よりはマシだった。更に最近はこうやって無駄に優しくされるせいで、クリスも絆されかけている。

 

「なあ、弦十郎のおっさんをいつ好きになったんだ?」

 

「クリスも恋バナをしたいお年頃なのね」

 

「茶化すな」

 

「分かってるわよ。元々弦十郎くんとは悪くない仲だったわよ? でも、あの頃はあの方に想いを伝えることしか考えてなかったからね……流が色々台無しにしたけど」

 

 了子はあの方が流を直接か間接かは分からないけど、監視していることは理解していた。統一言語が使えるのにも関わらず、まともに使用できる対象が流の元にいる天羽奏という幽霊にだけ。更に話せる知識にも色々な制限がかかっている。

 だからこそ、了子は神が使っていた言語に限りなく近い言葉で、流を通してあの方への想いを伝えたが何も反応はなかった。あの時は本当は結構落ち込んだけど、少しだけ晴れやかになったのも覚えている。

 

「そうね、弦十郎くんに惚れた瞬間はやっぱりこの傷をつけられた時かしら。彼の蹴りには私への想いがいっぱい詰まっていたもの」

 

 了子もまさか両腕を折ったのに、足だけで参戦してくるとは思わなかった。その時の弦十郎の必死な顔と、胸を物理的に貫く激しい痛みで弦十郎に堕ちた。

 

「了子の言ってる痛みは愛ってただの被虐趣味なだけじゃねえか?」

 

「そんな事言ったらあなたもじゃない。顔にそんな傷を付けられたのに喜んでたし」

 

「痛みは愛とか言ってる癖に、好きな奴に電撃を流されたことがないのに偉そうに」

 

「それってネフシュタンの侵食抑制のためでしょ? クリスもなかなかハードな所まで壊れてるわね」

 

 了子が再び顔の傷に触ろうとしたので、クリスはその手を弾いて隣に座る。クリスはこの勢いのまま、流に聞いても『わからない』と言ってはぐらかすことを聞く。

 

「……すーはー、流ってどれくらい生きるんだ? 前に了子はネフシュタンで老化がほぼ止まってるって言ってたよな」

 

「言ったわね。私はほぼ止まってる。流はもう老化しないんじゃないかしら」

 

「は? いやいや、人間なんだからそれはありえないだろ!」

 

 再生を司るネフシュタンの欠片を融合させている了子ですら、老化がするのだ。いくら不朽不屈でも、人間の部分が老化するはず。それなのにしないなんて有り得ないとクリスは叫んだ。しかし了子はいつものように冗談をいうような顔にはならなかった。

 

「流はね、魂はない、体の半分以上が聖遺物。今回の山篭りで分かったけど、あと少しデュランダルの融合が進めば、食べ物を食べることも不必要になるわよ。もう流は人間の範疇にいないの」

 

「くっそ、だから言ってくれないのか……なあ、あたしが流を置いていかなくて済む方法ってあるのか?」

 

「それはおいおいね。クリスがもう少し大きくなったら、私がやってあげるわ。まだ貴女が流を本当に愛するべき人かわからないもの」

 

 人間としてどこか狂っている流についていけるのは、一度死んで人間の枠から外れたはずの奏と、流によって常人の()()()()()()()クリスしかいないと了子は思っている。そんな中、殺してしまった奏には悪いが、了子はクリスも自分の娘のように思っているので、優先するならクリスを選ぶ。

 

「この話はここまで。クリスはこれを読んでおきなさい」

 

 手を叩いて話の終わりを告げてから、すぐそこに置いておいた端末をクリスに渡す。

 その端末の画面にはクリスの弱点と書いてあり、ひたすら了子から見たクリスの駄目な点が挙げられている。始めは戦闘のことばかりだったのだが。

 

「……ん? なんでテーブルマナーが悪いとか、言葉遣いが悪いなんて書いてあんだよ」

 

「実際そうじゃない。そこら辺もおいおい直すとして、クリスと現状シンフォギアで一番強い響ちゃんの比較をして、クリスの勿体ない点をあげるわよ」

 

「一番強いシンフォギア装者なら小日向だろ」

 

「あの子の使う神獣鏡は異端技術メタだから強いけど、本来ならそこまで強くない聖遺物よ。流が面白がって戦闘データをインストールしたせいで、弦十郎くん達の武術を使えるようになっちゃってるけどね」

 

 了子の言う通り普通なら神獣鏡はそこまで強くないシンフォギアだ。出力も低いし、異端技術メタとはいえモロに喰らわなければ問題ない。だが、弦十郎仕込みの流の武術や忍術が使えると話は変わってくる。

 忍術で近づき、武術を当てている間に神獣鏡の光線を掃射するだけで、大抵の敵は倒せてしまうのだ。

 

「ああ、そういえばそうだったな」

 

「続けるわよ? 響ちゃんはシンフォギアのパワーを全て敵にしっかり当てているの。だけど、クリスは遠距離武器だからばら撒きが多いわよね」

 

「そりゃガトリング砲はばら撒く武器だし、小型ミサイルだって面制圧用だしな」

 

「でもそれって言い訳よね? ほかの技術を教える気は無いけど、参考になる部分は使おうと思うの。物体操作に長けた錬金術とか。流にはその一端すら教える気は無いけど、多分もう遅いのでしょうね……とりあえずクリスにはデフォルトで全ての技に【ロックオン・スナイプ】の効果を付けてもらうわ」

 

 2期や3期では適合率が上がり、パワーアップしたことによって使われなくなった技の一つ。指定した相手に当たるまで攻撃が追尾し続ける技だ。もちろんガトリングに付与出来るものではないし、クリスはミサイルにしか使ったことが無い。

 

「……ガトリングの弾にまで追尾機能を付けろってことか?」

 

「出来ないの?」

 

「やってやるよ!」

 

 反射的にクリスは答えたが、ロックオン・スナイプはただの補助技だが負荷が高く、今のクリスならそれをしないでさらなるばら撒きをした方が強い。だが、了子が言った通り全ての攻撃に追尾がつけられたら相当強いだろう。自分にはわからない何かを狙っているのかもしれないので、クリスは黙って了子が渡してきた技術指南書を読み解くのだった。

 

 

 **********

 

 

「なるほど! 高い所から落ちる時はああすれば、ダメージを抑えられるんですね!」

 

「生身でやるには少し危ないかな? 私の神獣鏡は飛べるから問題ないし」

 

「ねえ、まだ映画を見るの?」

 

「「「当然!」」」

 

「……これで本当に強くなるのかしら?」

 

 更に視点は弦十郎の屋敷に移る。

 

 

 ここには弦十郎の他に、マリアと響と未来がいる。屋敷についた日は山篭りの疲れが残っていたので、弦十郎は休息も鍛錬の一つ! と叫び、弦十郎お手製の料理を食べたあと、みんなで映画を見ていた。

 次の日は流の朝練と同等の鍛錬を行い、朝食を食べた後に弦十郎は今日も休みだと言った。

 どうやら装者三人の体は、昨日の山篭りで想像以上に疲れているらしい。映画を見終わったあと、戦闘に使えるであろうシーンを何度も見て、軽く体を真似て動かす。今日は休息日なので、軽くで済ませて、また別の映画を再生し始めた。

 

 マリアだって流や響に、弦十郎の鍛錬が食べて動いて映画を見て寝る。その繰り返しであることは聞いていたが、まだまともに体を動かしていない。

 確かに山の疲れはあるようだけど、調の強くなると言ったあの真剣な表情を見たあとだと、遊んでるとしか思えないこの修行に疑問が浮かぶ。

 

 マリアはお手洗いと言って席を立ち、廊下に出て流に連絡を取った。自分たちが女性だから弦十郎は手加減をしているのではないか? と思ったからだ。

 

『……どうしたマリア』

 

「少し質問があるのだけど」

 

『俺が答えられる事にしてくれよ? 流石に父さんが今まで借りた映画の本数は分からないよ?』

 

 流はいつものように始めはとぼけたような事を言う。マリアから見て、流はクリスや調と話していても、本心というか、素の自分を見せていないように思える。F.I.S.の時の自分のように思えるのだ。悪によって正義を成そうとするために、甘えた自分を押さえ込み、フィーネを語るマリア・カデンツァヴナ・イヴのように思えた。

 まあ、大衆の前でフィーネを語る前に、流によってその野望は砕かれてしまったのだが。

 

「司令自身なら分かりそうよね。それで、昨日からずっと休息と軽い運動、そして大部分を占める映画鑑賞。こんな事しかしてないのだけど、もしかして手加減されているのかしら? これで強くなるとは思えないのよ」

 

 マリアの言葉にうーんとうねった後、流は弦十郎のやり方がわかったようで声を出す。

 

『物凄く手加減されてるな』

 

「やっぱり!? これで本当に強くなれるのかしら? まず流はどんな修行をしていたの? あっ、山篭りとかはなしよ?」

 

『分かってる。まず俺はシンフォギアを纏えないから、動体視力とかのブーストもないわけよ。だから、ひたすら見えるようになるまで父さんに殴られ続ける鍛錬、それに科学的に考えられた効率的な体の壊し方。もちろん身長とかが伸びないようなやり方はしてなかったみたい。その後ひたすら、ただひたすら型通りに動かし続ける。それを半年くらいかな? やっべ、思い出しただけで吐きそう』

 

『……ちょっと流くん! 本当に吐きそうじゃないかって、お願いだからこっちに来ないで! 指令室で吐くのだけはやめて!』

 

 流は喋れば喋るほど吐き気が増してくるのか、最後らへんはは息絶え絶えだった。藤尭がまた流に絡まれているようで、マリアは両手をあわせてお祈りをした。

 

「そ、そう。一応私は流に比べたらまだまだだけど、基礎はできていると思うの。型練習は必要だと思うけど。その後は何をしたの?」

 

 マリアが聞いた話では、流は6歳の時にノイズに襲われ、一人だけ生き残ったと聞いている。その後すぐに体を鍛えたと言っていたが、6歳といえば、F.I.S.に攫われた時のセレナくらいの年齢ではないだろうか? そんな時にひたすらの反復練習なんて、良く耐えられたなとマリアは若干引いた。

 

『その後? その後は割と楽しかったよ。もちろん忍術とか、了子ママに勉強を習ってたけど、弦十郎父さんの次の修行はこの前やった山篭り。その後は塩とか必要なものだけを渡されて、あの山でサバイバル生活かな? 山の中でも端末で勉強をさせられたのは辛かったね。確か7歳くらいだったはず。小学校に行けとか言われてた気がするし』

 

 マリアは空いた口が塞がらなかった。弦十郎は流に虐待でもしているのかと本気で思ったが、そこまでしないと人為的に弦十郎のようなスペックの人間を作れないのだろう。マリアは本気で引いた。

 

『その次が無人島に放り投げられたね。多少の塩と丈夫なナイフとクナイ、あとは少しの薬だけ渡されて、夏の間放置されてた。火の起こし方も知ってたし、塩はなんとか作ったり、自生している草花とか、魚や小動物を食べて過ごしたね。最終的にはログハウスを作ったのはいい思い出だな。渡されたナイフが滅茶苦茶丈夫でさ……今考えると聖遺物だったのかもしれない。シンフォギアに使えない奴だろうけど。きっと竜宮にありそうだな』

 

 ちゃんと監視していたのよね!? 本当に虐待じゃないわよね!? F.I.S.も色々酷かったが、ある意味それを上回っている弦十郎達の所業に、マリアはふらつく体を壁に手をついて抑える。

 

『……って、さっきから反応がないけど大丈夫?』

 

「え、ええ。私達は手加減されていた方がいいことがわかったわ」

 

『マリア達は戦い方が決まってるから、あとは技を磨くだけだろうし、弦十郎父さんに任せておけば大丈夫。あと楽だと思うのは、今の休息日だけだから。応援してるよ、きっと泣きたくなるだろうし。じゃあまた』

 

「あ、ありがとう。では、また」

 

 マリアは流の話しを聞いて色々理解した。これは嵐の前の静けさであることに。

 

「今日は全力で休むべきね!」

 


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