09/01 22:30 エピソードの修正。前にやったネタをやってしまっていたので、その部分を修正しました。
切歌の
「翼さんがとっても怖いデス」
「翼にとって風鳴、特に八紘は色々な思いがあるからね」
バイクの後ろに切歌を乗せて、翼とともに走らせる。途中でバイクに慣れていない切歌のために休憩を入れながら、風鳴八紘邸に近くまで来た。
セレナが切歌を超えた宣言していたが、切歌も食事環境が良くなり育っているので、セレナはまだ負けていることがわかった。何がとは言わないが、タンデムで切歌が落ちない様に、背中に抱きついていたので判定した。
本当の父親ではないが、翼は八紘こそが父親であると思っているし、娘として八紘を愛している。そして八紘は翼を思い、風鳴に縛られないためにあえて突き放してきた。愛故にである。
アニメでは屋敷の護衛に行った時に、八紘の想いや翼の部屋が、昔から変わらない形で綺麗に保存されていた事から、八紘に愛されていたことを再確認して、オートスコアラーのファラを倒す。
もうそのような歴史はありえないが、翼が強くなるためには八紘との仲直りは必須だろう。
「何か言ったか?」
自分の名前が出たからか、翼は目ざとく反応してきた。
「翼のバラエティ番組が最近なくてつまらないって」
「あ、あれは私が出たくて出ているわけではない! 緒川さんがああした方が良い結果に繋がると言っているからであって」
翼はバラエティ番組にあまり出たがらない。逆にマリアはどんな番組でもある程度楽しめるので、ガンガン出ていた。マリアはすぐに緊張してしまうが、お腹がある程度満たされていると歌姫マリアになれる。
なお、安い飯だと歌姫マリアタイムが減るらしい。
「私はそんなこと言ってないデスからね!」
「さて、翼の数年ぶりの帰還だな」
「本当に御父様があのお言葉を言っていたのだとしたら……」
「もしそうだとしたら色々あるんだろ。俺は何も知らないからね? それはそうと、なんで髪を下ろしてるの?」
『翼の音符の髪型もいいんだけど、下ろした髪の姿だと、凛々しさよりも可愛さが先に来るな』
翼が暗い表情になっていたので、流はいつもとの違いを聞くことで、無理やりそれを払拭させる。
実際翼とマリアと調の結んでいる人達は髪を下ろすと、また違った可愛さがある。調はおかっぱで可愛いし、マリアはあの角みたいなのがなくなる。
「えっとだな、朝食も食べずに出てきたわけだが…………気が早って忘れてしまった」
「あとで結ぼうか」
「頼む」
ピリピリしていた空気が霧散したので、流の後ろにいる切歌は胸をそっと撫で下ろした。
**********
八紘邸の近くで身なりを整えたあと、勇んでやってきたが、やはり足取りの重い翼に連れられて、アニメで翼が伏魔殿と称した屋敷の門を開けた。
流も何度か来たことのある屋敷は、門から見て右手に要石が
屋敷に繋がる階段を上がってくる途中に、監視カメラが設置されていたので、屋敷に向かってきていたことはわかっていたのだろう。和服の八紘が黒服の護衛を何人か連れて現れた。
「事前の連絡もなく来るとは、やはり弦十郎の息子のようだな」
「どうせ階段の下辺りから分かってたんだろ?」
「それとこれとは別であろう。そして君がF.I.S.より編入した暁切歌くんだったな。君や君のお仲間の活躍は聞いている。良くやってくれた。茶でも出そう、中に入ってくれ」
流や切歌とは目を合わせるが、やはり翼には目を合わせないようだ。
「あっ、御父様!」
デジャヴュを見ているかのように、こちらに背を向けて歩きだした八紘に、翼は何とか声を掛ける。
「お前は何故ここにいる。先日フロンティアを襲撃した犯人はまだこの国にいる可能性がある。務めを果たすために、今すぐ戻るといい。この風鳴の地を踏みしめている暇などなかろう」
「……ぶ、んー!」
翼は流が切歌を通して聞かせた音声は、流が作った偽物の八紘の声なのではないか? と感じた。
だが、翼が知る限り、流は親しい人が傷つく事は極力回避しようとする。自分の身や魂まで捧げるほどの信念だ。そんな彼は家族間のイザコザという精神的な傷についても絶対につついてこない。そんな所が流を信頼し、信用できる点の一つでもある。なので、あんな音声を作って此れ見よがしに聞かせてくることはありえない。
翼が苦い顔をして、父親の言葉の意味を考えている横で、流は切歌の口を後ろから抱きしめるようにして、割と本気で抑えていた。
切歌は昨日の録音音声と、目の前の八紘とのギャップでツボってしまい、吹き出しそうになっていた。切歌はアホな事ばかりするが、空気を読むことには長けている。
この場面で笑うのは不味いが抑えきれないと思った切歌は、流に目で合図をして口を塞いでもらった。流がアイコンタクトを受けてから口を塞ぐまで、コンマも掛からなかったのは忍術や武術の賜物だろう。
そんな流と切歌の接触を見て、八紘は一瞬眉をひそめたが、すぐに仏頂面に戻った。その変化に気がついた翼も隣を見て、切歌と流の行為に呆れ顔に変わった。
「お前達は茶室の準備をしておいてくれ。護衛ならそこのふざけた男がいれば事足りる」
「分かりました。では、監視に戻ります」
黒服の一人が返事をしてから、他の人を連れて屋敷や監視施設へ足早に、だが足音などを一切鳴らさずに消えていった。
八紘に続こうとした切歌と流が、足の止まっている翼の肩を叩き、踏み出す力を与える。翼も進まなければ何も始まらないことはわかっているので、一つ頷いてから進みはじめた。
**********
屋敷を通り過ぎ、その後ろにある庭園を進む。風情のある美を意識してに整えられた庭園に、切歌は「ほえ〜」や「デ〜ス」なんて声を口から漏らしながら付いてくる。
流は国の官僚や鎌倉の要人と会う時、向こうから二人きりで会おうと言われても、忍びやエージェントが隠れて護衛しているものなのだが、八紘と会うときはそれが全くいないので気分がいい。呼び出した癖に殺意の交じる敵意を持って見られるというのは、あまり気分のいいものではない。
翼がちょいちょい不安で止まるので、一度その場で立ち止まってもらい、流がいつもしているガングニールの欠片のペンダントを、翼の首にかけた。
「い、いいのか? 前は入院している時に貸してもらったが、これは肩身離さず付けている物であろう?」
「今回は翼にとって正念場だろ。奏も見届けたいだろうしね」
『だな。この距離なら流から離れても大丈夫みたいだし』
欠片からあまり離しすぎてしまうと、奏とセレナは強制的に欠片の家の中に押し込まれ、流が持つまでは出てこれなくなるらしい。離れる訳では無いので、このくらいの距離なら問題ない。
『……お茶ってやった事無いんですよね。流さん教えてください』
『良いけど、今日は無理だからね? あとセレナってそういう事やりたいの?』
『和服って可愛いじゃないですか。それに知らない事を知っておくに越したことありませんからね』
『流の茶菓子は美味いしな。翼にせがまれて作りまくったし』
『楽しみです』
セレナがいつの間にか、正月に来ていた着物に着替えていた。今さっきまではライダースジャケットだった筈なので、霊体である二人は割と簡単に着替えられるのだろう。あまりその事を突っ込むと怒るので、詳細は聞かない。
「……ありがとう。もう大丈夫だ、心配かけさせた」
「翼さんが緊張している顔はレアなので、全然問題ないデスよ!」
「最近はあまりそういった顔はしないからな。行こう」
子供の頃は緊張しっぱなしだったり、泣き顔、そして怒った顔ばかり見ていたが、最近の翼は強くなったなと流は感じた。奏が翼は強くなっていると言っていたが本当のようだ。二人は翼に促されて歩き始める。
茶室のために建てられた小さい建物が見えてきた。鎌倉にあるものよりも金が掛かっていないように思えるが、それでもマリアが聞けば吹き飛んで気絶するほど金がかかっているはずだ。
「八紘」
「……お前は目上の人間に対する作法は学ばなかったのか?」
「懇切丁寧に敬った方がいいならするけど?」
「別にいらん。して?」
「茶を点ててくれるなんて想定してないから、準備をしてないんだけど」
「お前にそんな気遣いを期待していない。全てこちらにある」
弦十郎曰く、八紘の点てた茶は美味い。との事だったので、一度は茶会に参加したいと思っていた。参加するからにはルールを守った方が楽しめるので、一応聞いておいたようだ。
八紘に連れられて建物に入る。彼は主催として先に行っていると言い、奥に入っていった。
「ど、どうすればいいデスか? お茶と言っていたので、もっと軽いものかと思ったら、日本の伝統のお茶の事だったのデスね。全くわからないのデスよ」
「そう身構えなくても問題ない。御父様もそこら辺は理解しているはずだ」
「とりあえず靴下を脱いで、用意されている白い靴下に変えて」
「畳が汚れるからデスか?」
「なんだ知っているではないか」
「前に特集で少しだけやってたデスから。翼さんが出ていたやつで」
寄付で相応しい格好に変えて荷物を置く。軽く茶会の流れを切歌に説明しておいたが、そんなに堅苦しいものではないだろうと流も翼も思っている。未経験者にそこまで求めるはずがない。
正客として翼が一番に入り、その次に切歌で流の順に入っていく。切歌は言われなくても右足で敷居を超えるなどの単純な作法は問題ないようだ。これがクリスなどだったら色々大変だっただろう。
「今回は話す場としてここを使っているだけなので、堅苦しい作法などは不要だ。それでも暁くんはせっかくだから、最低限の作法は学んでいって欲しいとは思っている」
「わかりました、デ」
切歌はいつもの口調もギリギリで止めて、少しだけ緊張しているように見える。翼は父親との対面に緊張している。流は茶器などを見て値段当てを頭の中でしていた。流からしたら娘離れ出来ない翼のファン2号なので、特に気負うことは無い。
八紘が横に置いていた箱から茶菓子を取り出した。既に小皿に一つずつ分けられたそれを三人の前に置く。
「どうぞ。本来なら自ら回ってきた器から取り、懐紙という物の上に置くのだが、今回はいいだろう。このタイミングで茶菓子は食べ切るのが作法だがそれもいい」
「わかりました、デ」
「口調も直さなくていい。そこの馬鹿は直さないことだしな」
「わかりましたデスよ!……お茶菓子とっても美味しいデス!」
「それは良かった」
その後も茶碗の持ち方から飲み方、次の人への渡し方などを八紘は口にしていた。それに切歌は大きく反応しながら、色々質問していく。切歌はこういった初対面でも簡単に距離を詰め、話を合わせるのがうまい。逆に調はそれらが苦手だが、しっかり物事を考えることが出来る……頭に血が上っていなければ。
「……お茶はこれくらいでいいだろう。今回ここにきた目的はなんだ? 防人の務めを放棄してきているのだから、それ相応の理由があるのだろう」
全く目を向けていなかった翼に目を向けて、厳しい言い方で要件を聞き始めた。
切歌は正座が辛いのか、足をもにゅもにゅしている。そんな切歌の足を流が指で突こうとポーズを取ると、切歌は泣きそうな顔で顔を横に振っている。
「絶対駄目デスよ」
「もし俺の足が痺れてたらどうする?」
「もちろん突くに決まってるじゃないデスか」
「よし」
「洒落にならないデスから、見逃してほしいデス」
小声で二人は話していたが、八紘が少しだけ眉をピクピクしている。そして翼も緊張していた顔から一転、苦笑している。
「お前は少しは空気が読めんのか?」
「俺なりの空気の読み方だったんだよね。あと切歌は足が治ったら、足を交差させて、時々上下を変えたりすれば痺れにくくなるよ」
「先に言って欲しかったデスよ」
切歌は足を揉みながら、ぶつくさ言っている。流も真面目な顔に戻り、翼に話すように促す。
「……ふぅ、御父様。御父様は私が風鳴には不要だと仰っていましたが、それは」
「言った通りだ。お前は風鳴には不要」
「なら、私は御父様にとって……い、要らない存在なのでしょうか。私は
その言葉を聞いた八紘は、翼から流に視線を動かし、物凄い顔で睨んでいる。
八紘は翼との関係性については嘘を付いたことがない。思った事を口にしていたし、子供の頃は八紘も整理がついていなかったので酷いことを言ったようだが、それでも嘘はついていなかった。
風鳴にとって翼は『いない方が翼自身が幸せになれるから』不要。こんな場所に来ていないで『やりたい歌手に復帰するために』早く戦場へ戻れ。『翼がやりたい』務めを果たせ。
八紘を本音を知っている流にとって、これらの八紘の言葉の副音声はこのように聞こえる。
そして八紘は翼に嘘偽り無くありたいと思っているので、回避できない聞き方をされて困っているようだ。
翼がこんなにも直接的な聞き方をしたもの、切歌と流が悪巧みをした結果だ。
「……少し席を立つ。流は付いてこい」
「ああ」
翼の言葉には答えず、八紘は流を連れ出して建物を出た。流はポケットから
**********
少し建物から離れ、八紘が翼達のいる建物を見てから流に切り出した。
「あの問い方はお前の入れ知恵だろ! 翼協定はどうした!」
「俺は翼に何も教えてないからね? 聞くなら直接的に聞いた方がいいんじゃない? とは言ったけど」
「翼が自ら気がつくわけがなかろう! 前の音声を聞かせたな! あれだけはやめろと」
「俺は聞かせてない。翼が俺の部屋に勝手に入って、勝手に聞いただけだ」
流の言葉に驚いた顔をしてから、八紘は自分の頭を抑える。流の言った言葉が信じられないようだ。
「翼がお前の部屋に勝手に入る? 翼がそんなことするはずが無い!」
「俺だって勝手に翼の部屋に入るし、そんなもんだろ」
「それは片付けられない部屋を片付けるためのはずだ」
「やっぱり分かる?」
「翼をどれだけ見てきたと思っている!」
コホンと八紘は咳払いをして、声の大きくなっている自分を戒める。
「協定違反はしていないと?」
「ああ。翼に教えない。翼に手を出さない。翼を不幸にしない。三つの誓いは守っている」
流は八紘と誓った三つの誓いとやらを口にしたが、八紘は全く信じていない顔をしている。
「確信を得られていないのであれば、今まで通りで問題ないか…………それはそうとして、お前は翼の婚約者としてどこまで手を出した?」
「ぶっふ!! げほっゲホゲホ。待て、いきなり話をそっちに持っていくな!」
流は急いで、服の中の端末を怪しまれないように叩いてぶっ壊す。八紘の本音を聞かせるために通話をしっぱなしにしていたのに、絶対に本人には知られたくないことが知られてしまったかもしれない。
「不能ではないのなら、あの電話のあとに手を出したのだろう? 父親が渋々認めたみたいなものだからな。お前だって手を出したくて仕方ないと言っていたではないか」
八紘は血の涙のようなものを流しながら、心底悔しそうに呟いた。翼を嫁には出したくないし、異性に汚されたくはないが、流が手放すと下手したら父親が手を出すので、何とか、何とか認める。
「出してない」
「あの可愛い翼と同じ屋根の下に居て、手を出せるだけの状況があり、それでも出していないのか?」
「だから、出してないって!」
流はデジャヴュを感じた。最近このようなやり取りをした気がする。具体的にいうと、八紘と電話先で同じ話の流れになった。
「……なるほど、電話では否定していたがやはり不能。風鳴には不能をも治せる薬があると聞く。それを取り寄せてやっても良い」
八紘は悲しそうな顔をしながら、流の肩を抱き、うんうんと唸っている。流は反射的に
「いい加減にしろ! てめえら親は俺が手を出さねえと、毎回不能野郎の烙印を押しやがって! 翼に手を出していいなら、毎夜のごとく手を出してやるわ!」
「……お前くらいの年の奴がそんなに性に謙虚であるわけないだろう。だが、そこまで言うなら試練を施す。私の娘に手を出すなら、私を倒してからにしてもらおう!」
「またそれか! 親ばかはそれしか言えねえのか!」
八紘は言ってみたかったセリフを叫んだ。その後いつの間にか八紘の側に来ていた黒服が、二本の鞘入りの刀を八紘に渡した。その内一本を流に投げてきて、八紘は鞘から刀を抜いた。
流はイザークと同じ流れである事に突っ込みを入れたが、ガングニールの欠片は翼が持っているため、ここには奏もセレナもいないので、更に突っ込んでくれない。
流も鞘から刀を抜いて、八紘と同じように構えた。
「弟の馬鹿息子を切り捨てる」
「映画仕込みの剣術に勝てるわけがねえだろ」
刀は刃で攻撃を受けてはいけないものだが、そんなことは関係ないとばかりに流は受ける。八紘はすり足で近づいてきて、翼のような速さを重視した剣術で刀を振るってくる。
八紘はあの弦十郎の兄である。弦十郎ほどの超人ではないし、緒川のように忍術が使えるわけではないが、その太刀筋は翼をも超えている。
ぶっちゃけ流は刀で相対したくないのだが、相手がその気なので付き合うことにした……全力で。
八紘は相手を両断するのではなく急所を突いたり、腕や顔に傷をつけるために、軽い剣の振り方をしてくる。本気で殺す気の立ち回りである。
流だって生身を真剣で切られれば
風なる刃を携えた
「流、刀を」
「ああ」
流は使っていた刀を納刀し、翼にそれを渡した。翼はそれを受け取るとシンフォギアを解除して、八紘に一礼してから構えを取った。
流は二人から離れると、茶室から走ってきた切歌が到着した。靴も履いていないので、本当に急いできたようだ。
「翼さんがギアを纏って、空をビューンって飛んでいったんデスよ! いきなり刃物を打ち合う音が聞こえたから、お父さんが襲われたのではないかって、必死に飛び出していったのデスけど、なんで流が翼のお父さんと戦っていたのデスか?」
切歌の説明で翼がシンフォギアを纏っていた理由がわかった。父親を助けるために最も早く移動する手段を取ったようだ。空を飛んだというのは【炎鳥極翔斬】の事だろう。XDモード以外で翼が飛ぶにはこれと【羅刹零ノ型】くらいであり、移動に使うなら前者だろう。
「色々あったんだよ」
「翼さんと婚約してる事とかですか?」
「……それはまじで言わないでね? クリスとかに殺されそうだから。それはいいとして、今から刀の達人たちが戦うから見てろ、普通なら見れないから」
クリスに首元を噛み砕かれる想像をして、噛み跡に痛みが走ったように感じた。切歌もすぐにその話題をやめて、翼と八紘の相対を見るのに集中し始めた。流は目線はそのままにカメラを構える。
「いざ!」
「来い!」
翼の突きから戦いが始まった。翼が常に先手を取り、素早さで翻弄しようとしている。だが、翼はただのハーフパンツに靴なので、足の向きで次の移動を予測されてしまっている。
少しずつ八紘の後の先によって、翼が追い込まれていく。それでもステップを変えたりして何とか逃げ延びているが、翼が負けるのも時間の問題だろう。
「翼! もっと色々な術をお前は持っているだろ!」
「そうデスよ! 頑張ってください!」
翼は観客の声に獰猛な笑みで食らいつくが、八紘に上手くあしらわれてしまう。あと数手で負けると言ったところで、翼にある声が聞こえた。
『踏み出せ翼!』
「え?」
翼は
「……参った。はぁ、強くなったな、翼」
「お、御父様……御父様!!」
「待て! 刀を置いてから!」
翼は父親の褒める言葉に涙を零し、刀を持ったまま抱きつきに行った。八紘の胸の中でわんわん泣く翼は、もう見なくなった昔の泣き虫翼だった。きっとこの時を持って、翼は家出をして止まってしまった八紘との時間が動き出したのだろう。
『安易に声を掛けるな。てか、声掛けられたのかよ』
『……いや、そんな事は無かったはずなんだけどな。ご、ごめん。あたしは何も払わされてないってことは、代償は流が』
『大丈夫、体も考えも意思も、
奏も翼のように涙を流しながら流に謝る。こちらの涙は恐怖によって流れる涙だが。
下手したら今ので、奏はイザークのように消えていたかもしれないのだ。だが、何もペナルティがない。なら支払ったのは流ではないか? と奏とセレナは流が嘘をついていないか見るが、流は嘘をついていないのが分かる。
そう、問題ないのだ。今消えたのは、流が持っていたアニメの記憶。もうそれが必要な場面はないので、
最後の流の喪失は今後使われないかもしれない設定です。5期の敵が想定している類のモノなら、多分この設定が生かせるはず。
次回あるエピソードと修行の描写をする気なのですが、下手したら分割2話投稿になります。アプリによる取得やお気に入りがややこしくなるかもしれませんので、ご了承ください。