戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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題名の割に伏線のための話が多くなった回。


#58『英雄故事(ハードモード)』

「あは、奏、あはははは」

 

「常在戦場、私は防人。大丈夫、常在戦場、私は防人……」

 

「弦十郎くんとの結婚、弦十郎くんとの結婚。アラフォーになる前に……」

 

「初めて体験しましたが、これは無茶苦茶ですね。立てない、忍者なのに」

 

「オートスコアラーがこんな所で……ガクっ」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

「お前ら情けないぞ! 日々の鍛錬と気合が足りんな」

 

「……ケロッとしてる父さんがおかしい! クリスと調とキャロルが介護しないと死んじまう」

 

 本気の山篭りという鍛錬が終わり、ゴールである広場を見れば死屍累々であった。流、翼、了子、緒川、ファラ。了子を除き、幼き頃より鍛錬を重ねてきた者たちと、オートスコアラーは何とか意識を保っている。流は装者達を介護しようとしているので、幾分か余裕(気合いで動いている)があるようだ。

 

 その他装者達やキャロルは地面に突っ伏して、ぶっ倒れている。効果音で表すならば『チーン』となっているだろう。一部はズボンがずり落ちたりしているが、咎めたり揶揄ったりする者はいない。

 そして了子はただひたすら、自分をあるワードで奮い立たせてやり切った。

 

 

 何故ここまでの、乙女達が晒してはいけないような格好をしている場面が出来上がったのか。それは少し遡るのだが、昨日の夜にも交流があったので、そこまで遡る。

 ちなみに何だかんだ動けている流が、カメラを秘密裏に構えたのは言うまでもない。

 

 

 **********

 

 

「「「「ご馳走様でした(デース)」」」」

 

 本気の山篭り宣言のあと、流は装者達にはあんなものやらせてはならないと、色々と弦十郎に言ったがもちろん通らなかった。学校があるが、学校以上に良い体験ができるのならよかろうとかで、公欠にするように緒川に指示していた。

 説得が通らず、流は落ち込む翼と手を取り合いながら帰ってきた。いつもならクリスやザババコンビが絡んでくるが、流と翼の雰囲気が低すぎたので、距離を取っていた。

 

 そんな状態でまともに料理ができるわけがなく、流は調の調理のサポートに立って何とか彼女の負荷を減らした。流が欧州に行く前の調の調理は、味の調整に割と時間を食ってしまう不器用な料理の仕方だった。丁寧なのだが、直感が足りないと思っていた。

 しかし現在は、シュルシャガナを彷彿とさせる無限軌道を使ったナイフ捌きに、味の調整もすぐに整えられていた。

 

 調のうまい日本食を食べ、やっと流はテンションが戻ってきた。露出の高い部屋着の乙女達を見て、元気が出た可能性もあるが、露出だけならセレナがやっていたので、きっと違うだろう。

 皿洗いも料理の一環と口にする調の横に立って、料理の手伝いの続きをする。

 

「味の調整に時間がかからなくなったね」

 

「うん。響さんが友達を連れてきて、クリス先輩も友達に押し切られて来た時に、たくさん作った。その時に理解した。あのままだと駄目だって」

 

 シンフォギア戦闘の考えについてなら締まる内容だが、調が言っているのは料理について。だが、キッチンは戦場だと思っている二人は至って真面目だ。流は頷きながら続きを促す。

 

「それで流がやってるみたいに頭の中で味を考えて、ササっとやったら出来た。何回かやってたらズレがなくなった。でも、響さんがカツ丼をわんこそばみたいに食べたのは少しだけ怒ったけど」

 

 調や切歌はカツ丼が結構好きだ。世界の敵にならずに済んだ時に、作ってもらった料理だからなのだが、流はその事に気がついていない。ずっと料理をしているので、一々いつの献立はあれなど覚えているわけがない。

 

「一々オタマで確かめて分量でああやって、とかやってたら時間が足りないからね。欠食児のように貪り食う人いるし」

 

「クリスは食べ散らかす」

 

「マリアは冷ましてあげないと、いつまで経っても食べられないしね」

 

「ふふ」

 

「ははは」

 

 二人は笑い合って話している内に洗い物が終わった。

 

「……調ってさ、調理中にあのフライパンちょいちょい見てるよね」

 

 流は壁に掛けてある、奏に貰った鉄フライパンを指さして言う。

 

「うん。流にはキッチンのあれを除いて全てを使っていいって言われている。だからなのか、使えないあのフライパンが気になる。初めてキッチンに入って触ろうとした時、子供を守るライオンみたいに威嚇されたから、それ以降触ってないし」

 

 調が料理できる人であることは知っていたが、F.I.S.メンバーが来るまでは、クリスと二人でこの家に住んでいた。

 そのクリスは台所の破壊者の称号を得るくらいやばい存在だ。クリス自体は力まなければ普通に料理ができるのだが、流に食わせようとすると毎回爆発させる。その時に何度か奏フライパンを破損させているので、キッチンで料理禁止(レンジでチンなどはOK)になっている。

 もし破ったりフライパンに触れたら、直接お尻ペンペン回数応相談のお仕置きが待っている。

 

 皆の前でやるので、高校生にとって恥ずかしすぎる罰ゲームのはずだが、ある程度のサイクルでクリスは禁を破る。

 

「明日から調も使っていいよ」

 

「いいの!!」

 

 流は調なら問題ないかな? と気軽に許可を出したのだが、調は飛び上がって流に抱きついて、切歌にも抱きつきに行くくらい嬉しかったようだ。

 

「お、おう。そんなに嬉しかったのか?」

 

「当然。だって、あのフライパンを使っていいってことは、このキッチンの全てを掌握したと同じ。この家の台所を任されたってこと」

 

「う、うん?」

 

「これが嬉しくないはずがない。明日から楽しみ」

 

「そうか。まあ、色々あるし用途別に使うんだよ? あとしっかり後処理もしてね」

 

「当たり前。私はクリス先輩とは違う」

 

「もし後処理しないで放置したら、クリスと同じお仕置きね?」

 

「え?」

 

 その次の日から調は奏のフライパンをよく使うようになった。片付けは完璧に行えるのに、定期的にフライパンの後処理をしないで放置することがあり、調はお仕置きを受けることがあった。

 

 ちなみにお仕置きイコールお尻ペンペンという考えを、流に植え付けたのは奏だ。そしてその初めての餌食は幼き日の翼だったりする。大抵こういう悪巧みで、奏が絡む事の被害者は翼だ。

 

 **********

 

 

「はぁ〜。マジで気持ちいい。風呂はやっぱり最高だな」

 

 欧州ではシャワー、そのあとサンジェルマン達と戦いリディアンに宝物庫経由のテレポート。S.O.N.G.に搬送され、初イグナイトのキャロル戦いに介入して暴走。また搬送されて、次はエルフナインを連れてシャトーに乗り込む。そのあと弦十郎にボコボコにされた。

 欧州を出る前に入って以降、一度も湯船に入ってなかった。搬送された時に体を拭いてもらってはいたが、日本人たるものやはり湯船に入らなければ、落ち着くことも出来ないだろう。

 

『でもさ、なんで風呂まで大きくしたんだ?』

 

『泳げるからいいですけどね……あっ! 生身のお風呂の感覚を味わいたいので、憑依してもいいですか?』

 

『それあたしも味わいたい』

 

「いいよ、口は貸さないけど。でも何でだろ? まあ、大きいおかげで女性陣はみんなで入れるわけだし」

 

 流の家にある風呂は家同様無駄に広い。流は全裸だが、セレナや奏に体を貸しながら、何故こんなに大きくしたのかを考えるが、流は特に思い出せない。

 セレナが流の体を使ってオイタをしているが、もう慣れたので反応もしない。ちなみに大きい風呂にしたのは、いつもの理由になる奏が、せっかくなら泳げるくらいにしようと言ったのが原因。だが奏も覚えていない。

 

『お風呂で女子会とかしてますからね。流さんが入ってこられないところで話したいとかで』

 

『7人が同時に入っても余裕なのはどうかと思うけどな』

 

「普通サイズの風呂場もあるじゃん。みんな使わないけど」

 

『大きい方がいいですから』

 

『大は小を兼ねるって言うしな』

 

 流の体で遊んでいたセレナは、胸の下で腕を組んで、その言葉を言って挑発してきた奏に襲いかかる。今回は特に策がなしだったので、セレナは負けて気絶した。

 

 ガラガラ

 

『……欧州に行く前の風呂もじゃなかったか?』

 

『そうだっけ?』

 

『あたしが一番である限りどうでもいいけどな。セレナと部屋で涼んでる』

 

『ああ』

 

 洗面所と繋がる扉を開けて、クリスが風呂に入ってきたのを確認したあと、奏はセレナを引っ張って欠片の中に入っていった。

 

「……入ってもいいか?」

 

「ダメって言っても入るだろ?」

 

「うん」

 

「どうぞ」

 

 流の許可を聞く前から風呂場にクリスが入ってきて、洗い場に座り込んで、クリスは流のことを見ている。

 

「あのさ、前に洗ったけど、あの時は俺がクリスに無理をさせたから洗ったんであって」

 

「駄目?」

 

「…………明日は大変だから洗ってあげる」

 

 流が鬱のようになり、初めてバビロニアの宝物庫に行ってしまった時、クリスは流を助けるために、絶唱を使って空間を割って入ってきた。あの後クリスは反動で弱っていたので、流が世話をした。

 その後からだろう。何かがあったらクリスが風呂に入ってくるようになったのは。

 

 流は心頭滅却し、弦十郎の全裸ポージングを想像して、色々と何事もなくクリスの全身を洗い終わった。

 流が風呂に座り込み、クリスが足の間に背を向けて座ってくるのがいつもだが、クリスは体の向きを逆にしてきた。流は基本的に奏とクリスには意見しないので、心の動きを止めてクリスを迎え入れる。流も対面は心を殺さなければ危ないようだ。

 

「……今回はどうしたの?」

 

「ちょっと待って」

 

 クリスは真剣な顔で流の胸を触る。そのあとデュランダルになった右腕や左足や髪を触ったり、デュランダルカラーになった目を覗き込んだりしてくる。

 

「欧州で戦った奴らは、流がこんなにならないと勝てない奴らだったのか?」

 

「実質敗北したけどね」

 

「……それでさ流、力のために体を聖遺物に変えている以外に、なんか消えてないか? もっと大事な何かが消えちまった気がするんだ。もう取り返しのつかないものが」

 

「……取り返しがつかない事なんて()()()()()。クリスは無理をするなって言ったからね。()()無理をしてない」

 

 クリスは流がエルフナインを抱き上げ、キャロルを連れてきた時、いつもと違うと思った。見た目も変わっていたが、そんなことではない。雰囲気というか、根本的に何かが足りないと思った。具体的には言えなかったが、流が何かを捨てたとクリスは直感した。

 

 クリスはちょくちょく鋭いことを言ってきていたが、まさかここまで察してしまうとは思わなかった。だが、流は魂が壊れたなどと言えるはずがない。

 まず魂とは何なのか。壊れたらどうなるのか。それらが分かっていないのに、安直に言えるわけがない。クリスと奏には嘘をつきたくないが、それでもその人達のためになる嘘はつく。今回がそれだ。

 そして無茶をしたのは流ではない。イザークが無理をしたのであって、流はなにもしていない。

 

「……嘘つき」

 

「くっ……」

 

 クリスが呟いてから、自分でつけた噛み跡の上から噛み付いてきて、流を抱きしめた。クリスは自分の何かがなくなった訳では無いのに、流の代わりに涙を流し、少しすると噛み付いたまま寝てしまった。

 

「言えるわけがないし、実際に言えないからな」

 

 クリスの頭を軽く撫でてから、彼女を担ぎ上げて洗面所に連れていった。髪を梳かし、美容液を塗って拭いて着せて、クリスの部屋に連れていった。

 

 

 **********

 

 

「……嘘つきねぇ、何時になったらなんでも話せるようになるのかな」

 

 流はクリスを部屋に連れていったあと、自分の部屋で瞑想をしていた。クリスの体が柔らかくて発生したリビドーを抑えるため()()()()、寝れないのでそれに励んでいた。弦十郎に言われた鍛錬が疎かになっているという言葉が、なかなかに効いているのもある。

 

『あれ? まだ寝てなかったのか』

 

 瞑想をしていると、奏の声が聞こえたので目を開けると、しっかりとした寝巻きに包まれた奏がいた。

 

「セレナは?」

 

『キャロル戦で気を張ってたから、予想以上に疲れてたみたいで、あの後すぐに寝たよ』

 

「そうか……奏だって、ガングニールの力を使ったし気を張ってたじゃん」

 

『セレナは戦闘訓練をしていないし、戦うのが嫌な子だからな。その点あたしはノイズ絶対殺すウーマンだったから余裕よ!』

 

「……そういえばなんでノイズを殲滅しろって言わないの?」

 

『は?』

 

「バビロニアの宝物庫の中のノイズのこと」

 

 奏は両親を殺したノイズを憎んでいるし、その憎しみのおかげでガングニールを纏えた。そのあとシンフォギアは戦うためだけじゃなく、守るための力でもあることを認識はしていたが、ノイズは嫌いなはずだ。

 

『ああ。そりゃあいつらは流の役に立つからな。あたしが皆殺しにしてくれって言えば流はするだろうけど、もしノイズの力があれば、お前が生き残れたのにって場面に遭遇したら、死んでも死にきれねえよ……もう死んでるけど』

 

 奏が幽霊ジョークを言うが、流は取り合わない。流は奏やセレナの幽霊ジョークが大嫌いだ。

 

「了子ママは? 奏の両親を殺すためにノイズを召喚したのはあの人だよ?」

 

『それももう折り合いをつけた。逆に考えることにしたんだ。了子のアホが居なければ流に会えなかったって』

 

「……奏は色々強すぎ」

 

 奏は流の隣に座り込み、流の頭を優しく撫でる。奏なりの甘え方なので、流は気持ちよさそうに受け入れる。

 

『あははは、流がメンタル弱過ぎるだけだぞ?』

 

「翼よりは強いし」

 

『今の翼は多分流よりも強いぞ? イグナイトで暴走しなかったし』

 

「天羽々斬には精神プロテクトとか色々ついてるから! 俺はそのままのイグナイトの呪いを受けたから暴走したわけで、翼と同じ程度なら簡単に使いこなせたから」

 

『どうかな〜。流は雑魚だからな』

 

「朝飯抜きな」

 

『ずるいぞそれは!』

 

「ざまあ」

 

 明日も朝が早いのに、奏と殴り合いの喧嘩になったが、勝負はつかなかった。どちらもただの喧嘩では絶対に譲らない。

 

『で? なんで寝てないんだよ』

 

 奏は流か寝ていなかったのではなく、寝れないことが分かっていたようだ。

 

「……やっぱり分かる? 魂が壊れて、初めて寝ようとしたんだけど、コレで寝たらきっと何か、俺自身が塗り替えられちゃう気がしてさ」

 

『それは直感か?』

 

「そう。弦十郎父さん仕込みの直感」

 

 直感は馬鹿にならないものだ。特に聖遺物をいくつも融合させていて、人間とは違う感覚を持ち、弦十郎によって勘を鍛えさせられた流のそれは、一般人の直感とは全く別の何かになっている。奏もそれがわかっているから聞いたのだろう。

 

『流が塗り変わるってことは、精神的な何かだよな? あたしが流の体に憑依して、体の中で寝るから、流は欠片の中の家に行って、適当に時間を潰しててくれ。体だけでも休めた方がいい』

 

「ありがとう」

 

 流は奏に体を譲り渡して、前世の家なはずの場所で、イザークが書き残していった錬金術とは何か? という教本を読んで時間を潰した。

 合間合間に挟まれるキャロル自慢や、如何に妻が美しく可愛く胸が大きかったか、それと惚気が書いてなければ、相当良い教本なのにと彼は思った。

 

 

 **********

 

 

 弦十郎に了子と流、装者一同とキャロルとファラ、そして緒川。サポートメンバーとして藤尭と友里とエルフナインが付いてきた。

 緒川は了子に捕まり、強制連行されてしまっていた。流は了子がどうやれば緒川を捕まえられるのか分からない。本気の山篭りと聞いて、緒川も本気で逃げていた筈なのに、捕まっていたのだ。

 

 ちょいちょい出番のあるF.I.S.の移動式拠点である車を使って、車で揺られること数時間。山奥の車が一台しか置けそうにない場所で停車した。

 

「まず今回の目的を説明する。流は鍛え直せ。了子くんは自分の目的のため。緒川は了子くんに捕まる体たらくでは駄目だろう。そして装者諸君は流を中心とした繋がりになっている、これをある程度解消する」

 

「そりゃ流が連れ込んできた奴らばっかだしな。それ繋がりはしょうがねえだろ」

 

「そうだ。だが、これからはそれだけでは駄目だ。今まではユニゾンという特性は調くんと切歌くんのザババのコンビでしか行われなかった。しかし! 聖遺物の由来の繋がりがなくても、ユニゾンが出来ることが判明した」

 

「愛のユニゾンですね」

 

 未来は食い気味に弦十郎の言葉に被せた。弦十郎は『愛のユニゾン』という名前が定着してしまうと、自分がそれを何度も書いたり言ったりしないといけなくなる。なんとか『絆のユニゾン』に変えたかったのだが、未来には勝てそうにない。

 

「……そう、響くんと未来くんが愛のユニゾンを発生させた。これはシンフォギアの特性に頼るのではなく、シンフォギアを身に纏う装者同士の結びつきを起点とするものだ。ザババのユニゾンほど強力ではないが、それでも習得しておいた方がいいだろう。そこで先程の繋がりの話に戻る」

 

「なるほど。例えば私であれば月詠や暁とはまだそこまで親しくはない」

 

「私なら響とは話をするけどその程度ね。未来とは響がいれば話す程度」

 

 翼は流の家に住み着き始めたが、まだそこまで交流の幅を広げていない。親しいクリスとマリアがいるからだろう。マリアは家にいる人とは仲がいいが、響や未来とはあまり話す機会が無いので、そこまで中を深められていない。

 

「二人が言っている通り、流を介して、もしくは誰かを介して話はするけど、といったペアで戦わないといけない場合、ユニゾンが発動されないだろう。今回の山篭りでそれを解消させようと思う。装者諸君は二人ペアになってもらい、共に鍛錬に励んでもらおうと思う」

 

「……師匠! シンフォギア装者は7人しかいないので、一人溢れてしまいます!」

 

 響が手を上げて発言したように、元二課が三人、F.I.S.が三人、そして未来がいるため、二人ペアだと溢れてしまう。

 

「そこで俺の……私の出番だ。私のファウストローブは櫻井了子に預けている。私の体はダウルダヴラの適性に合わせた素体に調整しているから、歌を介した起動もできるだろう。想い出の焼却を使った戦い方はする気がもうないから、前ほどの力は発揮出来ぬがな」

 

 今のキャロルの素体はダウルダヴラで呪いの旋律を歌うために調整されている。もちろん残っているラスイチの素体も同じだ。それ故に錬金術の要素をある程度残していれば、シンフォギアとして纏うことも出来るかもしれないと昨日了子と話していた。

 アニメの神獣鏡は科学とシンフォギアによって作られていたのに対し、キャロルと了子は錬金術とシンフォギアによって、新たなダウルダヴラのファウストローブでありシンフォギアでもある物を作ろうとしている。

 

 

 その過程で了子が櫻井了子の人格ではなく、フィーネの人格であることが露見した。キャロルは凄いビビってしまい、流とファラに隠れるといった行動を取っていた。フィーネは過去にどんなことをしたのだろう。

 

 了子は絶対にフィーネがこの世にいる事がバレないと常々言っていた。フィーネの魂がこの世にあれば、その魂波形を感知されてしまう。その感知手段はF.I.S.にもあったし、錬金術側にもその方法はあるらしい。

 だが、このフィーネは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、もうフィーネとは感知されない。

 そんな事をすればリインカーネーションが発動せず、転生が出来なくなってしまうのだが。

 

『本来ならもう死んでないといけないのよ。そのくらいの事はしてる。それでも浅ましく弦十郎くんに恋をしてしまったのだから、迷惑をかけないために、これくらいはさせて欲しいのよ。』

 

 フィーネはフィーネだという事を捨て、弦十郎に恋する了子として、生きることを決めたため、絶対にフィーネとして感知されない。

 

 

「マスターは素の身体能力は高いのですが、チビですので、私がサポートさせて頂きます」

 

「……お前達はマスターである俺に対して、少し辛辣過ぎないか?」

 

「そんなことはありませんよ」

 

 ファラにすげなく返されたキャロルは少しだけ落ち込んだ。

 

 その後グループ決めがされた。

 マリアと未来、翼と切歌、クリスと調、響とキャロルの組み合わせになった。未来はオートスコアラー達に響がリンチされたことをまだ根に持っているので、キャロルを睨んでいた。

 

「皆には用意しておいた服に着替えてもらう。この服はただ丈夫な長袖と長ズボンってだけだ。山に入るなら、しっかりした格好にしないとな。そしてバックパックを持って()()()頂上を目指してもらう」

 

 バックパックは了子とウェルが考えて、各人毎にある程度重さが違う。響と調が同じ重さの荷物を持ったら、後者が潰れてしまう。

 

「流はこの薬を使え」

 

 流はlinkerと同じ注射器の何かを受け取った。中身の色が確認出来ないようになっていて察した。アンチリンカーであろう事を。

 だが、流にアンチリンカーを使っても意味が無い。流がlinkerを使うのは、デュランダルを起動させる時のブースターにしているだけで、元々聖遺物と融合しているので、動きづらくなるかもしれないが、問題ないだろう。

 

 流は首元にその注射器を押し当てて使った。

 

「うおっ! 体が重い! 何これ!」

 

 フラグを建てればそれが発生してしまうのがシンフォギア。流は問題しかない状態になった。

 

「それは特殊配合されたアンチリンカーだ。流は戦いの場以外では、デュランダルが起動していないと思っているようだが違う。基底状態でも極わずかにエネルギーを放出していたらしい。そのエネルギーで流を補佐していたからこそ、デュランダルの重さを感じなかった」

 

「完全に重りとなったデュランダルの体で動き回れってこと?」

 

 流は右腕や左足が酷く重く感じる。デュランダルになっているので当たり前なのだが、今までここまで重いとは感じたことがなかった。骨もなっているはずなので、とりあえず重い。まだクリスと調と切歌とマリアと翼を同時に持った方が軽いかもしれない。

 

「いや、まだあるぞ。あとはこれとバックパック」

 

 そうして渡されたのは目隠しだった。視界を狭めるなどではなく、完全に目を隠れてしまう。

 

「緒川父さんに気配の探り方を習ったけど、山を駆け上がる時にこれじゃ無理なんだけど」

 

 人の気配ならいざ知らず、木々や地面の段差などは気配察知ではどうにもならない。

 

「それは了子くんが説明してくれる。説明が終わり次第スタートしてくれ」

 

 弦十郎はそう言うと、装者達に山で気をつけることを話に行った。ちなみにこの山には熊などは存在しない。定期的に赤い髪の男が出没して狩っているからだ。

 

「奏ちゃんと話せるでしょ? 彼女に目の役割を担って貰いなさい。じゃあ、私は結婚のためにもう行くわ」

 

 重武装をさせられ、響よりも重い荷物を持たされた了子は、そのまま山道を駆け上がり始めた。

 

 流は無言で目隠しをして、バックパックを持つ。

 

「俺は山道を走っちゃ駄目って縛りもあるんだけど、マジでこれで走るの? 目が見えず、体が思うように動かず、山の中を走るとか自殺だろ」

 

『そのくらいやらないともう山じゃ鍛えられないってことだろ』

 

『私達がしっかりナビゲートしますから、頑張りましょう』

 

「そうだ、流! 忍術も禁止だ!」

 

 既に装者達とスタートした弦十郎が遠くから叫んできた。

 

「気配察知も瞬間移動も、その他諸々が全く使えないんですけど」

 

『……応援してるから頑張れ』

 

 流は見えない視界のまま走り始めた。

 

 

 山頂に着くと、手と足を使わずに熊と戦わされたり(流以外はお昼休憩)、目が見える状態で重い体のまま木に登り、地面に足をつけずに山を降りたり(装者はシンフォギア着用、その他も異端技術使用、緒川は素)、デュランダルなどをフル活用して数十メートルの高さから紐なしバンジーをさせられたり(装者はバンジージャンプで遊んでいた、異端技術使用、緒川は素)、ただ単に山道ダッシュを繰り返させられたりした。

 

 その結果な死屍累々な状況になった。




奏のエピソードは前に書いた気がする。被ってたらすみません。

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