戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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前回の源十郎パパによるお仕置きは、死なないレベルに手加減されています。被害レベルは1期防人絶唱くらい。


#6『喪失』

 流が奏と訓練を始め、翼に襲われるようになってから数年が経った。

 

 流は未来の事を一時考えるのをやめて、奏達と仲を深めることにした。考えても奏が来てしまうので嫌われる事を諦めてしまった。

 

 アイドルとして順調に人気が出てきた二人と外に遊びに行く。それだけの事でも二人は変装をしないといけないし、流も一応変装をしていたが、楽しい一時を送っていた。

 もちろん鍛錬は忘れていないし、装者との訓練もしっかり行い、了子などとも更に仲良くなった。クリスも少し前に救出され、フィーネに回収されたようだ。

 

 

 流はプロデューサーとしての仕事は一切手伝っていないので、ツヴァイウィングの仕事の日程は知らない。

 

 これはあるライブ一週間前の出来事。

 

 

「なんだ、了子の所にいたのか」

 

「ちょい待て…………終わりました。これ絶対に15歳の奴にやらせる仕事じゃないよね」

 

「当たり前よ。櫻井理論を組み上げた私自ら教えている愛弟子なんだから、これくらい理解できて当然じゃない」

 

 流はlinkerに関する研究書類を読み上げ、それをまとめて了子に渡してから奏の元に向かった。ウェル博士曰く、linkerには愛が必要らしいが、流はその関係がイマイチ理解できない。

 

「よ、近々ライブがあるんだろ? こんな所に来てないで練習しろよ」

 

 数年前とは違い、奏に親しげに挨拶を交わし、近くの席に誘導する。ついでに紅茶を入れて自分も座る。

 

「んなこと分かってる。あたしが特別に、ライブチケットを授けに来てやったんだからありがたく思えよ? 今売れてるアイドルが、自ら来てやったんだからさ」

 

「スキャンダルになりそうね」

 

「了子は黙ってろ!」

 

「はいは〜い、お邪魔虫は退散しますよーと」

 

 了子の言葉を奏が一刀両断すると、了子は舌を軽く出して去っていった。

 

(年齢を考えろ)

 

 なんて事を何人かが思ったが、それを口にすると酷い目に遭うので、そんな馬鹿をする人はこの研究室にはいない。三十路を超えてしまってから、年齢のことを口にすると、緒川でも狼狽えるレベルの攻撃が飛んでくる。

 

「奏が直接くれるってことは特等席か」

 

「ああ。あたしと翼のライブを最高の場所で見れる席だぞ! 関係者でも滅多に取れないプレミアもんだ」

 

 流は受け取り、チケットの詳細を読んでいく。そのチケットに書かれている場所に見覚えがあり、頭をかしげていると退散したはずの了子が後ろから覗き込んでいた。

 

「ネフシュタンの鎧の起動実験を同時に行うライブね」

 

「そうだな。まあ、あたし達には関係ねえことだ」

 

「貴方達は歌うことに集中してもらわないといけないものね」

 

 ネフシュタン起動実験? ライブ? 絶唱? 奏が死ぬ……。流はその場から逃げ出した。

 

 

 **********

 

 

 流は奏からチケットを貰った日から、都市部にある弦十郎の家の一室に閉じこもり、引きこもりになっていた。誰が来ても中に入れることはせず、弦十郎でも奏でも中に入ることは許されなかった。

 

「見捨てたくない。手放したくない。奏が死んで欲しくない。嫌だ、嫌だ、嫌だ…………」

 

 ブツブツと素直な思いを垂れ流し、両親の死んだ記憶と奏が絶唱を使い消えるアニメの場面がフラッシュバックする。

 そんな嫌な記憶を押し込めて、様々な人によって鍛えられた頭を酷使させ、奏を生存させつつ未来を生きていく方法を模索し続ける。

 

 だが奏をあの場で生かすという事は響がガングニールの装者にならないという事だ。奏と響が同時に装者になる事は有り得ないという考えに流は至っている。根拠は弦十郎に鍛えられた勘だ。

 

 そして響という絶唱を束ねられる人がいない限り、F.I.Sはともかく錬金術師との戦いでは勝てない。

 

 F.I.Sとの接し方は何度もシュミレーションしている。F.I.Sは月の軌道を何とかするというのが目的のため、うまく動くことができると思っている。

 キャロル達は証明をすること、答えを出すこと自体が目的のなので戦わないと多分無理だろう。答えだけを提示しても、きっと切り捨てられてしまう。

 

 キャロル達の戦いを響なし、絶唱を束ねる装者がいないもしくは一人の場合、成すすべもなく負ける。キャロルがダウルダヴラを纏い、錬金術を併用した時の強さは異常だった。

 流は将来の確実な生存ルートと奏の命を何度も天秤に掛けているが、答えを見つけることが出来ていない。

 

 そしてライブ当日が訪れた。

 

 

 **********

 

 

 流はまとまらない考えのまま、ツヴァイウィングのライブ会場に向かった。向かっている途中、いっそ今了子(フィーネ)を殺してしまうべきか? なども考えたが、それこそ未来が破綻すると思い直す。

 

 既に沢山の人が並んでいる所をすり抜けて、関係者入口で二課のスタッフカードを見せて中に入る。

 

 他のスタッフに二人の場所を聞いて向かうと、白いローブを着た二人が座って休憩をしていた。あの白い服の下にはライブ衣装を着ているんだよな、なんて現実逃避をしながら二人に近づく。

 

「おはよう、二人共」

 

「……流! なんで一週間も引き篭もってるんだよ!」

 

「おはようございます。体調はもう大丈夫ですか?」

 

「ありがとう、問題ないよ。一週間引きこもって治らなかったら、了子に見てもらう予定だったし」

 

 体調が悪いから引きこもってるという事にしていたので、それを純粋に信じていた翼に更に嘘をつく。基本邪険にしてくるが、こういう時は優しさを表に出してくれる。

 

「無視するな! そんな事言ってねえではじめから見てもらえ!」

 

 足のスネを蹴ってくる奏を無視して翼の気遣いに対応してると、少しキレた奏が流の足を強く蹴りだす。

 

「翼こそ大丈夫か? 顔が結構真っ青だけど」

 

「だって、ここまで大きいのは初めてだし」

 

「なるようになるさ。二人は努力してきたわけだし。それと奏を少し借りていい?」

 

「は、はい」

 

 顔を真っ青にして椅子の上で体育座りをしている翼を励ましてから、翼に許可を得てから奏の手を握り、勝手に引っ張っていく。いつもなら許可を出さないけど、緊張でテンパっているようだ。

 

「いきなりなんだよ! ビックリするだろ……なんで人が誰もいない所に連れてきた!?」

 

 奏は何かを勘違いをしているのか、顔を赤く染めてあたふたしている。そんな奏を見て、流は軽く笑ってから真面目な顔になる。そんな流を見て、奏もあたふたするのをやめた。

 

「奏」

 

「なんだ? そんなに真面目な顔をしても似合ってないぞ?」

 

 流は卑怯だと思いつつ、奏に天秤を傾けてもらうことにした。彼も最低なことだとわかっているが、自分だけで決めた場合、未来を捨てそうになってしまう。

 

「……親しい人が死ぬことによって新たな力が芽生え、その力があるからこそ未来のいくつもの戦いで勝つことが出来る」

 

「……」

 

 奏は空気を読んで黙りこみ、頷いて続きを急かす。流は震える体を抑え、続きを話していく。奏の性格を知っているからこそ返してくるであろう答えがわかり、涙ぐむ。

 

「俺は親しい人が死なず、未来を生き抜きたいと思っている。だけどその新しい力こそが、戦いで最も重要で、俺というイレギュラーが居ても、その親しい人を生かしつつ、世界を守ることは出来ない。俺では思いつかない。その人の死がないと、(つるぎ)も研がれないし、拳も生まれない」

 

 勝手に流れてくる涙を無視して奏に問いかける。

 

「奏、俺はどうすればいい? お前(. . )には死んで欲しくない。だけど、お前を俺が無理やり生かせばきっと世界が破綻する。考えたんだよ! 了子達から聖遺物や特殊な知識を得た。その他一般的な知識も沢山学んだ。だけど、俺にはお前も守りながら、世界の破綻を食い止める手段が思いつかない! 了子には頼れないし、父さん達だって知らないからこそ言ってもわからない。なあ、どうすればいい? お前を生かして世界を破滅から救うには!」

 

 必死に崩れそうな表情を保ち、流れる涙もそのままに、流は奏に問いかけた。途中で奏が後ろに回り込み、背中越しに抱きしめられ、その温もりを感じて更に涙を流す。

 

 

 

 

 

 

 

「……うーん、わかんね」

 

「は?」

 

 奏は流を強く抱き締めて少し考え込み、目を開いて笑顔でそう答えた。

 

「多分気がついてるのはおっさんと了子、緒川にあたしくらいだと思うけど、流は未来かなんかを知ってるんだよな? 色々おかしい事が多かったけど、まさか世界の命運までわかってたとは思わなかったよ」

 

「ある程度はね」

 

 月の欠片や本体の落下、重力崩壊や自然災害、世界の分解。もしアニメで正義が負けた後を想像してしまう。

 

「……その知っている未来ではあたしは死んでるのか?

しかも多分、今日死ぬんだよな?」

 

「うん」

 

「その時のあたしは後悔してたか?」

 

「してなかった……と思う」

 

 言ってはいけないと思いつつも、流は奏に嘘をつくことを躊躇い、自分の知っている真実を告げる。

 

「そうか。でもきっと今のあたしは後悔すると思う。気が付いているか? 翼は強いけど弱い。だけど、それ以上に流の方が簡単に折れそうだぞ」

 

「わからない」

 

「お前はどう考えても生き急いでいるとしか思えない無茶をしている。そうじゃなきゃ、生身でシンフォギアに対抗なんて出来ねえよ。おっさんの領域には早すぎる。だからこそ、あたしは興味が持ったんだけどさ……流は過酷な未来を知っていたから力を研ぎ続けてきたんだな」

 

「この世界は力がないと生きていけない。俺はただのモブだから、力をつけないと」

 

 奏はその言葉聞くと、一瞬間が空いてから思いっきり吹き出した。

 

「流がモブ? あははは、笑わせてくれるぜ。シンフォギア装者と戦って勝てる人間がモブだったら、ほとんどの人がモブになっちまう」

 

「……確かにそうだけど」

 

 奏が更に強く抱きしめてから言葉を止める。奏は少しだけヤキモキしながら、顔が真っ赤になっていることを自覚して、更に顔を赤くする。

 

「顔を後ろに向けて目をつぶってくれ」

 

「……は?」

 

「早くしろ!」

 

「はい!」

 

 流が疑問を投げると背中を蹴られ、再度命令された。それに従って後ろを向いた時、奏の顔が真っ赤になっていることに気がつき、流の顔も赤くなる。

 

 言われたまま目を瞑る。すぐに流の唇に柔らかいものが触れてきて、それが何度も行われた。

 

「目を瞑ったまま前を向いてくれ」

 

 頭の中がパニックになっている流はそのまま奏のお願いに従って前を向く。

 

「あたしは流や翼、皆に生きてほしい。だから、ごめんな」

 

「ん!? ぐっ、やめろ! かな……」

 

 奏は流の耳元で囁いた後、後ろから抱きしめるために回していたその腕で、流の首を締め上げ、抵抗出来ないうちに意識を落とした。始めから落とす気だったので、少し前から血の流れを止めていたため、流が反応した時点で遅かった。

 

「未来のために、いっちょやりますか!」

 

 奏は流を優しく抱き上げ、近くの椅子に座らせる。座ってぐったり眠っている流の唇にお別れのキスをして、近くのスタッフに彼を起こさないようにいい含めてから、翼の元に戻った。

 

 

 **********

 

 

「起きてください!……早く起きろよ!」

 

 流は体を殴られて目を覚ました。

 

「やっと起きたか! 早く逃げろ! ノイズの襲撃だ!!」

 

 スタッフの人がそれだけ告げると出口に向けて走っていった。周りを見回すと他の人も出口へと走っている。

 

「なんでこんな所で寝てるんだっけ……奏!」

 

 建物が崩壊する音や人々の叫び声、それらを救出するのが二課の役目だが、流はそれらを無視して出口とは逆に走り出す。

 

「早く、早く、早く、早く!」

 

 建物は軽く崩れ、機材が散乱している場所を通り抜け、時には天井や壁を走ってライブ会場へ向かう。

 

「歌が聞こえる。これは絶唱!……やめろおおおお!!」

 

 奏の命を燃やす歌(絶唱)が聞こえ、未来や自分の命などという考えが吹き飛び、純粋に奏を助けたいという思いが芽生えたが、それは遅すぎる想いだった。

 

「かなでええてえええ!!」

 

 階段を駆け上がりライブ会場に入ると、奏から光が溢れ出していた。流は一直線に奏の元に向かう。そんな彼に気がついたのか、奏はこちらに目を向けると、血が吹き出しボロボロな顔で笑いかけ、後ろを指さして倒れた。

 

「ああ、ああああ、あああああああああ!!!」

 

 流はこの時、自分が奏に恋をして愛していたこと。それと同時に取り返しのつかない事をした事に気がついた。その時に流の何かが壊れ、そこにハマるように何かが定着した。

 

 奏が指を指した方を見ると自分よりいくつか幼い女の子がいた。彼はその子が立花響だとわかる。奏と最後に話したかったが間に合わない。翼が奏の元にいるので流は響の元に向かう。

 

「お前は絶対に死ぬな! 奏の言葉を思い出せ!」

 

 死にそうな響をゆっくりと持ち上げながら叫び、病院に連れていこうとした時、回りにガングニールの破片があることに気がついた。その中から大きめのオレンジと白の欠片を拾って、その場を後にした。

 

 出口から近かった人は何とか生き残ったようだが、大半の人間がノイズにやられたようだった。その場に来ている救急車に響を預け、二課の息がかかっている病院に行くように指示をして、気配を消してライブ会場に戻る。

 

 

 

 

 そこにはノイズと人間の成れの果ての灰、血と風鳴翼だけが残っていた。弦十郎達はネフシュタンの暴走に巻き込まれて搬送されているだろう。

 

「何故だ……何故奏の危機にお前は駆けつけなかった! 貴様は! 流は! 叔父さんと同等の強さを持ち、ノイズとも戦える! 貴様がいればこの戦場(イクサバ)で、奏を失わないで済んだはずだ! 貴様は一体何をしていたああああ!!」

 

 人の近づく音に翼は顔を上げる。

 その音の発生源を目にすると、顔を歪ませながらそれに急接近し、剣を抜いて彼の首に添えた。少し肉を切っているが、翼の怒りは収まらない。

 

 

 翼は流の事を好いていない。親友の友達程度であり、奏を取ったり弦十郎を独占するからむしろ嫌いに近かった。だが、弦十郎の武術と緒川の忍術、了子の知識を貪欲に学んでいる姿、その実力はしっかり評価していた。

 

 だからこそ、彼を許すことは出来なかった。今回の襲撃の規模は大きく、流がいても防人である翼は人々を守る事は出来なかっただろう。しかし、奏を失わないで敵を殺しきることは出来たはずだ。それだけ流の力に期待していた。しかし、彼が来たのは奏が絶唱を歌い終わった後だった。

 

「答えろ!!」

 

「寝ていた」

 

 流は首が更に切れる事も厭わず、翼の足元にある黒い灰を一掴みする。翼は流の言ってる言葉の意味が理解出来ず、少し惚けるが、何度が口にすることで理解出来た。

 

「ネテイタ、ねていた、寝ていた? ふざけるなあああああ!! 貴様は今ここで死ね!!」

 

 流はその灰を額に付ける。何となく奏の灰であることを理解し、やっと自覚出来た言葉を、この世界でたった一度だけ呟く。

 

「奏、愛している。さようなら」

 

 空に灰を手放した手で、斬りつけてきた刀を掴む。刃の部分もお構い無しに握っているので血が滲むが、痛みすら感じず、そのまま刀を持った翼ごと投げ飛ばした。

 

「敵に臆し、戦場(イクサバ)から……逃げるなあああ!!」

 

「翼、ごめん」

 

 翼が体勢を整えた時点で、流は既に遠くにいた。追いかけようとするが、歌を歌っていなかったため、シンフォギアの機能が低下していて鉛のように重く、尚且つ流は忍術と弦十郎謎武術を併用した走り。

 逃げ出した彼には追いつくはずがなく、翼はその場で雄叫びをあげることしか出来なかった。




奏さん依存度(1期の翼:1)
流:3

奏の出番は1期並にあります。

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