戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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#45でも書きましたが、今までで一番長いです。


#51『念願の再開の代償』

 流は最近ある事に気がついていた。

 

 強くなる速度が早すぎる。

 

 カ・ディンギルに接続されるまでは順当に成長していた。弦十郎や緒川と鍛錬に励み、映画を見てどんなシチュエーションでも対応できるようする。これでゆっくりとだが、確実に強くなっていた。

 完全聖遺物デュランダルを融合させていた時は例外として、その後は聖遺物の力を借りて、人間性を捨てながら強くなってきた。

 

 だが、最近は異常だ。

 了子から学んだ紫シールドはエネルギーを空間に固定しているだけだが、生身でのエネルギー放出を理解しないと出来ない。逆にそれさえ理解出来て、エネルギー源があり、何度も使って慣れれば枚数が増やせる。

 

 流が問題視しているのは、位相操作に関する技術だ。

 人体の位相差操作は、フィーネが生きていた先史文明期でも研究された。だが、まともに出来た人はいなくて、成功しても『いしのなかにいる』のようになってしまったらしい。

 それなのに最近流は平然と位相をズラして、人を透過する事すら出来るようになってきた。少しずつこの世界の位相とズレてきているのではないか? と不安になっているが、奏やセレナに相談すれば使用を禁じられるので言えていない。

 

 流は一体自分の体がどこまで耐えられるのかがわからない。現に今も新しい力の使い方を理解している。

 既に人間を半分以上やめているし、何故普通の人体であるはずの、流の体が耐えられるのかがわからない。もしかして……嫌な考えに流は蓋をした。

 

 

 **********

 

 

 流はチラリと、エルフナインを連れていったファラを見ると、攻撃に巻き込まれないように離したのだと分かる。安心して自己防衛を始める。

 

『流!』

 

「おおおおおおおお!!」

 

 流はイグナイトの便乗暴走したことによって、理解した力を使用する。

 

 奏の呼び声に頷くと、奏は流の体の中に入ってきた。今回は操作権を奪わずに、流の体の中に入り身を任せてくる。正面から飛んでくるカーボンロッドに拳を叩きつけ、左右から飛んできた水柱とコインは、紫のシールドを何重にもして防ぐ。

 

 ガングニールの響ですら壊すことの出来なかったカーボンロッドは、流の拳の一撃で粉砕した。流が拳を振るう時、体を任せていた奏も一緒に拳を振るっていたのが、霊体が見える人になら分かっただろう。

 

「なに!? ミカのロッドの強度はシンフォギアすらも凌ぐのだぞ!」

 

「我が腕はデュランダルで出来ている。そして今の拳はガングニールの一撃だ!」

 

『あたしと流の共同作業なんだ、負けるわけがねえだろ!』

 

 

 

 流の体はイグナイトによる暴走状態の時、奏とセレナを取り込んでガングニールとアガートラームの力を使っていた。斬られた腕をガングニールの槍にして、左腕をアガートラームの小手に変形させてもいた。

 元々流に協力してセレナがアガートラームの力を使えていたので、出来るはずの技術だったが、やり方がわからなかった。そんな時にあれがあり、やり方がわかった。

 

 奏はセレナが持つ『力の制御』のような力を持っていないと思っていた。だが、それは誤りだった。

 奏の流へのツッコミはいつもダメージがあり、流の防御力を貫通していたが、奏だし当然だなと彼は流していた。

 

 奏もセレナみたいに、シンフォギアの力を何故か持っていた。流達は話し合い、勝利必中の槍の穂先によって作られたガングニールの力『必中の槍』とセレナが名付けた。多分若干中二病が入っている。

 あらゆる防御を理屈を無視して、ぶち抜く一撃を与えるガングニールの力。それを知った後から、奏は悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、流のスネを殴ったり小指を踏むなどという微妙ないじめが起きた。

 

 デュランダルの『不朽不滅』な腕で弦十郎謎武術、それに奏の『必中の槍』によって、どんな理不尽でも打ち抜く拳が出来上がった。弱点は若干のタメが必要なため、弦十郎のような常に接近して、隙を与えてくれない人には使えない。

 ようは弦十郎にはまだ勝てないという事だ。

 

 

 

「貴様はガングニールと融合していないだろ!」

 

「気合いだ」

 

「訳が分からん!」

 

 初手が不発に終わり、一度体勢を整えるためか、オートスコアラー達の追撃は来なかった。

 エルフナインはキャロルと反対側の、安全な場所に運ばれて、流はオートスコアラー四体にある程度の距離を置いて囲まれている。

 

「マスター、この方と少し手合わせがしたいのですが」

 

「……一当てして駄目なら戻れ」

 

「仰せのままに」

 

 四体で等間隔に囲んでいた中、ファラはキャロルに許可を得て、流に近づいてきた。

 ファラ・スユーフ。風を操り、哲学兵装『剣殺し(ソードブレイカー)』を振るう。剣と定義されるものには、問答無用で勝てる武器を振るう。

 

 そんな彼女は流の前まで来て、優雅に一礼してから、剣を向けてきた。

 

「剣ちゃんに聞いたわ。あなたも斬撃武器使いとの戦いでは無類の強さを発揮するとか」

 

「……え? 剣ちゃんって翼だよな?」

 

「ええ。ですから、どちらがより剣を破壊する者(ソードブレイカー)たらしめるのか、少し気になりまして」

 

「俺は剣は使わんぞ? 使うと逆に弱くなる。ソードブレイカーなんてないし」

 

「そのままで構いません、わ!」

 

 フラメンコを踊るように、くるくる回るように流に剣で斬りつけてくる。ファラ風に言うと、ダンスマカブル(死の舞踏)

 映画を見ることによって対策を講じる流は、この世界にはないシンフォギアの映像を頭の中で何度も再生させて、対策を続けてきた。そのおかげで動きに余裕を持って避けられる。

 

 対策とか関係なく錬金術をぶっぱなしてくるキャロルが、一番流は相性が悪いと思っている。大火力の連打など対策の仕様が無いからだ。だからこそ、キャロルとは()()()()

 

「なかなか、どうして、素早いですわね!」

 

「お前が遅い」

 

 今は奏が流の中にいるので、流の目にはなってくれない。今回はセレナに死角を埋めてもらい、確実にファラを追い込んでいく。奏のように、流の動きを理解した指示は出来ないが、セレナはセレナで特有の働きができる。

 途中迎撃する際、ソードブレイカーの刃の腹を殴った時に違和感を感じたので、セレナにそのことを告げて周囲警戒を強める。

 

『……流さん、あそこに力が掛かっています』

 

『ありがとう』

 

 セレナの言葉に反応してから、流は僅かに隙を作って誘うと、ファラはそれに乗ってきて鋭い突きを放ってきた。

 

「これで!」

 

「ふっ、ハッ!」

 

 linker使用時は金属化する左腕でソードブレイカーを弾き、背中を向ける。響がノイズ戦でよく使う、背中からぶつかる体当たり【鉄山靠(てつざんこう)】でファラを吹き飛ばした。

 

「残念でした、こちらが本体です」

 

 だが、吹き飛ばしたファラはガリィの作った水の虚像だった。

 虚像のファラが空中で水に変わると、待っていましたとばかりにファラがすぐ横から出てきた。ファラは空気の層を操り、光を屈折させ、その身を周囲の背景に溶けこませて待機していたのだ。

 

「知って、た!」

 

 鉄山靠の流れのまま、ファラの斬撃よりも早く、裏拳をセレナの指摘した場所に放つ。その場所にはファラがいて、流の反応が早かったため、ファラは剣を流の拳に向けて修正した。

 

 アガートラームの『力の制御』はアニメでは、絶唱の力を再分配したり、エネルギー砲を打つ時にしか使われない。だが、セレナは戦いにはあまり使いたがらないので、流の周りの空間で、変に力が掛かっている場所を見つけるために使っている。

 異端技術を行使するには何かしらの力がかかる。錬金術で隠れたのなら、その場所には力が掛かり続けるので、セレナの目からは逃れられない。

 

 ちなみにイザークはキャロルとの戦いでは邪魔なので、エルフナインの横にいてもらっている。もし戦いの邪魔をされたら溜まったものではない。

 

 デュランダルな腕とソードブレイカーがぶつかり、ソードブレイカーから剣を壊す呪いが侵食してくるが、特に何も効果を発生させずに終わる。

 

「デュランダルを融合させているあなたは剣であり、ソードブレイカーによって破壊……されない?」

 

「はじめに言っただろうが! 我が腕はデュランダルであると!」

 

「自らの認識を変え、哲学を回避したのですか」

 

 ファラが驚いている間に蹴りを放つが、ミカのカーボンロッドによって防がれた。すぐにレイアもコインを放ってきて、それを防いでいるとファラが退いていく。

 

「なるほど、ある程度タメがないとミカの攻撃を砕くことは出来ないと。更にファラの光の屈折は見分けられ、ガリィの虚像も効果なし……か」

 

「当たり前だ。完全隠蔽ができるシンフォギアにボコボコにされたり、身内には忍者がいるんだぞ、分からないわけないだろ」

 

 393ではなく未来の神獣鏡は、ファラの周囲擬態よりも更に高性能。流自身も分身を使うので分からないわけがなく、ファラも本気で殺しに来ていたわけではなかったので、茶番を終わらせるために無駄であることを示した。効けばラッキー程度で、本命は流の戦力分析だったようだ。

 

「……ふむ、貴様を侮って誘いに乗ったが、本当にシンフォギア数人分の力があるのかもしれん。何よりも、こちらの手が知られているような気がするのが厄介だ」

 

「勝手に解析すればいいさ。俺は小細工も使えるが、結局の所殴るのが一番強いから関係ない。次は誰だ? 全員でもいいし、降参してもいい()

 

 流は最後にミカの真似をした。それにはミカが少しムカッとした表情になる。一斉に攻撃されると辛いので、個別で煽って戦いを挑ませる。

 

「真似するんじゃないゾ!」

 

「そのポーズはカッコいいからやってるの?」

 

「これはマスターがカッコいいと思っているポーズだゾ! 別に私はなんとも思ってないゾ」

 

「……よほど死にたいようだな! もういい。手段を選ばずぶっ倒せ! 殺してしまっても構わん! ミカも完全に壊れない程度でなら、【バーニングハート・メカニクス】を使ってもいい。俺がこの後修理してやる!」

 

 キャロルは前回の煽りはなかなかに苛立っていた。自分の潜在意識ベースのAIを持つ、オートスコアラーに弄られるのはギリギリ許せる。だが、どうしてかそれを他人が知っていて煽ってくるのは許せない。初手の不意打ちもキレているが故の命令だ。

 

「あはは、お前これで死んだゾ!」

 

 ミカ・ジャウカーン。掌に備えられた高圧縮カーボンロッドと熱エネルギーを自在に操る戦闘機能特化型のオートスコアラー。

 そしてバーニングハート・メカニクスは、アニメでミカが全身を火で焼いて、ロール髪を解いた状態のことを指す。これは想い出の焼却効率を限界まで引き上げ4()()()戦闘能力を増大させる。

 

 ミカは炎に包まれると髪が解け、着ている服が燃え尽きる。アニメのこの状態はガリィが死んだため、想い出不足に陥っていたから、機能が低下していたのでは? と言われている。

 

 ミカが空中に錬金術陣を展開して、そこから熱せられたカーボンロッドがどんどん流に向かって飛ばしてくる。それを彼は紙一重で躱す。カーボンロッドの合間を縫うように、ミカはロッドによる打撃や近接ロッド射出をしてくる。

 

「熱いな!」

 

 ミカの服は耐衝撃スーツで、今流が着ているそこら辺の服よりも耐久度がある。そんな服が燃えたのだから、当然燃え盛っているミカと近接戦闘をすれば流の服も燃える。

 またラスボス戦で全裸になった。

 

「なんで生身のお前は燃えないんだゾ?」

 

「この程度の熱、心頭滅却すれば火もまた涼し……なんて言わねえ。クリスの銃火器や調の丸ノコのもろ食らうのと大差ねぇよ。爆破やノコで削られた時も熱いし」

 

「味方の攻撃を受けるなんて頭おかしいゾ」

 

「頭がおかしいのはお前のマスターだろ!」

 

「それもそうだゾ」

 

「ミカ!」

 

 レイアが援護射撃をしてくるが、レイアの攻撃はトンファーやプレスでなければ紫シールドで防げる。ガリィの攻撃はいくつもの方向から飛んでくるが、別の敵と接近していれば方向が絞れる。ファラはミカの合間を縫って、四肢をもごうとしてくる。

 

 腕がミカの熱で熱せられ始め、結合部分から肉の焼ける嫌な臭いがしてきたので、ガリィの水の攻撃をあえて受けて冷ます。一撃を与える気がなく、ひたすら耐えるだけの戦い。それがバレないように要所で攻める。

 そうやって時間稼ぎをしていたが、ミカの時限強化が始まってから3分ほどでキャロルが気がついた。

 

「……お前ら! そいつはミカの限界を知っている! 強化が終わる前に殺せ!」

 

「おいおい、殺したらレイラインマップが手に入らないよ?」

 

「貴様のような不確定因子を残してレイラインマップを手に入れるなら、殺して自分で確保した方が安いわ!」

 

「別に殺す気で戦ってもいいけど、もしキャロルも戦いに参戦したら、ヤントラ・サルヴァスパは壊れると思え」

 

「……キャロルに取られる前に、僕が壊します!」

 

「全力で潰せ!」

 

 流はガリィの水の攻撃を紫シールドで、軽く威力を減衰させてから受けて、あえて吹き飛ばされる。レイアが執拗にコインで攻撃してくるが、コイン打ちでは紫シールドは破れない。レイアも近接がやりたいはずだが、ファラもミカも近接の方が強いので、援護に回っているのだろう。

 

 カーボンロッドが何本も立っている場所を背後に立ち、完全な死角からの攻撃をさせない。そしてひたすら攻撃を捌き続ける。

 流は全身から汗が吹き出し、デュランダルと化している腕に目、髪の一部が強く光り出している。カ・ディンギルの時のデュランダルの出力に近づいてきたようだ。

 

「はい、4分」

 

「うぅ、お腹が減って、力が出ない……ゾ」

 

 勢いよく動いていたミカだったが、4分が経過すると、急に足が止まり、全身を包んでいた炎が消えた。髪は真っ赤な色から、火を失った炭のように色が黒ずんだ。

 力が入らないのか、先程までの勢いのまま流の方へ吹き飛んできた。流はミカを優しく受け止める。

 

「燃費が悪いからこうなるだろうなって思ってたよ」

 

「このエネルギーもなかなか悪くないゾ」

 

「ミカ、お前の負けだ。休んでろ」

 

 ミカの口の中に手を差し込んで、デュランダルに溜め込んでいるエネルギーの一部を流し込む。これもイグナイトによる暴走をした時、ガングニールの槍の技を使う時にエネルギーを移していた感覚が、残っていたので使えるようになった。

 

 ミカの髪の色が淡い赤に戻る程度までエネルギーを与える。ミカの関節部が熱で逝かれてしまっているが、後でキャロルなら直せる……治せるだろう。

 ミカの足元にバビロニアの宝物庫へのゲートを開き、内部の建物の屋上に置いてから、ゲートを閉める。

 

「……ちょっと、何ミカに変なものあげてるわけ?」

 

「別にいいだろ。人前でチュッチュッするのは嫌なんだろ? ガリィ」

 

「別にそんなことありませんし? 逆に何勝手に餌をあげてんだよ!」

 

 ガリィが本気のキレ顔でそう言いながら、大質量の水柱をいくつもの飛ばしてきた。

 紫シールドで防御するが、その水は冷気も帯びているようで流を凍らせようとしてくるが、蒸気が出るだけで凍ることは無い。今の流は2期の響と同じく高熱を発している。響と違う点は肉体が聖遺物と置き換わり始めているため、あまり負荷にはならないという点だろう。

 

 ガリィ・トゥーマン。聖杯の機能を持ち、想い出の採取の他に、別のオートスコアラーに想い出を分配する能力を持つ。戦闘では水や氷を使い、虚像による撹乱戦法から氷の剣を使った剣戟も出来る。

 

 

「なんで全く凍らないのよ!」

 

「俺ってさ、シンフォギアと違って体をがっつり動かすのよ。体を十分に動かして、温めないと本気で動けないんだけど、ミカのおかげで十分熱が溜まったし、デュランダルも無限機関になる程度にはエネルギー生産速度が上がった。単純に熱量で負けたんだろ。そして今の俺は絶対に負けない」

 

 最近は負けまくっている事を結構流は気にしていた。サンジェルマン達との戦いは、まともに打ち合えずに遠距離で負けてしまったので、すごく悔しい思いをした。もちろん映画は対策としてたくさん見るつもりだ。

 

 流は煙玉を地面に投げ、分身をいくつも作って、本体はある場所に隠れる。セレナはその場にいてもらって、ガリィの位置を教えてもらう。

 ファラが風で煙玉を吹き飛ばすと同時に、ガリィに分身一体目が殴り掛かる。ガリィは足元を凍らせて高速移動をしながら、氷の剣で流と何度か打ち合うと、分身の流は消えた。

 

「私に虚像で挑もうとか、無理に決まってんだろ!」

 

 ファラもレイアも何体かいる流の分身を殺し、ラスト一人がガリィの背後を瞬間移動で取り、ガリィをぶん殴るが、それは水の虚像だった。

 

「はい、残念でした〜!」

 

 虚像を殴って体勢が悪くなっている流の首を、ガリィは氷の剣で吹き飛ばした。

 

『今です』

 

「はい、残念でした!」

 

「なぁ!?」

 

 床をすり抜けるように現れた本物の流の昇竜拳を、ガリィは顎にもろ受けて吹き飛んだ。まるでアニメのマリアが放ったアッパーのように吹き飛んだ。

 吹き飛ばされた先に宝物庫のゲートを開き、ガリィがその中に入ると、すぐにゲートを閉じた。

 

「……やはりあの時の攻撃は避けたのではなく、位相をズラしての事だったのか!」

 

「暴走してた時のやつだよね? そうだよ。俺はノイズみたいに位相を操作することが出来る」

 

 流は分身を作って本体は床をすり抜けて、下の階の天井付近に紫シールドの足場を作って、セレナの合図まで待っていた。セレナはガリィと同じ座標にいながら、足だけを床下に透過していたので、セレナの掛け声と共にその場から昇竜拳を放った。セレナは初期エルフナインのパンツと同じやつを前回同様履いていた。

 

「あと二人だけど、降参する?」

 

「貴様ばかり派手なのは許されない。私も行かせてもらおうか」

 

 レイア・ダラヒーム。コイン打ちをメインの攻撃にしつつ、コインを変換錬成する事でトンファーやプレスといった近接攻撃も可能。攻防のバランスの良いオートスコアラーで大きな妹がいる。

 

 レイアはコインを変換錬成してトンファーにして、ファラと共に流に近接戦闘を仕掛けてきた。フラメンコのような剣戟に、ブレイクダンスを彷彿とさせるトンファーを使ったステップ。力強かったミカやトリッキーなガリィとは違い、堅実な強さとオートスコアラーの素の力で攻めてくる。

 

 だが、堅実な強さに力強さの攻めにおいて、流は最強の存在と日々鍛錬をしている。

 

「レイア、ひとつだけ言っておいてやる。俺に挑むならトンファーはやめておいた方が良かったな」

 

「戦いの途中に忠告など」

 

「優雅で良いではないですか」

 

 拳とトンファーと剣が飛び交う中、流は一言だけ言う。その一言をいう時に、流は動きを止めたため、レイアは容赦なく流の顔面をトンファーで殴りつけた。

 

「トンファーで父さんよりも弱いのに、俺を倒せるわけがねえだろ!」

 

 顔面を殴打したトンファーを、左手で掴んで引き寄せ、レイアの腹をガリィの時と同じくらいのパワーぶん殴る。

 

「ゲハっ!」

 

 吹き飛ばされて動けないレイアの足元に、同じように宝物庫のゲートを開いて、宝物庫へ送る。

 

 

 弦十郎は拳こそが最強だが、中華拳法で使われる武器は一通り使える。というか、映画に出てくる武器は使おうと思えば使えるが、拳で殴った方が早くて強いので使わないだけだ。

 弦十郎は流に鍛錬という名のしごきをする時、拳以外のあらゆる武器も使う。敵は拳だけではないから、敵として相対した時に、少しでも知っている事で有利に進めるように教え込んでいた。

 

 中華拳法には『カイ』という大振りなトンファーがあり、流はそれで何百回と殺されかけている。それに比べたら、レイアのトンファーには優しさすらあった。

 

 

「……とうとう私だけになってしまいましたね」

 

「何故だ! シンフォギア装者達はガリィにもミカにもレイアにも勝てなかった! それなのに、なんでただの人間が!」

 

「マスター。私達はその人間を侮っていたからこそ、負けているのです。更に彼の父君は、彼以上に強いとの発言もありました。そういった人外もいるのでしょう」

 

 キャロルは認められないものを否定するように、頭を抱え込んでいた。そんなキャロルの下までファラは行き、キャロルの手を取って、自分達が理解しようとしなかった存在を認めさせた。

 

「……ファラ、殺せ」

 

「仰せのままに、マスター」

 

キャロルの願いを聞き届け、ファラはキャロルから離れる。

 

「大変失礼しました。マスターが取り急ぎ、貴方の命をご所望です。一撃の下に死んでいただきます」

 

 ファラは初めから突きの構えを取る。優雅さの欠けらも無い、ただ強いだけの殺すための構えだった。

 

「……俺も部下が欲しくなったわ。オートスコアラー以上のスペックがないと、付いてきてくれなさそうだけど」

 

「私達でもあまりついて行きたくないのですが」

 

「そうか」

 

 流は足元にあったコインを一枚拾い、ファラにある程度近づいて、自分も右腕の拳を構える。そして左手でコインを上空に投げる。

 

『奏、本気で行くぞ』

 

『手加減したら失礼だしな』

 

 コインが地面に落ちた瞬間、流とファラは互いを殺すべく、拳と剣先がぶつかり合った。

 

「はああああ!」

 

「おおおおお!」

 

『うおおおお!』

 

 流は右腕に溜まっていた全ての力を拳に込め、ファラも優雅さなどを捨てて最も強い突きを放つ。だが、流の拳は剣でもなく、朽ちず滅びない聖遺物の拳、そこに全てを貫く必殺の拳も乗っている。

 

 バキンッ

 

 ソードブレイカーはデュランダルの拳によって破壊された。流はそれ以上拳を振り上げることなく、ファラがどう動くのか見る。

 

「……負けてしまいましたね。貴方の認識を超えて、貴方の拳は剣であると思えばいけるのではと、根拠の無い考えが浮かんだのですが、駄目だったようです」

 

「いいや、そんなことは無いさ。小指と薬指は実際に壊れたからね」

 

 流の右手の二本は確かにソードブレイカーで壊されていた。すぐに再生を始めてしまったが、それでも流のデュランダルは腕であるという考えが一部侵食されていた。

 

「やはり想いというのは強いですね」

 

「お前のマスターは傷つけたりしないから、ゆっくり休んでいてくれ」

 

「そうしますわ。マスターはレディーですので、御手柔らかにお願いします」

 

 流はファラの横にゲートを開く。ファラは忠告だけすると、自ら入っていった。ファラがキャロルに手を振り終わるのを確認してから、ゲートを閉じた。

 

 

**********

 

 

「さて、オートスコアラーはみんな負けたぞ」

 

「……そうだな。でも本当に理解できない。何故最高傑作であるオートスコアラー達が負けたのか。まず融合症例がそんな綺麗に体を融合していること自体が訳が分からない」

 

 キャロルは疲れた顔で王座に座り込み、大きくため息をついた。

 

「それはおいおい自分で調べな。さて、話を聞いてくれるね?」

 

「聞けばヤントラ・サルヴァスパはくれるのだろう?」

 

「聞いてそれでも解剖したかったらね」

 

「するに決まっている! パパが遺した命題なんだ!」

 

 疲れた体でキャロルは叫ぶ。しかし来た時に比べて覇気があまりない。

 

『私達は欠片の中に入っていますね。部外者は出来るだけ消えた方がいいでしょう』

 

『だな。あたしも力を使って疲れたから、少し休んでるわ』

 

 セレナと奏は空気を読んで、欠片の中に入っていった。セレナも空気を読めるのだから、流が読んで欲しい時も読んでくれないかな? と思ったが、トイレや風呂に平然と入ってくる時点で無理だろうなと考えを放棄した。

 

『……流くん。お膳立てありがとう。本当に、本当に感謝している。私が絶対にキャロルを止める。私自身が消えてでも』

 

『出来るだけ消えない選択肢を選べよ』

 

『わかってる。では、体を借り受けますね』

 

 イザークが流の体に入ろうとすると、凄くきつい抵抗が起きた。奏もセレナもこんな抵抗は起きた事は無い。

 

 奏は心の傷、セレナは流の首元に噛み傷を残しているので、それから侵入していることは後のちわかる。イザークはそういった繋がりがないので抵抗があった。

 それでも流は受け入れ、イザークは無理やり流の中に入った。そして流はイザークに体の主導権を渡した。

 

「キャロル。随分大きくなった……と言いたいけど、体を何度も変えているから、あまり変わらないね。でも、一人称が俺は駄目だよ。可愛いキャロルが男の子みたいな喋り方は良くない」

 

 ピシッ……パキッ

 

 イザークは流がつけていない眼鏡を、元の位置に戻す仕草をして空ぶる。キャロルは流の雰囲気が急に変わり、何故か涙が溢れる。それは後ろにいるエルフナインも同じだった。

 そして体を譲っている流の内側から、鳴ってはいけない切り裂き朽ちていく音が聞こえる。流は未知の痛みに泣き叫びそうになるが、感動の対面を邪魔しないために、声なき声で呻く。

 

「エルフナインもそんな所にいないで、私……いいや、偽る必要は無いね。()の前においで」

 

 流達の前では大人として『私』を使ってきたが、娘の前で偽る必要は無い。イザークは自分の素の一人称に戻した。

 

「……そんな、こんなことって」

 

「そうだ、ありえない。でも、これは!」

 

 キャロルもエルフナインもゆっくりと流の姿をしたイザークの下に近づいていく。

 イザークは近づいてきた娘二人を強く抱きしめて、自分が誰なのかを口にする。

 

「随分とキャロルには苦労を掛けたね。エルフナインも色々大変だっただろう。二人は何となく感じているよね? 僕は火刑に掛けられてしまった君達の父親」

 

 べキッ……

 

 流はそれ以上言わせたら、取り返しがつかない気がした。だが、心の中で痛みに絶叫しながら、目を閉じて勘を無視する。キャロルもエルフナインも悲劇で終わらせてはいけない。

 

「イザーク・マールス・ディーンハイムだよ」

 

 その言葉と共に、流の中の大切な何かが完全に壊れた。

 

 

 

 

 

 原作ではありえない感動の対面だが、ミカによって流が着ていた服は全て燃えているため、細マッチョの全裸男がロリ二人と抱き合っているという酷い図になっている。




少し前から裂ける音の描写をしていた何かが壊れました。
ファラが正々堂々しすぎな気がしますが、キャロルの潜在意識にだって、正々堂々戦いたいという思いはあるはずですので、その思いが表に出たということで。

そして4期の更新ペースについて、活動報告に書きましたので、興味がありましたら、見てくださると嬉しいです。

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