戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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書いていてキャロルってマリアみたいに書きやすい子だなと思った。弄れる的な意味で。


#50『ただの色狂いな狂人』

「じゃなくてですね、今なんて言いました? キャロルに告げる……いえ、そんな、まさか!」

 

 エルフナインは流の言葉に内心ツッコミを入れたあと、彼が言った言葉の意味を正しく理解してしまった。自分がキャロルによってS.O.N.G.に仕込まれた毒であることを。

 

「僕はキャロルを止めるためにここに来たのに、僕自身が皆さん(S.O.N.G.)に対する毒にだったんですか!? 響さんと未来さんを分断して、響さんだけを倒した時も、うまく分断できていたのは、僕から情報を得ていたから? そんな、そんなまさか!」

 

『いいや、お前だよエルフナイン』

 

 エルフナインが頭を抱え込もうとすると、どこからかここにいる二人とは違う声が響いた。その声のあと、エルフナインから霊体よりも更に虚ろな、ホログラムのようなキャロルが現れた。

 

『お前はよく役に立ったよ。褒めてやってもいい。俺はお前の感覚器官をジャックしてきたからな。そのおかげでシンフォギアの改修の進捗や各装者達の能力、その他様々な情報をお前から得ることが出来た』

 

「僕の感覚器官が勝手に……」

 

 キャロルが言わなければ勝手に疑心暗鬼になる事をどんどん話していく。キャロルから確定した情報が告げられて、エルフナインは崩れ落ちそうになっている。

 

『同じ素体である、ホムンクルス躯体だからこそ出来ることだな。本当に良くやったエルフナイン』

 

「お願いです! 僕を拘束してください。誰も接触できないように、独房にでも閉じ込めて。いいえ、キャロルの企みを、痛い、すごい痛いです! 痛たたたた」

 

 エルフナインは絶望して、アニメと同じように自ら死を受け入れようとしていた。その言葉を発する前に、流が少し強めに頭をチョップして言葉を止めた。

 

 頭を抑えてエルフナインは転がり回っているが、きっと大げさに反応しているだけだろう。今チョップに使った手は右手で、デュランダルで金属化している事を、完璧に忘れていたせいでは決してないと思う。

 

「殺してとか言ったら本当に殺すからな? まず俺はキャロルに交渉の場につけとは言ったけど、ネタバレしろとは言ってないんだけど」

 

『はあ?』

 

「キャロルはちょっと待ってろ。あと無駄に高い位置に出たからパンツ見えてるぞ」

 

 エルフナインのチョップされて抑えている場所を流は優しく撫でる。腫れたりしていないので、すぐに痛みを引くだろう。数分して痛みが引いたようだ。

 

「いいか、エルフナイン。毒ってのは、知っていれば薬にもなるんだ。エルフナインは毒ではなく、キャロルに対する特効薬だからな?……これで納得しないで一々騒ぐならマリアと同じことをするよ?」

 

「ひゃああああ!」

 

 セレナが流の体を使って、胸に顔を押し付けている場面を見ていたエルフナインは、叫びながら後ずさりしようとしたが、流に肩を掴まれて動けなかった。

 

「騒がなければしないから。それでエルフナインが縛って欲しいなら、いくらでも縛ってやるよ。そういう趣味があるならだけどね」

 

「……えっと、趣味で縛ったりするんですか?」

 

 痛みで自己嫌悪から抜け出し、セクハラ紛いの発言で思考が違うものに傾いた。そのあと流の言っている意味がわからないのか頭を傾げている。逆にキャロルが若干反応していたので、あちらはそういった知識があるようだ。

 

「また今度縛ってあげるよ。菱縄縛りとか股縄とかで。それでだ。俺も了子ママもキャロルの企みがだいたい分かっている。いいか、エルフナイン。今のキャロルは割とギリギリなんだよ」

 

『そんな訳があるか!』

 

「何故ですか?」

 

 キャロルのキレ声を無視してエルフナインは流に問いかける。エルフナインとキャロルの間に流は立っていて、キャロルが見えないように流は壁になっている。彼は懐に戻したヤントラ・サルヴァスパをもう一度取り出す。

 

「これ、ヤントラ・サルヴァスパがないとチフォージュ・シャトーは動かせないんだよ。起動に必要なんだもんな? キャロル」

 

 先程からキャロルに話しかける度に、ゲスいウェルの時のような巻き舌な話し方をしている。流なりの悪ぶり方なのだが、セレナは爆笑して転げ回っている。

 

『……』

 

「ヤントラ・サルヴァスパ……あらゆる機械の起動と制御を可能にする情報集積体ですよね」

 

「そうだ。エルフナインはおかしいと思わないか? お前にはシャトー建造以外の知識はほとんど無いはずだ。なのに、何故ヤントラ・サルヴァスパという最も重要なトリガーパーツの知識を与えた? その情報をいち早くこちらに教えれば、下手したら壊されるというのに。雑兵にまで重要情報を教える意味ないしな」

 

「……僕がS.O.N.G.に行き、トリガーパーツを先に確保しようと情報を集めれば、その情報がキャロルの下に行くように、ですか?」

 

「そうだ。だけど、その企みも失敗し、こうして俺に奪取されている。キャロルは時間を掛ければシャトーの起動ができるなら、そちらの手を選ぶだろう。だが、それをしないで他国の完全聖遺物を狙うということは?」

 

「替えのきかない絶対に必要なパーツという事ですね!」

 

 エルフナインは状況が好転していることにやっと気が付き、顔色が良くなっていく。それとは逆にキャロルはどんどん不機嫌な顔になっていく。

 

『セレナ、そろそろ動き出すからイザークと奏を呼んできて』

 

『はい。あと了子さんはもう来てるみたいですよ。研究室に篭っているようです』

 

『ありがとう』

 

 作戦が進行するので、イザークには居てもらわないと困る。欠片の中にいる二人を流は呼びに行かせた。

 

『で? それが重要なトリガーパーツだと分かっているのに、何故俺に交渉を持ち掛けた? 手っ取り早いのはヤントラ・サルヴァスパを破壊してしまうことだろう?』

 

 キャロルは心底不機嫌そうに、腕を組んで流を先程よりは低い位置から見下ろしている。先程ちらりと見えたが、アニメ三期一話のエルフナインの黒パンツはキャロルの趣味のようだ。

 

「そう怒んなよ。オートスコアラーのキメキメなポーズを取りたがる潜在意識があったからってさ。それにガリィの性根の腐った潜在意識もあるみたいだけど……まあ。衆人観衆の真っ只中でこれでもかと睦み合いたいと思っている、露出狂の毛があるかもしれないとわかってしまったとしても! ちなみに俺は露出狂の毛はあるぞ! ママのせいでな!」

 

 流は高らかに叫びながら、右足を少し上げて両手を前に突き出す、ミカの待機中にするポーズをしながら暴露した。このポーズもキャロルの潜在意識がカッコイイと思っているポーズの一つだ。

 

『やめろと言っているだろ! 流くん、君はあれか? 女の子を虐めて悦に浸るクソ野郎なのかい? 可愛いキャロルを虐めるな!』

 

 ちょうど欠片から出てきたイザークに流は頭を殴られるが、ミカポーズをやめることは無い。アニメに比べてイザークが相当好戦的だが、流がキャロルを煽っているのでしょうがない。

 

『……何故貴様がその事を知っている!?……エルフナイン貴様か!』

 

「ぼ、僕じゃないよ。えっと、お外で露出するのはやめた方がいいと思うよ?」

 

『貴様の一張羅を思い出してから同じことを言え!』

 

「僕はキャロルの記憶を複製転写された存在だから、キャロルの潜在意識が左右してたんだと思うけど……」

 

 エルフナインの言葉にキャロルはダメージを受けた。エルフナインのあの格好、黒いショーツにブーツ、そしてローブだけというなかなかどうしてもやばい格好。あれは自分の潜在意識によるものだったのか? とキャロルは膝をつきそうになるが、敵の前でそんなことが出来るわけがなく、必死に平然を装う。

 

『どうですか?』

 

 迎えに行っていたセレナが欠片から出てきた。エルフナインのエロい格好をして、何故か出てきた。

 

『セレナが着るとなかなかそそられるものがあるけど、空気と場面を考えて?』

 

『……前向き検討させていただきますね』

 

 セレナは欠片の中に消えていった。

 

『最近流が構ってやらねえから、女性的な面で責めてきたんだろうな』

 

『いや、結構構ってるよ?』

 

『セレナは人との繋がりがないと怖いんだろ。F.I.S.の時のように使い捨てにされる可能性があるからな。流はしねえと分かってても、無意識に構ってほしい、夢中になって捨てられないようにしようとでもしてるんじゃね?』

 

 最近のセレナの行動を奏が本気で分析した。実験の道具として利用される子達を見てきたから、セレナは繋がりを求めているからこそ、あああった過激なことをしているようだ。朝のマリアに抱きついたのも、そういう事なのだろう。

 

『でもセレナのむっつり的な性格のせいでもあるよね?』

 

『割と』

 

 奏と話しながら、キャロルが正常な状態に戻れるまで時間を潰した。キャロルは瞑っていた目を開けて、不敵に微笑んだ。

 

『……そんなことはどうでもいい!』

 

「嫌ですよ〜マスター。マスターだって、こんなポーズやこんなポーズがやってみたいんじゃないですか? ぎゃはは、あははははは!」

 

 キャロルはテンションが上がると、ダウルダブラでブッパ系女子なので、常にメンタルダメージを与えるために、流は『ガリィ』の声真似をして、ファラやレイアの立ちポーズを真似た。

 

『貴様はガリィと会ったことがないだろ! 何故性根の腐ったガリィの真似ができる!?』

 

「キャロルを見ていたら、何となく?」

 

『そのようなこと認めるか! 認めてなるものかよ!』

 

 キャロルがまたキレ顔で叫びだし、イザークがガチギレしそうなので、流はこれくらいにしておく。

 

「俺と話してそれでもヤントラ・サルヴァスパが欲しいならあげてもいい。とりあえず俺をチフォージュ・シャトーにテレポートさせてくれ。流石に次元の狭間のどこかにある城へ、自分で行くことなんて出来ないからな」

 

『話すだけなのか?』

 

「ああ、話を聞いてくれるなら戦ってやってもいい。ただし、戦うのはオートスコアラーだけだぞ? キャロルが戦うと記憶が消えるからな。記憶が消えた状態で話をしてもつまらん」

 

 流のあまりにもキャロル側に有利な条件に、キャロルはどうしようか迷う。

 流の言う通りヤントラ・サルヴァスパが壊されると、とてつもなく困る。ルナアタックやフロンティア事変に直接関わり、生き延びた人間であり、()()()()()()()()()()()()()ため、ソロモンと呼ばれている人間。そんな奴を計画の中枢であるシャトーに入れて良いものか。だが、これを断ればヤントラ・サルヴァスパは手に入らない。

 まず世界解剖を知っているのに、ヤントラ・サルヴァスパを渡そうとする意味が分からない。

 

 その時ある情報を思い出した。

 

 サンジェルマン達から流れてきた情報では、ソロモンは無類の女好きで、5人以上の女を囲っていると聞いた。しかもその中にキャロルくらいの少女(調)もいるとか……更にエルフナインもまだ手を出されていないが囲われている。キャロルはソロモン、いいや流が色狂いの狂人という認識に固まった。自分の体も狙っているのだろうと憶測をつけたのだ。

 既に話を聞くだけで良い条件だが、更に報酬を提示してみることにした。女に甘いという情報はエルフナインから得ている。

 

『チフォージュ・シャトーに来るのはソロモンとエルフナイン。ヤントラ・サルヴァスパはエルフナインに持たせろ。襲ってもいいとの事だが、戦っている途中にヤントラ・サルヴァスパが壊されては困る。そして俺達がエルフナインに危害を加えず、貴様を倒せれば追加の報酬を求める』

 

「何が欲しいのさ」

 

『S.O.N.G.は対外的には管理を国連に預けているが、フロンティアを所有しているだろう? あの中にある情報集積体『レイラインマップ』を求める』

 

 

 

 先の戦いで電力供給量を低下させたのにも関わらず、レイラインを把握することが出来なかった。了子とナスターシャがフロンティアを使った対策を施してしまったため、重要拠点を絞りきれなかった。

 まだレイラインが完璧にわかる訳では無いので、ここで正規のレイラインマップが手に入り、ヤントラ・サルヴァスパが手に入れば、一気に計画を進められる。更に流にダメージを負わせることが出来れば、有利に進められる。

 

 ここに至ってキャロルは流の事を、情報収集能力があるため、先手を打てるが、シンフォギア装者ほどの力がある敵だとは思っていなかった。小手先とある程度の力がある存在くらいの認識になっていた。

 

 何故なら、この前の暴走状態ではないのにシンフォギア装者を三人相手にしても勝てる。ロンドンから日本へ数分で移動できる。ガングニールと殴りあっても互角。シンフォギアを纏った少女達と喧嘩をして、殴られて喜ぶ。

 他にもいきなり顔面が殴られたように吹き飛ぶ。虚空を見つめて頻繁に笑う。まるで誰かがいるかのように独り言を話し続ける。

 そして何よりも、これだけの力があるのにS.O.N.G.の司令官にはまともに勝てない。

 

(聖遺物を融合させたからって力を安定的に出力できるわけがない! 独り言が多い狂人で、装者数人分。絶対に有り得てなるものかよ! しかもこのスペックでも勝てない純粋な人間? がいる……ふざけているのか!)

 

 エルフナイン越しに囲われている女達に聞いたスペックが、常識でも錬金術でもありえないレベルだったので、女達の夢物語として処理してしまった。

 

 

 

「レイラインマップだろ? あれなら覚えているから、あとで情報としてやるよ」

 

『は? フォトスフィアに記載されているレイラインマップだぞ?』

 

「ああ。了子ママに頭に直接入れてもらったからな。ダイレクトフィードバックシステムの応用だな」

 

『……この前貴様が暴走したところに30分後に来い。迎えをよこす』

 

 それだけ言うとホログラムのように映し出されていたキャロルは消えていった。

 

「あの、僕も付いていくようですが……大丈夫なのでしょうか? キャロルは本気で流さんを倒しに来ると思います。オートスコアラー四体は響さんですら、すぐに負けてしまいました……」

 

 エルフナインは交渉と呼ぶにはあまりにも酷い条件で、酷く怯えている。自分はあの城に戻らないといけないし、更に皆に好かれているらしい流が死んでしまうかもしれない。

 

「大丈夫。オートスコアラーは人間として俺は認識するけど、壊れた腕とかは直せる。今回は戦い方も本気、力の入れる具合も()()。弦十郎父さんと戦う時と同じレベルで力を発揮するし、多分勝てるよ」

 

 了子に作戦概要を送り、エルフナインと共にS.O.N.G.を出た。

 

 

 **********

 

 

 アニメでキャロルが一度殺された工場地区に車で来ると、その場所にはオートスコアラーのファラがいた。その場でエルフナインにヤントラ・サルヴァスパが入ったケースを渡した。

 

「お待ちしておりました。あなたがお客様である風鳴流と裏切り者エルフナインですね」

 

「お客様の流と救世主エルフナインだな」

 

 裏切り者と言われて顔を下げて俯こうとしたエルフナインに、すぐさまフォローしてファラに顎で指示を出す。

 

『流くん、キャロルなら到着してすぐに攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。確実性をとるならしてくるはずだ。そういうルールは無かったからね』

 

『ああ、わかってる』

 

 イザークの忠言に従い、ポケットから薬をドーピングを取り出す。

 

「マスターもあなた方をお待ちです」

 

 ファラがテレポートジェムをこちらに見せている。流はlinker model Nを首元に近づけて、液体を注入した。口から軽く血が出るが、軽いオーバードーズ程度で済んだようだ。やはりウェルは了子並に天才なんだなと、改めて感心した。

 

「準備が整いましたね。では、行きましょう」

 

 流の左腕にもデュランダルの紋様が浮かび始め、戦いの準備が出来たのを確認してから、ファラは地面に向けてジェムを投げた。震えるエルフナインの頭を左手で撫でる。

 

 地面に錬金術の陣が広がり、流達はどこかに飛ばされた。

 

 

 

 テレポートが終わり、アニメでも見たチフォージュ・シャトーの王座の前に着いた。

 

「死ねええええええ!」

 

「最初っから本気だゾ〜!」

 

「口上なしで派手にいく」

 

 ファラがエルフナインを回収して、その場から飛び退くと、三方向からガリィの水柱、ミカのカーボンロッド、レイアのコインが飛んできた。




多分次回か次々回くらいである程度話が完結します。GXはそれだけでは終われないんですけどね。

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