流はノックアウトした後、少しして起き上がり、朝になるまでイザークと作戦を練っていた。自分の体は
流とイザークが流の部屋に行ったあと、夜間の流の体には奏とセレナが憑いていた。
奏は
セレナも同じよう
どちらも生身の体で見ることが今は重要なのだが、翼とマリアは流の体の左右にいる。翼を見ればマリアが見えなくなり、マリアを見れば翼が見えなくなる。
『奏さん寝返りを打たないでください』
『そっちこそやめろよ。あたしは翼が見たいんだ』
『私だって翼さんじゃなくてマリア姉さんが見たいんです』
流の体は結構な頻度で寝返りを打つことになった。二人が今のところ、流の体を自由に出来ることなんてなかった。その貴重な主導権を得るためにヒートアップしてしまったのもしかたのない事だろう。
『年上なんですから、年下に譲ってください!』
『セレナに気を使う必要性はない。年下として譲って欲しいなら、あたしを敬って譲るべきだな』
『姑いびりみたいですね』
『赤ん坊の癇癪みたいだな』
『……』
『……』
流とイザークが殴り合いに発展した時辺りで、こちらも剣呑な雰囲気に包まれ始めた。
『わかりますよ? このまま言い争えば、いつもの喧嘩に発展して、私が負けることは。でも、今回は譲れません』
『へぇ〜。そこまで分かってるなら退いてくれない? 痛い目に合いたくないだろ?』
『
『
二人は流の体から一度でて、腕を掴み合い、必死に押しあっている。体格差からセレナが有利に見えるが、霊体に筋力差など関係ない。
『流さんは話せないことが多いじゃないですか! しかも、私達は知っているのにあえて言っていないことだってあります。流さんは本当に正しいんですか!? このままじゃ、皆が
『流がどんな理由で
『ぐっ! 毎回その想いを口にするのは狡いと思うんですけど!』
流がイザークに負けたのも、想いの強さで負けたからである。奏が毎回セレナに優位なのも、奏は流を疑うことない真っ直ぐな想いがあるからだ。
『ちょっと花畑で感情が高ぶって、好きだと告白した女とは年季が違うんでな!』
いつものようにセレナが制圧され、意識を失うことになるはずだった。だが、セレナの顔には何故か笑みが浮かんでいる。
『これは使いたくなかったんですけど……いいですよね?』
『なにが……』
『確かに身近な男性は流さんしかいませんから、そういう想いを抱いてしまっています。ですけど、流さんが求めてくれるなら####や*****なんかをしてあげることも出来ますし…………』
セレナは地上波なら確実にピー音にモザイク、アニメなら光渡しが付き、画面が切り替わってしまうくらい、やばい発言を連発し続けた。それはもう、R18指定が掛かるようなことを言いまくった。
セレナは流との接触で意識を取り戻したあと、性的な知識を知り、そういった物を調べるようになった。そういう雑誌はこの家には、多くの乙女がいるため結構ある。パソコンだってあるためたくさん調べた。
一方、奏はそういった物を
そんな純情乙女天羽奏が、性に興味が出てひたすら調べたセレナの言葉を聞いた。
しかも今二人が使っている言葉は統一言語。統一言語とは如何なる種族とも、意味を履き違えず、完璧に完全にやり取りができる言語だ。
言葉の意味を知らないはずなのに、奏の頭にはそれらの言葉の行為の仕方が、セレナから流れ込んできてしまい。
『きゅ〜……』
奏は顔が爆発したように真っ赤になり、全身が真っ赤に染まって気絶した。
『大勝利!!!』
セレナはこうして初めて奏に勝つことが出来た。セレナの決まり手は、それらの行為を流もしたいと思っているという意味の言葉も付け足したため、奏の想像がパンクしてしまったのだろう。
ちなみに流はセレナの言った言葉の意味を半分も理解できないだろう。
**********
流はイザークを手と手を取り合って、仲直りをしてから、キャロルをどう救うのが最も安全なのかを話し合っていると、いつの間にか朝になっていた。
二人は窓の外が明るくなっている事に気が付き、伸びの一つでもしていると。
「きゃあああああああああ!!」
リビングからマリアの叫び声が聞こえた。
『イザークはここにいてくれ』
『ああ』
流は一言言うと急いでリビングに向かった。向かったのだが、彼は奇妙な光景を目にすることになった。
流の体がマリアの胸に顔を埋めて寝ているのだ。流自身の体を俯瞰視点で見るという不思議な感覚を味わえたが、何故流は自分の体がマリアの胸に頬を埋めながら、足を絡めて寝ているのか理解ができなかった。
マリアは起きたが、足を絡め取られているため動けないでいる。
『はっ!? 流か、話し合いは終わったのか? というか、あたしはなんで寝てたんだ……』
寝るときは欠片の中で眠る奏が、叫び声がしてから少ししてから、床から起き上がってきた。
『なんで奏は俺の体の中にいないの?』
『えっと、あっ! セレナてめ、ぇ……、すまん欠片の中で寝直す!』
セレナの卑怯な手で負けたことを思い出し、奏はセレナをぶん殴りに行こうとした。その時流の顔を見てしまい、セレナに無理やり理解させられた、あれな妄想が頭を駆け巡り、奏は顔を真っ赤にして逃げていった。
『奏は熱でもあんのか? って、やっぱり俺の体にいるのはあいつかよ!』
流は自分の体を取り戻そうと、動き出そうとした。
だが、足を止めることを選んだ。クリスや調も起きたようで、しかもマリアにくっ付いている流を見て、目の光が消えているのが見えたからだ。
流はクリスが異性として自分を好いていてくれていることは分かっているが、調は兄的な感覚だと思っている。微妙に鈍い流だが、このあと流の体に起きることは先読みできた。
「ちょせい!」
「やあああ!!」
クリスも調も生足や素手で流を攻撃すれば、自分達の手足が壊れることはわかっている。なので瞬時にシンフォギアに変身し、攻撃していた。
起きてすぐの反射的な行動だったため、調はlinkerを使っていないが、一瞬変身して蹴り飛ばし解除したため、被害は軽微だった。
「ぐへえっ! 痛い。凄く痛いんですけど!」
「ゴホッ、どうして、私まで……」
マリアは胸を勝手に揉まれたり頬ですりすりされて、起きて悲鳴をあげたら、拳や蹴りを喰らい、訳の分からないまま、気絶するように二度寝に入った。
流の体を操るセレナは痛みに悶えていた。霊体で奏や流の攻撃を受けた時は痛かったが、肉に残る痛みの衝撃はなかったし、骨に響く鈍い痛みもなかった。F.I.S.ではたくさんの痛みを受けたけど、セレナはそれを忘れていた。なので、痛みに悶えて逃げる選択肢が出来なかった。
「Various……」
調はlinkerを打って、再びシンフォギアを纏った。
「あたしに手を出さず、百歩譲って調に手を出すのはなんも言わねえ。だけど、同意なしにマリアにいきなり手を出すのはどうかと思うんだけどさ」
「一度本気で反省した方がいい」
「待って!」
「「待たない!」」
『あっ! 流さん助けて! マリア姉さんの胸に頭を乗せてF.I.S.では寝てたから、それを再現してただけなんです!』
セレナもマリアの胸に頭を埋めていたが、変な気な1%くらいしかなかった。F.I.S.のはじめの時は、床に直接寝るように言われて、マリアに抱きしめられて寝ていた。その時の再現をしようとして、胸が柔らかかったから少しだけ邪な考えがセレナに浮かんだだけだった。
『……セレナ、後でうんと慰めてあげるから、肉体を持つ痛みを味わってきな』
『いやああああああ!!』
流は自分の体がシンフォギアを纏った二人にぼこぼこにされるのを、少し遠くから見続けた。
「ひいいいい」
「デース……」
マリアの叫び声で切歌もエルフナインも起きていたが、クリスと調が本気でキレていて、その光景に怯えて二人で抱きしめ合っていた。二人の体は互いに抱きしめいてるのに、震えが止まらなかった。
「……すぅ〜」
翼もマリアの悲鳴で起きたが、
**********
クリス達に玄関から捨てられた流の体に流の精神が戻った。S.O.N.G.の潜水艦に向かいながら、コンビニでアンパンを買って頬張りながら、セレナと話す。
『ひっぐ……えぐっ、ぐす。なんですか! なんでシンフォギア装者が生身の人間を本気で殴るんですか! 凄い怖かったんですよ!』
「あれくらい挨拶かわりだしな」
『絶対それおかしいですから! というか、痛くないんですか! 体を抜けるまでずっと痛かったんですけど』
「体の痛みなら耐えられる」
『普通は無理ですけどね……勝手に体を使って、マリア姉さんに抱きついちゃってごめんなさい』
「別にいいさ。セレナはセレナとして甘えたかったんだろ? キャロルの問題が終わって、サンジェルマン達が来るまでの間、死者蘇生を研究するから少し待ってくれな」
『急がなくていいですからね。あの時感極まって言っちゃいましたけど、それで流さんが死んじゃったら嫌ですからね』
「そんな事はしないよ。自分で自分を貶すのは、俺を好きでいてくれている人や信頼してくれてる人達を貶すことになるらしいからね」
前までなら命を懸けてもいいと思っていたが、その行為自体が奏やセレナを侮辱する事だと教えられたため、できる限り考えを改めようと考えている。咄嗟の判断で飛び出してしまう時は、そんなことを考えていられないと同時に思った。
セレナもその変化がわかったようで、嬉しそうに流の手を取った。
『それで、三人目の方はキャロルのお父さんだったみたいですけど、何を話したんですか?』
「キャロルは父親の最後の想いを知りたいだけなんだよ。世界の真理を知りたいとかは、父親がいないからそう言ってるだけ。なら、父親に合わせてあげようってことになった」
**********
流はS.O.N.G.の潜水艦の指令室に行き、スタッフの方々に挨拶をした。どうやらまだ弦十郎も了子も来ていないようだった。弦十郎と了子が最近は一緒の時間に帰ると聞いて、流は少し嬉しくなった。
その後エルフナインの研究室に勝手に入り、置いてある椅子に座って、彼女が来るのを待つことにした。クリス達と食事を取ったら来るはずだ。
予想通り数十分後にはエルフナインは部屋に入ってきた。
「さて、皆さんのために……ひいいいい!」
中にいる流と目が合うと、エルフナインは壁まで後ずさりしていった。化け物でも見るような目で流を見ていた。
「流石に酷くないか?」
「ご、ごめんなさい! でも、生身でシンフォギアの攻撃を平然と受けきっているのが、どうしても理解出来なかったもので、少しビックリしてしまいました!」
『年下系敬語キャラ……私と被ってる!?』
『初期のセレナなら被ってた。けど大丈夫、今のセレナなら誰とも被らない、個性の光を放っているから』
『ホントですか? ならよかったです』
エルフナインの言葉にかぶせるように、セレナが頭を抱えだしたが、今のセレナはただの年下系敬語キャラではない。
今ここに奏とイザークは居ないのは、欠片の中で二人は話し合っているからだ。イザークが奏に手を出そうとしないか、結構な気にしていたが、イザークは妻の名に誓ってそんな事は一切起こらないと誓った。
「普通に考えて非常識だからしょうがないね。朝は大丈夫だった? 巻き込まれたりしてない?」
「それは大丈夫です。切歌さんが守ってくれましたから」
わかっているけど、一応それっぽい会話を挟んでおく。エルフナインも流を遠くから眺めて、少しは安心したのか近づいてきた。
「何か御用ですよね?」
「うん。それのお願いをする前に一言言っておくね」
「はい、なんでしょう」
流はエルフナインの肩に手を置き、目線を合わせて、取り乱さないように言葉を発し始めた。
「この事実はキャロルから世界を守ろうとしているエルフナインにはきつい事だと思う。でも、この力があったからこそ、俺は最短ルートを取ることが出来るんだ。そして懸念事案も俺のママがどうにかしたはずだ」
「はい?」
「エルフナイン越しに見えているキャロルに告げる」
流はそう口にしながら、バビロニアの宝物庫に手を伸ばし、ある完全聖遺物を取り出す。
「俺は今、ヤントラ・サルヴァスパを持っている! こいつを壊されたくなければ、俺との交渉の場につけ。いいか、すぐに反応しなければ、この聖遺物をぶっ壊す!」
流はヤントラ・サルヴァスパを強く握りしめ、物に圧力が掛かっている音を出しながら、エルフナインの目を見ながら交渉の言葉を叫んだ。
そしてエルフナインは思った。
(それって交渉ではなく、脅しというのではないでしょうか?)
次回から一気に話が加速します。